大判例

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神戸家庭裁判所姫路支部 昭和46年(少)3279号 決定

少年 Y・F(昭二七・一一・二八生)

主文

この事件について審判を開始しない。

理由

1、本件送致書記載の審判に付すべき事由の要旨は、少年はかねてより交際していた女子高校生○川○美(昭和三〇年一月五日生)が一八歳未満の者であることを知りながら、昭和四六年八月一〇日ごろの午後一一時ごろ、肩書住居地の自宅六畳の間において、同女の上半身を裸にしたうえその乳房をもてあそび、その腹の上に乗りかかり、抱きつくなどし、もつて一八歳未満の青少年に対しわいせつな行為をした、というのである。

2、而して右送致書の「件名」を見るに、本件事実を青少年愛護条例(昭和三八年三月三一日公布、兵庫県条例第一七号)違反となし、同条例八条の二第一項、一七条二項一号の適用があるべきものと記載しているので、まず右条例について検討するに、右条例は八条の二第一項において「何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。」と規定し、一七条二項一号において右規定に違反した者に対し五万円以下の罰金の刑を科するものとし、一七条の二において八条の二第一項の罪は告訴をまつて論ずることとし、二条一項で右に青少年というのは六歳以上一八歳未満の者(ただし、法律により成年に達したものとみなされる者および成年者と同一の能力を有する者を除く)をいうと定義している。

3、ところで右八条の二第一項は、その規定の体裁にかんがみると、性的行為の相手方となるについての青少年の自主的判断力を補充する効果を期待したものと解せられるけれども、その相手方の中には、一六歳に達していて、民法上すでに婚姻適齢と認められた女をはじめ、年齢的にみて、性的行為あるいはその結果についてすでに十分なる判断能力を具備していると解され得べき者をも包含するものであるところ、かかる判断能力を具備している者が自己の性的自由を任意に処分することは、たとえば、対価を受け、または受ける約束で、不特定の相手方と性交するごとき、自己の尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものでない限り、一般的に、是認されないものとは解せられない。そこで「青少年の健全な育成を図り、あわせてこれを阻害するおそれのある行為から青少年を保護すること」(一条)を目的とする本条例の制定目的に照らし、かつ本条項違反の罪が、前述のように、親告罪とせられていることを考慮するとき、本条項に「みだらな性行為」または「わいせつな行為」とあるのは、青少年に対する性的行為であつて、一般的に、青少年がかかる行為の相手方となることがその青少年の情操・徳性に及ぼす影響について合理的な理解を有しないことが、相手方である青少年の年齢、境遇、自己の用いた暴行・脅迫・偽計等の手段、相手方の同意・承諾の有無その他諸般の状況からして、客観的に明白であるのに、これに乗じてなされたものであることを要すると解するを相当とする。

4、本件についてこれをみるに、○川○美および少年(二通)の各司法警察員に対する供述調書、加古川市長稲岡貞男作成の○川○美にかかる身上調査照会書(謄本)、司法巡査作成の前歴指名手配照会回答受理書によると、少年は昭和四三年四月神戸市所在の私立高等学校に入学、三年生のころ喫煙をとがめられて退学し、神戸製鋼加古川工場の工員を経て、昭和四六年秋ごろから加古川市においてクレーンの運転手をしており、窃盗(審判不開始一回)、道路交通法違反(不開始四回、不処分一回)の保護歴を有する者であるところ、女友達を持つたことがなかつたので、昭和四六年五月末ごろ、友人二名とともに国鉄加古川駅付近でガール・ハント中、女子高校の学生で、性交の経験はないが、男友達との間で性交類以行為をしたことがあり、自慰行為の経験もある○川○美(当一六年)他一名に話しかけたが、これも男友達をさがしていた同女と直ちに親しくなり、喫茶店でたがいに自己紹介のうえ、翌日から二人でデートを重ね、その間同女が性についてかなり開放的な態度を示し、性に関する事項を大胆に話題としてはばからないのをみているうち、同年八月一〇日ごろ、いつしよにボーリング遊技中、少年が「わし童貞や、あの味知らんのや」といつたのに、同女が「Y・F童貞か、うちが教えてやろうか」と答えたため、同夜同女が少年をその自宅に尋ねる旨の約束をなし、同日午後一〇時ごろ少年と性交することもあるべしとの予期のうえ訪れた同女と「子供はどないしたらできるんやろうか」などと雑談した後、同女が「眠むたいので先にねるわ」といつて少年の部屋のベッドにねたのにつづいて少年も右ベッドに上つて、前記送致書記載の審判に付すべき事由(要旨)のごとき所為に及んだものであること、を認めることができる。

そうすると、少年の本件所為はなんら暴行・脅迫・偽計その他相手方の理解、状況の認識を妨げるべき手段を用いたものではなく、同女との間の完全な合意に基づき、かつたがいに挑発しあつて行われたものであつて、同女の年齢、学業その他右認定のごとき事情を総合すると、少年においてなんら同女の理解・認識の欠落に乗じたものではなく、その結果、一般的にみて、同女に、毫も、被害を生ずべき態様のものではないと解すべきものである。それゆえ、少年の本件所為は右青少年愛護条例八条の二第一項に違反するものではないと解する。

5、つぎに、少年の本件所為は刑法一七六条、一七七条等に触れるものではなく、その他これに適用すべき罰条を見出すこともできない。

また少年の本件所為は少年法三条一項三号の虞犯事由に当たらないかとの疑問があり得るところ、前認定のごとき少年の環境、性行その他の事情によるも、少年が将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれはこれを具体的に認めることができない。

以上のように、本件送致事実は非行の事実に当たらず、調査・審判の条件を欠くことになるので、少年法一九条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 橋本喜一)

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