大判例

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福井地方裁判所 昭和34年(ヨ)8号 決定

申請人 矢田三郎 外一一名

被申請人 福井交通株式会社

主文

被申請人が申請人等に対して昭和三十四年一月十七日附をもつてなした解雇の意思表示は、申請人等から被申請人に対する解雇無効確認請求事件の判決に至るまでその効力を仮に停止する。

被申請人は慣行に従い、申請人等をして被申請人の行う乗用車による旅客運送業務に就労させなければならない。

被申請人は申請人等が被申請人に対し前項の就労の意思表示をなした日から右本案判決に至るまで各毎月四日限り解雇前におけると同じ計算方法による給与金(所定の基本給、歩合給、諸手当)を仮に支払わなければならない。

前項については、被申請人は各申請人に対し現に就労中の(旧)福井交通労働組合員である従業員と差別待遇をしてはならない。

(注、保証金 計二万四千六百円)

(裁判官 神谷敏夫 市原忠厚 川村フク子)

【参考資料】

仮処分命令申請

申請の趣旨

一、被申請人が申請人等に対し昭和三十四年一月十七日附をもつてなした解雇の意思表示は申請人より被申請人に対する解雇無効確認請求事件の本案判決確定に至るまでその効力を仮りに停止する。

一、被申請人は申請人等に対し本案判決確定に至るまで別紙賃金表の各人名下の手取賃金額欄に記載した金員を昭和三十四年二月より各毎月四日限り仮りに支払わなければならない。

一、被申請人は申請人等が被申請人所有の車庫乃至事業場に立入つてタクシー運転の為就労することを妨害してはならない。

との御裁判を求める。

申請の理由

一、被申請人はタクシー業を営む会社であり、申請人等十二名は被申請人会社に運転手として勤務するものである。

二、被申請人会社の従業員は約一七〇名であつたところ申請人等を含む内一一五名で昭和三十三年一〇月一三日福井交通労働組合を結成し、組合員田中緑を組合長(執行委員長)に選任した外役員を夫々選出して執行部を構成した。(以下便宜之を旧執行部と略称する)而して同日直ちに組合規約を作成承認の上他方会社と労働協約を締結し、上部団体である福井県全労働組合会議に加盟した。

右規約中本申請に関係する条項を摘記すれば左の通りである。

(一) 組合員はこの規約に定める正当な手続を経ないで除名其他不利益な取扱を受けない。(第九条)

(二) 大会は本組合の最高議決機関で組合員三分の二以上の出席に依り成立し議事は出席人員の二分の一以上の賛成で決める。(第一九条、第二〇条)

(三) 役員の選出。組合役員、執行部の信任、不信任。規約の改訂。は大会の決議で決める。(第二一条)

(四) 大会の附議事項は開催の日より七日前に告示しなければならない。(第二二条)

(五) 組合員にして規約又は重大な決議に違反して本組合の秩序を紊しその他組合の体面を汚すような行為をした者に対しては大会の決議により除名することができる。(第四四条)

(六) 除名処分に不服あるものは執行委員会に再審議を要求することができる。この場合執行委員会は再審の結果に基き適当な処置を勧告しなければならない。右何れの場合にも被除名者に弁明を受ける機会を与えなければならない。(第四六条)

又右労働協約中本件に関係ある条項を摘記すれば左の通りである。

(一) 組合を除名された者は会社は之を解雇する。(第四条)

即ち会社と組合は完全なユニオンショップ協定を締結した。

三、争議の経緯

(一) 右組合結成後今日迄申請人等組合員一同は職場の改善、労働条件の向上等に付夫々旧執行部に意見を提案し来たが、同執行部は全く之に取合わず為に職場の要求は全然会社側に反映されないのみか反つて交通事故の場合に於ける組合員個人(運転者)の損害負担率が高化されると言う工合で旧執行部は全く御用組合化の傾向が顕著であつた。

かくして申請人等組合員の生活並に身分保障等逐次不安定化する状勢に追込まれることになつたので申請人等組合員間に於て組合の目的活動立直しが強く叫ばれ之が打開策を論議決定する為臨時大会を開催すべしとする機運熟し、次いで昭和三四年一月一六日午前二時福井市下町説教場に於て臨時大会を開催するに至つた。(午前二時に開催したのは就労に支障を来たさない為である)

然るところ右会場に会社の常務取締役朝倉正二来行し『組合は一体何をしようとするのか』と組合活動に内部干渉する等の圧力を加えた外、規約定足数三分の二相当の七十八名の組合員の出席を確認の上開会せんとするや大会に於て旧執行部の役員改選等が提案される状勢を察知した田中委員長は臨時大会の重要性並に委員長としての重責を等閑し無断退場するに至つた。

茲に於て止むを得ず参加組合員は万場一致で臨時大会開催を決議し大会開催の結果、

(1) 新役員として左記の者選出せられ(以下之を便宜新執行部と略称する)、(規約第一九条、第二〇条、第二一条参照)

執行委員長  矢田三郎

副執行委員長 河原幸太郎

書記長    古屋良進

執行委員   山岸弘

同      浅沢信二

同      佐野留士

同      春木武雄

会計監査   土田則雄

同      土田貞

(2) 会社に対する要求事項として左記事項を決議し、

一、事故費の個人負担を廃止し会社負担とする。

二、配車は組合と協議の上之を定める。

三、未収金は会社の完全負担とする。

四、出勤停止の処置は組合と協議の上決定する。

五、出勤停止中の賃金を保障する。

六、給与体系を確立する。

七、退職金制度を制定する。

(3) 更に無記名投票によりそれ迄加盟した福井県全労働組合会議を脱退し、新たに福井県労働組合評議会並に福井地区労働組合協議会に加盟する決議をした。(規約第三条、第二一条(5)参照)

依つて同年一月十六日午前拾時新執行部は挨拶と要求事項交渉の為社長加藤一雄に面会を申込んだところ、同人に代り専務取締役倉元要一と常務取締役朝倉正二に面接したが会社側は新執行部の下に在る組合を承認せず一切の交渉を拒否するに至つた。

(二) 一方旧執行部は同年一月十六日会社に対し申請人等を組合規約に反する組合活動をした理由で除名処分に附したから前記労働協約第三条、第四条のユニオンショップ協定に基き申請人等を直ちに解雇すべき旨を要求し、右会社は同月一七日附を以て申請人等に対し労働協約違反行為を為したとの理由で右同日を以て解雇する旨書面を以て通告して来た。

而しながら申請人等は旧執行部が主張する如き規約違反の不当な組合活動を為した事実なく、又被申請人会社が主張する如き労働協約違反行為をした事実もない。規約に制定された組合の目的に反する行為を敢てしたものは寧ろ旧執行部であり、協約違反行為を為したものは旧執行部と機脈を通ずる会社自体である。従つて右除名は法律上正当な理由を伴わない違法があり無効である。

仮りに百歩を譲り申請人等に一定の事由あるに依り(その事由が正当なりや否やは別として)除名せられたと仮定しても除名は労働協約に於て組合と会社間にユニオンショップ協定が成立している以上組合員にとつては組合より追放を受け、その個人としての主体性を否認される死活の重大問題であるから理由の判定乃至手続履践は極めて慎重且つ厳格でなければならないことは多言を要しない。本件に於てはかかる重大な除名処分が旧執行部により其の事由を慎重に究明せず又前掲規約第九条、第四四条、第四六条に準拠して大会の決議乃至再審の手続を経ず更に被除名者である申請人等に弁明の機会を全く与えず早忽の間自ら規約をじゆうりんし、寧ろ感情の走るまま苛烈な処分を断行したもので、右規約所定の決議方法を全く履践しなかつたと言う瑕疵は該除名を無効たらしめること勿論で何等の効力を生ずるものでない。(以上は多数判例の是認するところである)

又右除名が無効である以上前記ユニオンショップ条項に基き形式上適法に申請人等を解雇したとしても右解雇はその実質上の根拠を欠き当然無効である。(同前)

(三) 其の後の経過(事情)

以上のような経過を辿つたので新執行部は同年一月一七日福井県地方労働委員会に組合と会社間の団体交渉促進の斡旋申請を為したところ同委員会は同月二十三日旧執行部に組合運営に遺憾の点あるを指摘し一方被申請人会社及び組合宛大要左記の如き勧告書を提示するに至つた。

(1) 新執行部は速に職場に復帰すること。

(2) 旧執行部は自主性に基く民主的組合運営に遺憾無きを期すること。

(3) 新執行部は一月十六日の大会に於て決議した事項については固執しないこと。

(4) 旧執行部はさきに会社に対して為した新執行部等の解雇要求を撤回すること。

(5) 会社は今次紛争に付既に発した解雇通知を撤回するのみならず本紛争に関して一切不利益な取扱をしないこと。

而し右勧告書に対し新執行部は全面的に受諾したのに反し、旧執行部並に会社側は受諾に付不当な条件を附した為地労委の勧告にかかわらず妥結に至らなかつた事情がある。

四、申請人等は被申請人会社の従業員として夫々別表賃金表記載の通り基本給、歩合給、諸手当を先々月二十一日より先月二十日迄の分を当月四日に各支払を受けて来た者であるが、被申請人会社は前記解雇の意思表示と共に之が支給をしない。

申請人等に対する解雇が前述の如く無効であるのに解雇者として取扱われることは申請人等にとり経済上の死活問題であるばかりでなく、解雇せられた労働者が他に職を求め最低の生活を支えるのに足る収入を得ることは現下労働界の現状から見て極めて至難であるのみならず申請人等は申請人等及び其の扶養家族が何れも相当期間徒食し得る財産を所有しているものでもないから現在生活を脅かされる急迫した事態に直面しており、更に本案判決確定まで長期間解雇者として扱われることに依る財産上の損害は甚大である。

五、而して仮りに雇用関係が維持せられているものとする以上前記賃金請求権を有する外更に申請人等は労働者として組合活動権を有しているからその結果として被申請人会社に対し申請人等の提供する労務を受領する義務を負担せしめ得るものと思料する。依つて申請人等は被申請人に対し被申請人会社の従業員としてその担当車の運転乃至予備車運転の為就労することを妨害してはならない。就労請求権の保全をも併せ求めるものである。

六、即ち申請人等は以上のような理由の下に申請の趣旨に記載する如き解雇の意思表示の効力停止及び賃金支払並に就労妨害排除の各命令を併せ求める為本申請に及んだ次第である。

(別紙)賃金表

申請人氏名

手取賃金額

一ヶ月の賃金計算区間

及賃金支払期日

基本給

歩合給及

諸手当(一二)

諸税

諸掛

差引手取額

矢田三郎

六、六〇〇円

基本給

プラスx

マイナスy

先々月廿一より先月廿日迄毎月四日

河原幸太郎

四、四〇〇

同前

同前

同前

同前

古屋良進

四、五〇〇

土田則雄

五、六〇〇

山岸弘

五、〇〇〇

佐野留士

四、五〇〇

春木武雄

五、五〇〇

水井義信

四、〇〇〇

鳥居尚

四、八〇〇

浅沢信二

四、一〇〇

岩佐貞之

四、〇〇〇

三沢照栄

三、八〇〇

備考

歩合給は小型自動車五分五厘、大型同五分の割である。

諸手当の内訳は

時間外、家族、休日出勤、無事故、成績、構内、特別、宿泊、集金、回数、班長、副班長、各手当であつて率は各人異なる。

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