大判例

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福岡地方裁判所 昭和31年(行)22号 判決

福岡県直方市二字町千四百二番地

原告

杉本アリ

右補佐人

田口精一

同県同市

被告

直方税務署長

右指定代理人

大蔵事務官 安武嘉三次

同福岡法務局

訟務部長 小林定人

同法務事務官

新盛東太郎

右当事者間の昭和三十一年(行)第二二号所得税不当課税取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和三十一年四月三十日付でなした原告の昭和三十年度の営業所得金額を六十二万三千円と更正した処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として

原告は被告に対し、昭和三十年度分所得税に関する確定申告として所得額(無)と申告したところ、被告は昭和三十一年四月三十日付をもつて、右金額を六十二万三千円に更正する旨の処分を行い、その旨を原告に通知したので、原告は同年五月二十八日付で被告に対し再調査の請求をしたが、被告は原告の右再調査の請求書に法定の証拠書類の添付がない不適法なものであることを理由にこれを却下する決定をなし、同年六月二十日その旨を原告に通知した。然しながら右の更正処分は次のような理由により違法である。即ち、原告の経営する特殊料理店業の営業所得は従業婦の玉代によつて得られる収入によるのであるが、昭和三十年度においては、従業婦の逃走によつて前借金を踏倒された結果、合計金二十七万二千三百九十円の損害を蒙り、右の金額と他の必要経費とを同年度の収入金額より差引けばマイナスとなつて、課税標準たる所得金額はゼロである。しかるに被告が右のような事実を無視して前記の如き更正処分をなしたのは違法な処分というべきであるからその取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、

被告の本案前の抗弁に対し、

被告の再調査請求却下の決定に対して審査の請求はしていないのは審査の請求をすれば決定まで一年位を要するので早期に解決して納税義務を果すため本訴に及んだものであると述べ、

立証として甲第一号証ないし第十一号証を提出した。

被告指定代理人は本案前の答弁として、主文同旨の判決を求め、その理由として、原告は被告の昭和三十一年四月三十日付の更正処分に対し原告主張の日に被告に対し再調査の請求をしたが、右再調査請求書には法定の証拠書類の添付を欠いたため、被告は、同年六月二十日付で右請求を却下する決定をなし、同決定は同日原告に送達したが、原告はこれに対し、審査の請求をしないため審査の決定は経ていないので原告の本訴請求は訴提起の要件を欠く不適法なものであると述べ、

本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として

原告がその主張のとおりの確定申告をなし、被告が原告主張のとおりの決定を行つたことは認めるがその余は否認すると述べ、甲第一号証、第三号証、第四号証、第七号証、第八号証の各成立を認め、甲第五号証、第六号証が、それぞれ再調査請求額の計算書、再調査請求書の写であること及び各原本の成立を認め、爾余の甲号各証は不知と述べた。

理由

よつて原告の本件訴の提起が適法であるか否かについて判断するに所得税法第四十八条第一項、同第四十九条第一項及び同第五十一条第一項によれば、一般に同項但書に規定する場合を除いて、更正処分に対しては国税庁長官又は国税局長による審査の決定を経たのちでなければその取消を求める訴を提起することが許されないことは明らかである。ところで、本件においては原告がその取消を求める更正処分につき審査の請求をしていないことは原告の自認するところであり、且つ所得税法第五十一条第一項但書にいう審査の決定を経ることにより著しい損害を生ずる虞のあること、その他の正当の事由があることはこれを認めることができないので、本件訴は訴提起の要件を欠き、不適法であるといわねばならない。

よつて原告の本件訴を却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹生義孝 裁判官 中池利男 裁判官 小中信幸)

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