大判例

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福岡地方裁判所 昭和32年(ワ)35号 判決

飯塚市稲荷町

原告

岩成自助

同市飯塚千五百二十番地

右補助参加人

筑豊人権協会

右代表者理事長

高木定義

被告

右代表者法務大臣

中村梅吉

右指定代理人

川本権祐

中村良平

新盛東太郎

右当事者間の昭和三十二年(ワ)第三五号税金に対する徴収権発動請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用中、原告と被告との間に生じた分は原告の負担とし、被告と補助参加人との間に生じた分は補助参加人の負担とする。

事実

原告は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが陳述したものとみなすべき訴状によれば、「被告は源泉徴収義務者訴外飯塚市に対する昭和二十八年同二十九年度分同市会議員に対する源泉徴収所得税の未納分金三百三十九万円及びこれに対する該当附加税を徴収しなければならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として「原告は昭和三十年六月七日飯塚市監査委員に対し、市会議員歳費支出に関し監査を請求した結果、昭和二十八年度において、市政研究会交付金支出額四百二十八万三千六百円、議員共済会交付金支出額金百六十四万四千円、計五百九十二万七千六百円、昭和二十九年度において、市政研究会交付金支出額金二百二万五千円、議員共済会交付金支出額金百七十二万五千五百円、行政視察旅費支出額二百六万五百円、計五百八十一万一千円、総計金千百七十三万八千六百円が支出されていることが判明した。

当時の市会議員(任期昭和二十六年四月から同三十年四月三十日まで)はその歳費(月額議長一万五千円、副議長一万三千円、議員一万一千円)の増加を図るため有名無実の前記市政研究会交付金、議員共済会交付金及び行政視察旅費等の名目の下に当該年度予算案該当費目中に編組計上し、これを市議会に上程して可決し右費目中から毎月議長一万六千円、副議長一万五千円、議員一万四千円を所定の歳費以外にそれぞれ不正に支給していた。

右につき飯塚税務署は調査に着手し関係帳簿を調査した結果、右歳費外支給は脱税行為であるとの結論に達し、昭和三十年五月二十七日金三百七十万円の追徴課税の内示をし、震々督促した挙句同年十月七日飯塚市長平田有造は内金三十一万円を納付したのみで、その余の納付をしない。最初飯塚市側は右交付金等は実費弁償であつて源泉徴収所得の対象とはならないから申告しなかつたと主張していたが飯塚税務署は右交付金等は経常収入でありながら表面上歳費に計上せず脱税したものであると断定し前記追徴課税をし、同時に問題の重要性に鑑み福岡国税局の指示を求めたところ、同局も同様の見解を示したので、同税務署において屡々納付方を督促した結果前記内金三十一万円を納付するに至つたが、右金員は議員が提供したものでもなく、市長がどのような経費から支出したものか不明であり、議員に残額を支払う意思は少しもない。しかるに一方飯塚税務署は原告等の申入に対し必ず全額を徴収すると豪語しながら何ら具体的処置をせず、原告等が福岡国税局及び福岡監察局に指揮監督権の発動を促がしても、同局等は調査中に名を藉りて何らその実を示さない。国税犯則取締法第十二条の二は収税官吏に対し犯則ありと思料するときは告発することを義務づけており、国家公務員法第八十二条第二号は国家公務員の職務の懈怠につき徴戒処分を規定している。

脱税を認定しながら一年有半の間法の定める適正な徴収方法を講じないことは職務懈怠以外の何ものでもない。法の運用、特に租税の徴収に当つてその取扱に厚薄のあることは庶民の信頼を薄くする所以であり納税意欲を低下させるばかりでなく、ひいては社会悪醸成の一因となることも計り難い。

憲法第三十条により国民に納税義務を課せられる以上、このような不可思議な徴税事件を提訴してその解決を計る事は国民の権利として当然許されなければならない。よつて原告は被告に対し徴税官吏が憲法並びに国家公務員法に違反し既に納税額の確定した税金の徴収をしないので、その徴収権の発動並びに右租税債権の時効中断等の保全行為を求めるため本訴に及んだ。なお、本訴は行政処分の無効確認ないし取消を求めるものでもなく、公法上の権利関係の判断を求めるものでもないから純然たる民事訴訟であつて行政訴訟ではないことを附言する」というにある。

被告指定代理人は、本案前の答弁として「主文第一項同旨及び訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として「原告の本訴請求は、自己の権利を侵害されたとしてその保護救済を求めるのではなく、租税の徴収につき関係機関が法の公正な適用を怠つているとしてこれを指弾し、一般的に租税の公正な徴収を期する目的で『税金に対する徴収権発動』を求めるものであるが、このような訴は本来司法権固有の領域に属しないし、又特にかかる出訴を許す法令も存しない。従つて本訴は裁判所法第三条にいわゆる『法律上の争訟』に該当しないものというべく不適法として却下さるべきものである。」と述べた。

理由

先ず本件訴の適法性について判断する。

本件請求の趣旨の要点は、被告は源泉徴収義務者訴外飯塚市に対する昭和二十八年昭和二十九年度分同市市会議員に対する源泉徴収所得税未納分金三百三十九万円及びこれに対する該当附加税を徴収せよとの判決を求めるというにある。右は行政機関に対し行政上の行為をすべきことを命ずる裁判を求めるものであることは明らかである。しかし憲法の規定する三権分立の原則から裁判所としては行政機関に対しこのような行政上の行為をすべきことを命ずる裁判をすべき権限を有しない。

のみならず本件においては原告が行政機関の処分により具体的な権利の侵害を受けたものではなく、当事者間に具体的権利義務についての対立があるわけではないから「法律上の争訟」に該当しないし、原告が一般国民として行政法規の適正な運用を確保するための公共的行政監督的地位から行政法規の違法な懈怠に対しこれを是正するため提起した訴訟であるとしても、右は特に法律上規定されている場合にのみ許されるのであり、本件のような請求を認める根拠規定は存在しない。

してみればいずれの点よりするも、本訴は不適法としてこれを却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十四条、第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 生田謙二 裁判官 丹野達)

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