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福岡地方裁判所 昭和43年(ワ)560号 判決

原告 松下純三

右訴訟代理人弁護士 三原道也

原告 熊本信用金庫

右訴訟代理人弁護士 本田正敏

被告 金村幹男

右訴訟代理人弁護士 西辻幹男

被告 国

右指定代理人、検事 日浦人司

同、法務事務官 宮崎正巳

主文

原告らの被告らに対する各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告ら

「被告らは、各自、原告らに対し、金一三九万一、七四六円およびこれに対する昭和四一年六月一日から完済まで月二厘の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言

二、被告金村幹男

「原告らの各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決

三、被告国

「原告らの各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決ならびに同被告が敗訴し仮執行の宣言が付された場合における担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二、当事者の主張

一、原告らの請求原因

1.(一)原告松下純三は、いずれも、訴外三和試錐株式会社(以下「訴外会社」という。)を債務者とし、訴外熊本市泉源開発調査会(以下「訴外調査会」という。)を第三債務者として、昭和四〇年一〇月二二日、福岡地方裁判所から、福岡法務局所属公証人篠原勲平作成第一八一、四四六号公正証書にもとづき、訴外会社の訴外調査会に対する熊本市松尾町上松尾梅洞地先公有地熊本市温泉堀さく工事請負代金債権のうち金一〇〇万円の部分についての同裁判所同年(ル)第七四一号、同年(ヲ)第八六一号債権差押及転付命令を、前同公証人作成第一八一、四四五号公正証書の執行力ある正本にもとづき、右請負代金債権のうち金九〇万円の部分についての同裁判所同年(ル)第七四二号、同年(ヲ)第八六二号債権差押及転付命令をそれぞれ得、同各命令は、いずれも、そのころ、訴外会社および訴外調査会に送達された。

(二)、また、原告熊本信用金庫は、訴外会社に対する熊本地方裁判所昭和四〇年(ワ)第五八一号事件判決の執行力ある正本にもとづき、訴外会社を債務者とし、訴外調査会を第三債務者として、昭和四一年一月一〇日、福岡地方裁判所から、訴外会社の訴外調査会に対する前記工事請負代金債権のうち金二一七万六、四〇〇円の部分についての同裁判所昭和四〇年(ル)第九八八号、同年(ヲ)第一、一四〇号債権差押及転付命令を得、同命令は、そのころ、訴外会社および訴外調査会に送達された。

2.(一)、そして、訴外調査会は、昭和四一年五月二六日、その債権者を確知することができないことを理由として、熊本地方法務局に対し、右各命令にかかる債権の請負代金一三九万一、七四六円を弁済供託(同法務局同年度金第三八〇号)した。

(二)、なお、原告熊本信用金庫は、右(一)につけ加えて、つぎのとおり主張する。すなわち、右供託の供託通知書には、その「供託物の還付を請求し得べき者の氏名住所」欄に訴外会社の本店所在地および商号ならびに被告金村幹男の住所および氏名が記載されているとともに、その「備考」欄に「三和試錐に対する債権差押並転付命令債権者松下純三、同熊本信用金庫」と明記されており、かつ、「供託の原因たる事実」として、訴外調査会は、訴外会社に対し金一三九万一、七四六円の請負代金債務を負担していることを認めること、訴外調査会は、昭和四〇年九月五日ごろ訴外会社代表取締役境重夫から、同月四日付の内容証明郵便で、訴外会社が被告金村幹男に対し訴外会社の訴外調査会に対する金五四〇万円の請負代金債権を譲渡した旨の通知を受けたこと、また、訴外調査会は、同月一〇日ごろ、原告熊本信用金庫の訴外会社に対する金二〇〇万円の約束手形金債権の執行を保全するためのものとしての、同原告を債権者、訴外会社を債務者、訴外調査会を第三債務者とそれぞれする前記請負代金債権のうち金二〇〇万円の部分についての同月九日付の熊本地方裁判所同年(ヨ)第二二九号債権仮差押決定の正本の送達を受けたこと、さらに、訴外調査会は、同年一〇月二三日ごろ前記第二の一の1の(一)の各債権差押及転付命令の正本の送達を受け、昭和四一年一月一一日ごろ同第二の一の1の(二)の債権差押及転付命令の正本の送達を受けたこと、しかし、訴外調査会と訴外会社との間の工事請負契約においては、同契約にもとづく訴外会社の訴外調査会に対する請負代金債権についての譲渡禁止の特約がなされていて、前記債権譲渡の効力に疑問があるから、正当な債権者を確知することができないものとして、工事代金残額全部を弁済供託することの記載がある。

3.ところが、被告金村幹男は、昭和四〇年六月二五日訴外会社から前記請負代金債権の譲渡を受けたとして、昭和四一年一二月一七日、熊本地方法務局において、右供託金一三九万一、七四六円の還付を受けた。

4.しかし、訴外調査会と訴外会社との間の前記工事請負契約は、昭和三九年一月一八日成立したものであるところ、同契約においては、同契約にもとづく訴外会社の訴外調査会に対する請負代金債権についての譲渡禁止の特約がなされていたものである。

5.(一)、しこうして、被告金村幹男は、前記債権の譲渡を受けるに際し、右譲渡禁止の特約が存することを知っていたか、もしくは少なくとも、そのことを知り得べき状況にあったにもかかわらず、過失によってこれを知らなかったものである。

(二)、したがって、右債権譲渡は、訴外調査会および原告らに対する関係において、その効力を生ずるに由なく、被告金村幹男は、前記供託金についての還付請求権を有してはいなかった、すなわち法律上の原因が存しなかったにもかかわらず、前記のとおり、供託金の還付を受けて利益を受け、そのため、原告らに対し、右還付金と同額の損失をおよぼしたものであって、同被告の受けた右利益は、その全額が現存するものである。

6.(一)、また、熊本地方法務局供託課供託官訴外小林信雄は、右弁済供託の当時から、前記各債権差押及転付命令が存することを知っていたにもかかわらず、右のとおり供託金の還付請求権を有していなかった被告金村幹男に対し、不注意にも、同被告が真実の債権者であるか否かを確認することなくして、その還付手続をなした。

(二)したがって、原告らは、国の公権力の行使に当る公務員である同供託官の職務上の右過失により、前記還付金と同額の損害をこうむったものである。

7.それで、原告らは、被告金村幹男に対しては民法第七〇三条にもとづき、被告国に対しては国家賠償法第一条にもとづいて、被告ら各自に対し、前記金一三九万一、七四六円およびこれに対する昭和四一年六月一日以降完済までの月二厘の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、被告金村幹男の答弁

1.前記の原告らの請求原因1の(一)、(二)の各事実はいずれも知らない。

2.同2の(一)の事実、同2の(二)の供託通知書の記載に関する事実および同3の事実はいずれも認める。

3.同4の事実のうち、請負契約成立に関する事実は認めるが、債権譲渡禁止の特約成立に関する事実は否認する。

4.同5の(一)の事実は否認し、同5の(二)の法律上の主張を争う。

5.(一)、訴外会社は、昭和四〇年六月二五日、被告金村幹男に対し、前記請負代金債権を譲渡し、かつ、同年九月四日差出し、同月五日到達の内容証明郵便(確定日付ある証書)で、訴外調査会に対し、右債権譲渡の通知をなした。

(二)、そして、仮に前記の債権譲渡禁止の特約が存したとしても、被告金村幹男は、右債権の譲渡を受けるに際し、そのような特約のあることを知らなかったし、また、これを知らなかったことについてなんら過失はなかったものである。

(三)、したがって、右債権譲渡の後になされた前記各債権差押及転付命令は、いずれも、実在しない債権を対象としたものであって、その効力を生ずるいわれはなかったものである。

三、被告国の答弁

1.前回請求原因1の(一)、(二)の各事実、同2の(一)の事実、同2の(二)の供託通知書の記載に関する事実および同3の事実はいずれも認める。

2.同4の事実のうち、請負契約成立に関する事実は認めるが、債権譲渡禁止の特約成立に関する事実は否認する。

3.同5の(一)の事実は否認し、同5の(二)の法律上の主張は争う。

4.同6の(一)の事実のうち、その主張の供託官が弁済供託当時から前記各債権差押及転付命令の存することを知っていたこと、そして、同供託官が被告金村幹男に対し右供託金の還付手続をなしたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。したがって、同6の(二)の法律上の主張を争う。

5.(一)、被告金村幹男は、右供託金の正当な還付請求権者であったし、同被告に対し同供託金の還付手続をなした前記供託官の所為には、なんら過失は存しなかった。

(二)、すなわち、同被告は、右の供託金還付請求に際し、前記供託官に対し、供託金払渡請求書ならびにその添付書類としての供託通知書、熊本地方裁判所昭和四一年(ワ)第三一八号請負代金請求事件の判決正本、判決確定証明書、債務履行並債権譲渡契約公正証書謄本、委任状および印鑑証明書の各与し一通を提出したので、同供託官は、その還付請求が適法なものであるか否かを審査したところ、被供託債権の請負工事代金請求権について前記各債権差押及転付命令が出されていることを認めることができたが、右供託通知書、判決正本および公正証書謄本等の各写しによると、前記請負工事代金請求権は、その発生を条件に、昭和四〇年六月二五日訴外会社から被告金村幹男に対して譲渡され、その通知が同年九月四日差出しの同月三日付内容証明郵便をもって訴外会社から訴外調査会に対してなされ、同月五日頃訴外調査会に到達していることを確認することができ、かつ、同被告は、右請求権譲受当時同請求権に譲渡禁止の特約が附着していたことを知らなかったものであることを推認することができたので、右請求権は、前記各債権差押及転付命令発付ならびに送達前においてすでに有効に同被告に譲渡されている関係上、右各命令は、いずれも被転付債権を欠くものとして無効であり、結局前記請求権者はひとり同被告のみであると判断し、同被告を右供託金の正当な還付請求権者として、同被告に対し、前記のとおり、その還付手続をとったものである。

第三、当事者の証拠関係〈省略〉。

理由

前記の原告らの請求原因1の(一)、(二)の各事実は、原告らと被告金村幹男との間においては、〈証拠〉によって明白であり(これを覆えすに足りる証拠はない。)、原告らと被告国との間においては、争いがない。

そして前同請求原因2の(一)の事実、同2の(二)の供託通知書の記載に関する事実および同3の事実は、いずれも、当事者間に争いがなく、これらの事実に〈証拠〉を総合すると、原告熊本信用金庫は、同原告の訴外会社に対する金二〇〇万円の約束手形金債権の執行を保全するため、訴外会社を債務者とし、訴外調査会を第三債務者として、昭和四〇年九月九日、熊本地方裁判所から、訴外会社の訴外調査会に対する熊本市松尾町上松尾梅洞地先公有地熊本市温泉堀さく工事請負代金債権のうち金二〇〇万円の部分についての同裁判所同年(ヨ)第二二九号仮差押決定を得、同決定は、そのころ、訴外会社および訴外調査会に送達されたことを認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

以上の各事実によると、前記各債権差押及転付命令発付前においてすでに同一債権について熊本地方裁判所の右仮差押えがなされており、しかも、差押債権者であった原告らの各債権総額は、いずれも、差押債権額をそれぞれ超過していたことが明らかであるところ、仮差押えにかかる債権に対して転付命令がなされても、その債権は、転付を受けた債権者がとくに優先権を有しない限り、これに移転するものではなく、また、数人の差押債権者の債権総額が差押債権額を超過するときは、数個の債権差押えが相競合するものであって、債権差押えの競合する場合に発せられた転付命令は、優先権を有する債権者がこれを得た場合のほか、その効力を生ずるものではないと解するのを相当とするから、原告らが右の優先権を有していたことを認めさせるに足りる証拠のない本件においては、原告らの得た前記各債権転付命令は、いずれも、債権移付の効力を生ずるに由なかったものといわなければならない。

そうすると、原告らが右各債権転付命令によって債権の移付を受けたことを前提とする原告らの被告らに対する本訴各請求は、その余の点について判断をするまでもなく、すでにその前提において、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原宗朝)

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