大判例

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福岡地方裁判所 昭和47年(む)81号 決定

被疑者 川上進 外一名

決  定

(被疑者、被疑事件名略)

右各被疑事件につき昭和四七年一月二三日福岡地方裁判所裁判官がなした各勾留請求却下の裁判に対し、福岡地方検察庁検察官から原裁判の取消を求める各準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各準抗告の申立をいずれも棄却する。

理由

本件各準抗告申立の理由は検察官提出の各「準抗告及び裁判の執行停止申立書」および「準抗告及び裁判の執行停止申立補充意見書」記載のとおりであるからここにこれを引用する。

よつて案ずるに別紙記載のとおり、本件各被疑事実についてなされた逮捕および勾留の請求は違法なものというべきである。

従つて本件勾留請求を却下した原裁判はいずれも相当であり、本件各準抗告申立はいずれも理由がないので、同法四三二条四二六条一項によりこれをいずれも棄却することとし、主文のとおり決定する。

〔別紙〕

一、検察官は、本件各勾留請求は適法であり、本件がいわゆる逮捕、勾留のむしかえしであるとして右各勾留請求を却下した原裁判は違法である旨主張するので、まず右の点について検討する。

二、本件記録および取り寄せた関係資料によれば、被疑者両名は、昭和四六年一二月一八日いずれも別件である兇器準備集合罪(以下単に別件という)で現行犯逮捕され、同月二一日勾留され、その後被疑者川上は、同月三〇日身柄拘束のまま起訴され、昭和四七年一月一八日右勾留が取り消され、同月二〇日検察官からなされた準抗告が棄却されて釈放され、一方被疑者竹之内は、勾留期間延長のうえ同月八日身柄拘束のまま起訴され、同月一九日保釈により釈放されたものであるところ、被疑者川上は、これより先昭和四六年一二月一八日本件各被疑事実につき逮捕状が発布され、同月二五日いわゆる逮捕状の更新(有効期間一ヶ月)がなされ、一方被疑者竹之内は、昭和四七年一月六日本件各被疑事実につき逮捕状が発布され、同月一三日右逮捕状の更新(有効期間七日間)がなされていたが、その後被疑者両名は、同月一九日それぞれ右各逮捕状により逮捕され、同月二二日それぞれ本件勾留の請求がなされたことが認められる。

しかして、本件記録および取り寄せた関係資料によれば、本件各被疑事件は前記別件の被疑事件よりも八日早く発生した事件であり、被疑者らが右別件の被疑事件で逮捕された昭和四六年一二月一八日当時、既に被疑者川上が本件各被疑事件の容疑者として特定されて前記の如く逮捕状が発布され、被疑者竹之内についても、同月二〇日ころ、西福岡警察署で行われた、福岡警察署において同月一八日撮影した被逮捕者の写真一六葉(右写真は、前記別件被疑事件で現行犯逮捕された者らの写真であると推認される)による面割捜査の結果、未だその氏名は明らかでなかつたとはいえ、本件被疑事件の容疑者であることが判明していたこと(なお、前記別件被疑事件については、被疑者両名はいずれも福岡警察署に逮捕されて、同署において捜査がなされ、本件被疑事件は西福岡警察署で捜査されていたものであるが、いずれも同種の学生事件であつて、被疑者竹之内が前記別件被疑事件の容疑者として特定されるに至つた経緯等に徴しても、右西福岡警察署の捜査官はそのころ被疑者両名が前記別件被疑事件で身柄拘束中であることを知つていたはずである)しかるに本件各被疑事実についての捜査は、同年一二月二七日ころまでは、主として既に逮捕された共犯者らの関係で進められてきたが、同日以降はさしたる捜査がなされた形跡がなく、就中、被疑者両名に対しては、本件各逮捕状が発布された前後を通じて、いずれも昭和四七年一月一二日に一回取調を行なつたのみ(被疑者らにおいて、いずれも勾留事実以外の事実であるとして取調を拒否)であり、他に被疑者らを取調た形跡のないことが認められる。

三、ところで検察官は、刑事訴訟法は一件一令状主義を建前にしているのであるから、前記別件被疑事件の勾留の継続について本件被疑事実の存在することを関聯せしめたものではない本件においては、前者の勾留によつて後者の勾留が制約されるいわれはなく、また逮捕状が発布されていても、いかなる時期にこれを執行して強制捜査に入るかは、捜査官の合目的な判断に委ねられるべきものである旨主張する。

しかし、刑事訴訟法が一件一令状主義を基本的にはとつているとはいえ、既に継続している勾留期間中に同一被疑者の他の被疑事実について取調をすることは、それによつて被疑者に特段の不利益をきたさない限り許容され、現に屡々行なわれていることは検察官も熟知しているはずであつて、かえつて既に継続している勾留の期間中に同一被疑者に対する他の被疑事実の捜査をなし得るにもかかわらず、これをせず、後日更に後者についての逮捕勾留を繰り返すことは、いわゆる逮捕、勾留のむしかえしであつて、起訴前の逮捕、勾留につき厳格な時間的制約を設けた法の趣旨に反するものというべく、また逮捕状の発布がなされていても、その執行の時期は捜査官の合目的な判断に委ねられるべきであるとの点については、別件の勾留が先行していない場合は、そのように解し得ても、別件の勾留が先行している場合には、前同様の理由により、その執行の時期についてもおのずから制約を受けるものと解すべきである。

四、そこで本件につき被疑者らに対し、前記別件被疑事件による勾留中に本件各被疑事実について任意または強制捜査を進め難い特段の事由があつたか否かをみるに、右別件による身柄拘束の初期の段階において既に被疑者らが本件被疑事件の容疑者であることの判明していたことは前叙のとおりであるし、前記別件被疑事件について公訴を提起する以前は、捜査の主たる対象が右事件であつた関係上、或は本件各被疑事実についての捜査を遂げる余猶がなかつたとしても、少くとも右公訴の提起がなされた以降はそのような障碍はなかつたものというべく、また、検察官が主張する本件被疑事件の被害者の取調未了、或は、共犯者らの同時逮捕の必要性等の事情も、前掲関係資料によれば本件被疑事件については、現行犯人として逮捕された共犯一名については既に昭和四六年一二月三〇日兇器準備集合罪で公訴の提起がなされ、昭和四七年一月六日保釈許可により釈放されていること、および被疑者川上と同時期に逮捕状が発布された共犯一名についても昭和四六年一二月二一日右逮捕状の執行がなされていることが窺われるので、これまた、被疑者らに対し本件被疑事件につきすみやかに強制捜査に入らなかつたことを首肯せしめるものではない。

五、そうすると、本件においては、被疑者両名に対し少くとも、前記別件各被疑事実について公訴の提起がなされた以降は、その勾留期間中に本件各被疑事実について任意或は強制捜査を行うことが可能であつたものというべく、しかも本件各被疑事実につきそれぞれ逮捕状の発布まで得ていながら、これをすみやかに執行せず、みるべき捜査のなされないまま右公訴の提起後約一〇日ないし二〇日を経過し、右別件についての勾留について、勾留の取消或は保釈許可がなされた段階において行われた本件各逮捕およびこれに基く勾留の請求は、いわゆる逮捕、勾留のむし返しであり、起訴前の逮捕、勾留につき厳格な時間的制約を設けた法の趣旨に反する違法なものというべきである。

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