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福岡地方裁判所 昭和55年(ワ)77号 判決

原告(反訴被告)

株式会社創デザイン

右代表者

青栁政夫

原告(反訴被告)

樋口達也

右両名訴訟代理人

吉田徹二

被告(反訴原告)

松下俊春

右訴訟代理人

椛島敏雅

小島肇

宮原貞喜

主文

一  本訴につき、

昭和五三年二月二〇日午前一〇時頃福岡市中央区大名一丁目一番二三号路上において発生した交通事故にもとづく原告両名の被告に対する損害賠償債務の存在しないことを確認する。

二  反訴につき、

反訴原告(本訴被告)の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用につき、

訴訟費用は本訴、反訴を通じてすべて被告(反訴原告)の負担とする。

事実《省略》

理由

本件における本訴、反訴の各性格にかんがみ、まず、被告の反訴請求の当否から検討する。

一反訴請求について

1  争のない事実

(一)  被告が本件事故(昭和五三年二月二〇日の交通事故により左肩峰鎖関節脱臼の傷害を負つたもの)を含め、原告ら主張の如く前後三回に及ぶ交通事故(本件事故後昭和五四年一〇月二五日の交通事故により右足捻挫、昭和五五年一〇月二八日の交通事故により左肩打撲、左膝、右足関節捻挫)に遭遇し、その主張の如き傷害を負い、治療をうけたこと、

(二)  本件事故の態様は被告が事故現場の道路端に佇立中福岡市天神方面から岩戸交差点方向に進行してきた原告樋口運転、原告会社所有の普通貨物自動車に接触されたものであること、

(三)  被告が昭和五四年三月七日に本件事故に起因する後遺障害として「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」と認定され、後遺障害一二級六号の事前認定をうけたこと、

(四)  被告が本件事故による保険金内払として昭和五三年四月一〇日から同五四年一一月一日までの間別紙支払一覧表記載のとおり合計金五八四万三二四〇円(うち秋本外科病院に対する支払分一八万三二四〇円)を共栄火災海上から支払をうけたほか昭和五三年五月二三日原告会社から五万円の支払をうけたこと、

(五)  被告が盲人でマッサージを生業としており、事故後の昭和五四年八月頃から再び開業の準備にとりかかり同年一一月と一二月に八尋謙一ほかにマッサージを施したこと、

以上の事実は当事者間に争がない。そして右事実によれば、原告会社は加害車両の保有者として自賠法三条により、原告樋口は加害車両の運転者として民法七〇九条により、いずれも被告の被つた損害の賠償義務あることが明らかである。

2  過失相殺〈省略〉

3  損害

(一)  休業損害

(1) 休業期間

本件事故当日の昭和五三年二月二〇日から症状固定日の昭和五四年一月三一日までの三四七日間被告が本件事故により休業した事実は、前記争のない事実と〈証拠〉から、これを認めるのが相当である。もつとも〈証拠〉によると被告は昭和五三年中も有限会社福岡サウナにアルバイトとして稼働し、月額七万円の報酬を得ていることになつているが、同証言によればこれは年数を誤記しているというのであるから、疑問は残るが、必しも右認定にていしよくするものとはいえない。また、〈書証〉(昭和五五年八月四日付調査報告書)によれば、被告は株式会社損害保険リサーチの調査員に対し、昭和五四年一〇月二五日の第二回目の交通事故により右足に力が入らずマッサージができないので休業している旨述べて補償を求めているが、その際本件事故についても言及し谷川弘に交渉を一任している旨述べているから、第二回の交通事故以前は休業の事実はないとしている訳でもなく、前記休業期間の認定を左右するものではない。その他に右認定を左右する証拠はない。

(2) 月平均収入額

被告は本件事故当時三七才であるから、昭和五三年度賃金センサスにより平均月収額を二八万七三〇〇円と主張しているが、〈証拠〉を総合すれば、これを認めることができる。もつとも甲第二七号証と乙第六号証はいずれも被告が点字で作成した覚書をもとにして出来上つたものにしては同一期間内の月収額、患者数、休日等に可なりの喰い違いがみられ全体として本件事故の保険会社である共栄火災海上に提出した甲第二七号証の方が被告が手許に保有している乙第六号証より高額であるが、両者を総合して月二二万円の月収は確実なところと認められるし、これに前出乙第四号証のアルバイト報酬月額七万円を加えると前記賃金センサスの平均月収額は相当と考えられるからである。

そうすると休業損害はとなり、休業損害についての被告の主張は正当である。

(二)  逸失利益

(1) 労働能力喪失割合

まず、被告は本件事故により左上肢の肩関節部に頑固な痛みを残し、左上肢に力が入らない著しい機能障害が残つたが、これはマッサージを業とする被告にとつては致命的ともいえる障害であり、労働能力喪失割合を五〇パーセントとすべきである旨主張するが、前記当事者間に争いのない事前認定においても被告の機能障害は一二級六号とされているのであるから右主張は、およそ採り得ない議論というべきである。

他方、原告らは、右事前認定の一二級六号は被告が盲人である点を酌んでなされた政策的配慮にもとづくものであり、秋本外科、権藤外科における治療状況や症状固定時の昭和五四年一月三一日における権藤医師の「X線写真上骨関節の異常は認められず」という診断等からしても、右機能障害と本件事故とは因果関係がない、髙橋鑑定結果によつても、右機能障害は本件事故に起因するものではなく、頸椎後従靱帯骨化症という別の病気にもとづき発生したことが明らかである、と主張する。

〈証拠〉を総合すれば、事前認定については本件事故の任意保険会社である共栄火災海上は被告が盲人のマッサージであり、左肩峰鎖関節脱臼と診断されて肩に力が入らないということであればマッサージ師としては致命的打撃をうけると判断して事前認定には配慮ある取扱を望む趣旨の依願書を提出していたが、事前認定自体は権藤医師の症状固定時の診断書のみをもとになされ、特に手心が加えられた形跡はないこと、右診断書には「X線写真上、骨、関節の異状認められず」の記載があるが、これは骨折等の異常は認められない趣旨で機能障害と直接的な関係はないが、それだけに同診断書の「左肩関節周囲の疼痛と関節運動機能障害」という後遺障害の内容は主として被告の肩がズキンズキン痛むという愁訴にもとづくものであること、したがつて治療方法も痛み止めの内服薬の投与が主で、そのほか電気治療がなされていた程度であり、固定術のほか直接的な外科的治療のなされた形跡はないこと、結局、一二級六号という事前認定は主に被告本人の肩が痛いという愁訴にもとづくといつても過言ではないこと、もつとも髙岸鑑定の結果によれば前記機能障害の原因として頸椎後従靱帯骨化症が考えられるとされているが、この点は魚住証言と対比して病症の存在自体に多大の疑問があり、採用しがたいことが明らかといわねばならず、他に右認定を左右するに足りる確たる資料はない。

ところが〈証拠〉をあわせると、八尋謙一は九州損害調査株式会社に勤務し保険事故の調査をしている調査員であるが、昭和五四年一〇月初め頃同社は共栄火災海上から被告について就労不可能であるか、どうかの調査依頼をうけて八尋が担当し、同年一一月一〇日頃から近所の聞き込み調査をはじめ、同月一五日頃代表取締役の塚本実と共に被告を訪れ、塚本がマッサージをうけたこと、塚本は指圧は簡単にして貰いたいと要望したにもかかわらず、被告は指圧とはそんなものではないと云いながら一時間から一時間半にわたつて塚本が悲鳴をあげる位に力強くマッサージをし、その後二〇日位して再度治療に赴いたときも同様であり、到底肩がズキンズキン痛むというような状況ではなかつたし、料金はいずれも正規の料金を支払つたこと、皮肉なことに右稼働時期は被告が前記昭和五四年一〇月二五日の第二回交通事故により右足挫傷の傷害を負い、右足に力が入らず休業を余儀なくされていると称して休業損害等をホーム保険会社に請求している時期に当ること、その後八尋は昭和五七年から同五八年にかけて被告の動静を探り、多数の写真をとつているが、被告は左手で盲導犬を操作したり、犬の手入をしてやつたり、左手に物をもつて颯爽と道路を歩行したりしており、昭和五八年五月四日の読売新聞にはドンタクパレードに盲導犬と共に参加している被告の写真も掲載されたことが認められる。被告は盲導犬の操作には力を要しないと強弁するが、到底信用の限りではなく、他に前認定をくつがえすに足りる資料はない。

(2)  以上縷述したところを総合すると、被告には左肩峰鎖関節脱臼の不全治癒状態が存在する旨の医学的所見と被告の愁訴による後遺障害一二級六号の事前認定がなされているとはいうものの現実の稼働のうえで障害となるような後遺障害はないと解するのが相当である。したがつて労働能力喪失割合を云々するまでもなく、後遺障害による逸失利益の請求はすべて失当である。

(三)  慰藉料

(1) 通院慰藉料

被告は症状固定までの通院延日数三四五日間の慰藉料として七一万二〇〇〇円を請求しているが、当時の交通事故損害額算定基準にてらしても右金額は相当として認容すべきである。

(2) 後遺症慰藉料

既に明らかにしたところからして右請求は失当である。

(四)  弁護士費用

本件訴訟追行の難易、認容額等諸般の事情を考慮して金四〇万をもつて相当とする。

4  結論

以上の次第で被告の反訴請求は、休業損害として三二七万七五八一円、通院慰藉料として七一万二〇〇〇円、弁護士費用として四〇万円の合計金四三八万九五八一円の限度で認容すべく、その余は失当として棄却を免れないところ、既に被告が本件事故による損害保険金等として共栄火災海上及び原告会社から合計金五三五万円の支払をうけていることは当事者に争いがないから、原告側は本件交通事故による被告の損害については過払といわざるを得ず、結局、被告の反訴請求は棄却を免がれない。

二本訴請求について

被告の反訴請求について判断したとおりであつて、原告両名が本件事故につき損害賠償債務不存在確認を求める本訴請求は正当として認容すべきである。

三結語〈省略〉

(麻上正信)

保険金支払一覧表〈省略〉

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