大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

福岡地方裁判所 昭和59年(わ)297号 判決

主文

被告人を懲役七年に処する。

未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  昭和五九年一月一四日午後七時四六分頃、普通貨物自動車(ライトバン。車体の長さ四・六九メートル、車体の高さ一・六〇メートル、車幅一・六九メートル。以下「本件自動車」という。)を運転して福岡市博多区大字上臼井字柳井三四八番地ほか合併地所在の福岡空港西門より同空港敷地内に入り、誘導路やエプロンなどを本件自動車で暴走したうえ、さらに滑走路を南方に向かって時速約一〇〇キロメートルの速度で本件自動車を走行させたため、同日午後七時五三分ころ折から同空港の北方約三・五キロメートル、高度約二一〇メートルの上空を時速約二一〇キロメートルの速度で同空港に向け既に着陸態勢に入っていた日本航空株式会社のボーイング七四七SR型ジェット航空機(機長石川總夫ほか乗員一五名、乗客三三七名搭乗。着陸予定時間同七時五四分。以下「日航機」という。)に対し、滑走路上において同機と衝突事故を起こすおそれのある状態を作り出し、そのため運輸省大阪航空局福岡空港事務所の航空管制官をして、右日航機に対し事故回避のため「ゴーアラウンド(着陸復行せよ)」と緊急操作を指示させ、右日航機に着陸を一時中止して急上昇するのやむなきに至らしめ、

第二  引き続き本件自動車を運転して滑走路から東側平行誘導路に入り、同誘導路上を北方に向けて本件自動車を走行させ、折から乗客を降機させるため六番スポットに向け同誘導路上を南方から北方に時速約五キロメートルの速度で走行中の全日本空輸株式会社のロッキードL一〇一一型トライスタージェット航空機(機長渡辺健ほか乗員一〇名、乗客三二五名搭乗。以下「全日空機」という。)に向かって、後方から本件自動車を時速約六〇キロメートルの速度で突進させ、前記日時ころ、同機の左側エンジンと左側主輪との間を走り抜け、よって右航空機に対し、被告人運転の本件自動車との衝突による転覆横転・損壊・爆発炎上等の事故発生のおそれのある状態を作り出し、

もって航空の危険を生じさせたものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示所為は、包括して航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律一条に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役七年に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数のうち一〇〇日を右の刑に算入することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書に従い被告人に負担させないこととする。

(量刑理由)

本件は、被告人が精神的に行き詰まり投げやりな気持から飛行場を暴走し航空機に衝突して大惨事となってもかまわないと考え、警備員の制止も聞かずに、自動車で福岡空港内に突入するとともに、約一〇分間にわたり、同空港の滑走路や誘導路上を車で走り回り、もって、同滑走路上において、まず、着陸してくる日航機との衝突の危険を生じさせたほか、次いで、誘導路上を走行する全日空機に突進して、この下をくぐりぬけ、またも衝突事故発生の危険を生じさせたという事案である。

ところで、「航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律」第一条の罪は、航空機の安全な運行のみならず、人の生命及び身体の安全、航空交通に対する一般の信頼、航空機及びその運航に関する財産上の利益等をも保護法益とするものであるが、前記日航機・全日空機には、ともに当時多数の乗員・乗客が搭乗していたのであるから、被告人の運転する本件自動車が右航空機と衝突するようなことになれば、単に右航空機が破壊されるばかりでなく、右乗員・乗客の多くが航空機の爆発・炎上等により死傷の危険にさらされることになったであろうことは航空関係者の一致して供述するところであり、殊に全日空機の下をくぐりぬけた件については、当時の状況からしてむしろ衝突しなかったことの方が奇跡であると思われるのであって、このような事情に鑑みるときは、他人を巻き添えにすることも辞さない考えで航空機に衝突して死んでもかまわないと企て、前記各行為に及ぶとともに、多数の乗員乗客等の生命・身体を危機に瀕せしめたのみならず、航空関係者や、さらに広く航空交通を利用する一般市民の心胆をも寒からしめた被告人の罪責は、前記法条の趣旨に照らしても極めて重く、航空関係者は一致してかかる被告人に対して厳罰を希望していること、被告人は当時大麻に耽る現実逃避的な無為徒食の生活を送っていたことをも考慮すると、被告人の刑責は重大であると言わねばならず、他方、被告人は意志薄弱・不定、情緒不安定、自己中心性などの特徴を有する異常性格(特に、これは、本件犯行直前の大麻吸引により増強されたものと考えられる。)という負因を有しており、これが本件犯行の誘因となった(もっとも、右異常性格の故に犯行当時の是非弁識能力が欠けることはなかった。)こと、被告人は未だ若年であり、前科もないこと、被告人の母緒方サダ子が被告人の監督を約束していること等被告人のために酌むべき事情を十分に考慮したとしても、主文掲記の量刑は免れないと考えられる。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田久次 裁判官 亀川清長 杉田宗久)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com