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福岡地方裁判所 昭和60年(行ウ)12号 判決

福岡県八女市大字本町二番地の八一

原告

北嶋勇

右訴訟代理人弁護士

伊藤祐二

福岡県八女市大字本町五一〇番地

被告

八女税務署長瀧野敏郎

右指定代理人

辻井治

末廣成文

高木功

江崎福信

鵜池勝茂

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五九年二月二一日原告の昭和五七年分所得税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税(ただし、過少申告加算税額に相当する額を超える部分を除く。)の各賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

被告は、別表記載のとおり、確定申告に係る原告の昭和五七年分所得税について、更正(以下「本件更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「本件決定」といい。本件更正と本件決定を併せて「本件各処分」という。)をした。

よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実は認める。

三  抗弁

1  本件更正について

原告の昭和五七年分の分離長期譲渡所得の金額は、次の(一)又は(二)の収入金額六六〇九万円から必要経費額四七四万八七〇〇円を控除した残額六一三四万一三〇〇円である。

よって、本件更正は適法である。

(一) (一括契約)

原告は、専修学校コンピュータ教育学院こと渡辺則夫(以下「渡辺則夫」という。)との間で、昭和五七年四月六日、別紙目録記載の文筆前の(一)の土地(以下「文筆前の(一)の土地」という。)のうち三七八平方メートルを代金六六〇〇万円で売却する旨の契約を締結した(以下「本件一括契約」という。)。

なお、右土地は、土地区画整理事業の施行区域内の土地であり、右契約において、従前の土地である右土地に対応する仮換地(当時指定済み)の実測面積に過不足が生じたときは、三・三〇五七平方メートル当たり六六万円のたんか基準に代金額を精算することになっていた。これによると、右契約における代金額は、六六〇九万円に増額されることになる。

(二) (分割契約)

原告は、渡辺則夫との間で、昭和五七年四月中旬ころ、別紙物件目録記載の文筆後の(一)の土地(以下「文筆後の(一)の土地」という。)と同目録記載の(二)の土地(以下「(二)の土地」という。)を代金合計六六〇九万円(ただし、前記精算金九万円を含む。)で売却する旨の契約を締結した(以下「本件(一)の契約」、「本件(二)の契約」といい、これを併せて「本件分割契約」という。)。

2  本件決定について

原告の昭和五七年分の分離長期譲渡所得の金額は、右1のとおりであるところ、原告は、別表記載のとおり、これを過少に申告した。そこで、被告は、本件決定をしたものであるが、本件更正により新たに納付すべき税額は八二八万六〇〇〇円(国税通則法一一八条三項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額)であり、本件決定の合計額(ただし、重加算税賦課処分決定については、別表記載の裁決で一部取り消された後のもの。)は、その一〇〇分の五に相当する額を超えない四一万四一〇〇円である。

よって、本件決定は、右一部取消しに係る部分を除き、いずれも適法である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1の(一)(一括契約)の事実は認める。

(二)  抗弁1の(二)(分割契約)のうち、本件(一)の契約締結の事実は認めるが、本件(二)の契約締結の事実は否認する。

本件(二)の契約締結は、昭和五八年二月一日である。

2  抗弁2は争う

五  再抗弁

1  合意解除(抗弁1(一)に対し)

(一) 原告は、文筆前の(一)の土地を売却するに当たり、代理人である小川一到に対し、節税のため、目的地を二年度に分割して売却するよう指示していた。ところが、右指示に反し、本件一括契約が締結されたため、原告は、小川一到に対し、買主と売買契約を締結し直すように申し入れた。

(二) その結果、原告と渡辺則夫は、本件一括契約を合意解除し、右契約に代わるものとして、

(1) 昭和五七年四月中旬ころ、本件(一)の契約、すなわち、文筆後の(一)の土地を代金三六〇〇万円で売却する旨の契約を締結し、

(2) 同日、(二)の土地について次の賃貸借契約を締結し、

賃料 一か月一〇万円

敷金 一五〇万円

期間 同年四月から一〇年間

(3) 昭和五八年二月一日、本件(二)の契約、すなわち、(二)の土地を代金二九〇五万円で売却する旨の契約を締結した。

2  所有権留保(抗弁1(二)に対し)

原告と渡辺則夫は、本件(二)の契約において、昭和五八年二月五日に代金の授受及び所有権移転登記手続をすることを約し、かつ、実際に、同月七日に代金の決済をし、同月二二日に登記手続をした。

よって、本件(二)の契約に基づく(二)の土地の所有権の移転は、昭和五八年度であり、したがって、右土地の売却による原告の代金収入は、同年度の所得と認定するべきものである。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(合意解除)の事実は全部否認する。

2  再抗弁2(所有権留保)は争う。

原告は、渡辺則夫に対し、遅くとも昭和五七年九月までに(二)の土地を引き渡した。また、右土地について農地転用届出書が福岡市東農業委員会に提出されたのは、昭和五七年六月二二日である。

よって、本件(二)の契約に基づく原告の代金収入は、昭和五七年度の所得と認定すべきものである。

七  再々抗弁(虚偽表示-再抗弁1に対し)

原告と渡辺則夫は、本件分割契約を締結する際、本件一括契約を解除して本件分割契約を締結する意思がないのに、その意志があるもののように仮装することを合意した。

八  再々抗弁に対する認否

再々抗弁事実は否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二  本件更正の適法性について

1  抗弁1の(一)(一括契約)の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、再抗弁1(合意解除)について判断する。

一(1) 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一二号証の三、証人小川一到、同渡辺一生の各証言によれば、原告は、本件一括契約を締結して間もなく、知り合いの税理士から、文筆前の(一)の土地を一括して売却するよりも、これを二つに分割して二年度に分けて売却する方が所得税の負担が少なくて済むとの助言を受けたことから、自己の代理人である小川一到に対し、買主側と改めて交渉をして、本件一括契約を解除した上、右節税の趣旨にそうように売買契約を締結し直すことを指示したこと、小川一到は、右指示に従い、本件一括契約における買主側の仲介人であった渡辺一生に対し、売主の右意向を伝え、さらに、渡辺一生は、買主渡辺則夫の代理人である守下俊文(前記専修学校コンピューター教育学院の事務局長)に対し、その旨を伝えたことが認められる。

(2) 前掲乙第一二号証の三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一二号証の一、二、証人小川一到、同渡辺一生の各証言によれば、渡辺則夫は、昭和五八年四月の新学期までに右学院の学生寮を建設するため右土地を購入したものであることが認められる。

二(1) ところで、原告代理人は、原告の右申出を買主側は承諾した旨主張し、前掲乙第一二号証の三(守下俊文の本件審査請求に係る昭和六〇年一月二九日の質問調書)及び証人小川一到、同渡辺一生の各証言の中には、右主張に沿う部分がある。

しかも、前掲各証拠及び成立に争いのない甲第七号証、乙第三号証の一、二、第四号証の一、二によれば、原告と渡辺則夫との間には、原告の代理人小川一到と渡辺則夫の代理人守下俊文によって、文筆後の(一)の土地を代金三六〇〇万円で売買する旨の昭和五七年四月六日付けの「不動産売買契約書」(乙第三号証の一、二)、(二)の土地を同日から一〇年間にわたり賃料一か月一〇万円の約定で賃貸借する旨の同日付けの「土地賃貸借契約書」(乙第四号証の一、二)及び(二)の土地を代金二九〇五万円で売買する旨の昭和五八年二月一日付けの「不動産売買契約書」(甲第七号証)がそれぞれ作成されていることが認められる(ちなみに、右各契約書の記載による限り、二(二)土地が現実に賃借の用に供された期間は、一〇か月間であり、したがって、渡辺則夫が負担すべき賃料額は、合計一〇〇万円である。そして、弁論の全趣旨によれば、本件一括契約における前記増額分九万円を右の各売買契約(本件分割契約)に当てはめるとすると、本件(一)の契約分が四万円であり、残金の五万円は、本件(二)の契約の代金額の中に既に組み込まれているものと認められるので、右賃料と各代金の合計額は、六六〇九万円であって、本件一括契約における代金との間に過不足はない。)。

また、成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第二号証、第八号証、第一一号証の一、三、五、七及び九(乙第七号証)、前掲乙第一二号証の一、二、証人小川一到、同渡辺則夫の各証言によれば、本件一括契約における代金の支払方法は、契約設立と同時に授受された手付金一〇〇〇万円を除き、昭和五七年四月二二日に所有権移転登記手続と引換えに一括して全額を支払う約定であったのに対し、現実に授受された金員は、右手付金名下の一〇〇〇万円のほか、同年七月二六日の売買代金名下の二八〇四万円、同年九月一三日の賃料(同年九月から昭和五八年一月までの分)名下の五〇万円、昭和五八年二月七日の売買代金名下の二七五五万円であって(合計六六〇九万円)、右支払方法は、前記「不動産売買契約書」等における約定におおむね符合すること、そして、文筆後の(一)の土地は、昭和五七年七月三〇日に原告から渡辺則夫へ所有権移転登記がされているのに対し、(二)の土地についての右登記は、昭和五八年二月二二日であることが認められる。

(2) しかし、他方、前掲乙第一二号証の一(守下俊文の特別国税調査官に対する昭和五八年一一月二二日の質問応答書)及び二(昭和五九年一月二八日の同質問応答書)には、反対趣旨の記載がある。すなわち、守下俊文は、二度にわたる右調査官の質問に対し、原告との取引の責任者は自分であるとした上、右「不動産売買契約書」二通及び「土地賃貸借契約書」一通のことは「小川さんに聞かないとわかりません。」、「ハンコを押してくれということだったので私が押しただけです。」、「グロスとして土地が自分の側になればよかった。登記さえできればよかった。」などと応答している。守下俊文が後に一転して供述内容を変えたことは、前記(乙第一二号証の三)のとおりであるが、右供述の変化は、あまりにも急激であって、いささか不自然である。

のみならず、前掲甲第一、第二号証及び成立に争いのない甲第四号証、乙第九号証によれば、文筆前の(一)の土地は、昭和五七年六月一七日、文筆後の(一)の土地、(二)の土地及び同所同番一二田四八〇平方メートルに文筆された上、文筆後の(一)の土地及び(二)の土地について、同月二二日、農地法五条一項三号の規定による農地転用の届出が受理されているが、右届出は、文筆後の一の土地はもとより、二の土地についても、「権利を設定、移転しようとする契約の内容」を売買とし、原告を譲渡人、渡辺則夫を譲受人とするものであることが認められる。

また、前掲乙第一二号証の一ないし三及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証によれば、渡辺則夫は、遅くとも昭和五七年九月までに文筆後の(一)の土地と(二)の土地の引越しを受け、予定どおり前記学生寮を建設したことが認められ、さらに、原告と渡辺則夫との間で合意解除を証する念書等の書面が取り交わされた形跡はなく、本件一括契約に係る契約書二通のうち買主側の分(成立に争いのない乙第二号証)が前記「不動産売買契約書」等の作成に伴って回収又は破棄された形跡もない。

(3) 以上の事実によると、原告が真実本件分割契約を締結する意思を有していたことは明らかであって、その前提として、本件一括契約の解除を買主側に申出たことは、前記のとおりである。

しかし、右申出を買主側が承諾したとする前掲各証拠は、右二の事実関係に照らして、にわかに採用することができない。守下俊文が、買主側の代理人として、真実本件分割契約を締結する意思からではなく、売主側が本件取引に伴う税務対策上の必要書類を整えることに協力する意思で前記「不動産売買契約書」等に記名捺印をすることは、如上の事実関係の下では、十分有り得ることであるし、右契約書の作成に伴う代金の支払方法等の変更にしても、買主の側からみれば、事情の変化による本件一括契約の履行方法の変更と実質上異なるところはなく、必ずしも契約そのものを本件一括契約から本件分割契約に変更すべき必要性はない。そのようなことから、本件一括契約の合意解除の申出に対し守下俊文が承諾の意思表示そのものをしなかったとしても、本件においては、別段不自然ではなく不合理でもないといわざるを得ない。

これを要するに、原告主張の再抗弁1(合意解除)については、証明が十分でないことに帰着する。

よって、本件更正は適法である。

三  本件決定の適法性について

以上の事実関係によると、本件決定が適法であることは明らかである。

四  結論

以上のとおりであって、原告の本訴各請求は、その余を判断するまでもなく理由のないとこが明らかであるから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小長光馨一 裁判官 橋本良成 裁判官 岩木宰)

(別表)

〈省略〉

物件目録

(一) 福岡市南区大字塩原字折敷田一〇六三番一

(分筆前) 田 八五八平方メートル

(分筆後) 田 二二〇平方メートル

(二) 同所一〇六三番一一

田 一五八平方メートル

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