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福岡地方裁判所 昭和61年(行ウ)9号 判決

原告 松下サダ ほか一名

被告 福岡税務署長

代理人 金子順一 末廣成文 ほか三名

主文

一  被告が昭和五九年一〇月二日野村アイの昭和五八年分所得税についてした再更正を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、別紙経過一覧表記載のとおり、確定申告に係る野村アイの昭和五八年分所得税について、更正及び再更正(以下「本件再更正」という。)をした。

2  野村アイは、昭和五八年七月二四日、死亡した。原告両名は、いずれもその相続人である。

よつて、原告らは、本件再更正の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1  事実上の主張

野村アイは、赤木富廣との間で、昭和五八年六月一四日、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を代金二八七五万円で売却する旨の契約を締結した。

本件土地の取得費(必要経費)の額は一四三万七五〇〇円である。

2  法律上の主張

本件の争点は、右譲渡に係る野村アイの分離長期譲渡所得(租税特別措置法―以下「措置法」という―三一条)に対する特別控除の額が一〇〇万円(措置法三一条三項)か三〇〇〇万円(措置法三五条一項一号)か、換言すれば、本件土地の譲渡が措置法三五条一項本文の居住用財産の譲渡所得の特別控除の要件に該当するか否かの点にある。

そこで、被告は、措置法三五条の立法趣旨、解釈、運用及びその限界等を明らかにし、本件土地の譲渡が同法三五条一項の要件に該当しないことを明らかにする。

(一)(1) 措置法三五条は、個人がその居住の用に供している家屋又はその敷地の用に供している土地(土地の上に存する権利を含む。以下「土地等」という。)を譲渡した場合には、居住用財産の処分が一般の資産の譲渡に比べて特殊な事情にあり、担税力が弱いこと等を考慮して、その家屋又は土地等の譲渡所得について同法三一条三項及び三二条一項一号の規定にかかわらず、三〇〇〇万円の特別控除を認めることを定めたものである。

この三〇〇〇万円の特別控除の対象となる譲渡資産は、「居住の用に供している家屋」と「居住の用に供している家屋の敷地」であり、対象とされる譲渡は、次の態様に該当する場合の譲渡である。

(ア) 個人がその居住の用に供している家屋の譲渡

(イ) 個人がその居住の用に供している家屋とともにするその敷地の用に供している土地等の譲渡

(ウ) 個人がその居住の用に供していた家屋で、その居住の用に供されなくなつたものの譲渡(その居住の用に供されなくなつた日以後三年を経過する日の属する年の一二月三一日までに譲渡したものに限る。)

(エ) 右(ウ)の家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡(家屋をその居住の用に供さなくなつた日以後三年を経過する日の属する年の一二月三一日までに譲渡したものに限る。)

(オ) 個人がその居住の用に供していた家屋が災害により滅失した場合に、その災害にあつた日から三年を経過する日の属する年の一二月三一日までにした災害により滅失した家屋の敷地の用に供されていた土地等の譲渡

(2) このように、措置法三五条一項の規定は、その居住の用に供している家屋を中核として構成されており、その適用の可否は、その要件とされている「居住の用に供している家屋」又は「居住の用に供している家屋の敷地」に譲渡物件が該当するか否かによつて決せられ、土地等のみの譲渡にあつては、例外として、災害によりその家屋が滅失した場合に限つて適用されるのである。

したがつて、その居住の用に供している家屋を移転又は除去した後、その家屋の敷地の用に供されていた土地等のみを譲渡しても、その譲渡については「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例」の適用はないこととなる。

(3) しかし、この考え方を厳格に押し進めると、例えば、家屋とその敷地の用に供されている土地等を一緒に譲渡しようとしたが、買主の方から、家屋は不要なので売主の方で除去した上土地等のみを売つて欲しいというような注文がついたため、売主がその家屋を取り壊した上土地だけを譲渡したというような場合、その土地の譲渡については、家屋の譲渡を伴わないので、本条の適用を受けられないこととなる。

また、土地区画整理法による住宅街区整備事業の施行地区内に在る従前の宅地について仮換地の指定又は使用収益の停止があつた場合、従前の宅地をその居住の用に供している家屋の敷地の用に供していた者は、従前の宅地の使用収益ができなくなるため、その家屋を除去して従前の宅地から立ち退くことが必要になるが、右家屋を除去した後従前の宅地を譲渡すると、居住に供している家屋が存在しないため、右原則からすれば、この譲渡に対しても本条の適用がないこととなる。

(4) そこで、居住の用に供している家屋を本人の意思によらずに、あるいは、強制的な行政処分によつて除去し、これらの家屋の敷地の用に供されていた土地等のみを譲渡した場合には、措置法三五条一項に該当する明文の規定はないが、行政実務の運用をもつて、同項中の「災害」により滅失した当該家屋の敷地の用に供されていた土地等の譲渡に準ずるものとして取り扱うこととしているのである。

しかして、右行政実務における運用基準は、租税特別措置法関係通達(以下「措置法通達」という。)の定めるところであつて、例えば、右(3)の前者の場合については措置法通達三五―一三で、後者の場合については同三五―一四で、それぞれの譲渡の形態が措置法通達所定のすべての要件を充足したとき、措置法三五条の適用があるものとしている。

(5) ところで、土地区画整理事業の施行地区内で居住の用に供していた家屋を取り壊し又は除去した後に、その家屋の用に供されていた土地等を譲渡した場合の措置法三五条を適用するための実務における運用基準は、措置法通達三五―一四(土地区画整理事業等の施行地区内の土地等の譲渡)の(2)に、

「その居住の用に供している家屋の移転または除去(土地区画整理事業等のために行なわれるものに限る。)後における当該家屋の敷地の用に供されていた従前の宅地の譲渡(換地処分による譲渡を除く。)で、当該家屋がその居住の用に供されなくなつた日から次に掲げる日のいずれか遅い日までの間にされたものは、措置法第三五条第一項に規定する譲渡に該当するものとして取扱う。

イ 当該家屋がその居住の用に供されなくなつた日以後三年を経過する日の属する年の一二月三一日

ロ 当該家屋をその居住の用に供さなくなつた日から一年以内に仮換地の指定があつた場合(仮換地の指定後において当該居住の用に供さなくなつた場合を含む。)には、当該従前の宅地に係る仮換地につき使用又は収益を開始することができることとなつた日以後一年を経過する日」

と定められている。

(6) 右措置法通達三五―一四(2)イにおける土地等の譲渡期限である「居住の用に供さなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の一二月三一日」は、法律の定める期限によつたものである。

また、同通達三五―一四(2)ロで「当該家屋をその居住の用に供さなくなつた日から一年以内に仮換地の指定があつた場合」としたのは、仮換地の指定により、近い将来、従前の宅地につき使用収益の停止されることが予測される場合には、土地所有者は、従前の宅地の使用収益に代わるべき措置をあらかじめ講じ、自己の意思で従前の宅地の使用収益をやめる場合もあるであろうが、この場合、自己の意思といつても、それは、近い将来において仮換地の指定により従前の宅地の使用収益が強制的に停止されるということを前提としたものであり、土地区画整理事業のために行われたものとしてみることが適当であるという考え方によるものである。また、右要件は、措置法通達三五―一三の運用基準とのバランスを図るためにも必要不可欠の要件である。

「仮換地につき使用又は収益を開始することができることとなつた日以後一年」とされているのは、仮換地の使用収益ができるとされた場合においても、直ちに仮換地を居住の用に供するということは物理的に不可能であると認められることによるものである。

(二)(1) 野村アイは、原告らが再抗弁で主張するように、本件事業の施行者である福岡市との間に、昭和五二年一一月四日、本件家屋を移転し又は除去する旨の契約を締結し、同月二三日(当該家屋が居住の用に供さなくなつた日)に本件家屋から立ち退き、同年一二月六日自己の負担によつて本件家屋を除去した。これに対し、本件土地に係る仮換地の指定があつたのは、昭和五五年一月一〇日であり、仮換地の使用収益開始の日は昭和五七年七月二〇日である。そして、野村アイが本件土地を譲渡したのは、昭和五八年六月一四日であり、本件土地をその敷地の用に供していた「家屋が居住の用に供されなくなつた日」(措置法三五条一項)から五年半近く経た後のことであつた。

(2) そこで、以上の経過を踏まえて、本件土地の譲渡について措置法三五条一項が適用されるか否かをみるに、まず、法に明記された要件を充足しないことは明らかである。次に、措置法通達三五―一四(2)の規準に照らすと、本件土地の譲渡の時期は、昭和五八年六月一四日であつて、本件家屋を居住の用に供さなくなつた日である昭和五二年一一月二三日から同日以後三年を経過する日の属する昭和五五年一二月三一日までの間には含まれず、措置法通達三五―一四(2)イの規定に該当しないことも明らかである。

また、本件土地の譲渡は、本件仮換地を使用収益することができることとなつた日である昭和五七年七月二〇日から一年を経過する日である昭和五八年八月二〇日までの間に行なわれているが、措置法通達三五―一四(2)ロの場合、仮換地の指定が当該家屋を居住の用に供さなくなつた日から一年以内(本件では、昭和五三年一一月二二日まで)に行われなければならないところ、本件仮換地の指定は昭和五五年一月一〇日であるから、措置法通達三五―一四(2)ロの規定にも該当しない。

(三) 措置法三五条は、所得税法三三条、措置法三一条及び三二条の規定にかかわらず、特別の要件に該当する場合に税負担を軽減し、特別の利益を与える租税優遇措置に当たるものであるから、本条の適用に当たつては、その要件を厳格に限定して解釈すべきであり、拡張解釈はみだりに許されるべきではない。

措置法三五条一項のうち土地等のみの譲渡に係る規定は、「災害」により当該土地の上の家屋が滅失した場合の当該土地の譲渡に限つて特例の適用を認めることとしており、土地区画整理事業施行地区内の土地等の譲渡は、右例外に該当するものではないが、これに準ずるものとして行政運用によつて同条を適用することとしているものである。元来、法が例外的な特例を認めている場合において、更にこれに準ずる特例を設けるについては、明確な規準を設け、一層厳格に運用することが要求されるのであつて、種々の類似性を許容して無制限な適用を認めるとすれば、本条制定の趣旨を没却することになるのは明らかである。

以上のとおりであつて、本件土地の譲渡は措置法三五条一項に規定する居住用財産の譲渡に該当せず、野村アイの昭和五八年分の分離長期譲渡所得の金額は、前記収入金額から必要経費と措置法三一条三項所定の特別控除額一〇〇万円を控除した残額二六三一万二五〇〇円であり、したがつて、本件再更正は適法である。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

五  再抗弁

1  事実上の主張

(一)(1) 野村アイは、本件土地上に家屋(床面積一〇八・四五平方メートル、以下「本件家屋」という。)を所有し、これに居住していたところ、本件土地は、福岡市の施行に係る福岡都市計画事業塩原地区土地区画整理事業(昭和四三年一一月都市計画決定、昭和四六年三月事業計画決定、昭和四七年八月事業開始、昭和六二年事業完了予定、以下「本件事業」という。)の施行地区に編入された(西一五街区)。

(2)(ア) 本件土地は、本件事業においてその大部分が道路敷地に予定されていたところ、野村アイは、近隣の四一六街区で既に仮換地の指定が開始されていた昭和四八年一二月三〇日、仮換地指定について事実上の通知を受け、昭和五二年八月一日には正式の家屋除去の申出を受けた。

(イ) 野村アイは、昭和五二年一一月四日、本件事業の施行者である福岡市との間で、本件家屋を同年一二月二五日までに移転又は除却し、これに対し補償金九四三万九九〇〇円の支払を受ける旨の物件移転契約を締結し、同年一一月二三日本件家屋を出て他所へ転居した上、同年一二月六日本件家屋を取り壊した。

(3) 本件土地については、昭和五五年一月一〇日仮換地の指定があり、昭和五七年七月二〇日右仮換地について使用又は収益を開始することができることとなつた。

(二) 原告らは、野村アイの昭和五八年分の確定申告書に措置法三五条一項の適用を受けようとする旨の記載をした。

2  法律上の主張

本件の争点は、被告が指摘するとおり、本件土地の譲渡が措置法三五条一項の居住用財産の譲渡に該当するか否かであるが、原告は、居住用土地のみの譲渡の場合、法の原則である「災害」、すなわち、人の意思によらざる家屋の滅失という限定をどこまで緩和することができるかという観点から、法の原則と通達の要件を比較検討しながら、本件土地の譲渡が居住用財産の譲渡に該当することを明らかにする。

(一) 措置法三五条の立法趣旨は、居住用財産を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得するのが通常であることから、所得税の負担を軽減して、その取得を容易にすることにある。

(二) 措置法三五条の法定要件は、次の三要素から成り立つている。すなわち、

(1) 譲渡した居住用財産に現に居住していた場合は、同条が無条件に適用される。

(2) 譲渡した居住用財産に現に居住していなかつた場合は、居住停止と財産譲渡との間に三年余の期間制限が課される。けだし、居住停止は、別の場所での居住を意味し、それが長期化することは、そこへの定住を確認させ、従前の居住用財産の売却金による新たな居住用財産取得の蓋然性を希薄化するからである。右立法趣旨からみて、この期間制限は、新たな居住用財産取得の蓋然性を担保する要件と解される(以下「取得蓋然性担保期間」と呼ぶ)。

(3) 譲渡した財産が土地のみの場合は、取得蓋然性担保期間の外に、家屋が存しなくなつた理由が「災害」によるものであることが要求される。これは、本条が家屋を中心として構成されていることからの帰結である。ただし、法文上は「災害」によるもののみがあげられているが、所有者自ら家屋を除去して土地のみを譲渡した場合においても、家屋の除去が所有者の自由意思による処分でないときは、不動産取引の実情に鑑み、本条の拡張適用が認められている(以下「家屋除去の不任意要件」と呼ぶ。)。

ちなみに、措置法通達三五―一三は、期間制限に関する要件について、「当該土地等の譲渡に関する契約が、その家屋を取り壊した日から一年以内に締結され、かつ、その家屋を居住の用に供さなくなつた日以降三年を経過する日の属する年の一二月三一日までに譲渡したものであること」としているが、措置法の取得蓋然性担保期間の外に、家屋除去と土地譲渡契約日の間が一年以内という要件を加重したのは、家屋除去後一年間という猶予期間があれば、その間に土地等の譲渡契約をすることは十分可能であるとの理由によつている。すなわち、取引の実情と居住用財産所有者の努力を総合考慮して、一年という猶予期間を付与したものである(以下「譲渡実行猶予期間」と呼ぶ)。

(三) 本件のような土地区画整理事業施行地区内の居住用財産の譲渡の場合も、所有者の自由意思によらない家屋の除去と土地のみの譲渡というケースが生じ、その場合の運用規準として、措置法通達三五―一四(2)がある。

(1) 措置法通達三五―一四(2)イについて

措置法通達三五―一四(2)イは、措置法三五条の取得蓋然性担保期間を、機械的に転用したものであるがゆえに、実際上機能しない。すなわち、居住用財産が土地区画整理事業施行地区内に在り、仮換地の指定が予想される場合には、同指定によつて当該土地の使用収益が強制的に停止されるのであるから、このような土地を売却することは、取引の実情からみて、通常不可能である。

また、右事業の完了には長年月を要するのが通常であつて、居住停止から三年目の属する年末までに自由な取引ができるようになる合理的な保障は何ら存しない。したがつて、土地区画整理事業施行地区内の居住用財産の譲渡について措置法三五条の合理的な適用をしようとすれば、次の通達三五―一四(2)ロの要件の合理性が要求されることになる。

(2) 措置法通達三五―一四(2)ロについて

(ア) 措置法通達三五―一四(2)ロには、取得蓋然性担保期間の要件が存しない。これは、土地区画整理事業の長期化に伴い、譲渡行為が強制的に制約される結果、期間制限による担保が合理性を喪失するからである。つまり、仮換地の使用収益が可能となつてから、実際に譲渡しうる譲渡実行猶予期間を考慮すればよいのであつて、同通達の後段の要件には一定の合理性を認めることができる。

(イ) 問題は、前段の要件である。

右要件は、家屋除去の不任意要件と解されるが、その内容として、居住用財産の所有者に何ら関与する機能がなく、かつ、居住停止時からみて将来の出来事である仮換地の指定について、一年間の期間制限を課している点に問題があり、行為者の支配内にない将来の出来事によつて任意処分か否かという当該行為者の意思ないし行為の意味を一律に決してしまうことは、経験則に反するというべきである。この一年以内の仮換地の指定を絶対要件であるとすると、その帰結は、措置法三五条の適用を受けうるか否かは居住停止後一年以内に仮換地の指定があるか否かについての一種のギヤンブルであるというに等しいことになる。

通達三五―一四(2)ロの前段は、土地区画整理事業の強制力の契機を仮換地の指定に求め、これとの因果関係を同指定一年前までの家屋除去という時間的近接性で担保しようとしたところに誤りがあり、これは、他の通達がその要件の一律性を期間の限定に求めていることに拘泥し、土地区画整理事業の実態を考慮せずに同種要件で法の適用を図つたことに基因するものであつて、右の事業遂行の現実を考慮するならば、仮換地指定の時期がいつであるかを問題にせずに、家屋除去が同事業の強制力と相当因果関係を有していれば、法の適用を認めるべきである。

本件の場合、仮換地指定の事実上の通知のあつた昭和四八年末には、野村アイに対し土地区画整理事業の強制力が及んでいるとみるべきであり、同人は、これを前提として、事業施行者との間で事業のために家屋除去の契約を締結したのであるから、右相当因果関係に立つと判断されるべきである。

(3) 以上のように、土地区画整理事業施行地区内の居住用土地のみの譲渡の場合、従前存した家屋の除去が右事業の強制力と相当因果関係を有すれば、除去の時期が仮換地の指定前であつても措置法三五条の適用があると認められるべきところ、本件は、右要件を充足するのであるから、同条の適用が肯定されるべきである。右に関する運用規準である通達三五―一四は、土地区画整理事業の実態とかけはなれた要件を定めており、同要件を充足しないことは、措置法三五条の適用を否定する理由とはならない。

よつて、本件所得に係る特別控除額は措置法三五条一項の規定によるべきであり、したがつて、本件再更正は違法である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁1(一)(2)(ア)の事実は知らない。その余の再抗弁事実はすべて認める。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因事実、抗弁事実及び再抗弁事実のうち1(一)(2)(ア)の事実を除くその余の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、右再抗弁1(一)(2)(ア)の事実を認めることができる。

二  そこで、本件再更正の適法性について判断する。

1(一)  措置法三五条は、居住用財産の譲渡所得について特別控除の特例(以下「本件特例」という。)を設けた規定であり、本件特例が認められた趣旨は、居住用財産を譲渡した場合、通常これに代わる新たな居住用財産を取得しなければならなくなることを考慮して、所得税の負担を軽減し新たな居住用財産の取得を容易にすることにあると解される。

そのため、措置法三五条の規定は、その文言から明らかなように、居住用家屋の譲渡を中心に構成されており、居住用家屋とその敷地を所有する者が敷地のみを譲渡した場合の譲渡所得については、文言上、当該家屋が災害によつて滅失した場合を除いて、本件特例の適用を受けることができない建前になつている。

(二)  しかし、そのような取扱いが必ずしも妥当でないことは、つとに指摘されているところであり、例えば、売主において、居住用家屋とその敷地を一括して譲渡する考えでいたところ、買主の要請により、家屋を取り壊し、敷地のみの譲渡を余儀なくされたような場合、本件特例を適用する上で、右土地のみの譲渡と土地建物の一括譲渡とを区別して取り扱うべき合理的根拠を見いだすのは困難である。

はたして、<証拠略>によれば、租税行政の実務では、居住用家屋を取り壊して当該家屋の敷地の用に供していた土地のみを譲渡した場合について、左記内容の措置法通達三五―一三を定め、その運用基準に従い、敷地の譲渡が、家屋を取り壊した日から一年以内で、かつ、当該家屋を居住の用に供さなくなつた日以後三年を経過する日の属する年の一二月三一日以前に行われたときは、原則として本件特例の適用を認める取扱いをしていることが認められる。

(居住用土地等のみの譲渡)

三五―一三 その居住の用に供している家屋(当該家屋でその居住の用に供されなくなつたものを含む。以下この項において同じ。)を取壊し、その家屋の敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合(その取壊し後、当該土地等の上にその土地の所有者がマンシヨン等を建築し、当該マンシヨン等とともに譲渡する場合を除く。)において、当該土地等の譲渡が次に掲げる要件のすべてを満たすときは、当該譲渡は、措置法第三五条第一項に規定する譲渡に該当するものとして取扱う。

(1) 当該土地等の譲渡に関する契約が、その家屋を取壊した日から一年以内に締結され、かつ、その家屋を居住の用に供さなくなつた日以後三年を経過する日の属する年の一二月三一日までに譲渡したものであること。

(2) その家屋を取壊した後譲渡に関する契約を締結した日まで、貸付その他業務の用に供していない当該土地等の譲渡であること。

2(一)  本件は、土地区画整理法による土地区画整理事業の施行地区に編入された従前の宅地の所有者が、その居住の用に供していた地上家屋を取り壊し、その後、当該家屋の敷地の用に供されていた従前の宅地のみを譲渡した事案であるが、この種の従前の宅地の場合、仮換地の指定又は使用収益の停止があると、法律上その宅地を使用収益することができなくなり(土地区画整理法九八条ないし一〇〇条など)、従前の宅地を居住用家屋の敷地の用に供していた者は、その家屋を収去して従前の宅地を明け渡すことが必要になる。

このように、右事業の施行地区内にあつては、所有者の自由意思によらずに強制的に家屋の収去が行われることがあるため、従前の宅地のみの譲渡について、措置法三五条一項の規定を文言どおりに解釈し、本件特例の適用を一律に否定することは、同条の立法趣旨及び右1の場合における実務の適用に照らして、妥当でないというべきである。

(二)(1)  ところで、<証拠略>によれば、租税行政の実務では、土地区画整理事業等の施行地区内の土地等の譲渡について、左記内容の措置法通達三五―一四を定め、その運用基準による画一的な取扱いをしていることが認められる。

(土地区画整理事業等の施行地区内の土地等の譲渡)

三五―一四 土地区画整理法による土地区画整理事業、新都市基盤整備法による土地整理又は大都市地域住宅地供給促進法による住宅街区整備事業(以下、この項において「土地区画整理事業等」という。)の施行地区内にある従前の宅地(当該宅地の上に存する建物の所有を目的とする借地権を含む。)を仮換地の指定又は使用収益の停止があつた後に譲渡した場合における措置法第三五条第一項の規定の適用については、次による。

(1) 当該従前の宅地の所有者(借地権者を含む。)が、当該従前の宅地に係る仮換地にその居住の用に供している家屋(当該家屋でその居住の用に供されなくなつたものを含む。以下この項において同じ。)を有する場合には、当該従前の宅地は、当該家屋の敷地の用に供されているものとして取扱う。

(2) その居住の用に供している家屋の移転又は除去(土地区画整理事業等のために行われるものに限る。)後における当該家屋の敷地の用に供されていた従前の宅地の譲渡(換地処分による譲渡を除く。)で当該家屋がその居住の用に供されなくなつた日から次に掲げる日のうちいずれか遅い日までの間にされたものは、措置法第三五条第一項に規定する譲渡に該当するものとして取扱う。

イ 当該家屋がその居住の用に供されなくなつた日以後三年を経過する日の属する年の一二月三一日

ロ 当該家屋をその居住の用に供さなくなつた日から一年以内に仮換地の指定があつた場合(仮換地の指定後において当該居住の用に供さなくなつた場合を含む。)には、当該従前の宅地に係る仮換地につき使用又は収益を開始することができることとなつた日以後一年を経過する日

(2) 右措置法通達三五―一四のうち本件と直接かかわりがあるのは(2)ロであるが、ここに「当該家屋をその居住の用に供さなくなつた日から一年以内に仮換地の指定があつた場合」(以下「ロの前段の事実」という。)としている趣旨について、被告は、「仮換地の指定により、近い将来、従前の宅地につき使用収益の停止されることが予測される場合には、土地所有者は、従前の宅地の使用収益に代わるべき措置をあらかじめ講じ、自己の意思で従前の宅地の使用収益をやめる場合もあるであろうが、この場合、自己の意思とはいつても、それは近い将来において仮換地の指定により従前の宅地の使用収益が強制的に停止されるということを前提にしたものであり、土地区画整理事業のために行われたものとしてみることが適当であるという考え方によるものである。また、右要件は、措置法通達三五―一三の運用基準とのバランスを図るためにも必要不可欠の要件である。」と説明し、本件の場合は、野村アイが本件家屋を居住の用に供さなくなつた日が昭和五二年一一月二三日であるのに対し、仮換地の指定があつたのは昭和五五年一月一〇日であるから、ロの前段の事実に該当せず、したがつて、本件特例を適用することはできない旨主張している。

(三)  思うに、措置法通達三五―一四(2)ロは、その文言から明らかなように、また、事の性質上当然のことながら、居住用家屋の収去が土地区画整理事業等のために行われた場合に限つて適用される特則である。ところが、ここにいう事業のためという事実は、時としてその認定に相当の困難が予想されるため、租税行政の実務としては、租税負担の公平、平等を期する上から、一定の認定基準を設け、右基準による画一的な適用を図る必要があり、ロの前段の事実は、右のような観点から設定された一種の認定基準であつて、右事実の証明があるときは、家屋の収去が事業のために行われたことを推定又は強制する性質を有するものと解するのが相当である。

このように、ロの前段の事実は、要件となるべき事実である、居住用家屋の収去が事業のために行われたという事実の認定基準として機能する限りにおいて相当なものと認められるが、しかし、右のような基準が認定されたからといつて、本来の要件事実を直接証明することを全く許さない趣旨と解するのは相当でなく、右事実が他の事情から一義的に明らかである場合、例えば、事業の施行者が作成した関係文書から、右収去が事業の施行者に対してされたことが明らかに認められるような場合には、もともと認定基準による必要はないのであるから、当該宅地の譲渡が措置法通達三五―一四(2)ロに該当するか否かを判断するについては、右事実による要件を除外して考えるべきである。そうしないと、当該事業のための収去であることが一義的に明白であるにもかかわらず、仮換地の指定の時期によつて本件特例の適用が否定されるという本末転倒の結果を招くことになり、不合理である。

被告は、措置法通達三五―一三の定める運用基準とのバランスをいうが、右通達においては、「当該土地等の譲渡に関する契約が、その家屋を取壊した日から一年以内に締結され」たという事実それ自体が要件となるべき事実として規定されており、右事実は、措置法通達三五―一四におけるロの前段の事実とはその性質を異にするものと解される。被告の右主張は、次元の異なる事実について形式的整合性を主張するものであり、理由がないといわねばならない。

(四)  そこで、これを本件についてみるに、野村アイは、前記認定のような経緯から、本件事業の施行者である福岡市に対し、本件建物を収去して本件土地を明け渡したものであつて、本件建物の収去が本件事業のために行われたことは、関係文書から明白である。

そうだとすると、本件の場合は、措置法通達三五―一四(2)ロを適用するについて、「当該家屋をその居住の用に供さなくなつた日から一年以内に仮換地の指定があつた場合」という要件は充足する必要はなく、野村アイは、前記のとおり、本件土地に係る仮換地について使用収益を開始することができることとなつた昭和五七年七月二〇日以後一年を経過する日の前である昭和五八年六月一四日に本件土地を譲渡したものであるところ、右通達における後段の要件に合理的なものと認められるから、右通達の定める運用基準によつてもなお、野村アイは、措置法三五条一項の規定により、従前の宅地の譲渡について本件特例の適用を受けるべき立場にあるものというべきである。

3  以上によれば、本件における特別控除額は措置法三五条一項によるべきところ、被告は、右規定を適用せず、その特別控除額を一〇〇万円として本件再更正をしたのであるから、本件再更正は違法であるといわざるを得ない。

三  結論

以上のとおりであつて、原告らの本件請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小長光馨一 橋本良成 岩木宰)

経過一覧表 <略>

物件目録 <略>

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