大判例

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福岡地方裁判所小倉支部 昭和47年(ワ)975号 判決

原告

橋本宗吉

外一五名

右原告ら訴訟代理人

山口伊左衛門

被告

朝日タクシー株式会社

右代表者

井村清美

右訴訟代理人

木下重範

主文

原告らの請求はいずれも之を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告は原告らに対し別表(ハ)欄記載の各金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、被告はタクシー業を営む株式会社であり、原告らはいずれも被告に雇われ、タクシーの運転手として勤務している者であり、且つ全国自動車交通労働組合朝日タクシー労働組合(以下単に組合という)の組合員である。〈後略〉

理由

原告ら主張の請求原因中第一項の事実及び被告が原告らに対し、昭和四六年度夏期一時金として同年度年末一時金と合せ一人一率金一万二、〇〇〇円の、昭和四七年度夏期一時金として別表(ニ)欄記載の金額の、各支払義務を負担することは当事者間に争いがない。ところで原告らにおいて、被告は、右当事者間に争いがない金額以上に、別表(イ)(ロ)各記載の夏期一時金の支払義務を負担する旨主張し、先ず被告が昭和四六年度夏期一時金につき同年八月初頃、昭和四七年度夏期一時金につき同年八月初頃、夫々夏期一時金の一人当りの平均金額(基礎数値)を金四万四、五〇〇円と決定した旨強調するのであるが、本件全証拠によるも原告らの右主張を認むべき証拠は何もないので、その余の点につき判断するまでもなく、この点の原告らの主張は失当である。原告らは次に、仮に当該年度において右基礎数値の決定がないとすれば前年度たる昭和四五年度の基礎数値たる一人当り金四万四、五〇〇円をもつて基礎数値となすべき旨の主張については、当裁判所は左の理由により原告の主張を採ることができない、即ち、労働協約が期間終了その他の事由により失効した後新協約が成立するまでの間においては、労使間の個別的労働関係は旧協約によつて一旦強行法的に変更された内容がその儘有効に存続すると解すべきであるが、右は労働協約のいわゆる余後効に基づく故に非ず、労使間の基本的な多くの労働条件については明確な基準を必要とし且つ慣行的な事実関係ができるだけ尊重されるべき現実の労使関係の特質からみて労使双方の当事者の合理的な意思に副うと考えられるからである。従つて労使双方の当事者の合理的意思が旧協約の内容に変更を加えることを当然期待し又は予測すべき労働条件或は労使間の基本的労働条件以外の労働条件については、旧協約が失効し、新協約又は新労働契約の成立がない以上、個別的労働関係において旧協約と同一内容が有効に存続するいわれはないのである。しかして夏期、年末一時金等いわゆる賞与金は労働基準法第一一条にいう労働の対償としての広義の「賃金」に含まれることは間違いないのであるが、本来各期毎の企業の実績や賞与対象期間における労働者の能率に応じて支給額が浮動すべき性質のものであり、この点狭義の賃金とは若干趣きを異にし、労使双方(特に中小企業)において賞与金の労働協約を締結するに当り、その合理的意思は予め次期賞与金額の変動を当然期待又は予測することにあり、少くとも労使間の基本的労働条件とは若干その性質を異にすべきものと認めるが相当である。

そうとすれば賞与金についての労働協約失効後新協約が未成立の間において旧協約の賞与金額を基礎として賞与金額を算出することを許すべき根拠はないというべきであるから、昭和四五年度夏期一時金の労働協約所定の金額たる一人当り平均金四万四、五〇〇円をもつて協約未成立の昭和四六、四七各年度の夏期一時金算出の基礎数値とすべき旨の原告らの主張は主張じたい失当という外なく、所詮採用できないものである。

然し乍ら被告においてその支払義務あることを認める夏期一時金につき、既に弁済した旨抗弁するので更に考えるに、〈証拠〉を総合すると、昭和四六年度夏期一時金については、同年一二月二九日、被告会社と原告ら所属の組合との間において、同年の年末一時金と合せて従業員一人当り金一万二、〇〇〇円とする旨の協定が成立した後同年一二月末頃、被告から原告らに全額支払われていること、また昭和四七年度夏期一時金については、労働協約は不成立であるが、昭和四七年八月九日、被告において原告ら所属組合員以外の従業員と同一基準に基づき、能率給を主として算出した別表(ニ)欄記載の各一時金を原告らに現実に提供したが受領を拒絶されたので、昭和四八年九月一八日弁済供託したことが認められ〈証拠判断省略〉る。

してみれば被告の昭和四六、同四七年度各夏期一時金の支払義務は全て弁済により消滅したというべきであり、被告の抗弁は理由がある。

よつて、原告らの本訴各請求はいずれも失当として之を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(鍋山健 内園盛久 須山幸夫)

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