大判例

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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和34年(ヨ)37号 決定

申請人 日鉄鉱業株式会社

被申請人 石橋譲 外一一九名

主文

申請人において保証として金百万円の担保を供託することを条件として

一、被申請人等は申請人会社所有に係る別紙物件目録記載(添付図面参照)の各物件内に立入つてはならない。

二、申請人の委任する執行吏は前項の趣旨を適当な方法により公示せよ。

理由

申請人会社は東京都に本店を置き、石炭等の採掘販売等の業務を行う株式会社であり、二瀬鉱業所はその事業所の一として本部を福岡県嘉穂郡穂波町枝国に置き、同所に中央鉱、同郡鎮西村に潤野鉱、同郡幸袋町に高雄鉱第一坑、同郡二瀬町に同鉱第二坑の四坑を有し石炭日産約千八百屯、従業員数約三千五百名を擁していること、被申請人等のうち別紙被申請人名簿第一記載の者は右二瀬鉱業所中央鉱及び本部関係に、同第二記載の者は潤野鉱に、同第三記載の者は高雄鉱第一坑に、同第四記載の者は高雄鉱第二坑にそれぞれ勤務していたこと、被申請人等はいずれも二瀬鉱業所に所属する坑員を以て組織する日鉄二瀬労働組合の組合員であること、日鉄二瀬鉱業所が企業整備のための人員整理をしようとして日鉄二瀬労働組合と団体交渉をしたこと、しかるに右交渉は決裂して申請人会社は被申請人等に対し、本年十月十日事業の都合により解雇する旨及び同月十一日以降は会社事業場内への立入りを禁止する旨通知したこと、これよりさき同年九月十九日日鉄二瀬労働組合は、企業整備反対闘争指令を発し、強行就労対策を指示したこと、炭労中闘争発第一〇二号指令によれば被申請人等に対し立入禁止仮処分の決定が出るまではあくまで強行就労を継続する方策を指示していることは当事者間に争いがない。疏明によれば、同月十二日甲方から前記各坑において右指令に基く強行就労が炭労支援のもとに被申請人等を含む組合員によつて実施されていることが認められる。

申請人会社は被申請人等はすでに解雇されており、従業員たる地位を失つたところ、被申請人等が強行就労することは単に作業環境を乱し、職場秩序の維持ができなくなるばかりでなく、保安管理者の綜合的指揮命令を中断せしめ、保安技術職員の職務の執行を妨害してその機能を低下せしめる結果となり、災害発生の危険を増大せしめるので、被申請人等が事業場内に立入ることの禁止を求めると主張し、これに対し、被申請人等は事業場内で就労することはなんら申請人の占有を排除したりその所有権を侵害したりするものではなく、その上、右解雇は無効であるから被申請人等は現在なお従業員たる地位を有し、就労する権利がある。被申請人等が行なおうとしている強行就労は解雇通告が発せられる以前と同じ方法で申請人会社の作業指示のもとに仕事をしようとするものであるから坑内における危険の発生を増大するものではないと反論する。

考えるのに経営者はその事業の経営権、生産設備等の生産手段の占有権ないし所有権に基いて従業員としての地位を有しない第三者が経営者の意思に反してこれに立入ることを禁止できるのは勿論である。然らば従業員としての地位を有する労働者に対しては如何に考えるべきであろうか。凡そ労働契約においては、労働者は使用者の指揮命令に従つて労務を提供する義務を負い、使用者はこれに対して一定の賃金を支払う義務を負うものであつて、労働協約等で特別の定めをなした場合、或は業務の性質上労働者が労務の提供をするについて特別の合理的な利益を有する場合を除いては一般的には労働者は就労請求権を有しないものと解すべきである。それ故仮に本件解雇が無効であつて被申請人等が今なお従業員としての地位を有するとしても申請人会社は前記各権利に基いて、被申請人等の事業場内への立入りを禁止できるものと解すべきところ、申請人会社の本件申請の理由には右の事由を含むものと解するのが相当である。

被申請人等は企業整備反対闘争の手段として強行就労をすることは労働者の団体行動権の行使であるから、所有権を侵害するという理由で事業場への立入を禁止することは許されないと主張するけれども、本件の強行就労が組合ないし組合員の団体行動権の行使であると理解することができるとしても、団体行動権といえども無制限な行使が許されるのではなく、所有権、占有権その他の財産権を侵害しない限度において許容されるものといわなければならない。

被申請人等が強行就労するため事業場内に立入らんとして、これを制止せんとする申請人会社職員と揉み合い十数人の負傷者を出したこと、職場における指揮命令系統が申請人会社のそれと組合のそれとに二分されて、職場の秩序が混乱し、そのために申請人会社の事業の遂行に少なからざる支障を生じていることは疏明されている。被申請人等のその余の反論はいずれも申請人会社の申請を排斥する理由とはならない。

よつて被申請人等が本件事業場内に立入ることの禁止を求める申請人の本件仮処分申請は理由のあるものとしてこれを認容し主文のとおり決定する。

(裁判官 川淵幸雄 小出吉次 岡崎永年)

(別紙省略)

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