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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和44年(ヨ)41号 判決

申請人 株式会社服部紙店

被申請人 飯塚段ボール株式会社

主文

申請人の本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

〔一〕  当事者の求めた裁判

一、申請人

(1)  被申請人は別紙目録記載の物件を製造、販売又は販売のため展示してはならない。

(2)  別紙目録記載の物件に対する被申請人の占有を解き、これを申請人の委任する執行官に保管させる。

(3)  訴訟費用は被申請人の負担とする。

との判決

二、被申請人

主文同旨の判決

〔二〕  当事者の主張

一、申請人の申請の理由

1  申請人は、包装用容器(商品区分第一八類)について登録商標第七一四〇六六号、連合商標第七七五六八五号、同七七五六八六号、同七七五六八七号、同七七五六八八号の商標権(以下本件商標権という)を有している。尚各登録商標は、別紙図面第一の通りである。

2  申請人は、本件商標権を申請外福友産業株式会社並に同福岡製紙株式会社に対し、昭和四三年六月一日、範囲日本全国、期間は商標権の存続中、内容は指定商品全部の通常使用権を与え、右申請外両社は受注生産により「巨峰」の商標を使用した包装用容器を製造販売している。

3  被申請人は、昭和四四年六月頃より申請人の有する本件商標を使用した別紙目録記載の包装用容器を製造販売している。なお昭和四四年九月六日現在被申請人が有している製品数は約二、六〇〇個、半製品数は約三万個である。

4  申請人の本件商標権は商品区分の第一八類(包装用容器)に属するもので第三二類(果物)については何等関係はない。即ち、被申請人が、商品包装用容器を「巨峰」という標章を付して製作販売している事実が問題なのであり「巨峰」が商品「ぶどう」の品種名であると否とは関係がなく、前項記載の被申請人の行為は、申請人の有する本件商標権の侵害である。仮に「巨峰」なる標章が「ぶどう」の品種名であるとしても、別紙目録記載の物件に表示されている「巨峰」は普通に用いられている方法で表示した標章ではなく、商標の機能を示しているので、商標法二六条第一項二号の適用なく、前記被申請人の行為が本件商標権の侵害であることは明白である。

5  そこで申請人は被申請人に対し昭和四四年六月一六日及び同年七月一二日に前記3項記載の包装用容器の製造販売を中止するよう催告したがこれに応じない。よつて申請人は被申請人に対し商標法三六条によつて本件商標の使用差止請求の本案訴訟を提起せんとするものであるが、勝訴判決を得るためには相当期間を要し、あらかじめ保全処分をなし本件商標権侵害行為を禁止しない限り、申請人の蒙る損害の填補は事実上不可能となるおそれがあるので本申請に及ぶ。

二、被申請人の答弁

申請の理由第1項は認める。第2項は不知。第3項は、申請人の本件商標を使用したことは否認するが、その余の事実は認める。第4項は争う。第5項中、申請人主張のような催告のあつたことは認めるが、その余は争う。

三、被申請人の抗弁

1  先使用による使用権。

被申請人は、申請人の本件商標出願前である昭和三八年五月以降「巨峰」「KYOHO」の標章を表示した段ボール箱を毎年製造販売して右標章を使用し、右標章が被申請人の業務にかかる商品(段ボール箱)を表示するものとして需要者間に広く認識されていた。よつて被申請人は、商標法三二条により、右各標章を使用する権利を有する。

2  申請人の信義則違反ないし権利の濫用。

「巨峰」はぶどうの品種名であり、日本全国に渉つて生産されている著名な品種である。そうしてその名称を表示した巨峰ぶどうの容器は申請人が登録出願前から、その意匠において若干の相違はあるが、全国的に使用されて来たもので、これを商標として登録を許し、特定の者の独占に委ねることは本来許されない性質のものである(商標法一条、二条一、二項、三条一項、四条一〇号、一五号等参照)。従つて、申請人がたまたま本件商標について登録を受けているとしても、巨峰ぶどうの生産者が用いる巨峰ぶどうの出荷用容器を被申請人が製造販売するのを許さないとすることは信義則に反し、権利の濫用である。

四、抗弁に対する答弁

抗弁事実1項、2項共否認する。第2項につき信義則違反、権利の濫用であることは争う。

〔三〕  疎明関係〈省略〉

理由

一、申請人がその主張のような商標権を有することは当事者間に争がない。

そうして成立に争のない甲第二号証によれば、本件商標の形状は別紙図面第一のとおりである。又成立に争のない甲第一号証の一乃至五によれば、七一四〇六六号商標は、昭和四〇年三月二四日出願、同四一年七月二一日登録、その余の七七五六八五乃至七七五六八八号の連合商標は昭和四一年三月一〇日出願、同四三年三月二六日登録になつたものであることが認められる。この認定に反する疎明はない。

二、申請人主張の頃から被申請人が、別紙目録記載の如き包装用容器を製造販売していることは当事者間に争がない。

次に成立に争のない甲第八号証の一の一によれば、別紙目録記載の物件中A1が甲第八号証の二、A2が同号証の三、B1が同号証の四、B2が同号証の五にそれぞれ相当することが認められる。

そうして成立に争のない甲第八号証の一五、同号証の二〇及び前記甲第八号証の二乃至五によれば前記A1とA2を組立てて、別紙目録記載のA3ができ(以下A箱という)、前記B1とB2を組み立てて、別紙目録記載のB3ができ(以下B箱という)ることが認められる。

更に右各疎明資料によればA箱の形状は、茶の木目模様の地に紫で交差した二つの等大の円の中に「巨峰」とデザイン化した文字を入れたのと「HIGH GRAPE」とデザイン化した文字を入れたのと二種の図案が各数個印刷されていて、蓋の部分は中央上よりにぶどうの葉型の切抜きがある。また、B箱の形状は、白と緑の地に、赤で「巨峰」、黒で「KYOHO」、緑と白の地にまたがつて白抜きと緑で「BEST GRAPE」とそれぞれデザイン化した文字及び緑の円の中にぶどうの原色写真版が印刷されていて、蓋の部分は中央上よりに紺の円の中にぶどうの葉型の打抜きがある。そうして右A箱、B箱共前示各文字特に「巨峰」「KYOHO」の文字は、一見してそれと判るような見易い位置に見易い形で大きく表示されており、ぶどうの葉型の打抜き窓からは内容物を見ることができるようになつている。その形状は別紙図面第二、第三のとおりである。

以上の通り認めることができ、この認定を左右するに足る疎明はない。

三、ところで、商標は、商品の出所を表示して営業者が自己の商品を他人の商品から区別する作用を有するものであり、営業者が自己の営業にかかる商品であることを表彰するためその商品について使用するものである。

本件についてこれをみるに、まず成立に争のない甲第一一、第一二、第一三号証、証人中園種幸(第一回)、同福沢三男の各供述、右福沢証人の供述により成立を認め得る乙第二号証の一、二、証人奥岩夫、同岩崎一成の各供述を併せると、「巨峰」は、元来大粒ぶどうの一品種の商品名で、戦後日本で栽培されるようになり、おそくとも昭和三〇年代の後半頃にはその名称は一般に認識され、現在では全国的に生産販売されているものであることが認められる。

また、証人大場啓一(第一、二回)、同西村満治、同諫山貞男の各供述及び被申請人代表者本人の供述によれば、被申請人は、別紙目録記載のA・Bの各段ボール箱を、右ぶどう「巨峰」の生産者にその出荷用の包装用容器として販売するため製造しているものであつて、本件各段ボール箱に前記認定の如く表示されている「巨峰」、「KYOHO」等の文字は、その内容物たるぶどう巨峰を表示する目的のもとに印刷したものであると認められる。即ち、これらの文字は、被申請人の取扱う商品たる段ボール箱(包装用容器)の出所を表示し、あるいはその出所の判定を混乱させる目的をもつて表示されたものではないことが明らかである。

一般に包装用容器に標章を表示してその在中商品ではなく、包装用容器そのものの出所を示す場合には、その側面又は底面、表面であれば隅の方に小さく表示するなど、内容物の表示と混同されるおそれのないような形で表わすのが通例であつて、包装用容器の見易い位置に見易い方法で表わされている標章は、内容物たる商品の商品名もしくはその商品の出所を示す標章と見られるもので、包装用容器そのものの出所を表わすものとは受けとられない、というのが今日の取引上の経験則というべきである。

しかして、先に認定したとおり本件においては、A箱、B箱共に見易い位置に見易い形状で「巨峰」又は「KYOHO」と印刷されており、更に、「BEST GRAPE」又は「HIGH GRAPE」と印刷されていると共にぶどう葉型の窓から内容物を見ることができるようになつているのであつて、これらの事実を考えれば、本件A箱、B箱の「巨峰」「KYOHO」の各文字は、客観的にみても内容物たるぶどうの商品名の表示と解するのが相当である。右認定に反する証人早川潔の供述は、内容物の表示と、包装用容器の出所の表示の差異を明確にしない点で採用しえない。

他に以上の認定を左右するに足る疎明資料はない。

四、要するに本件A・B各段ボール箱に表示された「巨峰」「KYOHO」の標章は、その客観的機能からみても、又これを製造している被申請人の主観的意図からみても、内容物たる巨峰ぶどうの表示であり、包装用容器たる段ボール箱についての標章の使用ではないというべきである。しかりとすれば、被申請人の別紙目録記載の物件の製造販売は、申請人の本件商標権に対する侵害行為を構成するものとは認められず、他に、別紙目録記載の物件が、申請人の本件商標権の侵害物件であることを認めるに足りる疏明はない。

五  よつて爾余の点について判断するまでもなく申請人の本件仮処分申請は被保全権利の存在の疏明がないので失当として却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡野重信 工藤雅史 泉博)

目録

一、木目模様に紫色の丸印の中に巨峰の字体を配したぶどうの段ボール箱で

A1 半製品の外枠

A2 半製品の底及び蓋

A3 完製品

二、緑色と白地に巨峰及びKYOHOの字体を配したぶどうの段ボール箱で

B1 半製品の外枠

B2 半製品の底及び蓋

B3 完製品

以上

図面第一

申請人の有する登録商標及び連合商標

登録商標第714066号

連合商標第775685号

同   第775686号

同   第775687号

同   第775688号

図面第二

図面第三

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