大判例

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福岡家庭裁判所 昭和31年(少イ)46号 判決

被告人 早川初恵

主文

被告人を罰金五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

一、犯罪事実

被告人は肩書住居で表見的宿屋業を営むものであるが、その実体は所謂青線地区に属する特殊料飲店を内容とする宿屋営業で、その宿泊客の全部が売淫業を常習とする婦女子とその情交の相手男性であつて淫行或は売淫に関係のない健全な婦女子の宿泊客は絶無であると認めて差支ない。ところがかかる淫行に関連する業態環境に出入する婦女子は過去の淫行習性や将来の生活形態から時間の問題で自発的に売淫生活に陥るものであることは終戦後から現代社会の性道徳の一般風潮からして必然的な明白な現象でありこの種営業関係者の職務上当然予見し得る常識である。即ち、所謂世間一般に公知の事実である。

従つてかかる関係業者は自ら淫行のおそれのある婦女子を自己の生活や営業環境内において使用人としては勿論の事場屋取引の相手として生活せしめる場合においては万一彼女が児童であつて淫行をすることがあるやも計られずとの懸念の下に一般人の肉眼観察において一見二十五才程度以下に映ずる風貌容姿の婦女子の場合にはその自然年齢を客観的に調査して非児童たることを確認すべく右確認以前においては右児童が自発的に淫行生活に陥る危険性を未然に防止すべき適切な措置に出づべき法律上の義務を有するものと解すべきものである。そしてこの義務は一般通常の場合容易に履行し得るものである。かくしてこそ始めて一般社会の児童たちが不道徳な成人社会からの欲動的衝動の被害から予防的に保護される目的が達せられるのである。児童福祉法は児童の福祉を害する具体的危険性をより多くはらんでいる右業者らに対しかかる業務上の特別義務を課しているものと解すべきである。

ところが被告人は昭和三十一年九月十五日頃児童であるB(昭和十四年三月二日生)を淫行常習の習性を有することを知悉しながら宿泊人として止宿させたが、児童たるの年齢確認について何等適切な措置を講ぜず漫然非児童であると誤認したうえ、同年同月十九日頃まで同女が同所で男客と淫行することを認容したものである。然も被告人はかかる場合彼女の情交生活を容易に防止し得る状況にあつたにかかわらず敢てこれが防止の措置に出でた試行事跡すらなく黙認して顧りみざるのみか剰さえ彼女に対し淫行の相手客のサービス要領について注意的な勧告を初め売淫による身代を宿泊料名義で受取つている。この所為は被告人が自己の勢力範囲内に起居する淫行常習性の児童の自発的な淫行生活を積極的に防止すべき義務あつて且つ容易に之が防止の措置に出でうるにかかわらず敢てその挙に出でなかつた不作為により児童が淫行をするに至つたもので、所謂不作為により児童福祉法第三十四条第六号の児童に淫行を慫慂する行為をなしたものである。

二、証拠の標目

1、Bの戸籍抄本の写真

2、早川明吉の司法警察員に対する供述調書

3、同人の検察官に対する供述調書

4、早川初恵の検察官に対する供述調書

5、証人Bの供述

6、証人早川明吉の供述

7、証人柳瀬守の供述

8、Bに対する保護簿

9、電話筆記

10、児童一時保護委託書

11、Bの検察官に対する供述調書

三、法律の適用

被告人の判示所為は児童福祉法第六十条第三項第一項、罰金等臨時措置法第二条に該当するから所定刑中罰金刑を選択し所定刑期範囲内に於て被告人を罰金五千円に処すべく、換刑処分については刑法第十八条第一項、訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条に則り主文の通り判決する。

検察官検事親崎定雄立会

(裁判官 藤巻三郎)

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