大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

福岡家庭裁判所柳川支部 昭和38年(家)108号 審判

申立人 藤田ミツコ(仮名)

相手方 藤田市男(仮名)

主文

申立人の本件申立を却下する。

理由

本件申立の要旨は「相手方藤田市男は、申立人の実弟であるが申立人は二五、六歳の頃結婚したが病気のため離婚の止むなきに至り、実家に帰り、相手方ならびその両親と同居していたところ、母ツタエは昭和二五年五月一〇日死亡し、父仙吉は昭和三四年一二月二七日死亡したが、相手方は申立人に対し、些細な事に因縁をつけ、暴行を加え、同居に堪えない虐待を為し、因て申立人に対し治療一ヵ月を要する右手親指の骨砕の傷害を負わしめたので、申立人は止むなく別居し、現在肩書住所である福岡県三瀦郡○○町○○○○一、一八二番地、中井昭男方に寄寓し、間借生活を為しているけれども、申立人は現在無資産で生活に困窮しており、且つ前記傷害の為め神経痛となり、稼動能力を喪失し、このままの状態では餓死するの外なきが故に止むなく実弟である相手方に対し、扶養料とし毎月金一万円宛の支払を求むる次第である。」というのである。

本件の調停は、相手方が調停に応ずる意思がみられなかつたことにより、回を重ねたものの不成立に終り、審判に移行した。

そこで、福岡家庭裁判所調査官作成の調査報告書の記載、関係戸籍謄本記載、○○町長の回答書記載および本件調停の経過によると、次の事実を認めることが出来る。

一、当事者の生活歴

(一)  申立人は姉で、相手方は弟であるが、共に幼少以来、父仙吉、母ツタエの手許に育てられ成長した。

(二)  相手方は昭和一四年頃、妻エツコと結婚し、家業の農業を営み現在に至つている。

(三)  申立人は過去に於て三回も結婚しているが、何れも夫との性格の相違、その他の理由などにより離婚して実家である相手方宅へ帰り同居しておつたが、次第に相手方と不和となり喧嘩口論の絶え間なく、申立人主張のように相手方より暴行を受け、傷害を負うたこともあり、昭和三五年一二月頃遂に別居するに至り、肩書住所に居住し現在に至つている。

二、紛争の経過と現状

(一)  申立人は母ツタエの死亡(昭和二五年五月一〇日)後一年位経過した頃、父である仙吉および弟である相手方を相手取り、福岡家庭裁判所久留米支部に対し財産分与の調停申立を為し、父である仙吉と弟である相手方は申立人に対し月金二、〇〇〇円宛支払う旨の調停が成立した。

(二)  その後申立人は父仙吉より

福岡県三瀦郡○○町大字○○字○○所在

一、田一三三二・二三一三平方メートル

(一反三畝一三歩)

の贈与を受けて之を耕作し、昭和二六年相手方所有の宅地内にある物置、床面積三三・〇五七八平方メートル(建坪一〇坪)を改造して之に居住していたが、その後昭和三四年一二月二七日、父仙吉は死亡後、申立人と相手方は性格の相違、その他の理由により次第に不和となり、昭和三五年一二月頃、遂に申立人は家出するに至つた。

三、相手方の扶養能力

(一)  家庭の状況

家族は相手方と妻エツコ(四九歳)、長男勝男(二六歳、運転手)、勝男の妻利子(二三歳、家事手伝い)、二男育男(一九歳)以上五人である。

(長男は昭和三八年一〇月結婚)

(二)  住居

居宅は相手方の所有で木造瓦葺平家建、床面積一〇七・四三七九平方メートル(建坪三二・五坪)、部屋数は四(八畳、六畳、六畳、四・五畳)五人家族で広さは十分余裕がある。

(三)  資産

別紙「資産明細書」記載のとおりである。

(四)  収入

(1)  農業収入(年間)

米五二俵(供出米四〇俵、保有米一二俵)

一俵金四、六〇〇円……計金二三万九、二〇〇円

麦二〇俵

一俵金二、三〇〇円……計金四万六、〇〇〇円

以上合計金四六万五、〇〇〇円也

(2)  長男勝男の月収手取 金一万五、〇〇〇円

年間金一八万円也

(五)  収入は年間四六万五、〇〇〇円として月割にすれば金三万八、七五〇円で、五人家族の生活は手一杯で辛うじて中等以下の生活を営んでおる。

生活費の内容は

(イ)  ミシンの月賦一、〇〇〇円、年間 一二、〇〇〇円

(ロ)  農機具(耕うん機)割賦払年一回 五〇、〇〇〇円

(ハ)  国民年金納付額年間 六、〇〇〇円

(ニ)  固定資産税〃 一〇、〇〇〇円

(ホ)  国民健康保険料〃 三、九四〇円

(ヘ)  町民税〃 四、〇〇〇円

(ト)  農薬代〃 四七、〇〇〇円

(チ)  肥料代〃 一一七、五〇〇円

(リ)  生命保険料(四口)、火災保険料等

年間 四二、〇〇〇円

等の支出があり、余裕のない生活をしている。

(六)  以上の家庭の状況、資産、収入、支出等諸般の事情を綜合すれば、相手方の扶養能力は極めて貧弱と認むる外はない。

四、申立人の生活状況

申立人は相手方と別居後、生活費、医療費などの必要経費にせまられ、前記第二項の(二)記載の田、一三三二・二三一三平方メートル(一反三畝一三歩)は之を第三者に売却して右生活費や医療費に充当し、現在、無資産で生活に困窮していることは事実である。併し、次のように○○町から生活保護を受けている。

即ち

(一)  昭和三九年八月四日生活保護法による生活扶助、住宅扶助、医療扶助の適用が決定した。

(1)  生活扶助費月額 金四、一一六円

(2)  住宅扶助費月額 金七〇〇円

(3)  医療扶助費現物 (自己負担金〇円)

(二)  但し、次のような条件をつけられている。

(1)  扶助料決定の審判があり、金銭の授受があれば生活保護廃止、または金額によつては停止となる。

(2)  審判決定が何時になるか保護開始当時判明しなかつたため申立人に対し返還義務を負わせていない。

五、結論

以上のすべての事実を綜合考察すると、申立人は現在のところ最低の生活を保障されているものというべく、相手方には扶養能力が十分でないと認められるので、本件扶養申立は之を却下することとする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤本信喜)

(別紙省略)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

本サイトは報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること)を事業としており,掲載された全ての情報は報道等に活用することを目的としています。

©daihanrei.com