大判例

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福岡高等裁判所 昭和25年(う)196号 判決

被告人

吉原益生

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人下尾栄の控訴趣意について。

しかしながら原判決挙示の証拠をもつてすれば優に原判決に摘示の有罪事実を認定するに足る。もつとも原判決は本件犯行当時、森勝利が拐帯していた風呂敷包に小切手一枚(額面二十万円)が在中し、被告人がこれを掏り取ろうとしたもののように判示しているが、証拠として引用した証人森勝利の原審公判廷における供述によるも当時額面二十万円の送金小切手は同伴していた渡辺事務員に所持せしめていたことが明らかで、その他に当時森勝利が右風呂敷包に額面二十万円の小切手を入れて所持していたと認め得られる証拠はない。故にこのことを捉えて論旨の如く強いて事実誤認といえばそれはいえよう。

しかし右の誤認は決して窃盜未遂罪の構成要件たる事実についての誤認でないことはそれ自体明らかである。ただ問題は右の如き誤認が量刑上に影響を及ぼすか否かにある。およそ窃盜罪において既遂の場合物の数量、価格は量刑上の一資料とされることは実務上明らかなことであるが、未遂の場合においては一概にいえない。即ち犯人において目的物を具体的に認識しているか、認識し得べき状況においてこの物自体を窃取せんとした場合には同様のことがいえようが目的物の具体的認識のない場合即ち本件の如く俗にいう「掏り」の如くただ金品の所在する場所と思われるところに向つて攻撃し金品があればこれを窃取しようというような場合については、その目的物の数量なり価格なりに差異があつても量刑上には影響ないものといわざるを得ない。故にこの点についての論旨は理由なくまた本件記録及び原裁判所で取り調べた証拠に現われている事実によると原判決の刑の量定は不当だといい得ないのみならず、その他職権をもつて調査するも原判決にはこれを破棄すべき理由がないので刑事訴訟法第三百九十六條によつて本件控訴を棄却すべきものとする。

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