大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

福岡高等裁判所 昭和28年(ラ)82号 決定

抗告人 鵜池六次

訴訟代理人 小田村元彦

主文

原決定を取消す。

長崎地方裁判所佐世保支部執行吏一瀬淳一郎は抗告人の委任に係る同庁昭和二十七年(ワ)第二二八号建物収去土地明渡等請求事件の執行力ある判決正本に基く強制執行として、別紙目録記載の家屋に対する合瀬儀三その他の第三者の占有を解き抗告人にその占有を得せしめなければならない。

理由

本件抗告理由の要旨は、本件強制執行において長崎地方裁判所佐世保支部執行吏一瀬淳一郎は、同裁判所の「別紙目録記載の家屋に対する債務者等(古賀盛、土橋キミヨ)の占有を解き執行吏にその保管を命ずる、執行吏はその現状を変更しないことを条件として債務者等にその使用を許さなければならない」旨の仮処分命令の執行の結果、現にその命令の趣旨に応じて、該家屋を保管中であるに拘らず、第三者である合瀬儀三が自己の所有権を主張して右家屋を占有しているので執行不能であると認めてこれを中止した。而して、原決定は、執行吏の保管中である事実は直ちに執行吏が右仮処分命令の執行を継続中であると解すべきではなく、該仮処分命令に基き右家屋に対する占有を取得しこれを占有保管中と解すべきであり、仮処分命令に基き該家屋を占有する事実を以てしては未だ当該占有の侵害者に対し一般の家屋占有者に対して認められる法的保護以外に直接これを排除し得る何等の権限はないものといわなければならないとし、右執行吏の前記家屋に対する占有を侵奪したと認められる合瀬儀三に対し同執行吏が同人に対する何等の債務名義もなく直ちにこれが占有を排除しうるとしてその挙に出ることのなかつたことを正当であると認定した、然しながら、右のような場合は、執行吏が仮処分命令の執行を継続中であると解すべきは勿論であり、又仮処分命令はいわゆる形成力あるものであるから、執行吏は何等別個の債務名義を要せずして当然何時にても実力を以て合瀬儀三その他第三者の占有を排除し得るものと解するのが妥当である、それで、本件強制執行において執行吏は須らく前記家屋に対する合瀬義三その他第三者の占有を解き抗告人にその占有を得させなければならなかつたのに、この措置に出でなかつたのを肯定した原決定は失当であるから本件抗告に及んだ次第であるというにある。

よつて按ずるに、本件強制執行の方法に関する異議申立書添付の執行調書謄本の記載によれば、長崎地方裁判所佐世保支部執行吏一瀬淳一郎が昭和二十八年四月四日本件強制執行のため債務者(古賀盛土橋キミヨ)の住所に臨みたるに、債務者宅は全戸他に転居しておるを以て本件執行は不能に終つたのでこれを止めたとあるが、本件強制執行は抗告人原告、債務者被告間の同裁判所昭和二十七年(ワ)第二二八号建物収去土地明渡等請求事件の執行力ある判決正本に基き債務者が債権者たる抗告人に対して別紙目録記載の本件家屋を明渡すべきことであるから、これが強制執行は民事訴訟法第七百三十一条の規定によつて該家屋についての債務者の占有を解いてその占有を債務者に得せしめることである、そして、その執行行為をなすに際し、債務者宅が全戸不在の場合は同法第五百三十七条の規定に則つて成年者二人又は市町村若くは警察の吏員一人を証人として立会わせた上これをなすことができるのであつて、債務者宅が全戸他に転出して不在であるからといつてこれが執行が不能となるべき謂われはない。

なお、前記執行調書謄本には参考事項として本件強制執行当時、本件家屋には第三者たる合瀬儀三(右調書謄本には合瀬儀作とあるも記録中の他の記載により合瀬儀三の誤記と認める)なるものが居住していて、該家屋を自己の所有なりと称して債務者の転居と同時に占有を始めている旨の記載があり、この第三者の居住占有していることが、執行吏において本件強制執行を不能であるとして止めた真の理由であるようである、然じながら本件家屋についてはこれより先昭和二十七年五月二十八日抗告人の申請に基き債務者に対し該家屋に対する債務者の占有を解いて債権者の委任した長崎地方裁判所佐世保支部執行吏にその保管を命ずる執行吏はその現状を変更しないことを条件として債務者にその住居として使用を許さなければならない旨の仮処分命令が発せられ、該命令は当時既に前示一瀬執行吏の手により執行せられていたことは本件異議申立書添付の仮処分決定謄本及び前記執行調書謄本の記載により明である。

このように、仮処分命令によつて家屋の保管を命ぜられた執行吏にはこれが保管を全うすべき職責のあることはいうまでもないことであると同時にその保管の職責を全うするためには、執行吏は当該保管(占有)を侵す者に対しては直接これを排除し得るものとせねばならないから、右執行吏の保管に係る家屋に第三者が居住占有を始めるにおいては、執行吏は該第三者に対し別個の債務名義を要することなく、保管者としての職責上これが明渡乃至退去を強制し得るものと解するのを相当とする、若し然らずして、かかる第三者の明渡乃至退去を求めるには、これに対し更に改めて新しい債務名義を得なければならないものとせば、執行吏に目的家屋を保管せしめて、これが明渡乃至退去の強制執行を保全せんとして仮処分をなした目的は甚だしく没却されるであろう、然らば前記仮処分命令に基く執行により本件家屋を保管する前示一瀬執行吏は、該家屋に居住占有せる合瀬儀三その他の第三者の占有を解いた上、本件強制執行としてこれが占有を債権者たる抗告人に得せしめるべきである、然るにかかる場合には第三者に対し別個の債務名義が必要であるとして、本件強制執行を止めた同執行吏の措置を正当なりとし、これに対する抗告人の異議申立を却下した原決定は失当であるからこれを取消すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 野田三夫 判事 川井立夫 判事 天野清治)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com