大判例

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福岡高等裁判所 昭和29年(ネ)295号 判決

控訴人 金原寛一

被控訴人 小城町

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和二十五年三月二日控訴人所有の原判決添付目録記載の動産及び同年六月七日控訴人の同目録記載の電話加入権に対してなした国民健康保険の保険料滞納処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の陳述・証拠の提出・援用・認否は、

控訴人に於て、

小城町健康保険条例は次の理由によつて無効だから、之に基く本件動産に対する滞納処分は無効である。即ち、

(一)  右条例の制定を議決した小城町議会は、小城町民大多数が反対しているにも拘らず、町民の意思を徴するための公聴会も開かず、単に町政執行の連絡機関たる駐在員の承認を民意なりとして開会せられた形式的なもので、しかも右議会には議員小副川延一及び同田尻文平は欠席していたにも拘らず、同人等もそれぞれ出席の上右議決に加つた旨議事録に虚偽の事実を記載したものであり、右議決は無効のものである。

(二)  右条例は昭和二三年十月三十日の町議会の議決によるものであるが、県知事の右条例認可は同年十月一日附を以てなされているのであるから、未だ議決の存しない条例につきなされた県知事の認可は無効で、従つて亦右条例も無効である。

(三)  右条例が以上の様な形式的要件について何等のかしがないとしても、我国の憲法及び国民健康保険法は国民健康保険については、その加入を加入者の任意とするの趣旨で、強制加入を認むる趣旨でないから、強制加入を規定する右条例は、憲法の保障する国民の基本的人権及び財産権を侵害するもので、憲法第九八条に違反し無効である。と述べ、

被控訴指定代理人に於て、

(一)  被控訴人が従来小城町健康保険条例制定の日を昭和二三年十一月一日なりと主張したのは、昭和二三年十月一日の誤りだから、右のとおり訂正する。

(二)  被控訴人は、昭和二三年法律第七〇号による国民健康保険法の改正に伴い、町民の意思代表者たる駐在員及び町議会議員の合同協議会を開き、一般町民の意嚮を徴し、賛同を得た後、昭和二三年十月三十日町議会に小城町国民健康保険条例案を提出し、出席議員全員一致を以て原案の可決を得、佐賀県指令小地厚第四一三号により、昭和二三年十月一日附の県知事の認可を得て同日より小城町公営として国民健康保険事業を実施するに至つたものであるから、右条例は有効で何等のかしもない。

(三)  右条例案が小城町議会に於て可決されたのは、昭和二三年十月三十日で同条例制定についての県知事の認可が同年十月一日附であつたことは前記のとおりであるから、右議会に於ける条例案の可決前に認可の申請及び認可がなされた様に見えるが、真実は右認可の申請もその認可も共に議会の議決後になされたものである。唯同条例の施行を十月一日に遡らせる必要があつたので、認可申請の日附を同年九月三十日附とし之に対する知事の認可も同年十月一日附を以て為されたものである。

(四)  小城町国民健康保険組合は昭和一九年二月二十日佐賀県知事の認可を受け同年四月一日より任意加入制の組合として国民健康保険事業を開始したが、国民健康保険事業運営の強化を図るため、同年十一月四日佐賀県指令第一八八三号により旧国民健康保険法第十三条第一項の規定に基き、強制加入の指定を受けたので、小城町内の世帯主及びその世帯に属する者は当然小城町国民健康保険組合規約第七条によりすべて加入意思の有無を問わず組合員となり、被保険者となつたのであつて、右強制加入制を以て憲法の保障する国民の基本的人権及び財産権の侵害なりとする控訴人の主張は失当である。

と述べた。(証拠省略)

理由

被控訴人が昭和二五年三月二日控訴人所有の原判決添付目録記載の各動産を、次で、同年六月七日控訴人の同目録記載の電話加入権を控訴人に対する国民健康保険の保険料滞納処分として差押えたことは当事者間に争のないところである。

而して成立に争のない乙第一乃至第五号証同第七号証其の方式及趣旨により公務員が職務上作成したものと認められ、従つて真正に成立したものと推定される同第六号証によれば、任意加入制の小城町国民健康保険組合は昭和一九年二月二十日佐賀県知事の認可を受けて設立せられ、即日国民健康保険事業を開始し、控訴人も同組合の設立当初より同組合に組合員として加入していた(以上の事実は当事者間に争がない)か、国民健康保険事業運営の強化を図るため、同年十一月四日佐賀県指令厚第一八八三号により旧国民健康保険法第十三条第一項に基いて強制加入の指定を受け以後小城町内の世帯主及びその世帯に属する者は法定の除外者を除き当然小城町国民健康保険組合規約第七条により強制的に同組合に加入して被保険者となるに至つたこと、及び被控訴人は昭和二三年法律第七〇号による国民健康保険法の大改正に伴い、昭和二三年十月三十日小城町議会に小城町国民健康保険条例案を提出し、小城町会議員二十六名中出席議員二十名の全員一致を以て右条例案は可決せられ、佐賀県指令小地厚第四一三号により同年十月一日附を以て県知事の認可を受け国民健康保険事業を実施するに至つた事実を認めることが出来る。

控訴人は此点につき、「小城町議会議事録に於ては右条例案の議決に加わつたものとされている小城町会議員小副川延一及び同田尻文平は、右議会の議決には欠席して加わらなかつた」旨主張するけれども、右事実を認めて前記認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、右小城町国民健康保険条例は、町議会の議決により制定せられた適法のものといわねばならない。

ところで、控訴人は「被控訴人の右保険条例の制定は、これにつき公聴会も開かず、町民の大多数の反対を無視してなされた形式的な議会の議決によるもので、無効である。」というけれども、右条例が国民健康保険法に則り地方自治法所定の条例制定に関する規定に従つて制定せられたものである限り、之につき公聴会が開かれなかつたとか町民の大多数の反対を無視してなされたとか云うだけの理由により之を無効とすべき何等の根拠もないから、此点の控訴人の主張は理由がない。

次に控訴人は「右条例の制定に対する県知事の認可は、議会の右条例に対する議決のなさるゝに先立ちなされたもので無効だ」という。而して右条例についての議会の議決のなされたのは昭和二三年十月三十日であるに拘らず、之が県知事に対する制定認可の申請日附を同年九月三十日とし、県知事認可の日附も同年十月一日とされていることは、被控訴人の認むるところであるけれども当審証人野崎源太郎の証言によれば、これより先小城町に於ては昭和二三年七月国民健康保険法の改正に伴い、同年十月一日を目途として国民健康保険事業を組合経営より町経営に移し、之により小城町国民健康保険組合は同日解散することとしたのであるが町営のための条例制定の準備が整わず、ようやく同年十月三十日に至り、前記の如く保険条例案の議決を経、次で同年十一月二日県知事に之が制定の認可申請をなすに至つた。然し、右の様な事情上、右条例の施行を、同年十月一日に遡らせるため県知事に対する認可申請の日附を同年九月三十日となすと共に、県当局に於ても右事情を諒として、県知事認可の日附を同年十月一日と夫々遡らしたものであることを認めることが出来る。右認定を左右するに足る証拠はない。

而して、右認定の様に、右条例に対する知事の認可は、事実上は該条例案に対する町議会の議決後になされたものであるから、「知事の認可は町条例の決議前に為された」との主張は是認し難くなお右認可の日附を事実に反して遡記したからとて、それだけの理由で、右認可を当然無効とし、ひいて右条例をも当然に無効だと解することは出来ない。尤も、認可の日附を右の如く遡記したからとて、認可の効力が当然に日附の日に遡つて発生したものとは解し難く、むしろ、事実上認可が為された時に効力を発生し、ひいて、条例もその時から(正確に云えば認可後条例が公示せられてから)その効力を発生したものと認むべきであるが、前顕乙第七号証によれば、同条例はその附則に於て、「この条例は昭和二三年十月一日よりこれを施行する」旨の規定を有するので、この遡及規定に依り右条例は昭和二三年十月一日に遡り有効に施行せらるゝに至つたものといわねばならない。

又控訴人は「強制加入の保険制度は憲法及び国民健康保険法の趣旨に反するものだ」と主張するけれども、強制加入の保険制度が国民の疾病、負傷、分娩又は死亡により生ずる個人の経済的危険負担を分散し、以て国民の健康を保持、増進し、その生活を安定せしめ、以て公共の福祉に奉仕せしめんとする社会保障制度であることは、国民健康保険法制定の趣旨にかんがみ明白なところであり、憲法により保障せらるゝ国民の基本的人権及び財産権も公共の福祉に反しない限りに於て認めらるゝものであるから、右強制加入の保険制度を憲法及び国民健康保険法の趣旨に反し国民の基本的人権及び財産権を侵害するものとする控訴人の主張は到底採用することが出来ない。

以上の如く、小城町国民健康保険条例は之を無効とすべき理由なく、有効であり、そして、控訴人が小城町健康保険組合設立当時より今日迄小城町に住所を有するものであることは、控訴人の自認するところであり且つ、控訴人が世帯主であることは、控訴人に於て明らかに争わないところであるから、控訴人は、右保険組合が昭和一九年十一月四日任意加入制より強制加入制に改正せられたとき以後はその組合員として、又昭和二二年十月一日右保険条例の施行以後は同条例による町営健康保険の被保険者として、控訴人自身の保険加入の意思の有無に拘らず当然、保険料納付の義務を負うたものといわねばならない。

そこで、原判決添付目録記載の動産に対する滞納処分の適否について見るに、控訴人が被控訴人に対し前記保険条例に基く被控訴人主張の如き延滞保険料、督促手数料、延滞利息金、延滞加算金合計七千八百十一円の未払債務あることは、弁論の全趣旨に徴し之を認めることが出来るから、被控訴人が右延滞金につき、控訴人所有の右動産に対してなした昭和二五年三月二日の滞納処分は何等の違法はなく適法にして、控訴人の右滞納処分の無効確認を求むる請求は失当として棄却すべきものである。

次に、前同目録記載の控訴人の電話加入権に対する滞納処分の適否について考えるに、前顕乙第一号証同第六号証を綜合すると、控訴人は小城町健康保険組合に対し被控訴人主張の如く総計千八百三円九十銭の滞納保険料の存すること及び右保険組合理事長江島卯吉は昭和二四年三月十四日小城町に対し国民健康保険法第八条に基く滞納者に対する処分の請求をなしたことを認めることが出来る。而して右請求は右組合理事長が解散した同組合の清算人の清算事務の執行として被控訴人に対し控訴人より前記滞納保険料の徴収を求むるものであると解すべきことは、原判決の説示するとおりであるから、こゝにこの点に関する原判決の理由(原判決九枚目表末行の而してより同九枚目裏十一行目の解するを相当とする迄)を引用する。しからば、被控訴人が右請求に基き控訴人の右滞納金徴収のため、控訴人の右電話加入権滞納処分として差押えたのは、正当の権限に基くものと云うべく該処分は有効のものといわねばならない。控訴人は此点につき、控訴人は小城町健康保険組合には設立当初の第一期は之に加入していたが其の後同組合理事長江島卯吉の同意を得て同組合より脱退したから其の後同組合に対し保険料納入の義務なく滞納保険料の存するはずはないという。けれども、右滞納処分の基本たる滞納保険料債権は、前記認定の如く任意加入制の保険組合が強制加入制の組合に改正せられた昭和一九年十一月四日以後の保険料に関するものであるから、控訴人の右組合よりの脱退の有無は右滞納保険料債権の存否に何等の消長をも来すものでない。控訴人の右主張は失当である。従つて、被控訴人が昭和二五年六月七日控訴人の電話加入権に対してなした滞納処分の無効確認を求める控訴人の請求も亦排斥を免れない。

よつて、右と同趣旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないから之を棄却すべきものとし、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森静雄 高次三吉 厚地政信)

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