大判例

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福岡高等裁判所 昭和29年(ラ)45号 決定

抗告人 河井ヤエ子

相手方 姫野千次郎

主文

原競落許可決定を取消す。

本件を大分地方裁判所に差戻す。

理由

一  抗告の趣旨及び理由は、末尾記載の通りである。

二  当裁判所の判断

(一)  記録によれば、原審は、登記簿上抵当権者となつている相手方(抗告人の主張と異り相手方は根抵当権者となつているのではない)の競売申立に基き、昭和二九年二月二〇日大分県大分郡鶴崎町(現在鶴崎市)大字三佐字浦町一四五番地宅地(ただし左記(二)の通り、現況は一応畑と認められる)二六坪に対し、競売手続開始決定をなし、これを抗告人(同土地の所有者で、登記簿上は抵当債務者となつている。ただし、後記(三)の通り抗告人は自己が抵当債務者であることを否認する。)に送達するため、鶴崎町大字三佐字浦町の抗告人宛に、郵便によつて送達したので、同年二月二六日河井ハルヱが、抗告人の同居の母として、これを受取つていることが認められるところ、記録中の大分地方裁判所執行吏佐藤幸生の賃貸借取調調書並びに競落期日調書及び抗告人提出の鶴崎市長職務代理者井野赴夫の証明書によると、抗告人は昭和二四年六月以来、従前の住所である鶴崎町から、神戸市方面に転居し、以来競落許可決定当時まで、前示宛先の鶴崎町大字三佐字浦町には住所、居所、営業所または事務所を有しなかつたことが明らかであるから、特別の事情ない限り、本件競売開始決定は、いまだ、抗告人に送達されていないものと認める外はない。なお、記録によると、原裁判所は、抗告人に対する競売期日の通知もまた、前示宛先に対し書留郵便に付する送達の方法によつて、なしていることが認められるので、反対の事情ないかぎり、抗告人に対し競売期日を通知しないで競売を実施した違法があるというべきである。従つて、原審は、本件競売手続は続行すべからざるものとして、競落不許可の決定をなすべきであるのに、相手方を競落人とする競落許可決定を言渡したのは違法であつて、原決定はすでにこの点において取消を免れない。

(二)  なお、職権をもつて調査するに、

(1)  本件競落の目的たる土地は、前記の通り公簿上宅地となつているけれども、前示賃貸借取調調書によれば、畑として耕作されていることが認められるので、他に格別の事情ない限り、農地たる畑と認むるを相当とすべく、はたしてそうだとすると、たとえ、公簿上の地目が宅地であつて宅地として登記されていても、現況畑である以上は、その所有権移転については、競落を原因とする場合においても、農地法第三条の適用があるのは当然であるから、所轄大分県知事の許可がないかぎり、かりに競落許可決定が確定し、競落人が代金の全額を支払つたとしたところで、同人において、競落畑の所有権を取得することはできないのである。

しかるに、競落人が、民事訴訟法(以下民訴と書く)による強制競売にあたつては、競落を許す決定によつて不動産の所有権を取得し(同法第六八六条)、競売法による競売においては、競落を許す決定の確定後、代金の全額を支払つたときに不動産の所有権を取得する(競売法第三三条)こと、言い換えると、競落許可決定が確定して、代金の全額さえ支払えば、当然かつ必然に不動産の所有権を取得するということは、法律上の売却条件であつて、この条件は、最低競売価額に関するそれと等しく、その余の売却条件と選を異にし、利害関係人の合意をもつてするも動かし得ないものと解するを相当とするので、裁判所が特に、民訴第六六二条の二により職権をもつて前示の売却条件の変更をなさない以上(本件において原審がこの変更をしていないことは記録上明らかである。)、最高価競買申出人は競落を許す決定前に、農地法第三条による知事の許可を得、かつ、その旨を疎明するに及んで、始めて裁判所は、最高価競買申出人に競落を許す決定を言渡すの順序に従うを相当とする。もつとも以上の説示と異り、裁判所は、知事の許可の有無にかかわりなく、最高価競買申出人に競落を許す決定を言渡し得るのであつて、後日競落人が農地法第三条同法施行規則第二条の規定に従い知事の許可を得るをもつて足るとの見解も、理論上成立し得ないわけではないけれども、この見解によれば、幸に競落人が相当の期間内に知事の許可を得た場合はとも角、もし、競落人が代金の支払は了しながらことさら、または過つて、許可申請の手続を執らないかぎり、裁判所は、爾後の手続を進行するのに由なく、競売手続の完結はほとんど競落人の挙措に係るというも過言ではない。あるいは、この場合、原告たり得るなに者かが競落人を被告とし、知事に対し許可申請手続をなすべき旨訴求するなどの手続に出ずる途があるとしても、これによる競売手続の遅延の弊害は蔽うべくもなく、また、かりに競落人が、競落許可決定確定の上、代金全額を支払つた場合においても、知事が競落人の許可申請を却下すれば、競落人は、ついに競落不動産の所有権を取得することができないのであるから、裁判所は、更に該不動産の競売を命ずべきであろうけれども、既に競落許可決定確定しかつ、代金全額の支払があるにかかわらず、これを無しして、当該競落不動産の競売を命ずるについての明確な規定をかく現行法の立前からして、手続上許多の困難な問題に逢着することは、あえて、事例を示して説明するまでもないであろう。すなわち、前段説示する所の正当なる所以を理解し得べきである。

(2)  しかして前叙の通り、本件土地は畑と認むべきであるのに、記録によれば原審は、これを宅地と表示して競売期日の公告をなしているのであるが、民訴第六五八条が、競売期日の公告に不動産の表示を要求する所以は、単に競売不動産の同一性の認識に役立たせるためだけでなく、その主眼とするところは、競買希望者一般に対し、同不動産の実質的価値を了知させ、もつて競買申出にそごなきを期しようとするにあるのであるから、不動産が土地であるときは、その所在、地番、反別または坪数はもとより農地法との関係において、同土地が農地たる田、畑であるか、あるいは農地以外の宅地であるかを明瞭ならしめるため現在の地目を表示しなければ、前陳公告の目的並びにその機能に即応しないものといわねばならない。現況畑であるのに、宅地と表示して、競売期日の公告をすれば、専ら商業を営む者でも、競買の申出をするであろうが、たとえ、同人に競落を許しても、同人が、その所有権を取得するについて、知事の許可を得ることは殆んど不可能である結果、ついに競落地の所有権を取得し得ずして、無意味の競落手続を遂行したことに帰着するのであり、これは、所有権を換価して、競落人にこれを移すことを目的とする競売の本質に背馳するものというべきである。また、競売期日の公告に、畑と表示すれば、競買人は、農地を買受け得る適格者でなければならないことが、競買希望者一般に周知されるので競買の申出をなそうとする者は予め知事の競買適格証明書を得て、競買の申出をするであろうから、前陳のような無用の競売手続も避け得らるるのである。(この点について、昭和二五年一二月二二日最高裁民事甲第二四二号及び同二八年一一月五日同甲第二四五号事務総局民事局長の通知は参照に値する。)これを要するに、現況畑であるのにこれを宅地と表示してなした競売期日の公告は、民訴第六五八条第一号の要件を具備しない違法があると解せねばならない。

以上の説明に徴し明らかであるように、原審が競落許可決定を言渡したのは違法であるから、この点においても、原決定は取消を免れない。

(三)  抗告人は、本件競売の基本たる相手方の抵当権は、抗告外小野吉郎が、抗告人の印章及び文書を偽造してなした無効のものであると主張し、その提出にかかる登記簿謄本の記載によると、抗告人は相手方を被告とし、本件抵当権設定登記の抹消登記手続請求の訴を大分簡易裁判所に提起し、現にその訴訟係属中であることが認められ、右謄本並びに同提出の刑事判決謄本の記載によれば、前記小野吉郎は詐欺罪の前科一犯を有し、本件競売の基本たる抵当権の設定された昭和二七年中いずれも抗告人名を冒用し二回に亘り私文書偽造行使詐欺及び有価証券僞造行使詐欺の罪を犯して、懲役二年の実刑に処せられていることが明らかで、しかも前段認定のように、抗告人は昭和二四年六月以降神戸市方面に居を移して、鶴崎町には住所、居所、営業所または事務所を有しなかつたという事実をかれこれ照らし合せると、容易く、抗告人の主張を排斥するわけにいかないのであつて、該主張事実の真否を確定するためになお証拠の取調をなす必要があると認められるので、原決定を取消し、本件を原裁判所に差戻すべきものとし、主文の通り決定する。

(裁判長判事 桑原国朝 判事 二階信一 判事 秦亘)

抗告の趣旨及び理由

抗告の趣意

原決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

抗告の理由

一 本件競売申立の原因である抵当権は抗告外小野吉郎が抗告人の印を不正に使用して虚偽の文書を作成しかつ抵当権設定登記を為したもので抗告人のあずかり知らないところである。例え形式上抵当権設定登記があつても、かかる実質上無効の抵当権によりその実行としてなされたる競売申立に基く競売開始決定の下に実施されたる競売は違法であるから、従つてこの競売における競買人に対する本件競落許可決定もまた失当であると言わなければならない。(右抵当権設定の文書を偽造した前記小野吉郎は抗告人の告訴によりこの犯罪事実等により、大分地方裁判所において昭和二十九年四月十二日懲役二年の刑に処せられ目下大分刑務所に服役中。又抗告人は相手方を相手取つて大分簡易裁判所に、抵当権設定登記抹消手続請求の訴を提起し、右訴訟は目下同裁判所に係属中である。)

二 本件競売開始決定正本は抗告人に送達せられていない。記録によれば、同開始決定正本が抗告人に送達せられたこととなつて居るけれども、抗告人は昭和二十四年六月から就職のため肩書住所に転住し、本年(昭和二十九年)二月母河井ハルヱの知らせにより初めて帰郷し、同年二月十二日前記、抵当権設定登記抹消手続等請求の訴外三件の訴訟を提起した上、直ちに住所地に引返したもので、その口頭弁論の都度帰郷しては居るが、前記競売開始決定正本が送達せられた当時は、住所地にあつたので之が送達を受けた事実はない。多分抗告人の母河井ハルヱが受領したものであろうが、同人は無学文盲であるから、何人に宛てた書状であるかもわきまえず、唯だ郵便が来たから受取つたものである。併し、送達は之を受くべき者の住所、居所、営業所又は事務所に於て之を為すことを要する(民訴第一六九条)のであるから、右以外の場所でなされた送達、加之、同居の家族又は雇人でもない者になされた送達は違法で、送達の効力はないから、未だ本件競売開始決定は抗告人に送達せられていない筋合である。従て本件競売は違法でその競買人に対する本件競落許可決定もまた失当である。なお相手方が競売申立の前提として、昭和二十九年二月十八日別府郵便局第938号書留内容証明郵便物として発送した将来の貸付停止及び貸金六万円請求の催告書(根抵当につき抵当債権額確定のため出されたもの)も抗告人の住所又は居所でない抗告人の母河井ハルヱの住所に宛てて発送され、受取人も同人であるから右催告の効力はない。故に本件は競売申立そのものが違法である。この点から見るも本件競落許可決定は失当である。

以上の如く本件は何れの点から見ても競売を許してならないもの又は競売を続行してはならない場合に該当する。従つて之を看過してなされた競落許可決定は失当で取消さるべきものと信じ本件抗告に及ぶ次第である。

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