大判例

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福岡高等裁判所 昭和30年(う)164号 判決

控訴人 原審検察官 上戸恵喜夫

被告人 天本辰雄 弁護人 大曲実形 外一名

検察官 大坂盛夫

主文

原判決を破棄する。

本件を長崎地方裁判所厳原支部に移送する。

理由

検察官の控訴趣意は、検察官提出の控訴趣意書記載のとおりであり、弁護人牟田真の控訴趣意は、弁護人大曲実形提出の控訴趣意書記載のとおりである。

右に対する判断。

検察官の控訴趣意(訴訟手続の法令違反、法令適用の誤)について。

原審が、被告人に対し、本件公訴にかかる傷害の罪にあたる事実を認定し、刑法第二〇四条、同法第二五条を適用して、懲役四月、一年間刑執行猶予の言渡をした事実は、記録によつて明白であり、原審の右措置が、裁判所法第三三条第二、三項、刑訴第三三二条に違反することも明らかである。

ところで、右の違法は、控訴理由として刑事訴訟法の定めるいずれの事由にあたるものと解すべきかについては、いささか考究を要するものがある。傷害の罪にあたる事件が、地方裁判所の管轄に属するとともに、簡易裁判所の管轄に属することは、裁判所法第二四条第一号、第三三条第一項第二号によつて明らかである。そして、同法第三三条第二項は、簡易裁判所は禁錮以上の刑を科することができない。但しこれこれの事件においては三年以下の懲役を科することができる旨を定めるのであつて、直接的には、簡易裁判所が科することのできる刑の種類または範囲の制限、すなわち、科刑の制限に関する規定であること明白ではあるが、同規定は、右のように簡易裁判所における科刑を制限すると同時に、同条第一項第三項刑訴第三三二条等との関連において、間接的には、右の制限を超える科刑を相当と認める事件については、これを簡易裁判所の審判権の簡囲外とする趣旨、換言すれば、簡易裁判所において相当と認める刑が、右の制限を超えるかどうかを標準として、その事件に対する簡易裁判所の審判権の有無を定める趣旨をも包含するものと解するのを相当とする。このことは、裁判所法第三三条第二項が管轄に関する規定でもあるという意味にほかならない。右が通常の管轄規定とやや趣きを異にするのは、後者が法定刑もしくは罰条等をもつて事件区別の標準とするのを常則とするのに対し、前者が簡易裁判所において科するのを相当と認める刑をもつてその標準とする点であるが、この差異は、右の規定が管轄に関する規定であることを否定するに足りない。また同条第三項、刑訴第三三二条が、簡易裁判所は、所定の制限を超える科刑を相当と認めるときは、事件を管轄地方裁判所に移送すべき旨を定め、移送の時期を特に限定していないのも、所定の制限を超える科刑を相当と認めるときは、訴訟進行の程度如何にかかわらず、その後においては、もはや、簡易裁判所にその事件を審判する権限がないことを予定しているものと解せられるのである。

要するに、裁判所法第三三条第二項は、簡易裁判所に対して科刑を制限すると同時に、右の制限を超える科刑を相当と認める事件については、これが審判の権限、すなわち、管轄をも制限する趣旨であると解すべきであつて、右の制限に違反する違法は、不法に管轄を認めた場合にあたるものと解するのを相当とする。論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免かれない。

よつて、弁護人の控訴趣意に対する判断を省略し、刑訴第三七八条第一号により原判決を破棄し、刑訴第三九九条に従い本件を管轄裁判所たる長崎地方裁判所厳原支部に移送すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 筒井義彦 判事 柳原幸雄 判事 岡林次郎)

検察官の控訴趣意

一、原判決は訴訟手続に法令の違反があるとともに法令の適用にも誤りがあつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

二、即ち原判決は公訴事実を認定した上刑法第二百四条傷害罪を適用し所定刑中懲役刑を選択して処断し情状による刑の執行猶予に付いては同法第二十五条により被告人に対して懲役四年、但裁判確定の日から一年間刑の執行を猶予すると言渡した。

三、しかし乍ら簡易裁判所においては、傷害罪については懲役刑を選択して量刑処断し得ないことは裁判所法第三十三条第二項により明かである。それにも拘らず原判決は被告人の傷害の所為に対し裁判所法所定の制限を超える刑を科するを相当と認めながら同法第三十三条第三項刑事訴訟法第三百三十二条に従い事件を地方裁判所に移送すべきに拘らずこれを為すことなく敢て懲役刑を選択して量刑処断したことは失当であつて破棄を免れない。仍て更に相当の裁判を求める為控訴申立に及ぶ次第である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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