大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

福岡高等裁判所 昭和45年(ネ)131号 判決

控訴人(原告)

石嶋又重

被控訴人(被告)

日動火災海上保険株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金四九万一一四一円および内金四五万六七五〇円に対する昭和四三年八月一八日から支払いずみまで年五分の割合の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

(一)  訴外松岡茂は昭和四二年六月二六日原動機付自転車(阿蘇町い第六五一号。以下本件自転車という。)の後部座席に妻たる訴外松岡ツヨを乗せて熊本県阿蘇郡阿蘇町大字黒川二四〇番地先の道路を進行中、運転を誤り、本件自転車を同所道ばたのセメントブロツク塀に激突させ、右ツヨに左前頭部挫創、脳硬膜下血腫の傷害を負わせ、同女は右傷害に因り同月三〇日死亡した。

(二)  控訴人は右ツヨの実父であるが、同女が前記交通事故による受傷後死亡までの間診療を受けた阿蘇中央病院に対する診療費金四五万三九五〇円および附添看護料四日分金二八〇〇円合計金四五万六七五〇円を直接の被害者に代わり支払つた。

(三)  被控訴人は前記松岡茂との間に本件自転車について自動車損害賠償責任保険契約を結んでいるものである。

(四)  被控訴人は、昭和四二年七月一四日控訴人から被控訴人の熊本支店宛に提出された合計金一九六万五二五〇円の損害賠償請求に対し、同年一一月二九日前記(二)に記載の金四五万六七五〇円を除く金一五〇万八五〇〇円(内訳訴外松岡ツヨ死亡に因る損害賠償額金一五〇万円、同女の負傷後死亡までの休業補償および慰藉料金八五〇〇円)の支払をなした。

(五)  控訴人は直接の被害者に代り前記(二)記載の診療費等の支払をなし、本件交通事故により損害を受けた被害者であるから自動車損害賠償保障法第一六条により被控訴人に対し、損害賠償額の支払を請求し得るところ、被控訴人はその支払を拒絶するので、右金四五万六七五〇円とこれに対する本件訴状送達の翌日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めると共に前記(四)記載の控訴人が被控訴人に支払請求をした昭和四二年七月一四日から、被控訴人が支払をした同年一一月二九日までの四ケ月一五日のうち、被控訴人の調査に要した期間とみなすべき一ケ月を控除した三ケ月一五日は被控訴人に支払遅延の責任あるものであるから右期間について年六分の割合による金三万四三九一円の遅延損害金の支払を求める。

二  被控訴代理人は主文と同旨の判決を求め請求原因に対する答弁として、請求原因(一)ないし(四)の各事実は認める。同(五)は争うと述べ、次のとおり主張した。

(一)  本件自転車の保有者である訴外松岡茂は被害者である訴外松岡ツヨの夫であり同女についての診療費等は本来夫である松岡茂が負担すべきもので、右負担により同人に生じた損害の賠償を本件自転車の保有者である松岡茂に対して求める権利は債権債務の混同により消滅し、これの賠償保険金の支払を被控訴人に対し請求することはできないものであり、同訴外人に代つて控訴人が右治療費等の支払をしたとしても、被控訴人が控訴人に対し賠償義務を負ういわれはない。なお控訴人は昭和四二年一一月二九日保険金支払までの間の遅滞の責を被控訴人が負うべきであると主張するが、本件事故が自動車保有者である夫の過失により同乗者である妻が負傷死亡したという特殊の内容に鑑み、保険金額査定に本件程度の日数を要したことはむしろ当然であり右控訴人の主張は失当である。

(二)  仮りに被控訴人に控訴人主張の支払義務があるとすれば、被控訴人は昭和四四年一〇月九日の本件原審の口頭弁論期日において、控訴人に対し次の債権により控訴人の右の債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

被控訴人は昭和四二年一一月二九日控訴人に対し、訴外松岡ツヨの休業補償および慰藉料として金八五〇〇円を支払つたが、右は同女の相続人でもない控訴人に支払わるべき筋合はなく過誤払であつて、被控訴人に返還さるべきものであるので、被控訴人の控訴人に対する右金八五〇〇円の返還請求権。

三  〔証拠関係略〕

理由

一  控訴人主張の請求原因(一)ないし(四)の各事実は当事者間に争いがない。

二  控訴人は、訴外松岡ツヨの死亡後同女に関する治療費等を直接の被害者に代り支払つた控訴人において自動車損害賠償保障法第一六条の規定により直接被控訴人に対し右損害の賠償を求める権利があると主張するので検討する。

〔証拠略〕によれば訴外松岡ツヨ死亡に因る同女の相続人は夫松岡茂および同人と同女間の二男一女であることがうかがわれ、そうとすると、訴外同女の診療担当者等(阿蘇中央病院および附添看護人)との間で同女の診療等について特に契約した者が認められない以上は、生前の同女がこれをなしたと認むべく、同女の死後においては、同女の前記相続人らが右治療費等の支払義務を承継したと解するのが相当であり、控訴人が診療担当者らに対し、同女にかかる治療費等を代払いしたとしても、控訴人は支払義務承継者である前記相続人らに対し費用償還請求権を取得するのであつて、右代払いによつて直ちに同額の損害が控訴人に生じたとするわけにはいかない。

控訴人において右により取得した費用償還請求権の債務者である前記相続人らに代位し、同人らが被控訴人に対して有する損害賠償請求権を行使するのであればともかくとして、かかる主張立証のない本件においては、自動車損害賠償保障法第一六条により被控訴人には控訴人に対しその支出した金四五万六七五〇円の損害を賠償する義務ありとする控訴人の主張をそのまゝ採用することはできない。よつて右金員に関する控訴人の本訴請求は失当である。

三  控訴人は被控訴人が昭和四二年一一月二九日支払つた金一五〇万八五〇〇円について、支払請求日である同年七月一四日の一ケ月目が履行期であり、被控訴人には右履行期から支払いずみまでの遅延損害金として金三万四三九一円の支払義務があると主張するので検討する。〔証拠略〕を総合すると、本件交通事故発生後昭和四二年七月一四日被害者の代理人本田弁護士から被控訴人会社熊本支店に対し自動車損害賠償責任保険損害賠償額支払請求書が提出され、右請求は同支店より自動車保険料率算定会熊本査定事務所にまわされ、本件は親族間の事故であるため、同事務所から東京の自動車保険料率算定会自動車損害賠償責任保険部の指示を受ける手続がなされ同年一一月二一日にいたつて前記算定会熊本県事務所から被控訴人会社に関係書類が送付され、被控訴人会社熊本支店は右書類を同月二五日受領し、即日前記本田弁護士宛に同月二九日を支払期日とする支払通知を発し、右通知により前同日前記金員の支払を了したことが認められ、本件全証拠によるも控訴人からの請求がなされた昭和四二年七月一四日から一ケ月経過した日に被控訴人の右損害賠償額支払の履行期が到来したことを認めることはできず、かえつて前記認定の事実によれば、同年一一月二九日をもつて、履行期と解するのが相当であり、そうとすると、右同日に金一五〇万八五〇〇円を控訴人に支払つた被控訴人には遅延損害金を支払わねばならぬ義務の発生するいわれはなく、控訴人の本訴請求のうち、右遅延損害金の支払を求める部分はその余の点について検討するまでもなく失当である。

四  以上により控訴人の本訴請求はいずれも理由がないので棄却を免れず、これと同趣旨の原判決は相当で、これに対する控訴は理由がないので、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 弥富春吉 境野剛 高次三吉)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com