大判例

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福岡高等裁判所 昭和46年(ラ)101号 決定

抗告人 横大路文彦

〈ほか二名〉

主文

原決定を取消す。

本件を福岡地方裁判所に差し戻す。

理由

一  抗告人横大路文彦、同横大路勝士、同赤坂豊はいずれも「原決定を取消し、本件不動産の競落は許可しない。」旨の裁判を求め、その抗告の理由は抗告人横大路文彦においては本件競売の不動産のうち福岡県粕屋郡新宮町大字上府字木の浦四〇三番地の一畑二一〇二平方メートルのうち一三四三平方メートルの部分ほか田五筆、畑七筆について、抗告人横大路勝士においては前記木の浦四〇三番地の一畑二一〇二平方メートルのうち三六三平方メートルの部分について抗告人赤坂豊においては前同畑のうち三九六平方メートルの部分についてそれぞれ賃借権を有しているところ、福岡地方裁判所執行官半田猛作成の不動産賃貸借取調調書には本件不動産はいずれも賃貸借なしと記載され、民事訴訟法第六五八条所定の競売期日の公告にも抗告人らの賃借権の記載がなく、かかる要件の記載をかいた公告にもとづいて行われた競売による競落は許可さるべきでないから原決定の取消を求めるというにある。

よって審理するに、抗告人らはそれぞれ新宮町農業委員会会長作成の耕作証明書を提出しているが、右の書面のみでは抗告人らの賃借権を認定することはできず、かえって本件記録中に存在する福岡県知事の譲受人石川国夫に対する農地法第三条の所有権移転許可書に徴すると、抗告人ら主張の各農地についてはいずれも賃借権者の存在しない事実が認められ、そうすると本件各農地について賃借権なしとした執行官の調書ならびに競売期日公告には何らの瑕疵はなかったこと明らかである。しかのみならず、抗告人横大路勝士および抗告人赤坂豊は本件競売の全物件について、抗告人横大路文彦は本件競売物件中同町大字上府前田三九〇番の一、二の田以外の物件について民事訴訟法第六四八条各号の利害関係人に該当しないし、抗告人横大路文彦は前記田二筆の所有者として自ら耕作しながら、賃借権あるかのごとく主張自体理由のない異議を主張し、いずれの点からするも抗告人らの本件抗告は理由がない。

さらにかりに抗告人ら主張のとおり、同人らが競売農地について、第三者に対抗できる賃借権を有するとしても、かかる場合はたとえ競売不動産について賃借権がないものとして競売手続が進められたとしても、右賃借権はこれをもって競落人に対抗できるはずであるから、競落許可決定によって、抗告人らが損失を被むるものではなく、抗告人らは右決定に対し、抗告を申立てることはできない。

二  次に、職権をもって調査するに、本件においては競落許可決定前、農地法第三条による知事の許可があったことを認めるべき資料がないから原裁判所は本件競売不動産中農地について、所有権移転についての知事の許可なきに拘らず競落許可決定をなしたものと認められ、競売法第三二条、民事訴訟法第六七四条、第六七二条第二号により違法であるといわなければならないが、最高価競買人石川国夫が昭和四六年八月一六日当庁に届出たところによれば、同人は前同日付で福岡県知事から本件競売不動産のうちの農地について農地法第三条の所有権移転の許可を受けた事実が認められ、そうとすると、この点に関する原決定の瑕疵は治癒されたものと解するのが相当であり、原決定を取消すには当らない。

三  しかしながら本件記録について精査するに、本件不動産競売は、昭和四四年一〇月一八日設定契約、同月二〇日登記経由の抵当権者株式会社三島商事によってその債権弁済のため申立られたものにかかり、その被担保債権額は元本八五〇万円とこれに対する昭和四四年一〇月一八日以降の約定利息および損害金(一応二年分として概算五〇三万九三一〇円)であり、申立債権者に優先する各抵当権者の被担保債権額、優先する公租公課執行費用を合算しても、本件競売物件二一筆の全売得金三一八一万円に達する見込はなく、かかる場合競売法による競売においても民事訴訟法第六七五条を準用して一部の不動産の売得金をもって債権の弁済と執行の費用を償うに足る場合にはその他の不動産の競落を許すことはできないと解するのが相当であり、この場合、債務者において売却すべき不動産を指定することができるのであって、本件のごとき過剰の見込まれる場合においては執行裁判所は競落許否の決定にさきだって各債権額等の調査をなし、債務者に売却すべき不動産指定の機会を与えることを要するものと解すべきである。

もっとも、本件においては、競売各不動産には本件競売申立債権者の抵当権に劣後する抵当権の設定があり、その被担保債権額と対比するときは、全不動産の売得金を充てても過剰を生じることはない事情もうかがわれ、債務者その他利害関係人の意向によっては全物件について競落を許可することも違法ではないと考えられる。

以上の点について思いをいたさず、その審理未了のまま全物件について競落を許可した原決定は民事訴訟法および競売法の趣旨に反した違法がありこれを取消し、さらに前記の点について審理をなさしめるため本件を原裁判所に差し戻すのを相当と認め、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 弥富春吉 裁判官 原政俊 境野剛)

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