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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和31年(う)540号 判決

被告人 鶴田晴源 外四名

主文

原判決中、被告人鶴田晴源に対する有罪部分を破棄する。

同被告人を懲役三月に処する。

但し、同被告人に対し、本裁判確定の日より一年間右刑の執行を猶予する。

鹿児島地方検察庁検察事務官原田昭の領置にかかるラクダシャツ同ズボン下各一枚は同被告人より没収する。

同被告人から、一四、九五〇円を追徴する。

被告人鶴田の関係において、原審における訴訟費用中、証人長野遙、萩原行友、池田法人、滝沢七郎、大森誠二、塩川円、富田淳夫、川田三郎、松永勇、根本守に支給した分は同被告人と被告人前田、羽矢崎、中川、森谷の平等負担とし、証人藤原ムメノ、原田マサ子、島上秀子、松尾シズエ、高原シマ子に支給した分は被告人鶴田と被告人森谷鉄雄の連帯負担、証人楠原実に支給した分は被告人鶴田と被告人中川の連帯負担とし、当審における訴訟費用の五分の一は被告人鶴田の負担とする。

被告人前田、同羽矢崎、同中川、同森谷の本件各控訴はいずれも棄却する。

当審における訴訟費用の五分の四は被告人前田、羽矢崎、中川、森谷の平等負担とする。

理由

第一、被告人鶴田、同前田、同羽矢崎の職務権限についての各論旨(木戸弁護人の控訴趣意書第一点、同補充陳述書、福田弁護人の控訴趣意書第一点、美坂弁護人の控訴趣意書第一点 一、同補充書 二、被告人鶴田本人の控訴趣意書第一点、同補充書第一点の各論旨部分)について。

当裁判所は、被告人鶴田、同前田、同羽矢崎がいずれも公務員として鹿児島県囎唹郡志布志湾海没の爆発兵器処理作業(以下爆発兵器処理と呼ぶ)について、入札、請負契約の締結、作業の監督、工事出来高および竣工検査等の職務権限を有していたこと、少くとも原判示各贈収賄が右被告人等の職務に関してなされたものであると判断する。その理由はつぎのとおりである。

一、被告人鶴田、同前田、同羽矢崎は右の爆発兵器処理について鹿児島県知事と支出負担行為担当官三ツ井卯三男の各補助者としての職務権限を有していたものである。

(一)  鹿児島県知事が右の職務権限を有するにいたつた理由。

まず、戦時中の作戦から生ずる爆発物及び爆発兵器の処理業務の所管について検討する。

終戦前におけるこれら爆発兵器類の処理の所管については本件においては関係がないので、以下専ら終戦後の所管について考察すると、爆発兵器の処理については、日本がポツダム宣言を受諾し、降伏文書に調印した昭和二〇年九月二日連合国最高司令官より指令第一号が、ついで同月三日指令第二号が発せられ、その後昭和二五年二月六日スキヤッピン二〇七七号が発せられている。

連合国の日本管理の基本方式は昭和二〇年九月二二日発表された「降伏後における米国の初期の対日方針」の第二部日本政府との関係中の「最高司令官は米国の目的達成を満足に促進する限りにおいては天皇を含む日本政府機関及諸機関を通じてその権力を行使すべし。日本政府は最高司令官の指示の下に国内行政事項に関し通常の政治機能を行使することを許容せらるべし。但し右方針は天皇又は他の日本の機関が降伏条項実施上最高司令官の要求を満足に果さざる場合最高司令官が政府機構又は人事の変更を要求し乃至は直接行動する権利及義務の下に置かるるものとす。」の文言に明らかなようにいわゆる間接管理の方式によつたものである。しかし右の後段に明記するとおり全面的に直接管理になることをも留保しているのである。このように連合国の日本管理は原則として間接管理の方式によるわけであるから、いいかえると、日本政府に指示し、日本政府をして統治に当らしめることを建前としている。ところで、連合国の発する指示の形式は一定していない。一般命令(General Order)、指令(Directive)、覚書(Memorandum)、その他作戦命令(Operati-onal Directive)、通牒(Message)等種々の形式があるし、これを発するのは原則として連合国最高司令官であるが、中には第八軍司令部等から発せられることもある。また宛先は日本政府であるのが原則であるが陸海軍に宛てたものもある。また指示の内容についても一般法的な性質をもつものもあれば具体的処分的な性質をもつものもある。日本政府は連合国最高司令官の下に置かれていた当然の結果として、指令覚書等は直接には日本政府に対する関係において法としての意味をもつものであり、日本政府がこれに従つて国民に対し実施する限り、間接に日本国民に対しても法としての意味をもつといえる。しかし、前記のとおり直接管理を留保しているのであり、従つて日本国の公務員や私人に対し直接指示することもあり得るし、事実行われてきたのである。そのことは降伏文書第五項に「下命は茲に一切の官庁……の職員に対し連合国最高司令官が本降伏実施のため適当なりと認めて自ら発し、又はその委任に基き発せしむる一切の布告、命令及指示を遵守し且これを施行することを命じ並に右職員が連合国最高司令官により又はその委任に基き特に任務を解かれざる限り各自の地位に留り且引続き各自の非戦闘的任務を行うことを命ず」とあり、指令第一号の一二項に「日本国の及日本国の支配下にある……行政官憲並に私人は本命令及爾後連合国最高司令官又は他の連合国官憲の発する一切の指示に誠実且迅速に服するものとす。本命令若は爾後の命令の規定を遵守するに遅滞あり又は之を遵守せざるとき及連合国最高司令官が連合国に対し有害なりと認むる行為あるときは連合国官憲及日本国政府は厳重且迅速なる制裁を加ふるものとす。」と規定して日本政府は勿論、地方行政官庁地方公共団体の機関、一般私人までも直接対象としたことにより明瞭である。ともあれ、連合国の管理下においては最高司令官の権力の発動としての指令は直接管理の基準として定められている場合には日本憲法の枠外に立つところの日本法の法源と見るべく、たとえ指令の宛先が日本政府であつても、その内容が特定の者に対する指示であるときはその被指示者に対する法としての効力を有するわけである。

右のとおりであるから、本件爆発兵器類の処理についての前記指令がどのような法源性、拘束力を持つかは各指令の具体的内容を検討しなければならない。

まず、爆発兵器類の処理についての最初の指令、すなわち指令第一号の五項には「責任ある日本国の及日本国の支配下にある軍及行政当局は左記を保障するものとす。(イ)一切の日本国の機雷、機雷原その他の陸上、海上及空中の行動に対する障害物は何れの位置にあるを問はず連合国最高司令官の指示に従い之を除去す。」とあり、第六項には「責任ある日本国の及日本国の支配下にある軍及行政当局は連合国最高司令官より追て指示ある迄左記を現状の儘且良好なる状態において保持するものとす。(イ)一切の兵器、弾薬、爆発物、軍の装備、貯品及需品その他一切の種類の戦争用具及他の一切の戦争用資材(本命令第四項に特に規定するものを除く)」とあり、右第五項の「保障」は除去についての責任を意味することは明らかである。そうすると、右指令の限りにおいては右物件の除去は日本政府、地方公共団体、その機関において自由に処理することができず、最高司令官の除去の指示がない限り具体的には除去責任はないけれども、除去の指示がなされるとその対象者は直ちに除去責任を生ずる。

そこで、つぎに、右除去についての最高司令官の指示を検討する。

右指令第一号の後に発せられた指令第二号は日本政府と大本営に宛てたものであつて、その第一三項には「日本及朝鮮の水域にある水中機雷は連合国最高司令官の指定海軍代表者の指示する所に従い除去せらるるものとす」とあり、第一四項には「日本国の一切の地雷、地雷原及破壊装置、隠蔽爆発物、落下罠を含むその他の障害物は之を安全ならしめ能ふ限り早期に之を撤去すべし、右作業の完了迄は一切の安全通路は明瞭に之を表示し且之を開放し置くべし。」とあるので、一三項の水中機雷は最高司令官の指定海軍代表者の指示によるが、一四項所定の障害物は日本政府および大本営が直接除去の責任を負担するにいたつた。しかし右は地方公共団体ないし地方行政官庁に対する指示内容ではないから、右指令自体ではこれらにはいまだ直接除去の責任はないといわざるを得ない。

よつて、昭和二五年二月六日の覚書(スキャッピン二〇七七号)について見ると、この指令は日本政府に宛てたもので、爆発兵器類の処理について具体的に規定し、第二・三項に日本政府の処理責任、処理物件の範囲、第四項に占領軍の援助、第五ないし第七項に報告および除去完了責任、地方占領軍指揮官との調整を規定しているが、この指令もその内容において地方公共団体ないし地方行政機関に対し直接具体的な指示をしているわけではないから、日本政府のほかには直接的な効力を生じないと解する。

つぎに、右指令二〇七七号にもとづき日本政府はいかなる措置を講じたか、その措置は如何なる法的効力を有するか、又それらに対する最高司令官の指示の効力などについて審究する。

原判決挙示の証第二一号の一によると右指令にもとづき、昭和二五年二月二八日特別調達庁長官、地方自治庁次長、海上保安庁長官、国家地方警察本部次長より都道府県知事宛特調乙発第一〇五号、発財一二六号、発刑第七号、保警第三九号を以て「戦時中の作戦によつて生じた爆発兵器類の処理について」の共同通牒(以下共同通牒第一〇五号と呼ぶ)が発せられたことが認められ、これによると、該通牒がスキャッピン二〇七七号にもとづくものであることを冒頭に掲げ、つぎに「これに従つて日本政府は下記所掌分担によつて該物件の調査報告、並びに処分を実施することになつたから覚書の趣旨を遵守の上、その事務処理に遺憾のないようにされたい、なお、従来の終戦処理費の所管が昭和二五年度より総理府(特別調達庁)に移管することに方針が決定しているので念のため申し添える」とあり、以下「記」として

一、処理所掌分担

(a)  特別調達庁、

全陸地及び満潮線上の海岸地域(機雷を除く)にある一切の爆発性物件の処理、

(b)  海上保安庁、

海上港湾海峡及び満潮線下の海岸にある一切の爆発性物件並びに全陸上にある機雷の処理

(c)  警察機関、

首題物件の発見後処分完了迄の公共の保安に対する全陸地及び海岸地域(水際を含む)の警戒措置

(d)  地方庁、

特別調達庁所掌の業務実施

二、(以下省略)

となつている。

すなわち、日本政府は右の(a)乃至(c)のとおりにそれぞれ行政庁の処理所掌の分担を定めたことは明らかである。しかしてこのように最高司令官の指令にもとづき行政庁の処理所掌を取り決め、その分掌について最高司令官の承認を得たときは(最高司令官の承認の点は原審および当審証人鴫原修次の供述によつて認め得る)、行政庁間に適法な分掌があつたというべきである。ところで右(d)の「地方庁特別調達庁所掌の業務実施」の意味については、その文言からは必ずしも明確ではない。これらの業務が日本政府の業務であるとともに、本来地方公共団体又は地方行政機関の業務でもあつたところ、指令第一号により、その処理が連合国最高司令官の指示によつてのみ処理されることになり、その後スキャッピン二〇七七号により再び日本政府および地方公共団体等に処理を命じたものであるとすれば、右は各行政庁と地方公共団体又は地方行政機関との間にその所掌分担を取り決めたものと解されないことはないのであるが、しかし、右の処理業務が本来国家事務に属し地方公共団体又は地方行政機関の事務でないとすると、右の共同通牒により地方公共団体又は地方行政機関の分掌が定つたことにはならない。単なる爆発物で、作戦によつて生じた爆発兵器類に属しない危険物の処理については、地方自治法第二条により、地方公共の秩序を維持し、住民の安全を保持するため地方公共団体において自由に処理することもできうる場合も考えられるが、こと作戦によつて生じた爆発兵器類の処理のごときは到底地方公共団体の固有事務とは認められないし、また地方行政機関の権限にあるとも認め得ない。当審証人石原信雄の供述によると右が国家事務であつて地方公共団体の固有事務でもその他の行政事務でもないとすることは地方自治庁の公定解釈となつていることが認められる。しかして右の国家事務を従前地方公共団体(特に鹿児島県)に団体委任したり、ないしは県知事などに機関委任をしてあつたことを認めるべき証拠はない。そうすると右国家事務が右共同通牒以前に鹿児島県又は同県知事に委任されたことも認め得ない。

よつて、つぎに、右共同通牒自体(特に前記(d))により鹿児島県に委任したか、又は鹿児島県知事に委任をしたものと認められないかどうかについて審究する。

国家事務を地方公共団体に委任するいわゆる団体委任事務については地方自治法第二条第二項に規定するとおり、法律又はこれにもとづく政令により普通地方公共団体に委任した事務をいうのであるが右共同通牒の文言は地方公共団体の語を用いず地方庁としてあること、右共同通牒発出後において、行政庁より鹿児島県知事に対し、爆発兵器類処理について監督権を有することを前提とする通牒が屡々出されていること(この点は原審および当審において取り調べた各通牒により認める)、処理費の支出について支出負担行為担当官を定め、全部の経費を国庫が負担していること、並びに当審における証人長野士郎、同長野遙の証人尋問調書によつて認め得る右共同通牒の地方庁が地方行政機関を指していることを総合すると、公共団体に対する委任の趣旨とは認められない。

されば、右共同通牒第一〇五号が国家事務を県知事に委任した趣旨に認められるかどうかの点であるが、右共同通牒第一〇五号の後に発出した、昭和二五年三月二五日特別調達庁(以下特調と呼ぶ)長官より鹿児島県知事宛特庁甲発二五号、同年五月三〇日特庁乙発第三七三号、同年九月二九日共同通牒特乙発第七一〇号(すべて証第一号編綴)によると、知事に右処理事務を委任し、知事において処理責任のあることを前提としていることが明らかである。(二五号中の3の記載、三七三号中の2のbの3の記載、七一〇号中の3イabの記載参照。)

だとすると、右共同通牒第一〇五号により特庁はその所管所掌事務を地方行政機関の鹿児島県知事に委任したものといわざるを得ない。

しかし、ここに問題となるのは、右委任は共同通牒第一〇五号によると特調の分を知事に委任しているのであり、海上の分についての所掌は海上保安庁にあり、本件志布志湾の海没爆発兵器類の処理については所管庁の海上保安庁から鹿児島県知事に委任したことにはなつていないので右共同通牒によつては本件志布志湾の分が鹿児島県知事に委任されたとは認められない。ところが、その後昭和二五年七月一二日特調財務部長から鹿児島県知事宛発出された特財発第二六五号通牒(証第二一の四)には共同通牒第一〇五号によつて所掌分担が定められ海上の分は海上保安庁の所掌となつたが、志布志湾の分は右共同通牒の特例として鹿児島県に処理させる旨記載されている。この趣旨は志布志湾の分を鹿児島県に委任したことをその内容としていたことは明らかである。しかし、右通牒第二六五号は特調財務部長から発せられたものであるし、この文書自体が委任文書であるとすると、もともと特調の所掌になく海上保安庁にあるものを特調が財務部長名義で委任したことになり無意味であるというのほかはないのであるが、原審証人池田法人の供述調書当審における証人池田法人、松永勇の各証人尋問調書によると、右共同通牒第一〇五号によつて所掌分担が定つたけれども、志布志湾の分については鹿児島県で前年度から調査などして、鹿児島県からの強い要求もあり、その他予算交渉についての特殊の材料になつていたところから、特調と海上保安庁とで接衝を重ねた結果志布志湾の分は特に鹿児島県に処理させ、その予算を特調より鹿児島県に流すことを了承し、ただ処理作業の安全監督は保安庁が行うことと取り決めたこと、鹿児島県知事は右通牒により当然処理権限があると了承して処理に当つていた(この点は原審及び当審証人三ツ井卯三男の供述で認め得る)ことが認められる。この事実関係は法的には海上保安庁がその所掌分担のうち、志布志湾の分だけは鹿児島県知事に委任したと解すべきである。(もつとも原審および当審における証拠中には志布志湾の分は特調と海上保安庁と協議の結果海上保安庁より特調に委譲したと解される部分があるが、そうすると結局委譲を受けた特調から鹿児島県知事に委任したことになるわけであるが、前記のとおり作業の安全監督部分を留保していることなどからしても、海上保安庁から鹿児島県知事に委任したと解する)。

以上各認定のとおり本件志布志湾の爆発兵器処理については鹿児島県知事が委任を受けたものと解せざるを得ない。

よつて、つぎに、右の委任によつて鹿児島県知事に国家事務を処理する権限が発生するかどうかを、その後に発出した最高司令官の指示などを総合して検討する。

地方自治法第一四八条によると、普通地方公共団体の長に国の事務を委任するには法律又は法律に基く政令によることが要求されている。これは地方自治法の再三の改正による地方公共団体の自主性の強化、地方公共団体の事務範囲の拡大等の点から機関委任を厳格にする考えを基本にしているわけであり、同第一二項には右の違反を無効とするまでの規定がなされている。しかして、前記爆発兵器類の処理を知事の権限とすることの法律又は政令の公布されていないことは明らかであるから、右共同通牒第一〇五号による鹿児島県知事への委任は地方自治法の上からのみ考えると適法な機関委任とはいえない。

しかし、ここで特に考慮しなければならないことは、冒頭において検討したとおり、本件爆発兵器類の処理は連合国の日本占領中の管理法令の下にあつた事実である。最高司令官は右爆発兵器類の処理について日本政府に処理の責任を指令し、府県知事(鹿児島県知事)に直接処理の指示をしていないことは前述のとおりであるが、これら知事に対し直接指令することの権能は留保していたのであつて、指令を受けた政府は直ちに共同通牒第一〇五号を以てその処理所掌分担を取り決め、特庁の分を都道府県知事に委任し、かくのごとく分掌および委任をなしたことについては志布志湾の分を鹿児島県知事に処理させることを含めて最高司令部の了承を得ていることが当審における証人鴫原修次の証人尋問調書、原審証人三ツ井卯三男の供述によつて認められる。のみならず、昭和二五年一一月二二日特庁技術監督部長より鹿児島県副知事に宛てた特技発第一二三二号添付の最高司令部の北部司令部司令官等に宛てた「爆発兵器処理目標物件報告」と題する文書中7に「日本側の使用に供するための破壊材料を要求する権限軍の爆発兵器処理の使命の遂行を補助する日本側の航路啓開本部出先機関及び都道府県爆発兵器処理機関に供給すべき破壊材料を要求する権限はここに軍爆発兵器処理隊に与えられる。」とあり、9に「各都道府県はその管轄区域内に発見される物件を報告し、軍爆弾処理隊をその要求通りに援助する責任を有する。各都道府県に対しては別紙の用紙の適当部数及び指示が充分に与えられている。物件が日本側で発見された場合には、爆弾処理の責任を有する都道府県が報告書を英文で記載し関係特別調達庁支局に送付し、支局はこれを関係主要司令部のS―4に提出する。」との文言があり、都道府県機関が処理の責任を有していることを明言している。

超憲法的管理法令を発出し得る最高司令官が、日本政府に対し爆発兵器類の処理を命じ(具体的直接的にはスキャッピン二〇七七号)、指令を受けた日本政府が指令の内容を実施するため、その処理所掌分担を定め(共同通牒第一〇五号、および通牒二六五号に際しての取り決め)、本件志布志湾の分については鹿児島県知事に委任し、知事もこれを承諾し、これらの所掌分担、委任について最高司令官の承認を得、最高司令部自体県知事に処理責任のある旨を記載した公文書を北部、南西部、英連邦、横浜各司令官に発出し、該公文書を日本政府に交付し、行政庁は都道府県副知事に示達している以上、最高司令官は、日本政府(行政庁)が県知事に委任したのを有効と認め、知事に処理責任があることを確認し、知事の責任を日本政府に指示したと見るか、又は行政庁の委任は有効であることを確認する旨の指令を出したと同一に解するか、そのいずれかである。前者に解すれば、その確認の指示自体によつて鹿児島県知事は本件志布志湾の爆発兵器類の処理について直接処理権限と責任を有するにいたり、後者に採れば、自治法第一四八条の規定にかかわらず(第一四八条に代る管理法令が発出されたと同じ)鹿児島県知事に対し有効な機関委任がなされたことになる。

すなわち、当裁判所は連合国の日本占領という特殊の管理法令のもとにおいて、最高司令官の指令を実施するために、鹿児島県知事は本件志布志湾の爆発兵器類処理の職務権限を有するにいたつたと判断する。

更に鹿児島県知事が本件爆発兵器処理について職務権限を有することにつき左の補足的理由を附加する。

仮りに前記理由によつて、鹿児島県知事に職務権限が生じないとしても、右処理について行政庁と鹿児島県知事との間のいわゆる公法上の契約である委託契約により鹿児島県知事に委託されたものと解し得る。

公法上の契約は行政行為とはその範疇を異にするので、契約については明示の法律的根拠を必要としないと解すべきであり(国(又は公共関係)の行政庁が法令で定められた所掌のわく内で自由に私法上の契約―例えば賃貸借、請負契約―を締結し得ることは疑問がないし、地方公共団体相互間に各種の事務の委託、機関の共同設置がなされたが、これは別に法令に牴触するものではなく、現在の地方自治法第二五二条の二以下の法的根拠が設けられる前においても契約によつて有効に行われ得たと解すべきである。)、ただ公法関係においてはそれが公共的性格をもつているために法律により規制されている場合が多いわけであるが、法律が明示的に認める場合は勿論、法律が自ら規制していない限られた範囲において法規に牴触しない限度において、直接に国民の権利義務に関係のない事業の実施などについては有効になし得ると解する。本件爆発兵器類の処理のごとく直接に国民の権利義務の得喪・変更に関係のない事実行為については特に委託を禁止する法令もないから、鹿児島県知事が陸上の分は特調から、志布志湾の分は海上保安庁から夫々委託されたものと解する。勿論委託である以上鹿児島県知事は拒否することは自由であるが、これを拒否した形跡は毫もなくむしろ志布志湾の分については自らその処理を要望した結果であること前認定のとおりで、有効な委託というほかない。しかしてこのような委託は私人としての鹿児島県知事を相手にしたのでないことは勿論であつて、これにより公共団体の長たる鹿児島県知事の職務となるのは当然である。このことは、当審における証人石原信雄、長野士郎の証人尋問調書によつて明らかなとおり陸上の爆発物件の処理について、昭和二七年五月一九日の通商産業省事務次官、地方自治庁次長、国家地方警察本部次長、調達庁長官より鹿児島県知事に宛てた二七化第五四六号、地自乙発第一八二号、国警本部発刑第二一号、調達乙発第四五号共同通牒に「陸上における爆発物件の処理に関しては従来調達庁が所管官庁となつてはいたが、今般通商産業省への移管に伴い、現在通商産業省が施行している火薬類取締法との関係も深く、且つ、最近頻発せる事故に鑑みても一日もこれを忽せに出来ない実状にあり、また従来都道府県が実施して来た経緯もあるので、近く立法措置を講ずる予定ではあるが、取り敢えず別紙「陸上における爆発物件の処理要領」により実施することとなつたから了承されたい。」とあり、別紙の陸上における爆発物件の処理要領には、三項に「この通報に基く爆発物件の処理の実施については通商産業省は都道府県と協議し、爆発物件の発堀、廃棄及び払下等による処理に関する事務並びにこれに要する国費の支払及び払下に伴う国庫納金の取扱等の事務を都道府県知事に委託して行うものとする。」とあること、現在もなお右の共同通牒により陸上の爆発物件の処理は各都道府県知事に委託の形式をもつて処理せしめていること、右共同通牒の趣旨は爾今委託して行うというのではなく、従前行つていた都道府県知事の処理の根拠をこの共同通牒によつて明確にしようとしたものであることが夫々認定できるので、志布志湾の分についても右陸上における委託と同一趣旨の委託がなされたと解する十分の合理的根拠がある。

しからば、原判決が鹿児島県知事に本件爆発兵器処理についての職務権限がないとした判断部分は失当であるが、この失当が判決に影響のないことは後記認定のとおりである。

(二) 当時の鹿児島県総務部長三ツ井卯三男が爆発兵器類の処理に関し、支出負担行為を委任され、その職務権限を有するにいたつた理由。

前記(一)に説示したとおり、鹿児島県知事に本来国家事務である爆発兵器類の処理業務を行わせることになつたところから、このような場合には政府はその処理業務費用を支出配付するため支出負担行為担当官を定めるのが通常で、本件の場合も会計法第四八条、予算決算及び会計令第一四〇条により知事の同意を得て適法に当時の鹿児島県総務部長三ツ井卯三男に支出負担行為を委任したことは当裁判所も原審と同一の理由により、これを認めるので、この点についての原判決の理由部分を引用する。なお右三ツ井卯三男の支出負担行為担当業務の中に本件志布志湾における爆発兵器類の処理業務に関するものが含まれていたことは配付された予算が右処理に関するものであること、前記特調財務部長通牒第二六五号の内容、三ツ井が現実に本件処理業務を支出負担行為担当官として遂行して来た事実によつて確認できる。

(三) 以上のとおり、鹿児島県知事が本件志布志湾の爆発兵器類の処理権限を有し、同総務部長三ツ井卯三男がその支出負担行為担当官として職務権限を有していたのであるから、つぎに被告人鶴田、前田、羽矢崎等が右知事ないし三ツ井の補助者としてその職務権限を有していたかどうかについて検討する。

(1)  まず、知事の補助者としての職務関係。

知事が最高司令官から処理責任を指示された場合又は知事が適法に委任ないし委託を受けて国の事務を処理する場合職務権限を有するのは知事であるが、このように知事に職務権限を付与するのはもとより知事以下職員の機構を利用するのが目的であり、地方自治法第一七三条の事務、技術の業務の中には地方公共団体の固有事務は勿論、同法第二条の団体委任事務、その他長に対する委任(同法第一四八条所定)委託事務をすべて含むものと解すべきであるから、知事が委任ないし委託などにより事務処理の職務権限を有するにいたると、吏員は右第一七三条により事務を掌ることになるわけである。しかして同条の「上司の命を受け」とは、事務吏員又は技術吏員の担当すべき事務又は技術は、長、副知事、助役、出納長、収入役、副出納長、副収入役、局長、部長、課長その他上級の職員の命によつて定まることを意味する。すなわち、これら上級の職員の命じた事務又は技術を担当することを意味する。

原判示挙示の証拠によると被告人鶴田は原判示のとおり昭和二三年一一月一七日から同二六年七月六日まで鹿児島県総務部外務課長の職にあつたものであり、被告人前田は昭和二二年二月二八日から同二六年三月三〇日まで同課長補佐、被告人羽矢崎は昭和二五年一月一四日から同二六年七月一三日まで同課庶務係長の職にあつたもので、証第二三号(鹿児島県庁処務細則)によると昭和二五年および同二六年における外事課の所掌事務は、一、終戦事務機関との連絡に関する事項二、占領軍並びに占領軍機関との連絡協力に関する事項、三、外国人の接遇に関する事項、四、通訳並びに飜訳に関する事項五、占領軍各種接収に関する事項六、占領軍兵舎及び家族住宅その他施設七、占領軍関係施設の警備に関する事項八、連合国財産の保全に関する事項九、渉外労務管理に関する事項一〇、その他他課の主管に関しない外国人に関する事項となつて、指令第二号所定の労務管理については所管を明記しているが、爆発兵器類の処理事務についての所掌の明記がない。しかも他課の所管にもなつていない。このように占領軍労務管理について処務細則があるのに爆発兵器類についてないのは両者とも地方公共団体の固有事務でなく最高司令官の指令にもとづいて生じた事務であるが、労務管理は占領軍進駐と同時に直ちにその必要が生じて指令第二号に即応したのに爆発兵器関係は具体的に日本政府に処理指令が発出されたのが昭和二五年二月六日の前記スキャッピン二〇七七号で、右処務細則公布後であることに基因すると考えられる。しかし、原審および当審証人三ツ井卯三男、土橋武友の各供述によると、右スキャッピン二〇七七号以前においても直接占領軍の協力要求があつたので爆発兵器類の処理については前記処務細則外務課分掌二の占領軍並びに占領軍機関との連絡協力に関する事項に該当するものとして外務課が所管していたことが認められるとともに、右証拠並びに当審証人新原鶴義の供述、証第一五号中の昭和二五年五月一日鹿児島県知事より特調長官、特別調達局長宛二五外第一四九号によると共同通牒第一〇五号発出後においても特に処務細則は改正せず、適法に知事の事務になつた以上部下がその補助をするのは当然であり、かつ、従来同一事務を処理していた外務課がその事務を掌ることもまた当然のことと考え主管課を外務課と定め特庁、その他関係先に報告し、同課においてその事務を処理していたこと、この所掌に関し外務課吏員は勿論上司を含めて他課吏員も何等異議のなかつたことが認められる。すなわち、知事以下全吏員当然のこととしていたのである。被告人鶴田、前田、羽矢崎三名も右事務が外務課の所掌分担に属することに何等疑問を有せず、該業務を自己の職務としていたことは、本件爆発兵器類の処理に関する各種公文書に被告人等の職印を使用して報告文書、決済文書、工事検査等に関する文書を作成していること、(この事実は領置にかかる証拠物によつて明らかである)並びに右被告人三名の検察官、検察事務官に対する各供述調書によつて確認できる。

これらの事実は、知事が特別に補助者を任命する文書による形式をとらなかつただけで、外務課吏員を補助者とし、外務課吏員がこれを承諾したことの実質には変りはない。なお、記録によつて認められる昭和二六年九月三日鹿児島県訓令甲第一九号によつて前記処務細則の所管を変更し、外務課の所管を広報渉外課の所管とし、その一〇に「爆薬処理に関するもの」を定めたことは、それ以前外務課において処理していた爆薬処理に関する事項を確認して所定するにいたつたものというべく、右認定の裏付けとこそなれ右認定を妨げる資料とはならない。

しかれば、被告人鶴田、前田、羽矢崎はいずれも鹿児島県知事の補助者として本件爆発兵器類処理についてその職務権限を有したと判定せざるを得ない。したがつて、この点を消極に解した原判決は不当であるが、この違法は判決に影響を及ぼさないこと後述のとおりである。

(2)  支出負担行為担当官三ツ井卯三男の補助者としての職務関係。

昭和二五年三月一七日当時の鹿児島県総務部長が爆発兵器類の処理(本件志布志湾の分を含む)について知事の同意の下に支出負担行為を適法に委任されその業務を執行していたこと前認定のとおりであり、原判示挙示の証拠によると、被告人鶴田、前田、羽矢崎は夫々外務課の課長、課長補佐、庶務係長としていずれも支出負担行為担当官の三ツ井よりその事務の補助を命ぜられ、その職務にあたつていたことが十分認められる。なお補助者となつた理由の説示は(1)における説示を引用する。

そもそも支出負担行為担当官がその補助者を任命するには要式行為を要するものではない。支出負担行為は国の事務であるから、任意に補助者を任命することはできないとの議論もあり得ようが、公共団体の吏員に支出負担行為を委任するにはその長の同意を得ることが必要であつて、本件において同意を得ていることは前記特調乙発第一四八号によつて明らかであるし、このような委任は当然その担当官所属の機構を担当官が利用することを前提としているわけであるから、担当官が知事の同意の範囲で補助者を任命することは何等さしつかえのないことである。そして、担当官より補助を命ぜられこれを承諾した吏員は補助者としての職務権限を有するにいたることは当然である。

昭和二六年九月七日鹿児島県出納長より各部関係課長に宛てた二六出第一九号「予算執行職員等の責任に関する法律施行に伴う補助者任命についての照会」と題する書面(証第一五号中編綴)によると大蔵省主計局において会計検査院と打合せの結果、昭和二五年法律第一七二号予算執行職員等の責任に関する法律(以下予責法と呼ぶ)の解釈運用について、同法第二条の「補助者としてその事務の一部を処理することを命ぜられた職員」とは第一項第一号から直接その所掌すべき事務の範囲を明示された書面による特別の命令を受けた職員のみをいい、人事系統からする勤務辞令はここにいう命令とはみない、又その補助者の実際上の補助者もここにいう補助者ではない。補助者の再補助者は認めないとの解釈をとり、そのように運用するよう指示していることが認められる。このような解釈、運用をするにいたつたのは、この予責法の意図するところが、予算執行職員が職務の遂行に当つて負うべき義務を明確にし、それに対し特別の責任を課することにより法令違反、予算違反の支出を防止し、予算執行の適正を図ることに究極の目的があるために、補助者の責任の範囲を予め明確にせざるを得ない関係からである。したがつて補助者の任命方法は要式行為として書面により命ずることが望ましいのであるが、書面でなくても補助を命じたことおよびその補助事務の範囲が立証できれば補助者も責任を負担することとなるものと解すべきで、文書によらない補助者の任命は無効でそのような補助者は職務権限のない補助者であるといつているわけではない。予責法の解釈としてそのような解釈は到底できない。すなわち、予責法にもとづく執行職員としての責任を有するものは文書により、特別に任命を受けた者に限るわけではなく、しかも予責法上の執行職員でない地方自治法上の補助者は数多くあり得るわけである。むしろ支出負担行為担当官は数多い補助者のなかから最も適当と考える者を予責法の執行職員に任命し、執行の適正、迅速を図るべきで、法のねらいもそこにあることが法文全体から十分窺知できる。したがつて書面によつて任命された予責法上の執行職員でない補助者は一私人の便宜的な補助にすぎないとの論旨は採用の限りでない。また、支出負担行為担当官の補助者は予責法上の執行職員に該当すると否とを問わず、補助者として刑法所定の職務権限を有するものであることは勿論である。

証第一五号(支出負担行為補助者任命綴)によると、被告人鶴田、前田、羽矢崎が本件所為当時支出負担行為担当官から執行職員として文書による任命を受けていないこと、文書による執行職員の任命があつたのは昭和二七年二月八日で、補助者は上田太郎、松井幸人、出口三善、土橋武友、東条正雄、上村直となつており、その後数回異動が行われたことが認められるが、前記認定のとおり、右被告人三者が夫々支出負担行為担当官から補助者として任命されたものであるから(同被告人等が補助者としてその職印などを用いて職務を行つていたことも証拠によつて明らかである)同被告人は支出負担行為担当官の補助者としての職務権限があつたといわざるを得ない。

以上のとおり被告人鶴田、前田、羽矢崎は志布志湾における爆発兵器類の処理について、知事および支出負担行為担当官の補助者となつたのであるから、その補助業務は法令上管掌する職務といえるのである。

原判決は被告人鶴田、前田、羽矢崎の職務権限の生ずる根拠の説示において当裁判所の考え方と異る点があり、その限りにおいては不当であるけれども、右被告人等が支出負担行為担当官の補助者として原判示職務権限を有するとした結論自体は当裁判所の結論と同一に帰するので、右の不当は原判決破棄の理由とはならない。

これに反する弁護人等の各論旨は肯けいに値する部分があるけれども結局採用できない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。なお、一部破棄の理由は事実誤認による。)

(裁判官 二見虎雄 後藤寛治 矢頭直哉)

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