大判例

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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和46年(く)24号 決定

少年 D・U(昭二七・六・二二生)

主文

原決定を取消す。

本件を鹿児島家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、法定代理人父D・T作成の抗告申立書に記載のとおりであるからこれを引用し、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

所論は、要するに少年を中等少年院に送致した原決定は処分に著しい不当があるというに帰するものである。

よつて少年保護事件記録および少年調査記録ならびに当裁判所のなした事実調査の結果により審究するに、少年の犯した本件非行は昭和四五年四月頃から同年一一月二一日に至る間に前後二八回に亘る現金総額二六一〇円および腕時計一個(時価一万五、五〇〇円相当)の恐喝と、昭和四六年二月一七日汽車通学の途上他校の生徒に対して行なつた全治四日間の大腿部の傷害事犯であるが、これら非行の背景をなす諸状況を観察すると、少年は父D・T(当満五五年)、母D・H(当満五一年)間に生まれた同胞五人中第三子長男で、弟D・Jとは双生児であり、D・Jはひ弱かつたせいもあつてずつと母乳で育てられたが、これと異なり少年は生誕の時から丈夫であつたため人工栄養のみで、母の乳房を含むこともなく育てられ、その外は弟D・Jと別隔てなく養育され、さしたる病気もしないで順調に成育し、小学校、中学校と学業成績は中位ながらも無事修学し、高校への進学は少年の希望もあつて県立○○農林を選んだものの、入試に失敗してやむなく汽車通学に片道一時間半を要する○○○学院大学附属高校に入学し、当初少年は機械科を希望したところ、父のたつての希望から電子科を選んだが、もともと少年は勉学が好きでもなくそのうえとりわけ数学や物理は苦手であつたところから、二年生に進級はしたものの電気理論や物理の学科が重い負担となり成績は全く振わず、そのため教科担任の先生から援業時間中に悪しざまに指摘されるに及んで電気や物理の授業時間に出席するのが嫌になり、遂には怠学グループに交つて遅刻や欠席が目立つようになり、出席日数の不足や成績不振から二年生を留年したため、下級生からも軽悔蔑視されるに至つた。少年は一年生の時上級生から何回も小遣銭をたかられた経験があり、又やくざ映画に興味をもち、それからの影響や下級生からの軽蔑に対する反感もあつて、下級生にたかるようになり、金額が少額であつた故もあつて犯行が意外に容易に行ない得たことから恐喝を反復したものであり、傷害は通学の途中些細なことで口論をした同校の下級生から助力を頼まれ深く理由を確かめもしないで軽々に他校の高校生をシャープペンシルで大腿部を傷つけたものであることが認められる。少年はアイキューは限界級にあり、弱志型で自信がないため自ら積極的に行動することは少なく、他に追随し易く、軽佻で落ち着きのない性格特徴を有し、小心でおどおどし内的に緊張の続いた心情にあつたことが認められ、又家庭にあつては弟D・Jは少年と異なり県立工業高校に進み学業成績も良かつたが、そのために少年が家族間で軽視され特別な取り扱いを受けたということはなく、家庭生活に問題のなかつたことを窺うに足りる。

以上の観察の結果をかれこれ対比総合して本件非行の要因を探求すると、少年の生育過程において授乳経験を持たなかつた点を除いて家庭環境には別段問題がなく、又資質面でも不安と落ち着きなさと軽佻性に多少の問題点がなくもないが、これら生育過程の人格形成に与えた影響や性格面の欠陥よりも寧ろ高校生活における環境的不適応が根本的要因をなしていたものというべく、しかも本件非行中傷害は行為環境に支配された偶発的なものであり、又恐喝は多数回に亘つて敢行されているけれども、犯行の動機、実行行為の態様、特に犯行が意外に容易であつたため調子づいて行なつた形跡があり、被害金額も回数に比して極めて少額であつた点などを勘案すると、少年の非行性は決して高度に進昂していたものではないことを窺い知ることができる。

しかるに、少年は昭和四六年二月に本件傷害の非行を機に○○○学院大学附属高校を退学し、怠学グループも次々と退学してそれぞれ遠隔の地に就職しており、少年の非行の要因をなしていた環境はほとんど整理し尽されており、しかも少年は都会生活を嫌つて郷里で家業の農業に従事することを好みかつ希望し、しかも農業が少年に適していることを自覚しており、さらに少年の保護者も少年に対し高校の教科が無理であつたことおよび平素の監督も不十分であつたことを深く反省するとともに、少年が農業、就中米作や畜産に適していることを熟知しており、少年に対し日常の行動を厳格に監督するとともに、少年に水田三反位を耕作させ、さらに肉牛の飼育を計画して生活指導をなすべく誓つており、これらの方策は具体性を有するとともに十分に実効性のあることを窺うに足り、従つて保護者については少年に対し十分な保護能力を有していることを肯定して誤りのないところであろう。しかして本件各非行が発覚するや恐喝の被害の総額を弁償し、傷害の被害者に対しては治療費の賠償や慰謝の道を講じており、被害者らにおいてもそれぞれ少年の非を宥恕していることを認めることができる。

以上の如き本件非行の態様、程度、動機や、少年の資質、環境、非行性の昂進程度および保護者の保護能力ならびに被害感情などをかれこれ総合して勘案すると、少年に対しては、収容による集団指導と矯正教育を施す必要はないものというべく、かえつて在宅のまま保護者の指導監督にゆだねても保護の目的を十分に達成し得る可能性のあることを窺うことができ、専門の指導さえ必要としないと考え得るので、原審の採用した少年を中等少年院に送致した決定には、処分に著しい不当があるものというべく、論旨は理由がある。

よつて、本件抗告は理由があるので少年法三三条二項により原決定を取り消したうえ、本件保護事件を鹿児島家庭裁判所に差し戻すべく、主文のように決定する。

(裁判長裁判官 淵上寿 裁判官 真庭春夫 笹本淳子)

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