大判例

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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和56年(行コ)3号 判決

控訴人

富加見用一

控訴人

益山貞雄

控訴人

山元太

右控訴人ら訴訟代理人

増田秀雄

蔵元淳

増田博

矢野競

被控訴人

有留愛次郎

被控訴人

高山町

右代表者町長

有留愛次郎

右指定代理人

城ケ崎淳一

右被控訴人ら訴訟代理人

堀家嘉郎

松村仲之助

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一〈省略〉

二勧奨退職制度の目的と勧奨の要件

本件勧奨退職制度、即ち勧奨により退職した者に割増退職金を支給する制度の法的根拠としては、地方自治法二〇四条二項の「普通地方公共団体は、条例で、常勤の職員に対し、退職手当を支給することができる」旨の、同条三項の「手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。」旨の各規定を承けて、同法二八四条一項所定の一部事務組合で特別地方公共団体に該る退職手当組合が制定した退職手当条例(乙第二号証)四条一項三号の「その者の非違によることなく勧しようを受けて退職した場合」の退職手当の額を普通退職により計算した額に「一〇〇分の一八〇を乗じて得た額とする。」との規定に基づくものである。

このように地方自治法、退職手当条例では勧奨退職の要件として退職が(一)非違によるものでないこと、(二)「勧しよう」を受けたことを定めるほか、その目的や「勧しよう」の意義、要件などにつき何らの規定をおいていない。

なるほど、原審証人唐鎌祐生の証言及び公知の事実によると、勧奨退職の制度は一般職公務員について戦後国家公務員法、地方公務員法の施行に伴ない公務員の身分保障との関係から条例による定年制も地方公務員法に反するとして従前の定年制が廃止されたことと人事院ないし人事委員会の職階制や分限制度が所期の機能を発揮していないところから、考え出されたものと認められるが、勧奨退職の制度は、その対象者を必ずしも高令に達した者に限らず、職員の人事の停滞、公務能率の低下、人件費の膨張等を回避するため、任命権者が退職を求めたい者に対し、その退職を勧誘し割増退職金の支給を通じて自発的な退職意思を惹起させ、もつて人事の刷新等を通じて公務の能率的な運営に資することを目的としたものであると考える。

しかも、本来、退職の勧奨とは、任命権者がその人事権に基づき、雇用関係にある者に対し任意の退職意思の形成を慫慂し任意退職の申入れないし申込の誘引をなす説得等の行為であつて明文上の根拠をもつ行政行為ではなく、単なる事実行為であるから(最判(第一小法廷)昭和五五・七・一〇労働判例三四五号二〇頁・五二年(オ)四〇五号事件参照)、その説得の手段、方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、割増退職金の支給の有無にかかわらず、もともと任命権者の正当な業務行為として広く許されるべきものである。

そして、本件退職手当条例四条一項三号の「勧しよう」も右の退職の勧奨と同性質であつて、とくに法令によりこれを制限する定めがない限り、任命権者の人事権の自由裁量により時宜に応じこれを行なうことができるものというべきである。

したがつて、地方自治法、退職手当条例に何らの限定がなく、また原審証人唐鎌祐生の証言(とくに、原審記録二三四丁裏〜三三五丁表)によりこれが従来退職手当組合の構成団体である町村において独自に退職手当条例を設けていた関係でその既得権を保障する趣旨の下に何らの制約を設けず、「勧しよう」の基準は各町村の運用に委ねたものといえるから、本件「勧しよう」の場合には、一応任命権者の人事の自由裁量により勧奨を行なうことができ、前示控訴人ら主張二(一)のように必ずしも老令者、病弱者、能力不足者に限定されるものではないし、退職者が特別職へ転職する場合をとくに排除しなければならない理由はない。〈以下、省略〉

(吉川義春 甲斐誠 玉田勝也)

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