大判例

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福島地方裁判所 昭和37年(行)4号 判決

原告 安田健次

被告 須賀川市長

主文

原告の訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三三年三月八日付でなした別紙地籍簿及び地図の作成処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人等は「請求棄却」の判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求の原因としてつぎのとおり述べた。

一、原告は須賀川市大字西川字北別所六七番原野及び同所六九番畑の各土地の所有者であるが、被告は昭和二九年九月一四日、本件土地の所在する西袋地区につき国土調査法によつて地籍調査を施行し、新しく別紙のとおりの地籍簿及び地図を作成し、それに基いて昭和三四年九月八日土地台帳の記載を訂正し、その旨、表示の更正登記をなした。

それがため、原告所有の別紙添付図面斜線部分は、隣地の安藤定治所有の字北別所六二番の範囲に入り、同人から所有権の侵害を受ける結果を来している。

二、国土調査法の地籍調査作業規程準則第二五条、同第二六条、同第三三条、同第三六条によれば、地籍及び地図の訂正は、土地所有者の同意又は同意書を必要とするに拘らず、被告はこれなくして本件地籍及び地図の訂正をしたものであるから右地籍簿及び地図の作成処分はいずれも無効というべく、よつて請求の趣旨記載のとおりの裁判を求める。

被告指定代理人等は答弁としてつぎのとおり述べた。

一、原告請求原因第一項記載の事実は認めるがその余の事実は否認する。

二、すなわち、被告は昭和二九年九月一四日国土調査法第六条第三項の規定に基き、福島県知事から国土調査の指定をうけたので、同三一年三月三〇日付をもつて原告等関係者に対し地籍調査作業規程準則第二三条により、一筆調査をなす旨の通知を発し、同年四月七日施行の調査に際しては原告方からは同人の長男である安田健一が原告の代理人として現地で立会つたうえ、同人の指示・同意の下に土地の形質変更を行つたものである。

三、しかして、右指示・同意に基いて、本件地籍簿及び地図を作成し、昭和三三年三月一一日から同月三〇日までの間、須賀川市西袋支所において一般の閲覧に供したものであるが、原告は同月二六日、自ら本件地籍及び地図を閲覧したうえ、地籍調査票に、調査及び測量の結果が実地と相違ないことを承認して同意捺印を行つている。

四、以上のとおり、本件地籍調査は手続上も適法に行なわれたのみならず、その内容も適正なものであつて、何ら無効原因は存しない。

(証拠省略)

理由

職権で按ずるに、原告の本訴請求は、要するに、被告須賀川市長の行つた国土調査法に基く地籍簿及び地図作成行為が行政処分であることを前提に、その無効原因を主張して当該処分の無効であることの確認を求めるというにあるが、およそ行政事件訴訟の対象となりうる行政処分であるためには、すくなくとも行政庁の公権力の行使としてなされた行為が、なんらか国民の権利自由を侵害する可能性を有することを要すると解すべきところ、国土調査法による地籍調査は、国又は公共団体等が国土に関する各種施策を策定し又はこれが実施の円滑化を図るための基礎的資料を蒐集する目的の下に「毎筆の土地について、その所有者、地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行い、その結果を地図及び簿冊に作成する」ものであるから、その限りでは、土地の現況を調査記録するという単純な事実行為にとゞまり、調査の成果たる地籍簿及び地図は行政庁の内部における一資料の意味しかなくそれらの記載によつて国民の権利自由が侵害される余地は全く存しないものといわざるをえない。

従つて、たまたま国土調査に際し土地の境界を誤つた事実がかりに存したとしても、その為に真実の権利者が権利を失うものではなく、逆に相手方が権利を取得するものでもないのであつて、原告は隣地の所有者を相手どつて所有権確認又は境界確定の訴えを提起すれば必要且つ充分というべきであり、その訴えで国土調査の成果と異る境界線を主張することは何ら妨げないのである。もつとも、その際、国土調査において認定された境界線の位置が、或いは有力な証拠方法とされることが全くないとはいえないが、これにより一方当事者の蒙る不利益は全く間接的かつ事実上のものに止まり、到底権利自由の侵害というに値しないことは言を俟たない。この理は、地籍調査に際し合筆又は分筆があつたものとして処理され、或いは地番の変更をみた場合も同様であつて、これらの場合に、法は土地所有者の意思を尊重する建前からその者の同意を要件としているが、(地籍調査作業規程準則第二四条から同第二六条まで、同第三六条等)これら分・合筆・地番変更は単に土地の個数、その呼称の問題にすぎず、これにより権利関係が左右されるものでないことは勿論のこと、国土調査後といえども土地の所有者は任意、合・分筆して旧に復することは可能であるから、かゝる場合であつても国土調査における地籍簿及び地図作成行為にいわゆる行政処分性を認めることは困難といわなければならない。

以上説示のとおり被告須賀川市長のなした地籍簿及び地図の作成行為は、いわゆる行政処分性を欠き、行政訴訟の対象とはなりえないものであるから、これが無効確認を求める原告の本件訴えは不適法として却下を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本晃平 小野幹雄 神作良二)

(別紙)

土地地籍簿

所在       地番 地目  地積   所有者

反畝 歩

須賀川市大字西川字北別所 六二 山林 五四〇三 安藤定治

〃       六三  畑 二七二六 安田平次

〃       六五         安田善吉

〃       六七 原野  二〇三 安田健次郎

相続人安田健次

〃       六九  畑 二九一二 安田健次郎

相続人安田健次

〃        七  田  五二一 安田喜栄

地図〈省略〉

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