大判例

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福島地方裁判所 昭和38年(む)25号 判決

被告人 小林末彦 外四名

決  定

(被告人氏名略)

右の者等に対する公職選挙法違反被告事件について、弁護人石川芳雄から、福島地方裁判所裁判官菅野保之に対する忌避申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件忌避の申立を却下する。

理由

本件忌避申立の理由は、忌避申立書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用するが、申立人の主張は、要するに、本件被告事件の審理を通して不公平な裁判をする虞があると信ずべき徴表として、菅野裁判官の訴訟指揮ことに証拠調手続における尋問の方法、証拠の採否等について、抽象的または具体的に多数の例を挙示し、これらの事例の累積にかんがみ、同裁判官が、本件被告事件の単独裁判官または合議体の裁判長として、検察官の公訴維持に過大の信頼をよせ、かたがた本件被告人等の一部を起訴前の勾留裁判官として勾留した事実と相俟つて、被告人等の罪責をすでに証拠調の当初から予断を抱きつつ、現在まで審理を進めてきたのではないかとの疑念を濃厚に感知しうるものであり、したがつて、同裁判官が不公平な裁判をする虞があるというべきであるから、本件忌避の申立に及んだ、というものである。しかして、右の主張を仔細に検討すると、申立人は、菅野裁判官のなした箇々の訴訟指揮等をとらえて忌避原因ありと主張しているものではなく、これら抽象的または具体的に例示する箇々の事実を、全体として綜合考察するにおいては、あたかも一箇の強力な忌避原因を構成するかの如く立論しているのである。しかしながら、刑訴法第二二条は、忌避権濫用防止の見地から申立権者の被告事件に関する「請求又は陳述」があれば、当該の裁判官の実体的な審理をうけることの暗黙の容認があつたものと認め、その後の忌避申立を許さないものと解すべきところ、かような申立権者の箇々の実体上の訴訟行為に忌避原因を遮断せしめる効果を付与する同条の趣旨に照すと、いやしくも法廷外に存するため一般には申立権者の現認しえないような忌避原因と異なり、申立人の指摘する如き裁判官の法廷における訴訟指揮等に関する限りはまずひろく当事者に認められている異議申立の制度等によつて、不公平な裁判を阻止して、自己を防禦する機会と権利を充分に活用することが期待されているのであり、これによりその目的を達し難く、やむをえず、裁判官を忌避する必要のある場合といえども、次に行なわれるべき請求又は陳述の前に忌避の申立がなされるべきことを要求しているものというべきである。それゆえ、公判廷において逐一菅野裁判官の訴訟指揮を現認した申立人が、公判過程における訴訟指揮を後に一括考察して一箇の忌避原因として構成し、これを理由に忌避申立をなすが如きは、法律の容認しないところといわなければならず、本件忌避の申立は、とうてい適法なものということはできない。

かりに、申立人の主張する箇々の具体的な例示をもつて、各別の忌避原因の主張なりと善解するとしても、被告事件に関する実体上の訴訟行為、たとえば、証拠調の請求、右の請求に対する同意、不同意あるいは異議がない旨の陳述、さらに証人に対する尋問、反対尋問が、すべて前記刑事訴訟法第二二条にいう「請求又は陳述」に該当するものと解すべきところ、申立人が忌避原因にあたると主張する各事実は、いずれもその後になした申立人の請求又は陳述によつて消滅したものであることは、本件公判記録を詳細に検討するまでもなく、申立書の記載によつて明らかなところであるから、本件申立は結局不適法なものとして却下を免れないものである。

よつて、刑事訴訟法第二三条により主文のとおり決定する。

(裁判官 松本晃平 橋本享典 神作良二)

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