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福島地方裁判所平支部 昭和32年(わ)202号 判決

被告人 三浦俊平 外一名

主文

被告人三浦俊平を禁錮一年に処する。

被告人佐藤晴美を禁錮八月に処する。

訴訟費用は全部被告人両名の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名はいずれも普通自動車運転の免許を受けている者で、東京都中央区銀座四丁目四番地に本店をもつ磐井鉱業株式会社に雇われ貨物自動車の運転の業務に従事中、鉱石粉砕機(ボールミル)及びその附属品ライナーなど重量合計六屯位を同会社所有の五十六年型ふそう号十屯積貨物自動車(車輛番号一す〇九一〇号、車輛重量八六八五瓩)に積み込み、該自動車を共同運転して東京都内から宮城県気仙沼市に在る同会社松岩鉱業所まで運搬することを命ぜられ、昭和三十二年五月十七日該自動車及びその積載物件の高さ地上から約三、六一米運転者を含めた全重量十五屯余になつたものを、被告人両名が該自動車の運転手席又は助手席に同乗して交互に操縦運転し、東京都内から国鉄常磐線にほぼ併行している六号国道を北進し、福島県平市附近からは被告人佐藤が助手席に座を移し被告人三浦が該自動車の操縦に当り、時速約三十粁の速力で同日午後八時十五分頃同県双葉郡双葉町大字前田字反町地内に在る右常磐線第六陸前浜街道架道橋(橋桁の長さ約六、四〇米路面部分の長さ即ち橋台と橋台との間隔約五、四〇米)の手前にさしかかつた。同架道橋は他の架道橋に比べてその高さ即ち同橋桁の下部と路面との間隔が路面中央部において約三、五六米乃至三、五八米に過ぎないので、該国道を平方面から来て同架道橋下を通過する者の注意のために該架道橋の手前六八米余の路傍に積荷の高さ制限三米の道路標識が樹てられている状況であつて、同被告人はそのまま該自動車を通過さすことができなかつたわけであり、又同被告人は、該自動車の積載物件を含んだ地上からの高さが約三、六〇米に達していたこと並に累次にわたる同国道通過の経験により該架道橋に関して前示のような積荷の高さが三米に制限されていることをいずれも認識していたものである。従つて、強いて該自動車を通過させようとすれば該積載物件の上部を該架道橋の下部に衝突させる虞れがあるから、かかる場合同被告人は目測或は一旦停車などの方法によりその通過の可能かどうかをよく確め又は被告人佐藤の協力を俟つなどその衝突を未然に防止するについての適当な措置を講ずべき自動車運転者としての業務上の注意義務があるに拘らず、被告人三浦はこれを怠りただ該自動車の速力を時速約十五粁に減じただけで漫然該架道橋の下を通過しようとしたため、該自動車に積載した前記鉱石粉砕機の歯車の上向き部分を、該架道橋の橋桁(同橋桁の山側の下部において東京寄り((南側))橋台接着部分から中央に向つて約二、七一米乃至二、九七米部分附近)に相当巨大な打撃力をもつて衝突させたので該橋桁全体をその東京寄り南端附近で約八糎、仙台寄り北端附近で約二十五糎東方に移動させその反動で該鉱石粉砕機をその自動車荷台に緊縛した鉄線(針金)が切れ該粉砕機をその荷台上後方に一米余も移動させ、その際該粉砕機の排鉱口の部分がはね上り該橋桁の中央連結板附近を突き上げたりなどして結局右常磐線の汽車線路を右橋桁該当部分で同程度東方に彎曲させた。被告人三浦はその操縦している自動車を前記のように該橋桁に衝突させた場合右衝突に引続き直ちに該橋桁延いては線路に異状がなかつたかどうかを点検してその異変の発見に努め、前記のような異変を発見した場合汽車の脱線顛覆の虞れがあるから速かに右異変の事実を最寄り駅などに通報し、又進行して来る汽車に対して燈火或は焚火の方法などによつて危険の合図を為し、汽車の顛覆を防止すべき注意義務及び該汽車に現在する人の死傷を防止すべき自動車運転者としての業務上の注意義務があり、被告人佐藤は前記自動車が橋桁に衝突した事実をその場において知つたのであるから爾後該自動車の共同運転者として被告人三浦と同様該点検並びに危険防止の業務上の注意義務があるに拘らず、被告人両名はいずれもその場において右橋桁の衝撃痕を認め又前記注意義務を果たすについて相当の時間的余裕があつたのに拘らず前記橋桁及び線路についての異状点検を為さず従つて又汽車往来の危険防止について何一つ機宜の措置を講じなかつたため、同日午後八時三十三分頃常磐線下り第二〇三号急行列車北上号の運転者は時速約七十五粁で該架道橋にさしかかり、該架道橋附近において非常制動を施したけれども該列車の機関車炭水車及び客車五輛を前記線路の彎曲に基き該架道橋北端附近において脱線又は顛覆させ、因て同機関車乗務の機関士新藤英雄同機関助手遠藤清治並に乗客東京都板橋区板橋四ノ一二八八松浦錠次郎の三名をその場で即死させた外別紙乗客滋賀県神崎郡能登川町大字塩見七六六富江三郎外三十八名に対し治療日数約一週間乃至約百四十日間を要する傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

而して被告人両名の判示注意義務及び業務上の注意義務違反の点については、

先ず被告人三浦は、自己の運転する自動車の積載物件を含む地上からの高さが約三、六〇米であることを認識していたこと判示のとおりであるが、当公廷において判示高さ制限の道路標識は当時立つていなかつたためか又傾斜していたためかこれを現認しなかつたと述べているが、右道路標識が本件事故直前に立つていたことは前記認定の通りであり、この点に関する当公廷の証人大和田清夫の証言によるも未だ右認定を覆すに足らない。又仮に右道路標識が傾斜その他の理由によつて通常の状態において現認することができなかつたとするも、同被告人は自動車を運転して、その附近を通過した数度の経験があり、且該架道橋仙台寄り国道に同種の高さ制限三米の道路標識の存立しているのを知つていたことは同被告人の自認するところであるから、該架道橋の高さなどについて詳細の点はとにかく本件自動車を通過さすことができる程度の高さであるかどうかはこれを認識できた筈である。若しこれらについて疑問の点があらば一時停車してこれを確め、又共同運転者である被告人佐藤の力を藉りて該自動車の誘導通過を図るなど該衝突を避けるべき業務上の注意義務あることは自動車運転者として道路交通の安全確保の点からも当然のことと言わなければならない。

次に被告人両名に自動車運転者として右衝突した架道橋を点検して異変の発見に努力すべき業務上の注意義務があるとの点については、被告人佐藤は当公廷において右衝突の直前は自ら本件自動車の操縦を為さず仮睡の状態に在り衝突後初めて被告人三浦から起されて目を醒まし右衝突の事実を知つたので、右衝突の打撃力についてもこれを知らなかつたと述べているが、被告人佐藤の検察官に対する昭和三十二年五月二十四日付供述調書によれば、被告人佐藤は該衝突による衝動及び自動車積載物の落下した物音などと被告人三浦の言葉によつて目を醒ましたこと及びその際ボールミルを緊縛した鉄線が切れて後方に移動し附属品のライナーが路上に落下したのを現認したこと並に該衝突によつて該架道橋の橋桁にできた衝撃痕を現認したことを認めることができ、従つて又被告人三浦は勿論、同佐藤もその衝突の際の打撃力が相当巨大なものであつたことはこれを知つていたものと認めるのが相当である。単純軽微な接触ならばとにかく、相当巨大な打撃力によつて衝突したものとすれば該橋桁の移動その他何等かの異変を発生したのではないかと予測することは該架道橋の橋桁の規模構造と総重量十五屯余の本件自動車との対比上通常人としてもなし得るところであり、又これを予測しなければならない。特に被告人両名のように該自動車の共同運転者として該自動車の積荷の衝突後の移動状況及び該橋桁の衝撃痕を現認している以上、該橋桁の移動その他これに類する異変を予測し得られるものと認めるのが相当であるから、被告人両名はいずれも自動車運転者として右橋桁の異変の有無についてこれが点検を為し、その発見に努力しなければならない。若し右橋桁の点検をするならばその移動並に汽車線路の彎曲をも発見するのは当然であり、右線路の彎曲等によれば進行して来る汽車の脱線又は顛覆の事故を発生し該列車に乗り込んでいる機関士その他の乗務員をはじめ乗客等に死傷を与える危険があることは通常人においてもこれを予測し得るが故に、該橋桁の衝突事故を発生した自動車の共同運転者である被告人両名はいずれもこれを予測し得られるものと認めるのが相当であるから、夫々右橋桁の点検を為してその異変の発見に努力し若しその異変を発見した場合には速かに右異変の事実を最寄り駅などに通報し又進行して来る汽車に対して燈火又は焚火等の方法によつて危険の合図を為し危害の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務あることは自動車運転者としての業務の本質上当然と言わなければならず、且かかる刑法第二百十一条前段の業務上の注意義務は、とりもなおさず刑法第百二十九条第一項において要求されている一般人の注意義務でもある。

而して本件橋桁の移動と汽車の顛覆との間に十五分位の余裕があつたこと及び被告人両名がいずれも判示点検並に汽車顛覆及びこれに伴う危害防止について何等の措置を為さなかつたことは既に認定した通りであり、他面、被告人等において、燈火又は焚火等の方法により合図すべき材料例えばガソリン、ボロ布、マッチ等を所持していたことは、当公廷における被告人等の供述により明らかであるから、これらを用いて合図をするときは、該架道橋がら東京方面に約九〇〇米にわたる見通しのきく直線区間があるという線路の状況(この点は前掲当裁判所の本件架道橋に関する検証調書により認める)と前示時間的余裕とに鑑みると、汽車顛覆防止の余地が十分存在していたと認めざるを得ない。

しかるに、被告人三浦は判示自動車を該架道橋の橋桁上に衝突させて該橋桁を移動し線路を彎曲したに拘らず該橋桁の点検を為さずしてその異変を発見しなかつたので、又被告人佐藤は右点検を為さずして亦右異変を発見しなかつたので、いずれも危害防止について何等の措置を講ずることなく遂に右橋桁の移動に因る線路の彎曲に基いて判示汽車を顛覆させ判示死傷の結果を発生したこと明らかである。

以上判示罪となるべき事実を認定する。

(弁護人等の主張に対する判断)

先ず被告人等が本件自動車の運転に当つてその高さ及び運搬経路などについて出発地警察署長の許可を得ているので、本件自動車の運転については何等違法不当の点はない、却つて本件架道橋の高さが不当に低かつたのであるとの点については、右警察署長の許可を得ていたことは認められるが右許可の存在する事実によつて右自動車の通過できない架道橋において事故を起してもその業務上過失の責任を免れ得るという道理はない。

又被告人三浦は本件架道橋の下を通過するため時速約十五粁の速力に減じていたので本件事故発生につき何等の措置をも講じなかつたものではないとの点については、既に認定した通りこれをもつて未だ適切な措置ということはできない。同被告人が犯時二十年未満の少年であつたことは認められるが、同人は普通自動車の運転免許を得て貨物自動車運転の業務に就いていた者であり身体の発達も少しも成年者に比して劣つているとも認められないので、同人の過失認定について特に考慮するの要ありとする弁護人の主張はその理由がない。

次に本件事故発生の現場は東京方面から直線路上に在つて見通しの利く個所であるから、線路の彎曲状態は該被害列車の機関士においてこれを確認し急停車その他応急措置によつて本件事故を避け又は軽減することができる筈であるのに、脱線直前に急停車の措置をとつた形跡がないとの点については、判示のように被告人等において危害予防のための合図等をなしていないのに拘らず該機関士において有効な急停車措置を取り得たと認めるに足りる証拠はなく、仮に弁護人主張の通り該機関士がその急停車措置につき過失の責があつたとしてもこの場合被告人両名の判示過失の責を免れることはできない。

国鉄の施設に係る本件架道橋が大正八年十二月六日の内務省令第二十四号道路構造令による最低建築限界である四、五〇米にも及ばず同架道橋下を通過する自動車などの交通を阻害しているとの点については、なるほどその主張のとおりであるけれども、さりとて、被告人両名の過失責任に何等影響を与えるものとは認め難い。同架道橋が明治三十七年の架設にかかる相当の古さで橋桁のアンカーボルトは腐朽し大いにその効用を減殺し橋台の石積み部分に亀裂があり、国鉄においてその保守や検査を怠つていたため本件事故を発生させ又はその被害の程度を軽減さすことができなかつたという主張については、当裁判所においても本件アンカーボルトの素質形状等が新品に劣り又石積み部分の亀裂を認めない訳ではないけれども、国鉄においてもその保守に注意し時々点検し或は定期検査を行いいずれの点においても列車運行の安全については支障のないことを認めていたもので、右アンカーボルトや石積み部分の異状が本件脱線顛覆の原因となつたものでないことは前記樋浦大三等の鑑定書によつてこれを認め得られるばかりでなく、前記鑑定人樋浦大三の当公廷における証言によれば却つて右アンカーボルトが仮令新品であつても本件と同一の事故を起したものと認められる。又同橋桁が東京寄りと仙台寄りとで橋桁の移動の幅を異にしているのはアンカーボルトの腐蝕や折損の程度によるものでこれこそアンカーボルトの腐蝕の影響であるとの主張については、該橋桁に対して衝突した自動車の打撃力の方向及び程度によつて差異の生ずることのあるのは当公廷の証人西村竹次郎の証言を俟つまでもなく推測し得られるところであり、そのアンカーボルトの腐蝕などに影響されたものでないことは前記樋浦大三の証言によつてもこれを認めることができる。同じ国鉄の架道橋の施設についても他の架道橋においては例えば金町の第一浜街道架道橋はその橋桁の支承が沓(シュー)を設けその中にアンカーボルトを打ち込み且シューの下部にこれを止めるリブがコンクリートに打ち込んでありその他積荷重に対する抵抗力について、工夫施設してあるのに本件架道橋にかかる施設のなかつたことが本件橋桁の移動を容易且大ならしめたものであるとの主張については、当裁判所の検証の結果に徴するも未だ全部の架道橋について弁護人主張のような特別の施設をしているのではないのみならず、仮に右の工夫施設をしていても本件のような衝突事故について完全な抵抗を示して橋桁の移動を阻止し得ないことは当公廷の証人西村竹次郎の証言によつてもこれを認めることができる。

尚被告人等がいずれも本件自動車の衝突によつて橋桁が移動することはこれを想像だもしなかつたという主張については、橋桁の設計についての根本原則が同部に敷設してある線路上を列車が安全に通過するために必要な圧力を考慮しているので、縦の圧力に対して耐えることに重点を措き横からの圧力に対しては台風、地震等の横振動を考慮する程度で横からの打撃に対して割合に弱いことは前記鑑定人の当公廷における証言によつてもこれを認め得られるけれども、該橋桁が判示のような比較的小規模であるのに対し、判示のように本件自動車の大きさ、高さ殊に鉱石粉砕機という強固な金属製品を相当な速度による打撃力によつて衝撃したばかりでなく、これにより粉砕機が後退し橋桁に衝撃痕を与えているのを現認していながら右橋桁に移動その他何等の異変をも発生しないと思うことは、常人としても有り得べからざることと言わなければならない。

以上いずれの点よりするも弁護人の主張はその理由がないのでこれを排斥する。

(法令の適用)

各被告人の判示所為中過失による汽車顛覆の点は刑法第百二十九条第一項後段罰金等臨時措置法第二条第三条に、業務上過失致死傷の点は刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第二条第三条に各該当し、一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第一項前段第十条により最も重い機関士致死の罪の刑に従い夫々禁錮刑を選択処断することとし、訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により各被告人の負担とする。

本件起訴事実によれば、過失に因る汽車顛覆の外に過失に因る汽車往来の危険についても起訴しているが、既に過失に因る汽車往来の危険を生じその結果汽車の顛覆を来たした場合は右危険罪は顛覆罪に吸収せられるものと解するのが正当であるから敢えて他に右危険罪の成立を認めないが一罪の一部として特に無罪の言渡はしない。

仍つて主文の通り判決する。

(裁判官 梶村謙吾 早坂弘 福森浩)

(傷害乗客一覧表)〈省略〉

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