大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

金沢地方裁判所 昭和33年(行)1号 判決

原告 村田円得

被告 七尾市

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は昭和三十二年七月二十日原告所有の七尾市小島町九の一番の一山林二反四歩につきなした公売処分を取消せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

原告は七尾市に居住する者であるが、被告により県市民税、固定資産税、自転車荷車税等を賦課された。しかし原告は僅かの収入で生活する者なるため右税金の納入が滞り勝であつたところ、被告から、昭和二十七年第三期分以降の右諸税合計金二万九千三百二十円、延滞金六千五百円、延滞加算金千四十円、督促手数料金五百円、総計金三万七千三百六十円につき、滞納処分として原告所有の前記山林一筆を差押えられ、昭和三十一年十二月十五日附で同月二十七日公売する旨の通知があつた。しかし原告は同月十四日金二千円、同月二十日金千四百五十円各納入したので、右公売期日は同三十二年四月五日に延期され、右期日に金二千円納入したところ更に同年六月二十日に延期され、右期日の前日金千円納入したところ、更に同年七月二十日延期された。右公売期日にも原告は公売時刻の四十分前即ち午前九時二十分頃金二千円納入して係員に公売の延期方を依頼して帰宅したところ、同日午前十一時頃に右公売が実施され金十三万円で訴外田治吉俊に落札したことを知つた。そこで直ちに金三万千円を調達し、被告係員にこれを渡して公売処分の取消方を依頼するとともに、右処分の日から一ケ月内に別紙記載内容の文書をもつて右公売処分につき異議の申立をした。しかし右異議に対し何等の決定もなされない。

なお右公売処分は次の理由から違法である。

(1)  前記第四回目の公売期日に原告は金二千円納入したので当然延期されるものと思つていたのに、これに反し、また被告は金八千四百五十円納付されているのに入金なきものとして当初の差押金額金三万七千三百五十円につき公売した。

(2)  競落人訴外田治吉俊の先祖は、百年前頃に原告家から養子に行つている間柄であり、同人は原告と同町内に住み、被告の駐在員として間接に税務に関係があるから、国税徴収法第二十六条により競落人になる資格のない者である。

(3)  公売された山林は時価二十万円以上で、該地の土砂の採掘売却代金十万円を加えると金三十万円の価値がある。

(4)  公売処分を急ぐ必要がないのに、しかも原告が金二千円納入した直後に事情を知る訴外田治吉俊に落札したことは公正を欠く。

よつて本件公売処分の取消を求めるため本訴に及んだ次第である、と陳述した。

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として、

原告が七尾市に居住する者であること、原告から本件公売後一ケ月以内に別紙記載内容の文書を受取つたことは認める。しかし右文書は適式の異議の申立とは認められない。原告は田七百七十六歩、畑三百五十七歩、山林五畝二十五歩、宅地二百十七歩六合二勺及び居宅建坪二十三坪、倉庫建坪十二坪二階十二坪、物置五坪五合、を所有し、これの収入によると、賦課された税金を滞納しなければならない程課税額は過重でない。しかるに原告は、昭和二十六年度第一期県市民税、固定資産税、自転車荷車税計金七千四百七十円を滞納したので被告は昭和二十七年十二月十八日原告所有財産を差押えた。原告は右滞納処分後第一回分として同年十二月二十二日金三百十円、同二十九年一月四日金五百円、同年一月六日金千円、同年三月十五日金百十円、同三十一年六月十八日金二百九十円、合計金二千二百十円納入したのであるが、同二十八年度以降の課税分については納入しない。

よつて昭和三十一年十二月十五日附で同月二十七日公売執行の通知をしたところ、原告は同年十二月十五日金二千円、同月二十日金千四百五十円各納入したので公売は中止した。しかしその後も納入しないので同三十二年四月五日附で同年四月十七日公売する旨の通知したところ、同年四月九日金二千円納入し更に右公売期日に、同年四月二十日までに金一万円納入するからと申出たので公売を延期したが、右金一万円は支払われなかつた。次で同三十二年六月十一日附で同年六月二十日公売する旨の通知したところ、同年六月十九日金千円納入して公売中止方を申出た。原告は右申立に対し公売を延期しない旨告げたが公売期日に買受希望者がなかつたので、同年七月二日附で再公売を同月十日に執行する旨通知した。原告は公売当日金二千円納入して公売中止方を申し出たが、被告は定刻までに全額納入なき限り執行する旨伝え、原告から納入なかつたので午前十時公売を執行し、訴外田治吉俊に金十三万円で落札し、売却決定したのである。

原告は右決定後も金三万千円を持参して公売取消方を申し出たが、被告は応じられない旨申し向け、原告が置いて帰つた右金額は被告で保管している。

公売は内入金によつて延期さるべきものでなく、被告は滞納者に公売決行の通知すべき義務もない。原告が納入した内入金はすべて滞納金に充当した。また競落人である訴外田治吉俊が原告の親戚かどうかは被告の関知しないところであり、同人は町会長であるが税務に関する官吏、公吏、雇員でないから国税徴収法第二十六条の制限を受けず、買受資格を有する。なお公売した山林は雑木材で用材にする木は数本しかなく、当地区の相場では歩当り金百円乃至二百円であるから、被告は歩当り金二百円を見積り、二反四歩金十二万八百円と最低価格を見積つた次第であつて、被告の公売処分に違法はない、

と陳述した。

理由

先ず本訴の適否について案ずる。

本来行政処分の取消を求める訴はその取消の対象である行政処分をした行政庁を被告とすべきで、その処分の効果の帰属する国又は地方公共団体を被告とすべきでない、これを本件についてみると、原告は公売処分が違法であることを理由にその取消を求めるのであるから、その訴は処分行政庁を被告とすべきであつて地方公共団体たる七尾市を被告とすべきでない。これを被告とした本件訴は不適法である。

なお本件訴は、市町村民税、固定資産税、自転車荷車税の滞納処分の取消を求めるものであるが、この取消を求める訴を提起するには、その前提としてその処分を受けた日から三十日以内に市町村長に対し異議の申立をし、その申立に対する決定を経なければならないのである(本件処分時施行の地方税法第三百三十一条、第三百七十三条、第四百五十九条の各第二項第四項第七項)ところで本件では、原告は、公売処分の日から三十日以内に別紙記載内容の文書をもつて異議の申立をしたがその決定がなされないものであると主張し、被告は右文書を所定期間内に受領したことを認めるが、適法な異議の申立と認められないと争うので案ずるところ、別紙記載文書の内容は処分の不法不当を指摘して異議を申立てているものでなく、単なる歎願書と見るべきであるから、これをもつて異議の申立があつたことにはならないし、他に異議の申立をし、その決定を経たことの証拠がないから、原告の本件訴は前提要件を欠く不適法のものである。

よつて原告の本件訴は本案について判断するまでもなく不適法として却下すべきであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山市次 干場義秋 志鷹啓一)

(別紙)

この二十日午前十時に税金の滞納の為競売公告されたので、当日九時半に二千円を納めて猶予方を依頼せるも落札してしまいました。私は金が都合つき次第持つて行くつもりでいたのに、当日家に安心していると友人が来て君の山林が落札してしまつたとの報に滞納金三万円を午後三時頃行つてその日納めて来ました。私の滞納は尤も悪いには違いないが、依頼して行つた事を聞かず永年昔から所有している山林が、人手に渡つてしまつたとなると残念でなりません。何とか善処方を御願いします。

小島町二丁目 村田円得

七尾市長殿

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

本サイトは報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること)を事業としており,掲載された全ての情報は報道等に活用することを目的としています。

©daihanrei.com