大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

長崎地方裁判所 昭和37年(ヨ)82号 判決

申請人 御手洗仁 外一一名

被申請人 大村タクシー株式会社

主文

申請人御手洗仁、同小川信昭、同戸川英雄、同沖進、同上原久夫、同田中進、同福島守、同白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝が被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮りに定める。

申請人岡本強の本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は、これを一二分し、その一を申請人岡本強の負担とし、その余を被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一、当事者双方の申立て

申請人ら訴訟代理人横山茂樹は、「申請人らが被申請人に対して雇傭契約上の権利を有する地位を仮りに定める。申請費用は被申請人の負担とする。」との判決を求め、被申請人訴訟代理人らは、「本件仮処分申請を却下する。申請費用は申請人らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

一、申請の理由

(一)  申請人らは、いずれも、旅客運送を営業とする被申請会社から雇用され、自動車運転員として勤務していたものであり、かつ、被申請会社の従業員たる労働者によつて組織された大村タクシー労働組合の組合員であつたものである。

(二)  ところが、被申請会社は、まず昭和三七年六月二一日には、申請人御手洗仁、同小川信昭、同戸川英雄、同沖進、同上原久夫、同田中進、同福島守の七名に対し、ついで同月二七日には、申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝、同岡本強の五名に対し、それぞれ解雇の意思表示をなし、現在におよんでいる。

(三)  しかし、右の解雇の意思表示は、無効である。

(四)  そこで、申請人らは、被申請人を相手方として解雇無効確認の訴えを提起すべく準備中であるが、申請人らは、いずれも、被申請人から雇用され、かつ、これにもとづく賃金収人によつてのみその生活を維持するほか他に方途のない労働者なのであるから、被申請人に対する右の本案判決の確定を待つていては、その生活は危殆にひんし、いちぢるしい損害をこうむることになるので、この損害を避けるため、本件仮処分の申請におよんだ。

二、申請理由に対する被申請人の答弁並びに抗弁

(一)  前記申請の理由中、(一)(二)の各事実はいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  申請人岡本強は、昭和三七年九月一四日、被申請会社に対し、退職の申出をなして、被申請会社から退職し、大村市にある自動車教習所に教師として就職勤務し、現在におよんでいるのであるから、同申請人については、もはや本件仮処分の必要性は存しない。

(三)  本件各解雇は、いずれも、被申請会社の従業員就業規則にもとずく懲戒解雇であつて、その該当事実並びに条項は、つぎの(1)(2)のとおりである。

(1) 申請人御手洗仁、同小川信昭、同戸川英雄、同沖進、同上原久夫、同田中進、同福島守関係

(イ)右申請人ら七名は、共謀して、もしくは、同時に、昭和三七年六月一八日午後九時三〇分頃、被申請会社国鉄大村駅前営業所において、被申請会社支配人上野正一から車輛の納金、メーターのメ切等の業務の執行を命ぜられて被申請会社のためその業務を執行中の被申請会社の従業員岩崎兼久に対し、その周囲をとり囲んで、足で同人の身体をふんだり蹴つたり、肘でその胸部や足などを突いたりするなどの暴行を加え、そのため、同人に対して治療期間約三週間を要する打撲傷をこうむらせるとともに、その業務を妨害し、(ロ)申請人御手洗仁は、同じ頃、前同所において、同じく同様の業務を執行中の被申請会社の従業員浜崎正義に対し、同人を突きとばすなどの暴行を加えるとともに、その業務を妨害し、(ハ)申請人小川信昭は、同じ頃、前同所において、同所に掲示された勤務時間表をひき破り、足でふみつけるなどしてこれを破棄した。そして、以上の各所為は、被申請会社側にはなんら責めらるべき筋合いはないにもかかわらず、右申請人らによつて一方的になされたものであつて、右申請人らの正当な組合活動の範囲をはるかに逸脱してなされた行為であるから、右申請人らの責任は、きわめて重かつ大である。そこで、被申請会社は、右(イ)(ロ)の各所為はいずれも前記就業規則第二九条第五号に該当し、同(ハ)の所為は同条第一一号に該当するものとして、前記のとおり、右申請人らに対しそれぞれ解雇の意思表示をなしたものである。もつとも、被申請会社の右申請人らに対する解雇通知書には、右条項以外の適条の記載が存するが、それらは、すべて、単なる情状に関するものである。

(2) 申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝、同岡本強関係

昭和三七年八月二一日午後三時三〇分頃、申請人白川博史は長崎5あ一一三九号の、同岩田通は長崎5あ〇六七三号の、同池田義和は長崎5あ一五三九号の、同谷口義孝は長崎5あ一五五二号の、同岡本強は長崎あ〇七六五号のいずれも被申請会社所有、右申請人ら各受持ちの自動車を、申請人岡本強は、被申請会社松原営業所から、その余の右右申請人ら四名は、前記大村駅前営業所から被申請会社には無断で運転して持ち出し、これらを大村市電電公社構内の地区労事務所前庭に集結させて、被申請会社のこれが返還方要求に応ぜず、さらに翌二二日、右各自動車を同市古賀島郷二班の野田道一所有の畑地内へほしいままに移動させて放置し、もつてこれらをひそかに奪取し、また、右申請人ら五名は、共同して、同月二一日午後八時頃、前記大村駅前営業所車庫内から、被申請会社所有の長崎5あ一五五三号自動車をひそかに奪取し、その後これを前記畑地内に放置した。そして、以上の各所為は、被申請会社側にはなんら責めらるべき落度はないにもかかわらず、右申請人らによつて一方的になされたものであつて、右申請人らの正当な組合活動をはるかに逸脱してなされた行為であるから、右申請人らの責任は、はなはだ重かつ大である。そこで、被申請会社は、右所為は前記就業規則第二九条第二号、第三号、第一四号に該当するものとして、前記のとおり、右申請人らに対しそれぞれ解雇の意思表示をなしたものである。

三、抗弁に対する申請人らの答弁並びに再抗弁

(一)  申請人岡本強が現に大村市にある自動車教習所に教師として就職勤務していることは、認める。しかし、同申請人は、本件解雇によりその生活に困窮をきたしたため止むなく一時的に右教習所に就職したものであつて、本件仮処分申請が認容された暁には、被申請会社に復職する意思を有しているものである。

(二)  (1) 前記二の(三)の事実中、本件解雇が被申請会社の従業員就業規則にもとづくものとしてなされた懲戒解雇であつて、その該当条項とされているものが被申請人主張のものを含んでいたこと、昭和三七年六月一八日午後九時三〇分頃被申請会社の従業員岩崎兼久が前記大村駅前営業所において車輛のメーターのメ切り、エンジンキーおよび車体検査証等のとりはずしをはじめたこと、および、同月二一日申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝、同岡本強が各受持ちの自動車を運転したことは、いずれも認めるが、その余の事実は、すべて否認する。

(2) 前記従業員就業規則は、労働基準法第九〇条第一項に定められた意見聴取の手続を経ないで作成変更されたものであるから、無効であり、したがつて、これにもとづく本件各解雇もまた、当然に無効である。

(3) 仮りにそうでないとしても、被申請人主張の懲戒解雇事由該当事実は存しなかつたのであるから、右各解雇は、いずれも無効である。

(4) のみならず、右の各解雇は、被申請人の前記組合に対する支配介入行為によるものであるから、労働組合法第七条第三号に違反する不当労働行為として、いずれも無効である。

(5) また、被申請人が申請人らを解雇するにいたつた決定的理由は、申請人らが前記労働組合を結成したうえ活発に組合活動を行つていたためであるから、右の各解雇は、労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為として、いずれも無効である。

(6) 申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝、同岡本強に被申請人がその懲戒解雇事由に該当すると主張するような事実が存したとしても、それは、労働争議中の正当な争議行為であるから、右申請人らに対する本件各解雇は、いずれも無効である。

(7) 仮りに、申請人ら一二名に被申請人が懲戒解雇事由に該当すると主張するような事実があり、かつ、右(6)の申請人ら五名の行為が違法であつたとしても、申請人らがことここに出るにいたつた責任は、すべて、被申請人側にあり、右(6)の申請人ら五名のとつた行動は、当時の同種企業の労働組合の労働争議の実際の慣例を踏襲した前記組合のストライキ指令による指示にしたがつたまでのものであり、その余の申請人ら七名の行動も、相手方に挑発されて偶発的に惹起したしかも軽微なものであるから、これらの所為を対象としてなされた本件各解雇は、懲戒解雇権の濫用によるものであつて、いずれも無効である。

四、再抗弁に対する被申請人の答弁

前記従業員就業規則は、労働基準法にもとづく意見聴取の手続を経たものであつて、有効である。

第三、当事者双方の疏明方法〈省略〉

理由

第一、申請人御手洗仁、同小川信昭、同戸川英雄、同沖進、同上原久夫、同田中進、同福島守、同白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝の被申請人に対する申請について

一、右申請人らがいずれも旅客運送をその営業とする被申請会社から雇用されて自動車運転員として勤務し、かつ、被申請会社の従業員たる労働者によつて組織された大村タクシー労働組合の組合員であつたところ、申請人御手洗仁、同小川信昭、同戸川英雄、同沖進、同上原久夫、同田中進、同福島守が昭和三七年六月二一日に、申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝が同月二七日にそれぞれ被申請会社から解雇の意思表示をうけたことは、当事者間に争いがない。

二、ところで、右の解雇につき、被申請人は、それが被申請会社の従業員就業規則にもとづく懲戒解雇であるとなし、その懲戒解雇権の根拠、懲戒解雇事由該当事実およびこれに対する就業規則該当条項につき、前記事実摘示第二の二の(三)のとおり述べて、その有効なることを主張するのに対し、申請人らは、同じく事実摘示第二の三の(二)のとおり述べて、その無効なることを主張するので、双方の主張するところのものを順次検討しつつ、右の解雇の効力について判断をする。

(一)  解雇の根拠

まず、右の解雇が被申請会社の従業員就業規則にもとづくものとしてなされた懲戒解雇であつて、その該当条項とされたものが被申請人主張のものを含んでいたことは、当事者間に争いがない。

(二)  右従業員就業規則の効力

申請人らは、前記従業員就業規則は、労働基準法第九〇条第一項に定められた意見聴取の手続を経ないで作成変更されたものであるから、無効であり、したがつて、これにもとづく右の解雇もまた、無効であると主張するが、これについての疏明は存しない。かえつて、証人加藤利男の証言によつてその成立を認めることができる乙第一号証に右証人の証言を総合すると、右の従業員就業規則は、新たに制定されたものではなくして、もともと昭和三二年九月頃に従業員代表の意見を聴いたうえで制定されたものを改正したものであること、その改正にさきだち、被申請会社係員は、昭和三七年二月の一二日か一三日頃、申請人御手洗仁ら前記労働組合代表者数名および楠本義雄ら非組合員従業員代表者数名の参集を求め、改正案のプリントした草稿を配布したうえで、各条項ごとに読みあげ、悪い点その他意見があれば申し出るよう勧告したところ、申請人御手洗仁から運転職員の停年についての意見が出されるなど一時間半か二時間ばかりの時間を要したが、同月一五日頃までに意見書を提出するという了解のもとにその日は散会し、ついで同月の一五日か一六日頃、再び前同代表者に対して、運転職員の停年に対する措置などを説明して、その了解を得たので、同日頃、諫早労働基準監督署へ赴き、同署係官に対し右改正案についての意見を徴して、その指示にもとづき所要の条項を挿人し、さらに、右係官の手続上指示にもとづき、非組合員たる従業員代表者および申請人谷口義孝ら組合代表者に対し、条項挿入後の改正案を読みあげて意見書の提出を求めたところ、非組合員である従業員代表者には、意見がないということであつたが、組合代表者側は、就業規則は不必要であり反対であるといいながら、なんら具体的な意見をも主張せず、かつ意見書をも提出しなかつたこと、そこで、被申請会社係員は、前記監督署へ届け出るべき就業規則改正届に、前記楠本義雄から意見がない旨を同人名義で付記してもらい、かつ、自らは組合代表者からは意見書の提出を求めたのに対してなんらの応答がなかつた旨を付記して、同月二七日、これを右監督署に届け出たところ、同署係官から、被申請会社の意見書でもかまわないが、組合にもう一度念をおしてから意見書を提出するようにしてもらいたいとの注意をうけたので、直ちに立ち戻つて、申請人御手洗仁の意見を求めたが、同申請人がとにかく就業規則には反対するというのみであつたので、同日、再び右監督署にとつて帰し、同署係官からいわれるままに、その末尾に組合代表者からの意見書の提出はなかつた旨の意見書と題する付記をなして、右規則改正届の届出を了し、さらに、その後においても、右監督署からの指示にもとづき、前記組合代表者に対して意見書の提出を求めたが、同代表者らが依然として単に口先で規則に反対を唱えるのみで意見書などの提出もなかつたので、同年三月一〇日頃、再度そのことを右監督署に報告したことを一応認めることができる。

およそ、就業規則は、本来使用者の経営権の作用として一方的に定めうるところであり、労働基準法第九〇条第一項に定める就業規則の作成、変更の要件としての意見聴取とは、労働者の意思尊重のための手続であつて、労働者に対してその意見を陳述しうる機会と余裕が与えられるべきことを意味するが、労働者が事実上意見を陳述したか否か、もしくは、使用者がこれを採用するにいたつたか否かはこれを問わない(労働者が反対意見を付しても、その意見は拘束力を有するものではない。)ものと解するのを相当とするから、右のような事実関係のもとにおいては、その意見聴取の手続は、十分につくされたものと解すべきものである。また、就業規則の届出について組合の意見を記載した書面を添付することは、絶対的な必要条件ではないのであるから、就業規則作成または変更にあたり、組合の意見を求めたが組合から具体的意見がない場合、使用者が組合の意見を記載した書面の添付に代え右の事情を具して所轄行政官庁に就業規則の届出をした場合は、この規則は有効に制定または変更されたものと解するのが相当であるから、右のようにことここに出でた本件就業規則の改正もまた、有効になされたものと解すべきものである。したがつて、右の申請人らの主張は、理由がない。

(三)  申請人御手洗仁、同小川信昭、同戸川英雄、同沖進、同上原久夫、同田中進、同福島守に対する懲戒解雇の効力

(1) 被申請人が懲戒解雇事由に該当すると主張する事実の有無

(イ) 右申請人ら七名の岩崎兼久に対する傷害並びに業務妨害の事実

証人小山清彦の証言によつて原本の存在並びにその成立を認めることができる乙第一六号証の一、二および証人岩崎兼久の証言によつてその成立を認めることができる同第三号証、右証人の証言によつてその成立を認めることができる同第四号証、前記同第一六号証の一、二に、証人岩崎兼久、青木脩、辻勝重、上野正一の各証言を総合すると、申請人御手洗仁、同小川信昭、同沖進、同福島守は、昭和三七年六月一八日午後九時三〇分頃、大村市国鉄大村駅前の被申請会社大村駅前営業所で、その場に居合わせた数名の者とともに、同じ頃、被申請会社の支配人上野正一からメーターの検査、自動車のキーおよび車体検査証等の回収を命ぜられて被申請会社のためその業務を執行中の被申請会社の従業員岩崎兼久(もつとも、同人が被申請会社の従業員であつて、前記日時場所においてキーや車体検査証等のとりはずしをはじめたことは、当事者間に争いがない。)に対し、同人が右の業務を執行中であることを知りながら、申請人福島において、その胸部を突いたり、申請人小川において、その首を引張つたり身体を突いたり、申請人沖において、その足を足蹴にしたり、申請人御手洗において、その胸部等を肘等で数回突いたり、なお、右の数名の者が、その身体を殴打したり足蹴にしたりなどして暴行を加え、そのため右岩崎に対して約六日後からなお一二日間の入院加療を現実に必要とした右側胸部、左下腿部、頭部各打撲傷の傷害をこうむらせるとともに、同人の前記の業務の執行を妨害したが、どの傷害を右のうちの誰が生ぜしめたものか知ることができず、かつ傷害を生ぜしめた者のこうむらせた各傷害の軽重をも知ることができないことを一応認めることができ、これに反する甲第一二号証の一、同第二八、三一号証の各記載、申請人沖進、御手洗仁、上原久夫、谷口義孝、小川信昭、戸川英雄、岩田通、福島守、白川博史各本人尋問の結果は、前記の各疏明方法に照らして信用できず、乙第三〇号証、証人川浪清秀の証言(第一、二回)、申請人池田義和本人尋問の結果をもつてしては、右認定を覆えすに足りないし、他にこれを左右すべき疏明はない。しかし、申請人戸川英雄、同上原久夫、同田中進がその余の右申請人らと共謀して、もしくは同時に、前記岩崎兼久に対して暴行を加え傷害をこうむらせたこと、すなわち、同申請人らと前記の暴行行為実行者との間に共謀関係が存したこと、もしくは同申請人らが現実に暴行の実行行為をなした前記のその他数名の者のなかに含まれていたことについては、証人岩崎兼久、青木脩、辻勝重の各証言をもつてしては、いまだ疏明不充分であるし、他に右事実を認めしめるべき疏明はない。そうすると、申請人御手洗仁、同小川信昭、同沖進、同福島守の右の傷害並びに業務妨害の事実についてのみ疏明があつたものというべきである。

(ロ) 申請人御手洗仁の浜崎正義に対する暴行並びに業務妨害の事実

証人青木脩、辻勝重の各証言を総合すると、申請人御手洗仁は、前記日時頃、前同所において、被申請会社の従業員浜崎正義に対し、肘等で同人の身体を突いたりなどして暴行を加えたことを一応認めることができ、これに反する乙第一二号証の記載、申請人沖進、御手洗仁、上原久夫、谷口義考、小川信昭、戸川英雄、岩田通、福島守、白川博史各本人尋問の結果は、前記の各疏明方法に照らして信用できないし、他に右認定を左右するに足りる疏明はない。しかし、浜崎正義がその際被申請人主張のような業務執行中であつたこと、並びに、右申請人がその際浜崎正義の業務執行中なることを知つていたことについては、これを認めしめるに足りる疏明はない。そうすると、同申請人の右の暴行の事実についてのみ疏明があつたものというべきである。

(ハ) 申請人小川信昭の勤務時間表破棄の事実

およそ、破棄とは、物質的にその物の形体を変更もしくは滅尽せしめた場合および事実上その物をその物の用法にしたがつて使用することができない状態にたちいたらしめた場合をいうのであつて、単に掲示文書をひきはずしたため多少その周辺がいたんだが、依然としてその文書の効用を失わず、かつ再びそれを用いて掲示をもなしうるような場合をいうものではないと解すべきものである。そして、このような意味あいからして、証人青木脩、上野正一は、被申請人の右主張事実にそう供述をしているが、これらの供述は、申請人小川信昭本人尋問の結果、申請人らがその原本であると主張する甲第二四号証(勤務時間表)の真正な成立が不明であり、したがつてその成立が否定されてもいないこと(もつとも、その真偽は別として、証人上野正一は、乙第二四号証が問題の勤務時間表である旨供述している。)、弁論の全趣旨に照らして明らかな右の勤務時間表が前記暴行等の原因の一つとなつたものであること、したがつて、この時間表を滅失もしくは毀損してその記載内容を知ることを不可能ならしめ、後日の交渉の用に役立たしめえないようにすることは一応考えがたいことなどに照らして考えると、にわかに信用できないし、他に右破棄の事実を認めしめるべき疏明はない。したがつて、この点については疏明なきに帰するものというべきである。

(2) 右の申請人御手洗仁、同小川信昭、同沖進、同福島守の傷害、業務妨害の所為並びに申請人御手洗仁の暴行の行為が被申請人主張の就業規則の条項に該当することの有無

被申請人は、右の申請人らの所為をもつて、被申請会社の従業員就業規則第二九条第五号所定の懲戒解雇事由に該当すると主張するところ、前記乙第一号証によると、右就業規則第二九条は、その冒頭に「社長は従業員が次の各号の一に該当するときは懲戒解雇する。」となして、その第五号に「他人に対し暴行脅迫を加え、又はその業務を妨げたとき。」と規定していることが明らかであるから、その該当の有無について検討をしてみる。

前記乙第一号証によると、右就業規則第二七条は、従業員に対する懲戒処分として、その軽重により、(1)譴責、(2)減給、(3)出勤停止、(4)諭旨退職、(5)懲戒解雇の五種五段階のものを定め、その第二八条は、情状により右の(1)ないし(4)の処分を命ずるとして、第一号ないし第八号の右(1)ないし(4)の懲戒処分該当事由を規定し、その第二九条は、第一号ないし第一四号の懲戒解雇処分該当事由のみを定めているが、右第二八条第一号ないし第八号所定の前記(1)ないし(4)の懲戒処分の該当事由中には、右第二九条第五号所定の懲戒解雇処分該当事由と同一性または共通性もしくは類似性を有するものの見受けられないことが明らかであるから、これからすると、右第二九条第五号所定の事由に該当する事態が発生した場合、これに対する懲戒処分は、懲戒解雇ただ一つのみであつて、前記の(1)ないし(4)の処分など全くありえず、したがつて、そこには選択的裁量の余地が全く残されていないかのごとくであるところ、同第五号の文言のみからするときは、右申請人らの岩崎兼久に対する前記の傷害並びに業務妨害の所為は、同号の「他人に対し暴行を加え、その業務を妨げたとき」に、申請人御手洗仁の浜崎正義に対する暴行の所為は、同号の「他人に対し暴行を加えたとき」にそれぞれ形式上は一応該当するかのごとくであるが、事の性質上、単なる形式上の解釈によつて結論づけられる問題でないことは、いうまでもない。すなわち、企業における懲戒処分は、使用者がその経営秩序を維持し生産性の昂揚を図るために労働者の経営秩序違反行為または生産性阻害行為その他の信義則違反行為に対して科する制裁であつて、就業規則の懲戒処分に関する規定もまた、本来このような趣旨を具有するものであり、その規定の解釈も、単に文言の表現に拘泥することなく、右の観点にもとづいてなされるべきものであるから、前記第二九条第五号の単に「他人に対し暴行脅迫を加え、又はその業務を妨げたとき。」と定められた規定もまた、右のような信義則違反の行為のあつた場合をいうものと解するのが相当である。また、懲戒解雇は、労働者を企業から全く排除して精神的、経済的にその者の死命を制する最も重大かつ苛酷な制裁処分であるから、就業規則の規定にもとづいてなされる懲戒解雇処分は、その規定の前記のような趣旨と労働者の行動とを考慮して、社会通念上肯認される程度に客観的妥当性を有することを必要とし、したがつて、その者を企業内に存置することが企業の経営秩序をみだしその生産性を阻害することが明白であつて、かつ、その者に将来改善の見込みがとぼしい場合にかぎつて、許されるものであり、仮りに暴行、傷害、業務妨害等の単なる外形的事実があつたとしても、それが経営秩序破壊または生産性阻害の悪意から出た悪質のものとも思われない場合、その結果が軽微と思われる場合、使用者側が労働者側の懲戒解雇事由を誘発したり信義則違反の行為をしたりなどしてその責に帰すべき事情の存する場合、またはそうでなくとも労働者側の懲戒解雇事由の発生が使用者側の落度すなわち過失にもとづく措置に基因する場合、平素感情の対立があつた者に対するたまたま尖鋭化した事態のもとにおける個人的偶発的の所為の場合等において、使用者が適時適切な措置をとらず、慎重に事情を考慮することなくして、形式的に一挙に懲戒解雇処分をなすのは、就業規則の正当な適用を誤つた違法があるか、もしくは、懲戒解雇権行使の正当範囲を逸脱した権利の濫用があるものといわなければならない。したがつて、前記就業規則第二九条第五号も、右の趣旨のものとして解釈され、かつ適用されなければならないものと解すべきものである。もつとも、そう解釈すると、右の趣旨に適合しないもしくは右の程度に立ちいたらない他人に対する暴行、脅迫または業務妨害に対しては就業規則の規定上はいかなる懲戒処分をも科しえないこととなるとの批判がないではないであろうが、このような所為には附随的に他の懲戒事由の存する場合が多いであろううえに、右の批判は、むしろ就業規則の不備に向けられるべきものとなすべきが妥当であろう。けだし、就業規則の不備のゆえに、形式上の該当者がすべて一律に懲戒解雇処分をうけなければならないものとなすことは、社会通念上なに人もこれを容認しないであろうこと多言を要しないからである。

さて、本件においては、前記申請人らの暴行の所為がいわゆる兇器を用いてなされたものではなくその点軽度のものといえること、岩崎兼久のうけた傷害の程度も特に重いものとはいえないこと、および、その傷害が右申請人らによつて生じたものか、または、そうであつたとしても、右申請人ら各自の生ぜしめた傷害がいかなる部分のいかなる程度のものか知るをえないことは、前認定のとおりであり、さらに、成立に争いのない甲第四号証、乙第二号証、同第五号証に、申請人沖進、御手洗仁、上原久夫、谷口義孝、小川信昭、戸川英雄、岩田通、池田義和、福島守、白川博史各本人尋問の結果(池田義和のそれ以外は、いずれも、前記の信用しない部分を除く。)を総合すると、被申請会社側には、かねて、組合役員に対し地区労からの脱退を勧めたり、組合員に対し組合からの脱退を誘いかけたりなどするのいわゆる組合の切りくずし的な行為が存し、組合員の不満を買つていたこと、昭和三七年六月一八日、右岩崎兼久が前記上野正一に命ぜられて運転員の勤務時間表を作成し、これを前記大村駅前営業所に掲示したのであるが、その記載に誤りがあつて、従前のそれと比較し、内容的には運転員にとつて経済的に不利となつていた(この点被申請会社側に故意が少くとも過失があつたものというべきである。)ため、結局、これに端を発し、組合側が同日午後九時以降の時間外就労を拒否する旨を被申請会社側に通告し、さらに営業中の自動車の帰参状況を考慮して就労拒否を同日午後一〇時からと変更したところ、前記のとおり、同時刻以前に右岩崎兼久が車検証等のひきあげにやつてきたこと、同人は、もともと組合結成の最も熱心な主唱者であり、同人の指導もあつて、前記組合の結成にまでこぎつけ、その結成にあたつては、組合役員の一人に擬せられていたのであるが、その後一方的に組合への加入を拒否したため、かねて組合員からは快い感情をいだかれていなかつたことをそれぞれ一応認めることができ、これに反する証人岩崎兼久の証言は、にわかに信用することができないし、他に右認定を左右するに足りる疏明はない。そして、右の事実に前認定事実を考えあわせると、右岩崎兼久に対する前記の暴行並びに業務妨害の所為は、右のような平素のおよび当日の被申請会社側および前記組合側の事情並びに状況のもとにおいて、かねてからの右岩崎に対する悪感情も手伝い、一時に激昂した末、たまたま惹起したものであり、また、前記の浜崎正義に対する暴行も、本人がその場に居合わせたため、感情の激するところ、たまたまその余波をこうむつたまでのことであつて、いずれも真に偶発的なものであつたことが推認でき、それらが被申請会社の経営秩序破壊もしくは生産性阻害の悪意から出た悪質なものとも思われないし、また、特に経営秩序破壊または生産性阻害の結果が現実に発生したことも、右申請人らに将来改善の見込みがないこともいずれも認められない。以上の事実を総合して考えると、右のような申請人らの所為があつたからといつて、右申請人らを被申請会社の企業内に存置せしめることが企業の経営秩序をみだしその生産性を阻害することが明白であつて、しかも同申請人らに将来改善の見込みがとぼしい場合にあたるものとはとうていなしえないから、被申請人が右の申請人らの所為を前記就業規則第二九条第五号所定の事由に該当するものとしてなした右申請人らに対する本件懲戒解雇処分は、同就業規則の適用を誤つた違法があるか、または懲戒解雇権行使の正当な範囲を逸脱した権利濫用の違法があるものというべきである。

(3) 解雇の効力

そうすると、申請人御手洗仁、同小川信昭、同戸川英雄、同沖進、同上原久夫、同田中進、同福島守に対する被申請人の本件懲戒解雇処分は、それが申請人ら主張の不当労働行為を構成するか否か(懲戒解雇が無効であるからといつて、それが直ちに不当労働行為となるものではないことは、いうまでもない。)について判断するまでもなく無効であるといわなければならない。

(四)  申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝に対する懲戒解雇の効力

(1) 被申請人が懲戒解雇事由に該当すると主張する事実の有無

成立に争いのない乙第六号証、証人加藤利男の証言によつてその成立を認めることができる同第七ないし一三号証に、右証人、証人芝田秀則、大町憲治、上野正一、川浪清秀の各証言(ただし、川浪清秀のそれは、第一回のもので、そのうち後記の信用しない部分を除く。)および申請人御手洗仁、谷口義孝、小川信昭、白川博史、岩田通、池田義和各本人尋問の結果(ただし、いずれも、そのうち後記の信用しない部分を除く。)を総合すると、昭和三七年六月二一日の前記申請人御手洗仁ら七名に対する解雇の意思表示のあつた後の同日午後二時頃から約二五分間、つづいて同日午後二時四五分頃から、前記大村駅前の浜田屋旅館で、被申請会社側は前記上野正一ほか三名、前記組合側は組合長である申請人御手洗仁、書記長である申請人小川信昭ほか二名、以上が列席して、右の解雇につき団体交渉がもたれ、その席上、同日午後四時頃、右組合側から被申請会社側に対し、同日午後四時からストライキにはいる旨の通告がなされたのであるが、申請人御手洗仁、同小川信昭らは、あらかじめ(同日昼食後)、ストライキにはいつた場合には被申請会社所有の営業用自動車を争議行為の一手段として組合側の保管に移すべく共謀企図していたこと、このような事情のもとに、右ストライキ通告前の同日午後三時三〇分前後、いずれも前記大村駅前営業所勤務であつた申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝は、申請人小川信昭その他の者からの、もしくはこれにもとづく相互の大村市地区労事務所まで参集するようにとの各連絡により、申請人白川は長崎5あ一一三九号の、同岩田は長崎5あ〇六七三号の、同池田は長崎5あ一五三九号の、同谷口は長崎5あ一五五二号のいずれも被申請会社所有、右申請人ら各受持ちの営業用自動車を運転して(もつとも、当日右申請人らがその受持ちの各自動車を運転したことは、当事者間に争いがない。)、大村市の日本電信電話公社構内にある大村地区労事務所に相前後して集合したところ、同所で組合大会が開かれ、その席上、前記の解雇の意思表示の撤回を求めるため同日午後四時からストライキにはいること、その一手段として被申請会社所有の営業用自動車に対する同会社の管理を排除してこれらを組合の保管に移すことなどの議案が提出されたので、これを了承して、右の議案を決議し、同申請人らとしては、ここではじめて、右組合大会の決議にもとづき、前記車輌の組合保管を決意し、各自の運転してきた前記自動車を、被申請会社の管理に戻すことなく、そのまま右地区労事務所の庭に集結させたままでおいたこと、右各自動車のキーおよび車体検査証は、すべて組合側で保管することとしたこと、右は、大村地区労書記長川浪清秀らの指導、支授もあつて、なされたものであること、その他同日午後四時までの間に前同所において組合の保管に移されそのまま同じくその場にとどめおかれた被申請会社の営業用自動車は、被申請会社松原営業所勤務の申請人岡本強および出口某受持ちの各自動車並びに被申請会社竹松営業所勤務の芝田秀則受持ちの自動車以上三台であつたが、非組合員であつた右芝田の受持自動車が組合の保管に移されるにいたつたいきさつは、前記地区労側の者が客を装つて右芝田の運転する自動車に乗車し、同人に前記公社まで行くことを命じて、同公社付近で乗車料金を払うことなくして下車し、前記川浪清秀らがストライキにはいるから自動車を預かると称して、同人が右芝田から自動車のキーをとりあげ、さらに、前記地区労側や組合側の者がその自動車をとりかこんで、右芝田をして前記公社前庭まで自動車を進行させるの止むなきにいたらしめ、同人の拒否するのもかまわず、同所でその自動車を組合の保管に移して、同人をその場からそのまま立ち去らしめたものであること、前記上野正一ら被申請会社側の者は、右の団体交渉の席上においてすでに前記車輌持出しの事実を知り、同交渉終結に際して組合側に自動車の返還方を求めたが、さらに同日の夕方、被申請会社の従業員加藤利男らが右地区労事務所へ出向き、前記川浪清秀、申請人御手洗仁らに対して右自動車の返還請求をなしたのに対し、その請求を拒否されたので、前記地区労議長あてと組合長申請人御手洗仁あてに自動車の返還を求める内容証明郵便を送つたこと、同日夜、さらに自動車一台が前記大村駅前営業所車庫内から組合側の者によつて持ち出されたこと、以上の自動車が同日午後一〇時頃組合側の者によつて右営業所から三粁ほどはなれた申請人田中進方近くの野田道一所有の大村市古賀島二班の草の生いしげつた畑地内へ移動され、爾後そのまま露天下にさらされて留置させられたこと、そのため、被申請会社は、持ち出された自動車の行方がわからなくなり、搜査機関に対し車輌不法持出しの盗難届を提出して告訴したこと、組合側は、その後、その目的はともかくとして、前記留置自動車の前面に柵等を施し、右自動車の監視を続けたこと、申請人白川、同岩田、同池田、同谷口としては、その間、各自の受持車輌につき、将来も自己の受持車輌であるからという考えのもとに、ある程度の手入れをしその保全に気を配つたが、同年七月一八日(解雇の意思表示後)右各自動車が被申請会社に返還された当時においては、それらの自動車は、手入れが完全にゆきとどいた状態にあつたとはいえなかつたことをそれぞれ一応認めることができ、これに反する証人川浪清秀の証言(第一回)および申請人御手洗仁、谷口義孝、小川信昭、白川博史、岩田通、池田義和各本人尋問の結果は、前記の各疏明方法に照らして信用できないし、他に右の認定を覆えすに足りる疏明はない。しかし、被申請人主張の申請人白川、同岩田、同池田、同谷口が右大村駅前営業所から前記各自動車をひそかに奪取した事実および同申請人らが共同して右営業所から長崎5あ一五五三号自動車をひそかに奪取した事実については、これを認めしめるべき疏明はない。

ところで、被申請会社のようないわゆるタクシー会社の労働争議において、労働者が争議行為の一手段として(争議開始前はいうまでもない。)会社の営業用自動車、そのキー並びに車体検査証等を外部に持ち出して保管することは、正当な争議行為とはとうてい認めがたく、会社の所有権を侵害するものとして違法たるを免れないものと解すべきであるから、申請人白川、同岩田、同池田、同谷口の右各所為は、組合の決議にしたがつたとはいえ、結局違法といわなければならない。この点につき、申請人らは、右が適法な争議行為の手段であると主張し、成立に争いのない甲第二九号証、申請人御手洗仁、同谷口義孝、同小川信昭各本人尋問の結果によると、被申請会社と同種企業の労働争議において、本件と類似の事例の存したことがうかがわれるが、右のような事例が他にも存するからといつて、違法なものが適法なものに変ずる道理はなく、右の主張は、一方的な独自の見解にもとづくものであつて、とうていとるをえないものである。

(2) 右の申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝の所為が被申請人主張の就業規則の条項に該当することの有無

被申請人は、右の申請人らの所為をもつて、前記就業規則第二九条第二号、第三号、第一四号所定の懲戒解雇事由に該当すると主張するところ、前記乙第一号証によると、右就業規則第二九条第二号は、「故意に職務上の指示に従わず、職場の秩序を乱し、職責を全うしないとき。」と、同条第三号は、「故意又は重大なる過失により、会社に損害を与えたとき。」と、同条第一四号は、「その他、前各号に準ずる社会通念上不都合な行為のあつたとき。」とそれぞれ規定していることが明らかであるから、その該当の有無について検討する。

まず、右就業規則によると、その第二七条が、従業員に対する懲戒処分として(1)譴責、(2)減給、(3)出勤停止、(4)諭旨退職、(5)懲戒解雇の五種五段階のものを定め、その第二八条が、第一号ないし第八号の右(1)ないし(4)の懲戒処分該当事由を規定し、その第二九条が、第一号ないし第一四号の懲戒解雇処分該当事由のみを定めていることは、前認定のとおりであるところ、右の申請人らの所為は、被申請人主張の懲戒解雇事由に形式上は一応該当するかのごとくである。

しかし、就業規則の懲戒処分に関する規定の解釈、懲戒解雇処分の性質および就業規則の規定にもとずいてなされる懲戒解雇処分の適法な場合についての当裁判所の見解は前記のとおりであるところ、本件においては、右申請人らのとつた行動は、前認定のとおりであつて、これによると、なるほど、右の車輌等組合保管の手段の実行により、結果的には、一時的に被申請会社の企業を乱し、その生産性を阻害したかもしれないが、右申請人らとしては、当初は右のような手段の実行を企図していた者の意のままにその事情を知らないで各自の受持車輌を運転して前記地区労事務所に集結し、ここではじめて組合大会の決議にもとづいて右手段の実行に同調し、それから後の行動は、すべて組合の意思決定にしたがつたまでのことであつて、そこにはなんら積極的なものは見受けられないのであるから、その責めは主として右のような手段を首謀しその実行を指導し推進させた者に対して向けられるべきものであつて、これらの者に対する責任の程度は、右申請人らとは自ら別個に考えられるべきものであり、また、同申請人らとしては、右のような手段の実行については同種企業の労働争議において他にも事例が存したため安心感をいだいたことであろうし、もしそれが違法とわかつておるならば、おそらくはたやすくこれに同調加担はしなかつたであろうことがうかがわれるうえ、同申請人らは、車輌組合保管中、各自の受持車輌に対してある程度の手入れをなして、自己の受持車輌に対する愛車精神を忘れなかつたとともに、これにより被申請会社のこうむる損害を少くし、一方、組合もまた、車輌の保管場所として同じく組合員である申請人田中進方附近を選び、その目的意思はともかくとして、その車輌の前面に柵を施しこれを監視したというのであるから、これらの諸事情を総合して考えると、右のような申請人らの所為があつたからといつて、右申請人らを被申請会社の企業内に存置せしめることが将来企業の経営秩序をみだしその生産性を阻害することが明白であつて、しかも同申請人らに将来改善の見込みがとぼしい場合にあたるものとはとうていなしえず、したがつて、被申請人が右の申請人らの所為を前記就業規則第二九条第二号、第三号、第一四号所定の事由に該当するものとしてなした右申請人らに対する本件懲戒解雇処分は、苛酷に失し(ここで、前記乙第一号証によると、右就業規則第二八条所定の前記懲戒処分該当事由中には、被申請人主張の右事由と共通性もしくは類似性のあるもののあることが認められることを指摘しておこう。)、同就業規則の正当な適用を誤つた違法があるか、または懲戒解雇権行使の正当な範囲を逸脱した権利濫用の違法があるものというべきである。

(3) 解雇の効力

そうすると、申請人白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝に対する被申請人の本件懲戒解雇処分は、それが申請人ら主張の不当労働行為を構成するか否か(懲戒解雇が無効であるからといつて、それが直ちに不当労働行為となるものではないことは、前記のとおりである。)について審理判断をするまでもなく、いずれも無効といわなければならない。

第二、申請人岡本強の被申請人に対する申請について

同申請人が旅客運送を営業とする被申請会社から雇用されて自動車運転員として勤務し、かつ、被申請会社の従業員たる労働者によつて組織された大村タクシー労働組合の組合員であつたところ、昭和三七年六月二七日被申請会社から解雇の意思表示をうけたことは、右当事者間に争いがない。

ところで、被申請人は、前記事実摘示第二の二の(二)のとおり、右申請人については本件仮処分の必要性は存しないと主張する。そして、同申請人が現に大村市にある自動車教習所に教師として就職勤務していることは、右当事者間に争いがなく、証人上野正一の証言によると、右申請人は、前記の解雇の意思表示をうけた後、あらためて自分の方から被申請会社に対して退職の申出をなし、一切の退職に関する所定の手続を完了するとともに、被申請会社から在勤期間についての証明書の交付をもうけて、被申請会社を完全に退職し、その後被申請会社に対して自ら復職の申出をせず、その他なんらの申出をもしていないことを一応認めることができ、これを左右するに足りる疏明はない。これに対し、右申請人は、前記事実摘示第二の三の(一)のとおり、被申請会社へ復職する意思があり、前記の就職もそれまでの一時的のものにすぎないと主張するが、これについての疏明はない。

そうすると、被申請人に対する右申請人の本件仮処分申請は、他に特段の事情の認められない本件においては、同申請人主張の被保全権利の存否について審理判断をするまでもなく、その必要性がないかもしくは必要性の存在についての疏明がないかのいずれかに帰するものというべきであり、しかも、右のような事情のもとにおいては、必要性の存在についての疏明に代えて保証を立てさせることが妥当とはとうてい考えられないから、右の仮処分申請は、この点において理由がないものといわなければならない。

第三、してみると、申請人御手洗仁、同小川信昭、同戸川英雄、同沖進、同上原久夫、同田中進、同福島守、同白川博史、同岩田通、同池田義和、同谷口義孝の本件仮処分申請は、理由があり、かつ、保証を立てさせる要はないものと認められるから、保証を立てさせないでこれを認容すべきであるが、申請人岡本強の本件仮処分申請は、理由がないから、これを却下することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原宗朝 青木敏行 寺田明子)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com