大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

阿倍野簡易裁判所 昭和29年(ハ)132号 判決

原告 乾徳蔵

被告 国

訴訟代理人 朝山崇 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告の請求の趣旨及之に対する被告の答弁

原告は被告は原告に対し金三万九千三百円を支払うこと、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

原告主張の請求原因及之に対する被告の答弁

原告主張の請求原因の要旨は、原告は昭和二十七年七月十一日頃同志と共に大阪市東住吉区桑津町の一袋小路で原告所有の自転車の荷物台に機械を載せ先に東京都宮城前で行はれたメーデー弾圧事件に関する幻燈を映写し一般の観覧に供していたところ、田辺警察署の司法警察員は憲法が保障する原告等の言論集会の自由を弾圧する手段として右幻燈映写が所轄警察署長の許可を受けないことを名とし、道路交通取締法を濫用して不法に原告等を検挙し原告所有の自転車を証拠品名下に押収した。

右事件は昭和二十七年七月十三日証拠物件とともに大防地方検察庁に送致せされ同庁係員は右証拠物件の引継を受け之に対し不当に頒置処分をした上原告等を道路交通取締法違反事件の被告人として大阪地方裁判所に起訴したところ、同裁判所は翌昭和二十八年三月十日原告等に有罪判決を言渡し更に原告等から大阪高等裁判所に申立てた控訴に対し同裁判所刑事第六部は同年十月一日控訴棄却の判決を言渡し、右判決は同月十四日確定するに至つたこの間右証拠物件の頒置は不当に反復せられたので原告は昭和二十八年六月二十三日大阪高等裁判所刑事第六部に対し本件自転車を含む証拠物件の仮還付を申請したところ同裁判所は右申請を却下したので、原告は右決定に対し意義を述べたが同裁判所刑事第二部は再び右意義を棄却した。依て原告は更に最高裁判所に対し特別抗告を申立てたが同年十一月十日同裁判所第三小法廷は右特別抗告をも棄却するに至つた。かくの如くして本件自転車は大阪地方検察庁が之を領置して以来正に七百八十六日を経た昭和二十九年九月七日漸く原告に還付され、この間不当に原告の之が使用を妨げたものである。

原告は予て昭和二十五年十月頃から大阪市西成区東入船町五番地鉄工業株式会社近江屋製作所に雇われ肩書住所から毎日自転車で通勤して居たところ前示七百八十六日間は之が利用を妨げられた為近畿日本鉄道南大阪線北田辺駅から阿倍野駅迄、更に同所から大阪市営地下鉄道で動物園前まで電車を利用して通勤するの他ないことゝなつたゝめ一日往復乗車賃五十円を要し右期間の交通費として金三万九千三百円の失費を余儀なくせられた。

右は畢竟大阪地方検察庁、大阪地方裁判所並大阪高等裁判所係員がその職務を行うについて故意又は過失により違法に原告の自転車を領置したことに因つて原告に加へた損害であつて被告に之が賠償の義務があるから右損害金の支払を求める旨陳述した。被告代理人は答弁として大阪市田辺警察署司法警察宮が昭和二十七年七月十一日原告外一名に対する道路交通取締法違反事件の証拠物件として原告主張の自転車を押収し大阪高等裁判所が原告からその還付請求を受けて昭和二十九年九月七日これを原告に還付したこと、右刑事々件は大阪高等裁判所で昭和二十八年十月一日控訴棄却の判決が言渡され同月十六日右判決が確定したこと、昭和二十九年九月二十一日(昭和二十八年十一月十日は誤り)最高裁判所で特別抗告が棄却されたこと並に原告主張の区間の電車賃が原告主張の通りであることはいづれも之を認めるがその余の原告の主張事実は之を争う。

本件自転車は昭和二十七年七月十一日大阪市警田辺警察署の警察員が原告に対する道路交通取締法違反現行犯事件の証拠品として刑事訴訟法第二百二十条に基き正規の手続に依り押収したものであつてその間に何等違法の点はない。

即ち原告は道路交通取締法第二十六条第一項第四号第二十九条第一号大阪府道路交通取締規則第五条第二号に依り道路に於ける催物は許可なき限り禁止されているに拘らず訴外今井英二と相談の上所轄警察署長の許可を受けずに昭和二十七年七月十一日午後八時頃大阪市東住吉区桑津町六丁目四十番地先の東西に通ずる幅員約三間の道路上に於て幻燈会を催し右道路南側に自転車二台を並べて幻燈機を据え、これと相対する北側民家の板塀に白幕を張つて約四十名の観衆に幻燈を見せていたゝめ、右幻燈映写中を大阪市田辺警察署司法警察員により同法違反の現行犯として逮捕せられたものであるが右警察員は原告を逮捕するに当り本件自転車が現場にあり右幻燈会に使用されたものと認められたので他の幻燈会供用物とゝもに右事件の証拠品としてこれを差押えたものである。

右自転車はその後昭和二十七年七月十三日から同年十二月十三日まで大阪地方検察庁に、同日から昭和二十八年五月二十日まで大阪地方裁判所に同日から昭和二十九年九月七日まで大阪高等裁判所にそれぞれ適法に領置されていたものであつて、従つて右押収は勿論その後の領置についても何等違法な点はない。従つて右差押並領置の違法であることを前提とする原告の主張はすべてその理由のないこと明である旨陳述した。

証拠方法並書証の認否〈省略〉

理由

昭和二十七年七月十一日大阪市田辺警察署の司法警察職員が原告を道路交通取締法違反の現行犯人として検挙した砌原告が所有して居た自転車を証拠品として押収したこと並右自転車はその後事件と共に大阪地方検察庁、大阪地方裁判所、大阪等裁判所を経由して昭和二十九年九月七日原告に還付せられたことは当事者間に争のないところである。

而して東庄吉区長の調査報告書、成立に争のない甲第七号証(押収品目録)同第八号証(領置品目録)に依ると右自転車は事件の送致又は移送に伴ひ昭和二十七年七月十四日大阪地方検察庁で、同年十二月十三日大阪地方裁判所で、翌昭和二十八年五月二十日大阪高等裁判所でそれぞれ係員によつて領置処分が為されたことが明である。

原告は右押収並領置はいづれも違法の処置であつて為に不当に原告の右自転車の便用を妨げた旨主張するところ成立に争のない甲第三号証(田辺警察署長の回答書)同第四号証(大阪地方裁判所の検証調書附図)乙第一号証(現行犯人逮捕手続書)同第二号証(捜索差押調書)を綜合すると原告は外一名と共に昭和二十七年七月十一日午後八時半頃大阪市東注吉区桑津町六丁目四十番地先街路で所轄警察署長の許可を受けづに幻燈を映写し幅三間長さ十間位の範囲に数十名の民衆を集めてその観覧に供して居た現場で田辺警察署の司法警察職員に道路交通取締法違反の現行犯人として逮捕せられ、右幻燈の映写に関係あるものとして本件自転車が他の証拠物と共に押収せられたものであることが認められる。

右幻燈映写当時の状況につき原告は本件自転車の荷物台の上に映写機を載せ東京都宮城前広場に於けるメーデー行事弾圧事件に関する幻燈を映写して居た旨又被告代理人は原告は幅員約三間の現場街路の南側に本件自転車と今一台の自転車を並べその荷物台の上に映写機を据え街路の北側民家の板塀に白幕を張り幻燈を映写して居た旨各主張するところ、これ等主張はいづれも相手方に於て之を争う意思あるものとは認められぬ。然らば本件自転車は正に右幻燈の映写に関係ある物件であることは疑のないところである。

成立に争のない甲第二号証(乾徳蔵外一人に対する道路交通取締法違反事件の第一審判決)並同第一号証(同上第二審判決)によると原告の右幻燈映写の所為はこれが道路交通取締法第二十六条第一項第四号大阪府道路交通取締規則第五条第二号に該当する旨の刑事判決が言渡されたことが認められしかも右判決がすでに確定したことは原告の自認するところであるのみならず前示甲第三号証成立に争のない同第六号証(証人花房芳高の訊問調書の一部によると前示幻燈映写の催は前日から現場附近に予告のビラを配布し計画的に実施せられた事実が明である点に鑑みても、いかにも原告主催の右幻燈会は大阪府道路交通取締規則第五条第二号のいう「道路においてなされた催物」と解するのが相当であるから斯様な催物を開催するに当つては事前にその目的方法期間場所を具して所轄田辺警察署長の許可を受けねばならぬ筋合であるに拘らず原告が右手続を履践せずに右催を実施した以上田辺警察署の司法警察職員が原告を道路交通取締法第二十六条違反の現行犯人として検挙すると共に右幻燈の映写に関係ある本件自転車を証拠品として押収することは刑事訴訟法第二百二十条に依り之を克くし得るところであるから本件自転車の押収については何等違法の廉はない。

かくて原告を逮捕した田辺警察署の司法警察職員が証拠品である本件自転車とともに原告を大阪地方検察庁の検察官に送致すべきことは同法第二百十六条第二百三条第一項に規定するところであり又右送致を受けた大阪地方検察庁の検察官又は検察事務官は公訴を提起するにつき本件自転車が証拠品として必要であると思料するに於ては之が保管者から任意提出したものであるから之を領置し得ることも同法第二百二十一条に徴し明である。

更に右事件の公訴を受理した大阪地方裁判所が検察官から事件の証拠品として提出せられた本件自転車を領置し得ることも同法第百一条に規定するところであり次いで大阪高等裁判所が第一審判決に対する原告の控訴を受理し事件を審按するにつき原裁判所から移送を受けた証拠品である本件自転車を領置し得ることも亦前示法条に照し疑のないところである。

以上の次第であるから大阪地方検察庁、大阪地方裁判所、大阪高等裁判所に於ける本件自転車の領置も夫々適法に為されたものと謂はねばならぬ。

而して一且裁判所に領置せられた証拠品は結局は差出人に還付せらるべきものでも係官に於て必要があると認める限り判決が確定し事件が終結するまで当該裁判所に保留せらるべきものであり又之が還付に付ても事件終結後所轄管庁の事務処理の都合上若干の日子を要することも亦止むを得ないところである。

要之本件自転車の押収並領置はいづれも法規に遵拠して為されたものと認められるから之が違法な処分であることを前提とする原告の本訴請求は爾余の判断を須ゐるまでもなく失当として排斥すべきものである。

而して原告の提出援用する証拠によつても未だ右認定を左右するに足らぬ。

依て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決した。

(裁判官 石井寛三)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com