大判例

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青森家庭裁判所 昭和63年(少)334号 決定

少年 N・R(昭46.6.7生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和63年4月1日から精神薄弱者更生施設である○○園に入園し、同園の指導教育を受けているものであるが、無断外出、他の園生の物品の持ち出し、弱い者いじめ、性的いたずら等を繰り返し、その都度同施設指導員の説諭指導を受けたにもかかわらず、反省の気持ちがなく、同年4月28日には、園長室から現金を盗み出したうえ、東京まで無断外出して保護され、帰園後も、女子園生に対する性的いたずら、他の園生の物品持ち出し、無断外出等の事由があつて、保護者はもちろん、同園の正当な監督に服さず、また、自己及び他人の特性を害する行為をする性癖があり、このまま放置すればその性格、環境に照らして、将来、罪を犯すおそれがある。

(適用法令)

少年法3条1項3号イ、ニ

(処遇の理由)

少年は、実母が死亡した後の小学校5年生ころから、家出、深夜徘徊、窃盗等を繰り返し、中学校2年生時より従来の問題行動に加えて、性的いたずらがみられるようになり、教護院、精神薄弱児施設での処遇が施されたが、いずれの施設にもなじめないまま、同様の問題行動を頻発させて、施設を転じ、精神薄弱者施設である○○園に収容されるに至つたが、同施設収容後も、問題行動は一向に矯正されることなく、無断外出、窃盗、性的いたずらを繰り返した。

少年の知的能力は、一般水準よりもやや低い程度にとどまるが(知能検査の結果によれば、WAISで言語性IQ-63、動作性IQ-86、全検査IQ-75)、知的啓発がなおざりにされてきたため、少年の現実の能力はかなり劣り、その性格も幼児的な自己中心性を有し、感情のおもむくまま自己の欲求のみに基づいて行動する傾向にある。そのため、少年の社会適応力は極端に低く、対人関係においても、集団適応が難しく孤立化しやすい。本件ぐ犯事由についてみても、少年は、施設での集団生活に我慢できなくなつて無断外出を繰り返し、他の園生の物品持ち出し及び園長室からの現金盗も、そのためのてだてであつたと考えられる。また、女子園生に対する性的いたずらは、これまで身体発達に伴う性的欲求の高揚に応じた適切な措置が講じられなかつたため、自己の欲求のおもむくまま現実的行動に及んだものと考えられる。したがつて、このまま放置すれば、少年の再非行の可能性は極めて高いが、少年の現実の能力は現段階においてかなり劣るとしても、その潜在的能力はさほど低くないことから、教育的措置を施すことにより発達の可能性の余地は十分にあると認められる。

一方、少年の実父は、少年の再非行を強く懸念して、少年を監督指導する自信を失つており、関係機関の指導に頼るばかりである。また、これまでの福祉施設においても、他の入所者への加害の問題があるうえ、施設の性格等からの指導の限界があつて、少年に対する指導援護に苦慮してきたのが実情である。

上記のような少年の年齢、性格、資質、環境、本件非行の態様等からすれば、少年を特殊教育を実施する中等少年院に収容して、専門的指導の下に矯正教育を施し、その更生をはかるのが、少年の健全育成のため相当であると考えられる。

よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 坂本宗一)

〔参考〕環境調整命令

昭和63年6月17日

育森保護観察所長 殿

青森家庭裁判所

裁判官 坂本宗一

少年の家庭環境の調整に関する件

本籍 青森県むつ市○○町××番地

住所 青森県むつ市○○町×番×号

氏名 N・R 昭和46年6月7日生

上記少年は、別添決定謄本のとおり、昭和63年6月17日当庁において中等少年院送致決定を受けたものであるが、少年院における矯正教育(特殊教育課程)に続く在宅処遇段階が重要な意味を持つことになると思料されますので、少年の在宅処遇の条件を整えるため、少年の家庭環境の調整に関し、下記の措置を採られるよう、少年法第24条2項、少年審判規則39条により要請します。

1 少年の保護者は、少年の再非行に対する不安が先立ち、指導の自信を失い、少年の指導を関係機関に頼るのみである。そこで、収容処遇当初から少年院及び少年との連絡を密にし、少年の処遇経過(成果)について、保護者が理解を深めるよう、保護者に対し積極的に働きかけていただきたい。

2 少年については、その志望・意欲・現実の社会適応能力を十分考慮して仮退院の準備が進められることになるが、仮退院後の就労に多くの困難が予想され、場合によつては、なお精神薄弱者援護施設における処遇を必要とすることも考えられる。その場合には、むつ市福祉事務所・精神薄弱者更生相談所との調整が必要であり、しかも同施設は空きがなく入所自体が困難なため、早めに手続きを進めなければならないので、保護者と共通の理解の下に、少年の仮退院後の処遇を検討し見通したうえで、援助されたい。

3 少年の左耳にやや難聴があり、言葉に不明瞭なところがあるが、仮退院後の良き相談相手となつて指導援助されたい。

なお、本職宛の調査官からの調査報告書を十分参照してください。

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