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静岡地方裁判所 平成4年(ワ)307号 判決

甲事件・乙事件原告

大森政幸

右訴訟代理人弁護士

阿部浩基

諏訪部史人

同(甲事件のみ)

佐藤久

同(同前)

伊藤博史

同(乙事件のみ)

白井孝一

同(同前)

清水光康

甲事件・乙事件被告

ヤマト運輸株式会社

右代表者代表取締役

宮内宏二

右訴訟代理人弁護士

有賀正明

桑村竹則

主文

1  被告は原告に対し金八〇万円及びこれに対する平成七年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告のその余を原告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金三四五万六五一〇円及び内金五九万〇八七〇円に対する甲事件訴状送達の日の翌日(平成四年六月六日)から、内金二八六万五六四〇円に対する乙事件訴状送達の日の翌日(平成七年八月一二日)からそれぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告は、貨物自動車運送業等を目的とする株式会社である(以下必要に応じ「被告」又は「被告会社」という。)。

(二) 原告は、昭和三九年四月六日、静岡運輸株式会社に雇用されたが、同社が昭和四四年に被告会社に吸収合併された後は被告会社との間に雇用契約関係(以下「本件雇用契約」という。)がある。原告は、静岡運輸株式会社に入社以来、車輛の整備、点検、管理等の仕事に従事している。

2  債務不履行

被告は、原告の雇用主として、原告を他の従業員と平等に取り扱うべき雇用契約上の義務を負っている。原告の職級の格付や人事上の処遇は被告による人事考課の対象となるが、これまで被告会社の人事考課は年功的要素を前提に運用されてきた。また、人事考課といっても被告の自由にまかされたものではなく、そこには自ずと許された裁量の範囲があり、これを逸脱もしくは濫用した場合は違法となり、雇用契約上の義務違反となる。ところが被告は、次のとおりの事情で、原告が労働組合に所属することを唯一の理由として、原告を不当に差別をしている。被告は原告に対して、債務不履行によって原告が被った損害を賠償する責任がある。

(一) 原告の組合活動歴と対立組合の存在

原告は、昭和三九年九月、全国自動車運輸労働組合(昭和五二年九月に全日本運輸一般労働組合に名称を変更した。以下変更前の組合を「全自運」、変更後の組合を「運輸一般」という。)静岡運輸支部に加入し、昭和四〇年に全自運静岡運輸支部静岡分会職場委員、昭和四一年に全自運静岡運輸青年婦人部長、昭和四二年に全自運静岡地本青年婦人部長及び全自運中央青年婦人副部長、昭和四三年から昭和五二年まで全自運静岡運輸支部執行委員、昭和五二年から現在まで運輸一般ヤマト運輸支部執行委員を務めるとともに、平成四年からは運輸一般ヤマト運輸支部書記長をしている。また、この間、昭和六〇年から平成五年までは静岡地区民間共闘会議常任幹事、事務局長及び静岡地区労働組合会議副議長を、平成四年からは静岡地区労働組合連合会常任幹事、静岡県労働組合評議会常任幹事の地位にある。

被告会社には、原告の所属する運輸一般ヤマト運輸支部(以下では便宜のために「原告所属組合」という。)の他に全日本運輸産業労働組合連合会(以下「運輸労連」という。)ヤマト運輸労働組合(以下「対立組合」という。)が存在する。対立組合は組合員約二万人を擁するが、原告所属組合には組合員六〇名弱が所属するに止まる。

(二) 被告会社における職掌

被告会社では、就業規則第八条に基づいて定められた人事運用規定の第三条に従って毎年四月に昇格人事を行う。同条は、先ず社員の職掌を初任職、中堅職、業務指導職、業務管理職及び経営管理職に分け、次に各職掌の中で業務遂行能力・経験・人柄・その他の要素を勘案して社員格付基準による考課に基づき職掌等級分類基準による等級格付を行い(初任職が一級及び二級、中堅職が三級及び四級、業務指導職が五級、業務管理職が六級及び七級、経営管理職が八級ないし一〇級)、右格付は社内に設けられる審査委員会による判定を経て行うべきことを定めている。

四級から五級に昇格するには、四級在職期間中の累積点(毎年人事考課によりその者の業務成績を成果基準に照らして評価し、各一回について、Aと評価された者に八点、B上の者に六点、Bの者に五点、B下の者に四点、Cの者に二点を与え、昇格後の成果点数の合計をもってその者の累積点数とする。)が五〇点以上または五年間の累積点が三〇点以上であること、年齢及び勤続または在級がそれぞれ満四〇歳以上及び勤続二〇年以上または在級一〇年以上であること、評価が過去二年間B以上、当年度B以上であることの各条件を備えることが必要であり、昇格候補者の中から職掌等級分類基準により相応のものを上位等級に格付するものとしている。

(三) 整備管理者

被告は、道路運送車両法五〇条の要件を充足する自動車の使用者として自動車の使用の本拠ごとに自動車の点検及び整備並びに自動車車庫の管理に関する事項を処理させるために、自動車の整備又は改造に関して五年以上の実務経験を有することや自動車整備士技能検定のうち運輸省令で定める種類に合格したこと等の同法五一条の要件を満たす整備管理者を選任しなければならない。このため、被告会社は、同法五二条により、支店その他の営業所ごとに整備管理者を選任して地方運輸局長(本件では中部運輸局長)に届出している。被告会社は、整備管理者に選任された者に対し、一か月三〇〇〇円の手当を支給している。

(四) 原告の勤務成績と資格

原告は、四級に昇格した昭和五二年四月以降は、勤務していた職場において同人を含む自動車整備者でグループを組み、その長として後輩の指導にあたって来た。昭和六二年に静岡工場が藤枝に移転し、原告が静岡支店勤務となってからは、日常の勤務員が原告一人となったため、後輩の指導などしようにもできない事情となったが、そこでも平成二年頃に二人体制になるまでは六五台以上の車両について、エンジン等の整備の他に運送用車両の運行前点検、整備状況の管理、車庫の管理、タコグラフの点検作業、運転手、整備士の指導などを一手に引き受けていた。さらに原告は、整備に必要な器具・機械の改善、設置を被告会社に進言して器具・機械の保全をはかるための収納庫に工夫をこらすなど、職場環境の改善と整備業務の効率化のために積極的な役割を果たしてきた。

また、原告は、自動車の整備又は改造に関して五年以上の実務経験を有し、三級整備士の資格を有しているところから、自動車整備士技能検定のうち運輸省令で定める種類に合格した者にも該当し、整備管理者として必要な資格を備えている。被告は原告に対し昭和五四年以来二級整備士相当の職務手当を支給しており、原告が高い技能をもって誠実に被告会社の業務を遂行していることを認めている。

(五) 昇格上の差別

原告は、昭和五二年に等級が四級になり、昭和六三年四月の時点で累積点が五五点、満四七歳、勤続二三年、在級一一年、評価は昭和六一年及び昭和六二年がともにBで、昭和六三年もBであったが、いまだに四級に止まっている。

ところで被告は、有永照生を平成二年五月に、白岩信一を昭和六三年五月に、それぞれ四級から五級に昇格させた。

右の両名は、原告と同じ整備関係の仕事に従事しており、原告と年齢、勤続年数等で比較対象となりうるものである。このうち有永照生は、整備士の資格がないなど単独で仕事を任せることができないため、白岩信一とチームを組んで仕事をしている状況である。

被告は、本件雇用契約に基づき、原告を遅くとも昭和六三年四月一日以降四級から五級に昇格させるべきものであった。

(六) 整備管理者選任上の差別

昭和六二年当時、原告とともに被告静岡工場において自動車整備の仕事をしていた有永照生、堤秀人、西村太志、内田辰吾及び井川唯之は、同年五月頃、同工場が静岡市曲金から藤枝市大東町に移転すると、内田辰吾が昭和六三年一月一二日に富士営業所の、有永照生が同月二〇日に静岡西営業所の、堤秀人が同年六月二〇日に蒲原営業所の、井川唯之が平成元年五月一日に熱海営業所の、西村太志が同年六月三日に静岡南営業所の整備管理者にそれぞれ選任された。右の者らは整備管理者に選任されたとはいえ、本来置かれるべき各営業所に常駐していたわけではなく、現実には藤枝に移転した静岡工場で仕事に従事していた。また有永照生は整備士の資格すらなく、運行前の点検、車庫管理、運転手、整備士の指導など整備管理者としての仕事をしたこともない。

被告は、本件雇用契約に基づき、原告を遅くとも昭和六三年四月一日以降被告の整備管理者に選任すべきであった。

(七) 原告所属組合に対する差別

原告所属組合の組合員は平成七年に一名が五級に昇格したが、それまでは一人も五級に昇格した者がいなかった。また、原告所属組合の組合員であった杉山次郎は、昭和五八年以降、静岡支店において班長を勤(ママ)め、アルバイトの者を含めて約七〇名の従業員を指示、指導してきたし、累積点も昭和六一年当時九二点に達していたが、平成五年九月に退職するまで四級に止め置かれた。同じく組合員の杉山茂夫は、昭和五九年に原告所属組合に加入したが、被告会社は、その直後から同人に嫌がらせをし、御殿場営業所から沼津支店に不当配転し修善寺営業所に勤務させ、昭和六一年に修善寺営業所の対立組合の組合員四名が同組合を脱退して原告所属組合に加入するという事件が起こるや、そのことは杉山茂夫が影響を与えたためと考えて、他に特段の理由もなしに沼津支店に戻した。その他、原告所属の組合員の内には二〇年間あるいは一〇〇万キロ無事故で走行し、表彰の対象となった運転手もあったが、それらの者ですら四級のままに置かれた。

これに対して、原告所属組合の組合員であった者も、これを脱退したときは、数年を経て昇格を得ている。すなわち、小栗武光は、昭和四七年に右組合を脱退し、その約二年後に営業所の所長に登用された。佐藤忠行は、昭和六一年一〇月一五日に右組合を脱退し、間もなく四級から五級になった。寺山政男は、昭和六二年頃、右組合を脱退し、間もなく四級から五級になった。川口篠武は、昭和六三年三月一五日に右組合を脱退し、間もなく三級から四級になっている。さらに対立組合の役員を経験した者が昇格する傾向は顕著である。

3  不法行為

人事考課に使用者の裁量が働くとしても、裁量の範囲を逸脱若しくは濫用した場合は正当な権利行使とはいえず、違法である。一般に労働者が労働組合に所属することを理由として不利益に取り扱うことは、労働組合法七条一項(ママ)一号によって禁止されているところであるから、使用者が労働組合の所属等を理由に差別的人事考課をすれば、そのことは公序良俗に反し、民法七〇九条に該当する不法行為となる。原告は、被告から、公正な考課に基づき、提供した労働に応じた賃金、賞与等の支払を受けられる等の公正な処遇を期待して雇用契約を締結し、これを維持してきたのであるから、この期待は法的保護に値する。

ところが被告は原告に対し、前項の(一)ないし(七)のとおりの事情で、原告が原告所属組合に所属する組合員であることを理由に、昭和六三年四月一日以降に効力を生ずべき毎年の人事考課において、ことさら低位に評価する等の差別的考課を行い、そのような考課がなければ原告が得たはずの賃金、賞与よりも低額な賃金、賞与しか支払わなかった。被告は原告に対し、不法行為に基づき原告が被った損害を賠償する責任がある。

4  損害

原告が、昭和六三年四月一日、五級に昇格し、かつ整備管理者に選任されていたとすると、本来受けるべき賃金及び賞与と現実に原告に支給された賃金及び賞与との差額は、右同日から平成三年三月三一日まで(三〇七号事件関係)の賃金部分が五〇万一二四〇円(整備管理者手当一四万四〇〇〇円を含む。)、賞与部分が八万九六三〇円、平成三年四月一日から平成八年三月三一日まで(四八一号事件関係)の賃金部分が七一万七七二〇円(整備管理者手当一四万四〇〇〇円を含む。)、賞与部分が一四万七九二〇円である。

また、被告会社の原告に対する継続的な賃金、賞与等における差別によって原告は精神的苦痛を被った。これに対する慰藉料としては二〇〇万円が相当である(四八一号事件)。

5  結論

よって、原告は、被告に対して、本件雇用契約又は不法行為に基づき、金五九万〇八七〇円及びこれに対する三〇七号事件の訴状送達の日の翌日である平成四年六月六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金(三〇七号事件)、金二八六万五六四〇円及びこれに対する四八一号事件の訴状送達の日の翌日である平成七年八月一二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金(四八一号事件)の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項(当事者)の事実は認める。

2  請求原因2項(債務不履行)の事実のうち(一)(原告の組合活動歴と対立組合の存在)、(二)(被告会社における職掌)、(三)(整備管理者)、(四)(原告の勤務成績と資格)のうち、原告が、自動車の整備又は改造に関して五年以上の実務経験と三級整備士の資格を有しており、整備管理者として必要な資格を備えていること、被告が原告に対し昭和五四年以来二級整備士相当の職務手当を支給していること、(五)(昇格上の差別)のうち、原告が、昭和五二年に四級に昇格し、昭和六三年四月の時点で累積点が五五点、満四七歳、勤続二三年、在級一一年、評価は昭和六一年及び昭和六二年がともにBで、昭和六三年もBであったこと、現在四級に止まっていること、被告が、有永照生を平成二年四月一日に(原告は五月と主張するけれども四月一日付の昇格である。)、白岩信一を昭和六三年四月一日に(同前)、それぞれ四級から五級に昇格させたこと、(六)(整備管理者選任上の差別)のうち、昭和六二年当時被告会社静岡工場では原告の他に有永照生、堤秀人、西村太志、内田辰吾及び井川唯之等が自動車整備の仕事をしていたこと、被告が内田辰吾を昭和六三年一月一二日に富士営業所の、有永照生を同月二〇日に静岡西営業所の、堤秀人を同年六月二〇日に蒲原営業所の、井川唯之を平成元年五月一日に熱海営業所の、西村太志を同年六月三日に静岡南営業所の整備管理者にそれぞれ選任したこと、右の者らは整備管理者に選任されたが、本来置かれるべき各営業所に常駐していたわけではないこと、(七)(原告所属組合に対する差別)のうち、原告所属組合の組合員は平成七年に一名が五級に昇格したが、それまでは原告所属組合員のうち一人も五級に昇格したことがなかったこと、の各事実は認める。

3(一)  被告会社においては、原告所属組合の組合員であっても、人事運用規定に基づいて人事考課をしているところであり、結果として、平成七年度までは原告所属組合から五級以上に昇格判定された者がいなかったことは認めるが、それが従業員がどの組合に属しているのかにより昇格差別をしたことによるものであるとの主張は否認する。原告が主張する者の昇格の経緯については争う。また小栗武光が営業所所長になったのは昭和五九年七月一六日であり、原告所属組合脱退後一二年を経た後のことである。佐藤忠行が四級から五級に昇格したのは、平成元年四月一日であり、原告所属組合支部脱退(昭和六一年一〇月一五日)から約二年半後である。寺山政男が原告所属組合を脱退したのは昭和六〇年のことであり、四級から五級に昇格したのは約五年後の平成二年四月一日である。川口篠武は現在三級のままである。また、原告は杉山茂夫の配転についても主張するが、同人は御殿場営業所勤務中に発生した労災事故(交通事故)後自宅療養の時期があり、被告会社の御殿場営業所における要員配置の都合上沼津営業所に配置換えしたものであり、その後運行上単純なルートであり乗降が少なくて済むゴルフ宅急便の集配業務に就かせるのを相当と考えて修善寺営業所勤務としたものである。その余の事情に関する原告の主張は争う。

(二)  原告は勤務成績について主張するが、四級から五級に昇格するためには、中堅職(三級、四級)として、指導管理面、実務面での条件を満たす必要があるが、原告の場合にはそのいずれについても未達であり、総合的に判断して業務指導職である五級には不相応である。指導管理面では、〈1〉方針・計画及び目標の達成に向かって、後輩を一致協力させるように努力する、〈2〉できる範囲で主導性を発揮し、後輩の仕事ぶりを指導・援助し、上司の負担を軽減する、〈3〉後輩の指導と業務の段取りまたは臨時デポ長等の代行業務(グループ内の地区割・作業手配)ができる、との条件が満たされる必要があるが、原告は、仮に実務に通じていたとしても、指導的立場で業務を運営しているわけではないから、右の条件を充足しない。もっとも静岡支店は、原告の上司及び先輩しかおらず、原告にとっては後輩の指導ができない事情にあるが、それも原告の希望によって静岡支店に勤務することになったものであり、当初から後輩の指導ができないことは知っていたものであるから、結果として原告が五級に昇格しないからといって、これを差別とするのは当たらない。また、実務面では、中堅職(三級、四級)の場合、二級整備士免許取得程度の技能と社内整備システムを熟知した整備業務の推進ができる必要があるが、原告は三級整備士の資格を有し、二級整備士職務手当の支給を受けているものの、二級整備士免許を取得していない。また、五級に昇格しようというのであれば、自動車検査員資格取得程度の技能が要求されるところである。

被告会社では、五級への昇格の場合、支社、本部及び事務所側から支社長、本部長、支社部長、本部部長並びに支社長及び本部長の任命する者、本社側から人事課長及び人事課長の任命する人事部係長で審査委員会を構成することになっており、本件においては、中部支社長、中部支社の人事部長、総務部長、営業部長、引越営業部長、静岡主管支店長で構成する審査委員会で、右のとおり、原告については成績が未達として昇格候補にはなったものの昇格しなかったものである。

また、被告会社の中部支社における五級昇格候補者中に占める昇格者数を見ると、昭和六二年度から平成五年度までの各年について順次候補者一七〇人に対し一四人(比率八・二%)、一八五人に対し一〇人(比率五・四%)、一九八人に対し二四人(比率一二・一%)、二〇四人に対し二九人(一四・二%)、二〇六人に対し二九人(一四・一%)、二三五人に対し二〇人(八・五%)、二四八人に対し一八人(七・三%)と推移しており、また、全国で見ると、昭和六二年度から平成五年度までの各年について順次候補者一八四四人に対し二九四人(比率一五・九%)、一九二一人に対し三二一人(比率一六・七%)、二〇六六人に対し二七三人(比率一三・二%)、二二二〇人に対し三八九人(一七・五%)、二四五五人に対し三二九人(一三・四%)、二七二〇人に対し二九二人(一〇・六%)、三〇二四人に対し二六一人(八・六%)と推移している。そして累積点、年齢及び勤続などに大きな差がなければ、評価Bの者は評価Aの者やB上の者よりも下位にリストアップされることは当然であり、評価Bの者が昇格から多数外れても不思議ではない。しかも、被告会社は年々成長を続け、候補者に挙げられる者も年々多くなってきている実情であり、年功序列的に昇格するとは限らないものである。

これらの事情と、被告会社の原告に対する前記の評価とからすれば、原告を五級に昇格させることは困難であり、そのことは特に原告を差別したものとはいえない。

(三)  原告は、整備管理者がその置かれるべき営業所に勤務しなかった点を指摘するが、道路運送車両法第五〇条二項により整備管理者に与えなければならない権限は、主に運行前点検、定期点検、車庫管理、運転者、整備員の指導監督であり(道路運送車両法施行規則三二条)、これらは整備管理者自身が営業所に常駐していなくとも、適宜整備管理代務者を置くことにより遂行できるから、原告が主張する者らが手当を受けることにも問題がない。被告会社は、整備責任者の選任資格のうちA資格を有する者を選任していたところであるが、昭和六三年当時各店所において整備管理者としての資格を有する者が少なく、選任することができない店所においては整備工場に所属し各店の巡回整備に携わる整備員を選任したことがある。その後各店所において資格該当者が出た時点で整備員である不在整備管理者を解任し、新たに有資格者を選任している。

被告静岡支店では、昭和六三年四月一日当時静岡支店、富士営業所、静岡西営業所、藤枝営業所に整備管理者を置くことが義務づけられていたが、当時そのいずれについても整備管理者が選任されており、その後も、整備関係者の中から必要にして充分な数の整備管理者が選任されているのであり、これ以上選任する必要もない。整備管理者は法規により自動車の使用本拠毎に各一名ずつ置くことになっており、原告の所属する静岡支店においては原告の上司である甲賀昇(昭和六二年五月一一日選任)が整備管理者に任命されているから、他に整備管理者を置く必要はなく、被告は原告を代務者に指名している。

原告の主張する他の者の整備管理者への任命も、昭和六二年に被告会社の静岡工場が藤枝に移転するにあたり、組合の仕事等自己の希望により同年六月一六日付けで静岡支店に移った原告を除き、藤枝の新工場に移った有永ら五名の内から、単位営業所の必要上それぞれ整備管理者に任命したものであり、原告の主張する技能や年功的要素などによって決定したものではない。

原告は、有永照生が整備士の資格がないのに整備管理者に選任されているのが不当であるとも主張するが、整備士の資格がなくとも、自動車の整備又は改造に関して五年以上の実務の経験があれば整備管理者としての資格がある(道路運送車両法五一条一号)ので、問題がない。

4  請求原因3項(不法行為)は争う。

5  請求原因4項(損害)は慰藉料に関する部分を争い、その余を認める。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載されたとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当事者について

請求原因1項(当事者)の事実は当事者間に争いがない。

二  債務不履行の有無について

1  原告は、被告が原告を五級に昇格させないこと、かつ、原告を整備管理者にしないことは、被告が、原告の雇用主として、原告を他の従業員と平等に取り扱うべき雇用契約上の義務に違反しているものであるから、被告には、原告に対して、本件雇用契約に基づき、原告が五級に昇格し、かつ、整備管理者に選任された場合に受けるべき賃金と現に支給されている賃金との差額を支払うべき義務があると主張する。

しかし、雇用契約の内容は、法令、労働協約、就業規則等により一定の制限を受けることがあるほかは使用者と労働者との合意により定まるものであり、使用者が一般的に労働者に対して、他の労働者との均衡に配慮して処遇すべき雇用契約上の義務を負っているとはにわかに納得しがたい。労働基準法三条は、使用者が労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならないと定めているが、同法一三条が同法で定める基準に達しない労働条件を定める雇用契約は、その部分については無効とし、無効となった部分は同法の定める基準によるとしているのと対比しても、同法三条は、これに違反する使用者の行為を無効とすることがあるのは別として、直ちに違反状態に代わって特定の均衡状態を回復すべき契約上の義務を使用者に生じさせるものとは考えられない。同法三条に掲げられない事情、例えば労働者の能力、成績により異なって処遇することに妨げのないことはいうまでもない。証拠によっても、被告が原告に対してそのような義務を負担していると認めるには足りない。

2  原告はまた、被告の人事考課に伴う裁量も、その許された範囲を逸脱したり、裁量権を濫用したときは、その結果としての査定や処遇が契約上許されないものとなり、債務不履行責任を負うとも主張する。しかし、いかなる債務不履行責任を負担することになるのか一向に明らかでないことはともかくとして、そのように抽象的な内容の雇用契約上の義務を認めることは、契約の一方の当事者である使用者に極めて困難な予測を強いることになり、結果が発生しないと義務違反であるかどうかわからないことにもなりかねない。証拠によっても、被告が原告に対してそのような義務を負担していると認めることはできない。

3  労働組合法七条一号は、労働者が労働組合の組合員であること等の事情の故にその労働者に対して不利益な取扱をしてはならないと定め、これに違反する事態が生じた場合には、不当労働行為として同法の定める救済を求めることができるとしているが、その場合であっても、同条に違反する行為が私法上無効となることがあるのは別として、同条があるために使用者が処遇上の均衡を回復するための雇用契約上の義務を負っていると考えることはできない。

4  原告の債務不履行の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

三  不法行為の有無について

1  原告は、人事考課に伴う使用者の裁量が許された範囲を逸脱し、若しくは裁量権が濫用された場合は正当な権利行使とはいえず、違法であり、不法行為に当たると主張し、本件は、被告が、原告が労働組合に所属することを唯一の理由として不利益に取り扱ったものであるから、労働組合法七条一号に違反し、その結果人事考課とこれに基づく処遇は公序良俗に違反するもので、民法七〇九条に該当する不法行為となり、原告はこれにより、被告から公正な処遇を受けられるとの期待権を侵害されたことになると主張する。

労働基準法三条にせよ、労働組合法七条にせよ、それらに違反する使用者の行為が私法上無効となることがあるからといって、使用者がそれらの定めに違反しないように何らか行為すべき雇用契約上の義務を負っていると考えることができないことは右に判断したとおりであるが、他方で、本件で主張される賃金上の処遇については、被告がその処遇制度上個々の労働者に対して一定の条件が整えば従前より良い条件のもとに待遇すること、あるいは一定の条件を失わない限り従前より悪い条件のもとに待遇されることがないことを具体的に期待させる取扱を続けていたような場合には、他に特段の理由もなく、特定の労働者をその期待に反して遇することがあれば、不法行為となる余地があるものとみるべきである。特に労働者に具体的な期待が成立している事情のもとで使用者が労働組合法七条一項(ママ)一号の定める事情によって特定の労働者を他の労働者に比し劣位に遇することは、労働者の期待権を侵害するものとして不法行為に当たるというべきである。

そこで、以下本件において、被告にこの意味における不法行為があったか否かについて判断する。

2  原告が請求原因3項(不法行為)で引用する請求原因2項(債務不履行)の事実のうち、(一)(原告の組合活動歴と対立組合の存在)、(二)(被告会社における職掌)、(三)(整備管理者)、(四)(原告の勤務成績と資格)のうち、原告が、自動車の整備又は改造に関して五年以上の実務経験と三級整備士の資格を有しており、整備管理者として必要な資格を備えていること、被告が原告に対し昭和五四年以来二級整備士相当の職務手当を支給していること、(五)(昇格上の差別)のうち、原告が、昭和五二年に四級に昇格し、昭和六三年四月の時点で累積点が五五点、満四七歳、勤続二三年、在級一一年、評価は昭和六一年及び昭和六二年がともにBで、昭和六三年もBであったこと、現在四級に止まっていること、被告が、有永照生を平成二年四月一日に(被告が昇格の日時を同年四月一日と自認するところ、原告もこれを強いて同年五月と主張するものではないと認める。)、白岩信一を昭和六三年四月一日に(同前)、それぞれ四級から五級に昇格させたこと、(六)(整備管理者選任上の差別)のうち、昭和六二年当時被告会社静岡工場では原告の他に有永照生、堤秀人、西村太志、内田辰吾及び井川唯之等が自動車整備の仕事をしていたこと、被告が内田辰吾を昭和六三年一月一二日に富士営業所の、有永照生を同月二〇日に静岡西営業所の、堤秀人を同年六月二〇日に蒲原営業所の、井川唯之を平成元年五月一日に熱海営業所の、西村太志を同年六月三日に静岡南営業所の整備管理者にそれぞれ選任したこと、右の者らは整備管理者に選任されたが、本来置かれるべき各営業所に常駐していたわけではないこと、(七)(原告所属組合に対する差別)のうち、原告所属組合の組合員は平成七年に一名が五級に昇格したが、それまでは五級に昇格した者が一人もいなかったこと、の各事実は当事者間に争いがない。

3  (証拠・人証略)、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば次の各事実を認めることができる。

(一)  人事運用規程は、三条で正社員の格付基準に基づく格付を行うこと、毎年前の年の一〇月から当年九月までの成績に基づき人事考課をすること、職務等級表に従い昇格し、号俸の格付に従って昇級すること、昇級は一年の成績に従って毎年定め、昇格は数年の成績の累積によってこれを定めることなどを定めている。社員の格付のために候補者を確定する場合、本件で問題となる四級から五級の例では、中堅職から業務指導職に変わる節目となっているところから、その者が、経験・専門技能・リーダー性を生かして各担当業務の分野において、後輩・部下の範となり、適切な指導・指示を行い業務の円滑な運営をはかり、また上司の業務方針・計画の達成と職場の技能レベル向上の推進等について、その推進者として十分補佐ができることを要求し、かつ、日常の活動において、人柄(誠実であること、研究熱心であること、部下や後輩に対して接客態度などの指導を正しく分かり易くすること等)や態度(部下に求めることを率先垂範するように心掛けること、日常からアイデアを工夫し、その実現のための要件を考えること等)、実務内容(所属上長の代行業務、担当内の作業、事務システムの改善、チェック、自動車検査員資格取得程度の技能、専門的な整備業務の推進等)や知識(担当の仕事に関連する業務システムの知識等)の面でそれぞれ定められた徳目を発揮していることを求めている。こうして、毎年対象者の業務成績を昇格評語と呼ばれる五段階の分類名に分けて査定し(昇格評語Bを普通として五点、それより上がB上で六点、成績抜群の者がAで八点、やや劣る者はB下で五(ママ)点、劣る者はCで二点とする。)、評価を合計した累積点と直前一定期間の成績をもとに昇格候補者を絞り込むことになっている。四級から五級に昇格する場合には、累積点が五〇点に達しているか又は五年間の累積点が三〇点以上であることに加えて二年間普通以上(B以上)の成績であることが必要であり(もっともBという成績のままで五級に昇格する者はほとんどない。)、右の条件のほかに、年齢四〇歳以上で、勤続二〇年以上又は在級一〇年以上であることが一応の目安となっている。年度について昇格させる人数枠というものはないが、成績を付ける場合に、分布の目安というものが用いられ、それによれば、Aと評価される者は概ね五パーセントを、B上と評価される者は概ね一五パーセントを割り振る実情にある。加えて、被告会社では会社の成長に伴い候補者として名簿に登載される者も増加する傾向にある。

(二)  昇格の基準に合致した者は昇格候補者名簿に登載され、その候補者の中から昇格審査委員会の審査、格付判定を経て昇格が決まるが、この昇格審査委員会は、審査対象者の現に属する級が四級までの場合は全国に八つ置かれたそれぞれの支社毎にその担当者で構成し、五級以上の場合は本社人事部が関与して構成する。静岡主管支店は、名古屋、三河、三重、小牧の各主管支店と共に中部支社の下にあり、原告のように静岡支店に勤務し現に四級に属する者の場合には、中部支社長、中部支社人事教育部長、同総務部長、営業部長、主管支店長として静岡支店長によって構成された昇格審査委員会によって昇格が審査されることとなる。その場合、主管支店長は第一次評定者である直属の上司の意見を取りまとめる第二次評定者として最終の意見を述べるべき立場にあるが、一々支社に出向くのではなく、支社の担当部長との間で個別に意見のやりとりをし、評語の確認をした上で支社がこれをとりまとめ、他の委員の意見を合わせて昇格の是非を決めることになる。昇格は概ね成績上位の者から決まる。

査定に基づく昇格評語の決定には困難が伴い、平成四年ころ被告会社の管理職として査定をする者に意見を求めたところ、悪く付けたくないという思いから、どうしてもB評価が多くなると考えている者、他店所の状況がわからないため自店所がどの程度の水準であるのか、どこを基準に評価したらいいのか苦労すると考えている者などがあった。

(三)  原告は昭和三九年に入社し、昭和五二年に四級に格付され、昭和六二年に累積点が五〇点に達していた。それ以来他の要件を含めて昇格の候補条件を満たし、四級から五級への昇格候補者名簿にも登載されている。原告は被告会社の車両部(現在はないが、当時は組織上静岡支店とは別建てになっていた。)に属する静岡市曲金の工場で整備業務に従事していた。昭和五七年ころ、八人の作業員で担当する整備業務を作業の性質に応じて二つの班に分けた際には、工場長である甲賀から一つの班のリーダーにも指名された。その班には有永が部下として含まれていた。こうして、原告は、曲金の工場では班長として仕事の進め方を班員に指示したり、後輩の指導にあたっていた。しかし、昭和六二年五月頃に工場が藤枝に移転し、組織上中部支社の下に置かれるようになった際に、他の作業員が皆藤枝に移るのと分かれて一人静岡に残り、以後は静岡主管支店に属することになり、静岡支店の車輛課長、係長の下で勤務している。原告が静岡支店に勤務することになった理由の一つには、当時原告が原告所属組合の役員を務めていたことや藤枝への通勤時間が長くなるという事情があったが、他方では、静岡支店も被告にとっては運行基地であり、大型の自動車を含む多数の車両が配備されていたために整備員を必要としていた事情がある。静岡支店には、同じ建物の中に静岡引越営業所、静岡中央営業所、静岡特配営業所が置かれ、いずれについても甲賀が整備管理者となっているが、同人は実務をすることがなかったため、平成二年ころに整備業務が二人体制になるまでは、六五台以上ある静岡支店の車両について日常の業務は原告が一人で処理していた。原告は、静岡支店における業務遂行に当たっては、エンジン等の整備、輸送用車両の運行前点検、整備状況の管理、車庫の管理、タコグラフの点検作業などをするほか、部品の洗浄機の設置を進言して実現し、器具、機械の保全をはかるための収納庫に工夫をこらすなど職場環境の改善と整備業務の効率化、合理化に熱意を持って臨んでいる。そのため平成三年ころ静岡支店の引越営業所の所長は原告を整備管理者と誤認し、室内の職務分担表にその旨の表示をさせたほどであった。

(四)  他方、白岩信一(昭和一一年四月一二日生)と有永照生(昭和一九年四月二三日生)とは、整備関係の仕事に従事しており、年齢、勤続年数等に照らして原告と相似する条件を備えた従業員であり、ともに前記のとおりそれぞれ四級から五級に昇格している。有永照生は、藤枝の工場に勤務し、坂本という部下がいるものの、整備士の資格はなく、単独で整備業務を遂行する能力を備えているとはいい難い者であり、ベテランの白岩信一とチームを組んで日常業務に就いている状況である。原告と被告(ママ)とに対する第一査定者(昭和六三年以来現在まで工場長である甲賀昇)の査定は、ほぼ同じであるか、項目によっては原告が上位にあるというものであり、評語も昭和六一年当時は同等であったにしても現在では原告の方が勝るという内容であった。しかし第二査定者である静岡主管支店長(昭和六三年ころから平成三年ころまで土方幹雄)は原告に対しBの評語を付け続けた。

4  (証拠・人証略)、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば次の各事実を認めることができる。

(一)  被告会社における原告所属組合と対立組合との組合員の比率は前者が約五〇名足らず(現在では三一名程度)であるのに対して、後者の組合員は約二万人で、概ね一対四〇〇の割合である。もっとも、原告所属組合の組合員の勤務する被告会社の営業所は概ね東海地区に分布しており、昭和六三年当時、被告会社の静岡支店に勤務する従業員約一〇〇名のうちの原告所属組合の組合員(約一〇名)と対立組合の組合員(約四〇名程度)との比率は概ね一対四の割合であった。

(二)  二つの組合は運動方針が大いに異なり、互いに敵対視していた。対立組合は、被告会社がオイルショック時に営業成績を落とし、存亡の危機に立たされた際、大口貨物に対する依存を脱し、小口貨物の扱いが中心となる宅急便業務を確立するとの打開策を打ち出したのに対して、積極的に取り組み、これを成功させたことを組合活動の誇りとし、原告所属組合は闘争至上主義であり、かつ、組合を特定政党の指導下に置こうとするものであり容認できないとして、口を極めて攻撃していた。これに対し原告所属組合は、最近では所属組合員の数も極く少なくなっているところから、活発な活動には至らないものの、従前は会社との労使交渉を有利に導くためにはしばしばストライキも辞さない態度であり、その後も、対立組合を労資(ママ)協調路線を取るものとして強く批判していた。昭和六一年ころ、被告会社の修善寺営業所で対立組合に属していた者四名がこれを脱退し、原告所属組合に加わるということがあった際、対立組合は全国動員をかけて巻き返しのための活動をし、勤務時間中であるにもかかわらず脱退した組合員の周囲にあって説得をし、自宅を訪れて翻意を促すなどの行動に出たことがあり、被告会社もその事情を承知していた。

(三)  原告所属組合は、被告会社に対して、昭和五〇年以降継続して、同所属組合員の昇格、昇給の差別を是正すべきこと、被告の発行する部内誌であるヤマトニュースが対立組合について取材しながら原告所属組合について取材しようとしないのは差別であるから公平に扱うべきこと、特定の支店では、朝礼で対立組合の書記長に発言の機会を与え、原告所属組合の攻撃を趣旨とする発言を三〇分余りもさせたのは不当である等、種々の申入れを続けてきた。昭和六〇年ころには、原告所属組合から、賃金決定上の差別があり、不当労働行為にあたるから是正して貰いたいとの申し入れをし、結果として原告所属組合の意見が通ったこともあった。

(四)  昭和五八年ころ、被告会社静岡支店における宅急便業務を巡る被告と原告所属組合との労使交渉は一日に取り扱う個数を中心に対立が続いて結論を得られない状態であったところ、被告支店長は、原告所属組合静岡分会、沼津分会、浜松分会の路線乗務員を含めて一時就労させないとの一方的措置を執ったことがあった。被告は昭和六四年に静岡に南営業所を作り地域割りをした際に、原告所属組合から、建物の改築、人員の補充などの要求を受けたことがあり、その際、従来南営業所が担当すべき地域を担当していた者を南営業所に配置せず、元の曲金営業所に集め、原告所属組合の影響力が新営業所に及ばないようにドライバーの配置換えの措置を執った。また、新しく業務に就いたドライバーは原告所属組合の組合員と一緒に乗せないようにする、などの措置に出たほかに、被告会社では、地域担当者ごとにグループを構成し、業務に当たって来たが、原告所属組合に入ると途端にグループ長を止めさせられ、グループ長に支給されていた手当七五〇〇円ないし一万二〇〇〇円位を失うということもあった。

(五)  被告では年齢五五歳を超えた者については昇格の対象としない扱いであったが、昭和四四年から平成四年まで原告所属組合の委員長であった杉山次郎については、昭和五八年以降、静岡支店において班長を勤(ママ)め、アルバイトを含めて約七〇名の従業員への職務上の指示、指導を行ってきたし、人事考課に際して考慮される累積点でも昭和六一年当時で九二点に達していたのに、年齢の要件に触れるという理由でそもそも昇格候補者に挙げず、平成五年九月の退職まで四級のままに据え置くという扱いをしておきながら、対立組合の役員のある者については年齢を超えても昇格をさせる扱いをしたり、対立組合の専従をしており、会社の業務としては安全指導員という程度の仕事をしていたに過ぎない者を六級にまで昇格させることがあった。さらに、杉山次郎の下にあって作業員をしていた宍戸盛二は対立組合の静岡支部書記長も務めた者であったが、平成三年前後に五級に昇格した。

(六)  小栗武光が昭和五九年七月一六日に営業所所長に登用されたことは被告の自認するところであるが、同人は昭和四七年に原告所属組合を脱退しており、昭和六三年四月一日付で浜松西営業所所長に任命された。佐藤忠行が平成元年四月一日付で五級に昇格したことも被告の自認するところであるが、同人も昭和六一年一〇月一五日には原告所属組合を脱退している。更に被告は、寺山政男が平成二年四月一日付けで五級に昇格している事実も自認するが、同人は、原告所属組合を昭和六〇年頃に脱退した。もっとも、川口篠武は、昭和六三年三月一五日に右組合を脱退したが、現在も三級のままである。

(七)  対立組合の静岡支部役員、沼津支部役員、浜松支部役員及び名古屋支部役員とも五級ないし六級に昇格しているが、原告所属組合の対応する役員はいずれも四級のままである。

5  昭和六二年当時に被告会社の静岡工場において、原告の他に、有永照生、堤秀人、西村太志、内田辰吾及び井川唯之等が自動車整備の仕事をしていたことは当事者間に争いがなく、(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。すなわち、右の者のうち、有永照生(昭和一九年四月二三日生)は、なんら整備士の資格を有しないが、昭和六三年一月二〇日に静岡西営業所の整備管理者に選任され、同時に同営業所の所長である勝見康弘がその代務者として選任され、同月二〇日に中部運輸局長に届出がなされた。堤秀人(昭和四一年五月二三日生)は昭和六一年一二月六日に三級ジーゼル級の整備士免許を取得し、昭和六三年六月二〇日に蒲原営業所の整備管理者に選任され、同時に、同営業所の事務員である児玉好浩及び中田恒夫がその代務者に選任され、同月二〇日に中部運輸局長に届出された。西村太志(昭和二四年一一月一五日生)は昭和四七年六月一九日に二級ガソリンエンジン級の整備士免許を取得し、平成元年六月三日に静岡南営業所の整備管理者に選任され、そのころ中部運輸局長に届出がなされた。内田辰吾(昭和三九年九月一日生)は昭和六〇年五月二日に三級ガソリンエンジン級の整備士免許を取得し、昭和六三年一月一二日に前管理者井川唯之に代わり富士営業所の整備管理者に選任され、同時に同営業所の所長である岡田洋一がその代務者として選任され、同月一四日付で中部運輸局長に届出がなされた。井川唯之(昭和三八年生)は昭和五七年五月七日に三級ガソリンエンジン級の整備士免許を取得し、平成元年五月一日に熱海営業所の整備管理者に選任され、同時に同営業所の所長である植松和男がその代務者に選任され、そのころ中部運輸局長に届出された。原告が勤務する静岡支店においては原告の上司である甲賀昇が既に昭和六二年五月一一日に整備管理者に任命されていた。被告会社では、昭和六三年ころ各地に営業所が設けられ、これに伴って法規により自動車の使用本拠毎に一名ずつ置くことになっていた整備管理者を選任する必要が生じたために、取り急ぎ技能や能力に拘泥せず藤枝に移った静岡工場に勤務する者の中から適宜整備管理者に充てることとしたが、このようにして選任された者もその後資格の面でも考慮して人選する態勢が整って来たのに応じて漸次改任作業が進んだ。もっとも、被告会社では、単位営業所の近くに勤務する者を整備管理者に選任する扱いであったにもかかわらず、その後麻機、静岡安西、静岡東町など静岡支店に近い営業所が設けられた際にも、原告が整備管理者として用いられることはなく、被告会社は平成四年八月ころ原告に対し、被告会社としては整備管理者は当該営業所に勤務する運転者の中から整備経験のある者を充てるから、わざわざ当該営業所に勤務しない者を充てる必要はなくなった、との説明を与えた。

6(一)  以上の認定及び判断に基づいて考えると、原告は一応の能力を備えるだけでなく、周囲の者からも良好な評価を得ているにもかかわらず、これまで長い間四級に留めおかれ、他に能力において劣っていると認めるに足りる状況にある者との格差が放置されて来たことは明らかである。

被告はこれに対して、被告においては、先に認定した人事考課に従って原告の成績を評価し、これに基づいて昇格の判定をしているところ、要件の一部を充足しないとして、原告は他の従業員が全員藤枝の工場に移転するのに、その希望により敢えて部下のいない静岡支社に勤務することになったとの事情を挙げるが、証拠上必ずしもそのようにはいえず、逆に、静岡支店における車両台数を考慮したとき、ある程度の能力を有する整備担当者が静岡支社に配置されることは被告としても必要な事情にあったことは先に認定したとおりであり、現に原告は静岡支社において運行される被告の多数車輛の整備作業をほとんど一人で担当しているばかりか、構内整備に関心を払い、事情はどうあれ原告を整備管理者と遇する誤解を生ずるほどの環境にあった。また、原告がその希望で静岡支店に勤務する途を選択したとすべき面があるにせよ、その際に、被告が静岡支店に勤務することになれば、将来とも指導すべき部下が存在することがなく、その結果昇格の条件を満たすことが不可能であると原告に説明したこと、あるいは、そうでなくとも、原告がその事情を知っていたと認めるべき証拠はない。しかも、先の運用規程のうち、五級への昇格の条件については、これを、現に指導すべき部下がいる者に限ると読むことはそれほど容易なことではない。そうすると、原告には他の者と成績において優劣がないのであれば、特別の事情がない限り同等に扱って貰いたいという期待が生ずるのは止むを得ない。

原告の成績に関わる(人証略)の各証言も、原告に対する人事考課の結果が劣位に止まった点について合理的な理由を示すに至らず、他に右のような格差を放置するだけの合理的な理由も見あたらない(特に昭和六三年前後に静岡主管支店長であった〈人証略〉の当時の原告の査定に関することがらに関わる証言は曖昧を極める。また、〈人証略〉の証言中には、原告の成績は、整備士として自動車検査員程度の能力というような面において不足するとする部分があるが、先に判断したとおり静岡支店の多数の車両の整備を担当して、これまでに不都合があったことを窺わせる証拠は何もない。)。

とはいえ、原告のこれまでの立証からすると、原告の勤務状況が客観的に他の五級昇格者の多くの者と比較して優るとも劣ることはないと断じることはできないこと、被告会社における昇格候補者と昇格者の比率、A評価及びB上評価の割合、自動車検査員資格取得程度の技能程度に達していると断定できないことなども考慮すると、これだけで、被告会社の原告に対する評価が毎年Bであることを違法であるといいきることにはなお問題がある。

(二)  しかしながら、先に判断したとおり、被告会社には、その方針を異にし、互いに敵対する原告所属組合と対立組合が存在しており、右に認定した組合に関する事実関係に照らすと、被告は原告所属組合を嫌忌していたことを推認することができる。二つの組合の組合員数の比率を考慮に入れれば、原告所属組合の組合員から五級に昇格する者が現れなかったことも、それほど不自然なことではないとも考えられるけれども、その点は右の判断を左右するに足りない。

(三)  これらの事情を合わせ考慮すると、原告に対する被告の応接は、被告が極めて多数の従業員を査定する必要があるために、たまたま昇格が実現しなかったというのではなく(被告もそう主張しているわけではなく、昇格の要件が満たされないから昇格しなかったに過ぎないとしている。)、被告が原告所属組合に嫌悪の情を抱き、原告の当該組合における地位や経歴を念頭においた結果、本来適切に査定し、これに応じて遇すべき工夫を敢えて怠ったものと見られても止むを得ないところである。静岡支店では部下の指導という面で評価のしようがないということは、いって見れば物理的な障害であり、昇格の問題が成績に従うべきものとすれば、これを公平に運用するための工夫はむしろ被告がすべきものである。昇格について一定の運用規程を明らかにした被告が、部下がいない限り昇格させる余地はないとして他に何らの考慮を払おうとしないのは、あまりにも信義に反する。また、静岡支店において一人で車両整備等の業務を担当する原告を、既にその上司である甲賀があるために、同支店の整備管理者に任命しなかったことは止むを得ないことであるが、その後も新設の営業所において整備管理者に選任しなかったことは、当初の整備管理者の選任が被告の業務展開の時期から見て臨時的な性格を有し、その後も便宜が優先した選任がなされていたと理解できる面はあるものの、原告の処遇を軽視した一事情と見ることはできる。

(四)  こうして被告は、原告が原告所属組合の組合員であり、その重要な役職を歴任していることを理由として、正当な人事考課を怠り、遅くとも平成二年四月一日に有永照生が五級に昇格した当時までには存在した、正当に人事考課がなされれば昇格するであろうとの原告の具体的な期待を無にしただけでなく、格差が生ずるままに放置したものであり(その後昇格のための競争条件が悪化したとすれば、その責任は無論被告が負担すべきこととなる。)、不法行為に基づく損害賠償の責任を負うものというべきである。

四  損害について

原告らは、不法行為によって原告が被った損害は、昇級し、整備管理者に任命されたことを前提とする賃金額と現実の支給額との差額であると主張するけれども、右に判断した不法行為の内容に照らして、それは当たらない。元来被告が人事考課をすべきものであることは原告も認めているところであり、仮に被告が原告を正当に遇するために、公平に人事考課をしたとしても、当然に昇格するだけの競争条件が整っていたとまではいえないし、当然に整備管理者に任命される条件が備わっているともいいがたい。また、適正な人事考課に基づく処遇をすることによって原告に対する不当な扱いが消滅したというためには、原告の主張するとおりの昇格をさせることが必須というわけでもない。本件で原告が被告に求めうるのは、被告が不当にも適正な人事考課を敢えて怠り、これにより当初から原告が他の候補者と並んで競争する地位を奪ったことに対する精神的損害の賠償に止まり、それ以上に予定された賃金額との差額の支払いを求めることはできないというほかない。本件に現れた諸般の事情を考慮すれば、被告は原告に対し、原告が被った精神的苦痛に対する賠償として八〇万円を支払うべきものである。

五  結論

そうすると、原告の請求は、被告に対し、慰謝料として八〇万円とこれに対する不法行為の日の後であることが明らかな乙事件訴状送達の日の翌日である平成七年八月一二日(乙事件の訴状がその前日に被告に送達されたことは記録上明らかである。)から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 曽我大三郎 裁判官 杉本宏之 裁判官石原直樹は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 曽我大三郎)

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