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静岡地方裁判所 昭和40年(行ウ)1号 判決

沼津市小諏訪五六五番地

原告

確信運輸株式会社

右代表者代表取締役

牧野信雄

右訴訟代理人弁護士

中条政好

市大手町一〇五番地

被告

沼津税務署長 鈴木喜重

右指定代理人検事

島村芳見

同法務事務官

西山国顕

藤原嘉民

同大蔵事務官

山本義雄

鈴木清彦

右当事者間の法人税更正決定取消請求事件について、当裁判所ほ左のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用ほ原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三八年一二月二七日付を以て原告に対してなした別紙第一目録記載の法人税更正決定処分のうち、所得金額七、六三四、一一三円を超える、

更正所得金額 二一、一六一、六〇〇円並びに

右更正所得金額に相応する、

法人税額 七、九四一、四〇〇円

留保税額 七九四、一四〇円

過少申告加算税額 四三六、七七〇円

合計 九、一七二、三一〇円

に該当する部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求の原因及び原告の主張として、

一、原告は貨物自動車による陸上運輸を業とする法人であり、その東京営業所は長年に亘り別紙第三目録記載の場所において営業していたが、同所は大型貨物自動車の交通出入が許されないことになつたため、已むを得ず移転することになり、昭和三六年一二月一日、別紙第二目録記載の土地を所有する訴外株式会社川野立志堂と原告所有の別紙第三目録記載の土地及び建物を交換し、その登記、引渡しを受けて、以来原告東京営業所は、別紙第二目録記載の場所において営業を継続している。

二、右の交換は次のとおり、対等額を以てなされたものである。即ち、

別紙第二目録記載の土地(以下取得資産という)は、財団法人日本不動産研究所の鑑定を経て評価額金三二、三三八、〇〇〇円(坪当り単価二〇一、〇〇〇円総坪数一五八坪)であつた(右評価額は、当初金三三、六〇〇、〇〇〇円と主張したが、右主張は錯誤によるものであるから、昭和四〇年一〇月二五日、第五回準備手続期日においてこれを撤回した)ため、これとの交換に供すべき原告所有の別紙第三目録記載の不動産(以下譲渡資産という)の評価額二二、八三八、〇〇〇円(うち建物の価額五九〇、〇〇〇円)との差額は、現金を以て交付することとし、原告は右訴外会社に九、五〇〇、〇〇〇円を支払つた。

そして、前記取得資産の帳簿上の処理、計算書類への記載としては、

譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額 二、九三八、四〇〇円

(このうち建物の帳簿価額 五九〇、〇〇〇円)

右についての不動産取得税 三九、〇三〇円

右交換に要した手数料、登記料 七六九、三五〇円

訴外会社へ差金として支払つた現金 九、五〇〇、〇〇〇円

以上の合計額 一三、二四六、七八〇円

として記載した。従つてこの取得資産に関する帳簿上の取扱いは法人税法施行規則(昭和四〇年三月三一日大蔵直令第一二号による改正前のもの、以下同じ、以下単に規則という)第一三条の六(昭和四〇年三月三一日法律第三四号による改正後の現行法人税法第五〇条とほぼ同趣旨の内容)第一項の規定に所謂「譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額を下らない金額を其の帳簿価額として財産目録に記載したとき」に該当するものである。

三、しかるに被告は右交換につき、昭和三八年一二月二七日付を以て原告に対し、右は交換でなく売買に因り、譲渡直前の帳簿価額一二、四三八、四〇〇円相当の譲渡資産を譲渡し、金三三、六〇〇、〇〇〇円相当の取得資産を取得し、差額の金二一、一六一、六〇〇円を利得したものと認定し、該金額を課税標準として別紙第一目録の更正決定処分を行つた。

けれども右更正決定処分は次項に述べるとおりの違法があり取消さるべきものであるとして、原告は昭和三九年一月二七日処分庁たる被告に対し異議を申立てたが、同年四月一七日棄却され、更に同年五月一四日名古屋国税局長に対し審査請求を申立てたがこれも棄却され、同年一〇月一九日に同月一六日付裁決書を受領した。

四、被告のなした本件更正決定処分には次の違法がある。即ち、

(一)  本件は前記のとおり対等額による交換であつて、原告には何らの利益もないに拘らず、被告はこれを否定し、売買による利得があると認定した違法がある。

(二)  原告は前記のとおり、取得資産を譲渡資産の譲渡直前の用途と同一用途に供するものであり、且譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額を以て取得資産の帳簿価額としている。従つて資本的資産の取引から生ずる利益は之を計上していないのであるから、利得が実現したということができないのは当然のことであり、我国の税法上または企業会計原則において認められる、資本的資産の取引による利益は計上した限り課税せらるべしとする根本原則に照しても、未だ課税の対象にならないことは明白であるに拘らず、これに対して課税をした違法がある。

(三)  なお、租税特別措置法第三一条、第三二条、第三三条、第六五条の六、第六五条の四、第六五条の五の各規定の法意に照すも、右の原告の解釈が正しいことを裏書している。

五、被告の交換差金一〇、〇九〇、〇〇〇円が規則第一三条の六第三項所定の額を超えているから課税されるべきであるとの主張に対しては、交換差金の額が一〇〇分の二〇を超えていることは認めるが、右の超過したものに対しては、同条第一項の損金に算入すると為す規定を適用しないが、用途の同一及び規則第一三条の七第一項による申告を条件として、一〇〇分の二〇まで税金を免除し、超過分について交換差金の取得者は売主同様にその超過分について納税義務のあることを規定したものと解すべきであるから被告の原告に対する本件課税処分が正当であるという論拠とはならないものである。

と述べ、

被告指定代理人は、右に対する答弁並びに被告の主張として、

一、請求原因第一項の事実中原告が貨物自動車による陸上運輸を業とする法人であること、および昭和三二年一二月原告が訴外株式会社川野立志堂から別紙第二目録記載の土地を取得し、これに対して同訴外会社に現金九、五〇〇、〇〇〇円と合わせて別紙第三目録記載の土地建物を譲渡したことは認めるが、その余は知らない。

二、同第二項の事実中、原告が訴外株式会社川野立志堂に対し、九五〇〇、〇〇〇円を支払つたことおよび原告が本件取得資産につきその主張のような帳簿上の処理をしたことは認めるがその余は知らない。原告が取得資産の評価額を三三、六〇〇、〇〇〇円であると当初認めていたにかかわらず、後に亘りこれを三二、三三八、〇〇〇円と訂正して自白の撤回をしたことには異議がある。当初の主張額三三、六〇〇、〇〇〇円(総地積一六〇坪、単価二一〇、〇〇〇円)が正当である。

三、同第三項の事実は認めるが、第四項はこれを争う。

四、被告のなした右課税処分は次のとおり正当なものである。即ち、

原告の取得資産の価額は三三、六〇〇、〇〇〇円であるから、一〇〇分の二〇相当額六、七二〇、〇〇〇円を超えない交換差金を交付した場合においてのみ、規則第一三条の六第三項により同条第一項の適用即ち交換差益に対する課税上の特例である取得資産の圧縮記帳の処理が認められることになるところ、原告主張のとおり本件においては交換の差金等として現金九、五〇〇、〇〇〇円及び建物(評価額五九〇、〇〇〇円)合計一〇、〇九〇、〇〇〇円が交付されているので、前記一〇〇分の二〇相当額を超えており、右圧縮記帳の特例を行うことは許されないものである。従つて帳簿には、

取得資産の価額 三三、六〇〇、〇〇〇円

及び取得に伴う費用等の額 八〇八、三八〇円

(請求の原因第二項記載の額と同額)

の合計 三四、四〇八、三八〇円

と記載すべきであつたに拘らず、原告はこれを圧縮して一三、二四六、七八〇円と記載したのであるから、原告の記載は前記規則の条項に照し誤りであり、その差額二一、一六一、六〇〇円は不当に取得資産の圧縮記帳したものというべきであつて、被告は、右圧縮額を税法に従つて否認し、本件更正決定処分においてこれを原告の申告所得額に加算してなしたものであるから、何らの違法不当なく相当なものである。

五、なお、原告は被告が本件交換を売買と同視して課税するのは違法である旨主張するが、税法上固定資産の譲渡の場合においては原則として、取得資産の価額が譲渡資産の価額(帳簿価額)を上廻れば、その差額は譲渡差益として法人の益金に算入し、当然課税されるべきものであり、例外として規則第一三条の六等の要件を備えたものに対してのみ課税上の特例が認められるにすぎないのであり、右資産の譲渡といううちには、「売買」を初めとし、「交換」、「贈与」、「現物出資」、「収用」、「物納」等所有権その他の財産権を移転する行為をすべて包含されるのであつて、本件課税処分は、交換を売買と認定しなければできないものでもなく、また現に前記のとおり規則第一三条の六の要件を満さないことによりなしたものであるから、原告の右主張もまた失当というべきである。

と述べた。

証拠として、

原告訴訟代理人は、甲第一乃至第六号証、第七号証の一乃至四、第八号証、第九号証の一乃至四、第一〇号証の一乃至三、第一一号証を提出し、乙号各証の成立を認め、

被告指定代理人は、乙第一号証、第二号証の一乃至三、第三号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。

理由

原告主張のとおりの法人税更正決定処分が行なわれたこと、昭和三六年一二月一日、原告が一年以上有していた固定資産たる本件譲渡資産(別級第三目録三記載の建物を除く、以下同じ)を、これと種類を同じくする固定資産たる訴外株式会社川野立志堂所有の本件取得資産と交換し、取得資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供していること、右の交換に当り交換差金等として現金九、五〇〇、〇〇〇円及び建物(評価額五九〇、〇〇〇円)合計一〇、〇九〇、〇〇〇円が原告から交換の相手方たる前記訴外会社へ交付され、また交換に伴う費用として原告主張のとおり、金八〇八、三八〇円が支出されたこと、原告の帳簿及び計算書類の記載は、譲渡資産の譲渡直前の価額金二、三四八、四〇〇円、取得資産の価額金一三、二四六、七八〇円として取扱われていること、以上の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

そして、被告は、取得資産の価額は金三三、六〇〇、〇〇〇円であると主張したのに対し、原告は当初右価額について自白したが、昭和四〇年一〇月二五日本件第五回準備手続期日において取得資産の総地積一五八坪、坪当り単価二〇一、〇〇〇円であるから、計算上三二、三三八、〇〇〇円となるのであつて、さきの自白は錯誤によるものであるからこれを撤回すると述べ、被告は、総地積一六〇坪、坪当り単価二一〇、〇〇〇円であつて、被告主張の数額が正しいから、右自白の撤回には異議があるとして、これを争うので、この点につき検討する。

成立の真正につき、いずれも当事者間に争いのない甲第四号証、同第五号証、同第八号証、乙第一号証、同第二号証の一乃至三、同第三号証(甲第八号証と同一内容のものであつて、被告官署の受付印のあるもの)の各記載を総合すれば、原告の取得した取得資産の総地積は、一六〇坪(その全部の元所有者が訴外株式会社川野立志堂であつたことは当事者間に争いがない)であり、坪当り単価は二一〇、〇〇〇円(一二七坪九合につき評価額二六、八五九、〇〇〇円)であることを窺われ、原告の主張するような評価額であることをを立証するに足る証拠は全くないから、自白が真実に反し、且右自白が錯誤に基くとは、到底認めることができない。 そうすると右自白の撤回はその効力を生ずる余地はなく、撤回前において当事者間に争いのない評価額三三、六〇〇、〇〇〇円(坪当り二一〇、〇〇〇円、総地積一六〇坪)によるべきものであるといわなければならない。

ところで、わが国の税法上、法人が資産を交換により取得した場合には、所得計算上は、その交換により取得した資産の交換当時における価額が総益金を構成し、(法人税法施行規則の一部を改正する政令(昭和三四年政令第八五号昭和三四年四月一日施行)第二一条の七第一項参照)、交換により譲渡した資産の交換直前の帳簿価額が総損金を構成することとなるところ、この場合に一定条件のもとに、取得資産の圧縮額を各事業年度の損金に算入する定がある(右政令第一三条の六第一項)が、右規定は、交換をした場合において取得資産の時価と譲渡資産の時価とが等しくない場合に、その差額を補うために授受された金銭その他の財産(交換差金等)の額が取得資産の時価および譲渡資産の時価のうちいずれか多い金額の二〇%をこえるものについてはその適用がない(右政令第一三条の六第三項)のである。

これを本件についてみるのに、前記認定の各事実によれば、本件において交換差金等の額一〇、〇九〇、〇〇〇円は、原告の取得資産の評価額三三、六〇〇、〇〇〇円の一〇〇分の二〇相当額を超えるものであることは明白であるから、本件交換に関しては、前記政令第一三条の六第一項の規定が適用されないこととなり(同条第三項)従つて取得資産の価額を帳簿上に記載するに当り、前記評価額を圧縮して記載すること及びその差額を損金として算入することは許されないものといわなければならない。

そうすると、原告は帳簿上、右評価額と取得に伴う費用等の金額との合計三四、四〇八、三八〇円と記載すべきであるに拘らず、これを一三、二四六、七八〇円と記載し、これを計算の基礎として納税の申告をしたのであるから、その差額二一、一六一、六〇〇円の所得額については、法人税に関する法令の規定に従つていないものというべく、被告のなした本件更正決定処分は右申告に関わる課税標準について右差額を算入すべきものとして更正したものであつて何らの違法、不当はなく相当なものである。

これに対して原告は、本件交換についての帳簿上の処理として譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額を以て取得資産の帳簿価額としているから、資本的資産の取引から生ずる利益は之を計上しておらず、右利益は計上した限り課税せられるとの原則に照すも、未だ利得が未実現であつて課税の対象とならないと主張するが、帳簿上の記載については、記載者の恣意に委ねられるものでなく、法令の規定により認められる範囲において、且合理的なものでなければならないこと、元より当然であつて、現に帳簿上に記載した額が右の意味における正当なものであれば格別、単にその記載を以て、直ちに利得を計上しなかつたとする根拠となすことは許されないものというべきであり、前記判断のとおり帳簿上の記載が正当でない本件にあつては、原告の右主張は理由がないものといわなければならない。

なお、租税特別措置法第三八条の六、第六五条の六、第六五条の四、第六五条の五等の各規定において、一定の場合、交換につき課税上の特例を認めていることは所論のとおりであるが、右各法案に明記のとおり右措置法は昭和三六年一二月一日の本件交換については適用がなく、且右の法律は、当分の間法人税等を軽減し、若くは児除し、又は課税標準等について特例を設けるものであつて(同法第一条参照)、その法意を拡張し、もしくはこれを類推してその適用範囲を遡り或いは広めることは相当でないから、原告のこれに対する主張も採用できない。

よつて原告の本訴請求は、その理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大島斐雄 裁判官 高橋久雄 裁判官寺本嘉弘は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 大島斐雄)

第一目録

昭和三六年八月一日より昭和三七年七月三一日に至る事業年度分法人税更正決定

一、更正決定所得金額 二八、七九五、七一三円

二、右税額      一〇、七五三、二三九円

三、留保分所得金額  一〇、八五八、四〇〇円

四、右税額       一、〇八五、八四〇円

五、法人税額     一一、八三九、〇七〇円

六、納付の確定した税額 二、六四八、九〇〇円

七、差引納付すべき税額 九、一九〇、一七〇円

八、過少申告加算税額    四五九、五〇〇円

以上

第二目録

一、東京都江東区深川清澄町一丁目三番四

一、宅地 一三九坪九合

二、右同所三番七

一、宅地 二〇坪

以上

第三目録

一、東京都文京区本郷元町一丁目一八番二

一、宅地 六九坪二合六勺

二、同 都千代田区神田鎌倉町一六番八

一、宅地 一九坪三合三勺

三、右同所同番地所在

家屋番号同町一六番の一〇

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅 一棟

建坪 一五坪七合五勺

二階 一三坪七合五勺

以上

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