大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

静岡地方裁判所 昭和41年(わ)64号 判決

被告人 細越沢豊人

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

但し、本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四一年二月七日午後六時頃、かねて客として出入りしたことのある清水市旭町六二番地古物商兼菓子商深沢平次(当七七年)方前路上にさしかかつた際、同人が店番をしているのを認めるや、所持金に窮していたことから、同人のみずおち部を突き同人を失神させて金員を強取しようと決意し、客を装つて同人方店内に立ち入り同所において突然机に向つて腰かけていた同人のみずおち部をめがけて手拳を強く突き出してその実行に着手したが狙いはづれ同部をそれて、胸部を突いたに止つたため、同人の反抗を抑圧するに至らず右強取の目的を遂げなかつたが右胸部打撃の暴行により同人がひるんだすきに右机の抽出から同人所有の現金六、九〇〇円を窃取したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示行為中強盗未遂の点は刑法第二四三条、第二三六条第一項に、窃盗の点は同法第二三五条に各該当するが、前者は未遂であるので同法第四三条本文、第六八条第三号により法律上の減軽をし、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により重い後者の罪の刑に法定の加重を施し、その刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、なおその情状により同法第二五条第一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用してこれを被告人に負担させないこととする。

(強盗罪の成否について)

前掲各証拠によれば、被告人は手拳で被害者のみずおち部を強く突き、同人を一時失神させて金員を奪取する意思、即ち強盗の犯意で被害者の同部をめがけて手拳を突き出したが狙いはずれ、同部をそれて胸部を突いたため、被害者が掛けていた椅子もろとも背後の風呂場の煙突に支えられるごとく、後方に斜に倒れた隙に机の抽出から右手で金員を鷲掴みしたので、被害者が直ちに元の姿勢に立ち戻り被告人の右手の腕を捉えるや、被告人は更にその手で被害者の胸部を突いて被害者の捉える手を振り切り、その場を逃れたことが認められるところ、被告人は強盗の犯意で被害者のみずおち部を強く突くため、同部を狙つて手拳を突き出す行為に出たとはいえ、手拳は同部をそれて胸部にあたつたに止つた以上、右胸部打撃の暴行はたとえ被害者が高令の老人であり、また全治五日間位の打撲傷を与える程度のものであつたとしても、被害者が厚着をしていたこと等の事情を考慮すれば未だ強盗罪にいう反抗を抑圧するに足りる暴行に当るとはいい難く、従つて、右暴行により被害者が意に反して金員を奪われたとしても強盗罪の成立はないものといわなければならない。しかし、被害者のみずおち部を突くため手拳を突き出す右行為は強盗の実行々為に着手したと認められるので右胸部打撃の暴行罪に止らず強盗未遂罪の成立があり、右胸部打撃により被害者のひるんだ隙に金員を奪つた点において窃盗罪の成立があるものと認むべく両罪は併合罪の関係にあるものと解すべきである。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本二郎)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

本サイトは報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること)を事業としており,掲載された全ての情報は報道等に活用することを目的としています。

©daihanrei.com