大判例

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静岡地方裁判所浜松支部 昭和33年(わ)105号 判決

被告人 望月富年

主文

被告人を懲役六月及び罰金参万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金参百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人は、昭和二九年五月から、その妾玉沢せつ子名義で肩書居宅において「遊楽」という屋号で雇女に売春をさせることを業とする特殊飲食店を経営し、同女とそこに同棲していた。ところが売春防止法が施行されるようになり、昭和三三年三月中に右営業を廃止し、右住居の一部を改装した上、右玉沢せつ子名義で料理店営業の許可を受け、屋号もそのまま「遊楽」として、同年四月六日料理店を開業するに至つたが業績は香しくなかつた。

その内同年四月一四日に以前特殊飲食店時代被告人方の従業婦として働らいていた現在は浜松市砂山町九〇番地三浦義雄方居住の玉木武子が職がないから雇つてくれと頼んで来たのを、特殊飲食店時代の従業婦を再雇用してはいけないと行政指導を受けていたのにかかわらず、女中として雇入れ同所に住込ませた。玉木武子は同月一七日頃になつて右玉沢せつ子に対し、売春をして金もうけをしたいと申出で、被告人は玉沢せつ子からこれを聞いて承諾し、ここに同女と共謀の上右玉木武子が同所で売春をし、その対価を折半して受取る契約をして、同女に同日から同年五月二三日頃までの間引続き同所において延三十五、六人の男客を相手に売春をさせてその対価の半額を受取つた。

その間、ようやく客足がついて来たため右玉木武子だけでは従業婦が足りないので、同年五月一日同女の友人である現在同市塩町九〇番地内藤アパート居住の新井幸代を女中名義で雇入れて住込ませたが、同日夜右玉沢せつ子と共謀の上、同女が右新井幸代に対し、対価折半の条件で売春をするように勧誘した結果前同様の契約をし、同日から同月二三日まで引続き同所において延約二十二、三名の男客を相手に売春させてその対価の半額を受取つた。

被告人の右行為は右玉沢せつ子と共謀の上自己の占有する場所に右二名の婦女を居住させ同女らに売春をさせることを業としたものと認められるのである。

(証拠)〈省略〉

弁護人は、被告人は判示婦女の自由を束縛せず、かつ売春を強制したのでもないから、本件は売春防止法第一二条に該当せず同法第一一条の場所提供罪を構成するに過ぎない、と主張するので当裁判所の見解を次に示す。

売春防止法は、社会の善良の風俗を乱し、売春に従事する者の福祉を害することが特に甚しいところの売春施設経営、売春管理等の営業行為を徹底的に抑圧しようとする目的を以て制定された点において、従来の売春取締関係法規に見られなかつた意義を有するのである。そして、同法第一一条及び第一二条は、右目的達成のための要をなすものであり、同法の施行によつて、従来の業者が実質上その営業を続けながら業態を変えて脱法的手段をとることが予想され、これらの実態をもれなく構成要件とすることは困難であるから、右営業行為の特質である売春の場所提供及び売春従事者の支配という二点を取上げ、前者については第一一条第二項、後者については第一二条の規定を設け特に重く処罰する、しかも従来の売春取締関係法規が、その構成要件について立証困難なものがあつて所期の成果を挙げ得ない一面をもつていたことにかんがみ、構成要件を簡単にして立証を容易ならしめようとする目的で制定されたものと解せられる。

従つて、第一二条は「人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした者は」と規定しているのであつて、その趣旨は、売春従事者の居住場所を右列挙の場所に定めることにより、その者を支配する可能性がある状態の下に売春をさせることを業とした者を処罰するものである。右にいう状態は、人の自由を束縛することは勿論、人を支配することも必要としない。人を支配する可能性があれば足りるのである。そして売春をさせるとは、売春を強制する場合に限らず、人を教唆して売春をさせるに至らしめるとか、或はその自由意思による売春を幇助するとか、広く売春に介入する行為を指称するものである。

本件について見ると、被告人は判示のとおり、婦女二名を雇つて自己の占有する営業用家屋に住込ませた上、売春をすることを内容とする契約を結び、同女らをして売春をさせてこれを業としていた者であるから、被告人の行為はまさに売春防止法第一二条に該当するものといわなければならない。

なお、本件の場合、被告人は判示婦女と売春契約を結び、売春の場所を提供し、或は売春を勧誘して売春をさせているのであつて、これらの行為だけを見ると、右は順次売春防止法第一〇条第一項、同法第一一条第二項、刑法第一八二条に該当するけれども、これらは何れも売春防止法第一二条に吸収される関係にあり、また、判示のとおり二名の婦女に売春をさせているが、これはいわゆる営業犯として一個の犯罪が成立するものと解すべきである。

適用法令

売春防止法第一二条、刑法第一八条、刑事訴訟法第一八一条第一項本文。

(裁判官 播本格一)

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