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高松高等裁判所 昭和27年(ネ)78号 判決

控訴人 原告(反訴被告) 宮川栄一

訴訟代理人 菊池哲春 外一名

被控訴人 被告(反訴原告) 株式会社伊豫銀行

訴訟代理人 山本優 外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人の請求を棄却する。

原判決別紙目録記載の船舶は、被控訴人の所有であることを確認する。

被控訴人その余の反訴請求はこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも全部控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。原判決別紙目録記載の船舶は控訴人の所有であることを確認する。被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、更にその反訴請求を拡張して「若し控訴人が被控訴人に対し本件船舶を引渡すことができないときは金百二十万円を支払わねばならない。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、

被控訴代理人において、控訴人は本件船舶をその後第三者に対し金百二十万円で売却しているので若しその引渡を為すことができないときはこれが履行に代わる時価相当の損害金百二十万円の支払を求める旨反訴請求を拡張すると述べた。

控訴代理人は被控訴人の右主張事実中控訴人が本件船舶を他に売却したことは認めるが、その余の事実特に右船舶の価格はこれを争うと述べた。

以上の外は原判決事実摘示と同一(但し控訴代理人において、原判決の控訴人主張の部に被控訴人が訴外白王水産株式会社に対し本件船舶に関する仮処分決定を受けたのは昭和二十六年五月九日とあるも、これは同月十九日の誤記だから訂正すると述べた。)であるからここにこれを引用する。

証拠として。

控訴代理人は、甲第一、二号証を提出し原審並びに当審証人松平政次郎、松谷元治、谷本稔、当審証人河合重巳、田中道春、萩森富吾、岩切徳市、幸田徳一の各証言及び原審並びに当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第二号証の一、二は不知その他の同号各証はその成立を認めると述べた。

被控訴代理人は、乙第一号証第二号証の一、二第三乃至第八号証を提出し、原審証人長尾高義、当審証人井上利亜鬼、明地儀達、大登富士彌、原審並びに当審証人二宮茂、矢野哲三郎の各証言を援用し、甲第一号証は不知、同第二号証は成立を認めると述べた。

理由

一、控訴人の主たる請求について。

原判決別紙目録記載の本件船舶龍王丸がもと訴外長尾高義の所有であつたことは、当事者間に争がない。

原審証人松谷元治の証言により成立を認める甲第一号証成立に争のない同第二号証に原審並びに当審証人松平政次郎、松谷元治、原審証人長尾高義(但しその一部)の各証言及び原審並びに当審における控訴本人尋問の結果を綜合すると、控訴人は昭和二十六年四月二十日右訴外長尾に対し金四十八万円を期間二ケ月の約束で貸与し、その債務について同訴外人との間に右龍王丸を譲渡担保に供することとし、右支払期日に借受金を完済したときはこれを返還し、その登録換を為す旨の譲渡担保契約を締結し、同年五月十八日右船舶を控訴人名義に登録換を為したことが認められる。

然しながら成立に争のない甲第一号証、第三乃至第五号証、原審証人二宮茂の証言により成立を認める同第二号証の一、二に原審並びに当審証人二宮茂、矢野哲三郎、原審証人長尾高義、当審証人大登富士彌、明地儀達の各証言を綜合すると被控訴人は昭和二十五年七月二十八日訴外白王水産株式会社(社長長尾高義)との間に限度額を金七十万円と定めて手形割引の方法により金員を貸付けることとし、その債務の譲渡担保として、連帯保証人たる訴外長尾は、その所有の右龍王丸を信託的に内外共に所有権を移転する旨、被控訴人主張の如き根担保契約を締結し、同日占有改定によつて船舶の引渡を受け、更に即日右船舶を訴外会社に使用貸借を為さしめた。

而して訴外会社は右契約に基き同年八月十六日被控訴人宛に、額面金七十万円、支払地八幡浜市、支払場所被控訴銀行八幡浜支店、支払期日同年十月二十日の約束手形一通を振出し、被控訴人は同日訴外会社に対し金七十万円の割引貸付を為したのであるが、訴外会社は期日にその支払をしなかつたので被控訴人は約旨に基いて右船舶を代物弁済に充当するか或は任意に処分の上代金を支払に充当するかの権利を取得し、従つて右訴外長尾との間においても完全に右船舶の所有権を取得したものである事実が認定せられる。

右認定を覆えすに足りる証拠はない。然らば冒頭認定のように控訴人が訴外長尾との間に本件船舶の譲渡担保契約を締結したとするもその当時本件船舶は既に被控訴人の所有に帰し同訴外人は無権利者であつたこととなるから控訴人の右譲渡担保契約に基き、右船舶の所有権を取得したと主張する主たる本訴請求はその理由がない。

二、控訴人の予備的請求について。

控訴人は仮りに訴外長尾に所有権がないとしても同訴外人に本件船舶処分の権限があると信じ、且信ずるについて過失なく善意平穏公然に本件船舶の引渡を受けて占有を取得したものであるから民法第百九十二条によつてこれが所有権を取得した旨主張するのでこれを検討するに本件船舶は前段認定のとおり控訴人がその主張の譲渡担保契約を締結する当時は訴外長尾の占有に属せず訴外白王水産株式会社の占有に在つたものである。

而して当審証人河合重巳、谷本稔、幸田徳一の各証言及び当審での控訴本人の供述の一部を綜合すると控訴人は本件船舶を昭和二十六年五月六日頃右訴外会社よりこれが引渡を受けた事実が窺われるが仮りにその占有取得が控訴人主張のように平穏公然に行われ控訴人が善意無過失であつたとするも控訴人は本件船舶の所有権を取得するものではない。

惟うに民法第百九十二条は無権利の動産占有者を真実の権利者であると信じ、その占有者より売買或は質権設定等の取引行為によりその占有を承継的に取得する場合においてのみその取引の安全を確保する趣旨からしてその占有取得者に原始的に所有権、質権を取得せしめるものであると解すべきである。

然るに控訴人は本件船舶の占有者たる右訴外会社との間には何等の取引はなく、従つてその占有取得は取引関係に基き為されたものではない。それは訴外会社の取締役たる河合重巳が本件船舶の所有者は被控訴人であることを知らず控訴人を所有者と誤認し控訴人の引渡要求を容れてその引渡が行はれたことは前記証人河合重巳の証言により認められる。

このように取引関係に基くことなくして誤つて占有が取得された場合には前段説示のように右法条に該当せず即時取得の効果は発生しないから控訴人が本件船舶の所有権を取得する理由はない。

然らば控訴人の右予備的請求もその余の判断をするまでもなく失当であるから棄却を免れない。

三、被控訴人の反訴請求について。

被控訴人が本件船舶の所有権者であることは前段認定のとおりである。

被控訴人は控訴人に対し本件船舶の所有権に基きこれが引渡を求め、更に控訴人がこれを引渡すことができないときはこれが履行に代る損害即ち履行不能による損害金の請求を為すものであるが控訴人が本件船舶を現に占有していないことは被控訴人の自認するところである。従つて現に占有しないものに対して所有権に基く物権的請求権を行使することのできないのは当然であるからこれが引渡を求める請求は明らかに理由がない。

又被控訴人は債権に基いてこれが引渡を求めるものでないから履行不能による損害金の請求を求める部分は、それ自体理由がない。これは所有権の侵害による不法行為上の損害賠償を求めるならば格別であるがこの点については被控訴人は何等の主張も立証もしないものである。

然らば被控訴人の反訴請求中所有権確認の点は相当として認容せられるがその余の請求は失当だからこれを棄却すべきものとする。

以上の認定に反する原判決は一部失当だからこれを主文のとおり変更すべきものとする。

よつて民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条第九十二条に従つて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 石丸友二郎 判事 萩原敏一 判事 呉屋愛永)

(別紙目録は省略する。)

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