大判例

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高松高等裁判所 昭和43年(ネ)256号 判決

控訴人

仁木茂隆

代理人

藤川健

被控訴人

仁木貞幹

代理人

岬英明

主文

本件控訴を棄却する。

当審で追加された控訴人の所有権に基づく明渡請求を棄却する。

当審において訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一まず、原判決添付別紙目録記載の家屋(本件家屋)につき、控訴人と被控訴人との間に控訴人主張の使用賃借契約があつたか否かの点について判断する。

〈編集部注・本件家屋については、控訴人等の先代亡仁木伊左衛門の死後間もなくの頃、控訴人と被控訴人との間に暗黙のうちに使用賃借契約が成立したものと認定されている〉。

二つぎに、右使用貸借契約がその後適法に解除されたか否かについて判断する。

(一)  〈証拠〉によれば、控訴人が昭和四〇年八月三〇日被控訴人に対し、書面をもつて本件家屋に対する前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右書面はその頃被控訴人に到達したことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二)  そこでつぎに、右控訴人の使用貸借契約の解除が権利の濫用であるか否かについて判断する。

〈証拠〉を総合すると、つぎの如き事実を認めることができる。すなわち、

(1)  被控訴人は、前述のとおり、亡伊左衛門とその後妻のトキとの間に出生した亡伊左衛門の三男であるところ、右被控訴人は他の兄弟等がすべて亡伊左衛門の許を去つて独立に生計を営んでいたところから、昭和六年頃同志社大学を中退して亡伊左衛門の許に帰つた後は、本件家屋で亡伊左衛門と共に生活をして、その家業である畑田の耕作、果樹園の裁培、小作地の管理等の仕事に従事していたこと、そして亡伊左衛門が死亡した後も引き続き本件家屋に居住し、亡伊左衛門の事実上の相続人としてその家業を受け継ぐと共に、本件家屋で実母トキや妹の面倒をみたり、また、古い歴史のある仁木家の祖先の祭祀を祭り、慶弔の行事を主宰し、さらには近所の付合いをするなどして今日に及んでいること、

(2)  一方、控訴人は、前述の如く生後間もなく実母が死亡した関係から、右実母の実家にひきとられて養育され、長じて大学を卒業した後は、郡是製糸株式会社に勤務していたもので、亡伊左衛門と共に本件家屋で生活していたことは、生後間もなくの頃を除きほとんどなかつたこと、そして亡伊左衛門が死亡した後も、前記勤め先の関係や当時本件家屋には亡伊左衛門の後妻やその子の被控訴人等が居住していた関係等から、控訴人は、本件家屋に帰つて亡伊左衛門の死亡後も本件家屋で亡伊左衛門の家業を継ぎ、古い歴史のある仁木家の祖先の祭祀や慶弔の行事を主宰することはすべて被控訴人がこれに当り、控訴人は引き続き本件家屋を遠く離れて郡是製糸株式会社に勤務し、ついで和昭和一九年頃からは日立造船株式会社に勤務し、その後同会社の生産部長に進んだ後昭和四二年頃同会社を退職したこと、そしてその後も中央労働災害防止協会の職員をしながら関西大学工学部の講師として勤務し、今日に至つているもので、亡伊左衛門の死亡後今日に至るまで、その家督相続人としての実質的な役割はほとんど果たさず、これを被控訴人にまかせていたこと、また本件家屋についての家督相続による所有権取得登記も、亡伊左衛門の死亡後約二〇年間もこれをしないまま放置しておいた末、昭和三七年に至り漸くこれを控訴人名義にし、また、その間本件家屋に対する固定資産税の納付もすべて被控訴人にまかせていた外、本件家屋の事実上の管理もすべて被控訴人に委ねていたこと、

(3)  ところが、控訴人は、その長男仁木栄一郎が昭和三七ないし三八年頃から徳島市の東洋精工株式会社に勤務するようになり、ついで同人が昭和四〇年頃結婚したところなどから、被控訴人に対し本件家屋の明渡を求めるようになり、昭和四〇年八月前記の如く本件使用貸借契約の解除をするに至つたこと、

(4)  ところで、控訴人は、本件使用貸借契約解除の意思表示をした昭和四〇年には、日立造船株式会社に勤務していてその頃生産管理部長に進み、また、同会社を退職した後は、中央労働災害防止協会の職員と関西大学の講師をするなどして引き続き肩書住居地に居住しているところ、右住居は相当の住宅であつて、今これを明渡さなければならない状況にはないのみならず、その勤め先の関係からいつても、昭和四〇年頃以降現在に至るまで被控訴人に本件家屋の明渡を求めて控訴人自身がこれに居住するさし迫つた必要は全く認められないしまた、その年令からして遠からぬ将来その職を退いて郷里に居住することが考えられないではないし、本人自身然く供述しているが現在何ら具体的計画等も伴わないものでその職業これまでの生活状況等から果たして右が真実性のあるものかにわかに断定し難いところであり、また、控訴人長男栄一郎は勤務先の社宅に居住しており、本件家屋から徳島市の東洋精工株式会社まで通勤するには、遠きに過ぎて通勤には適しないこと、

(5)  一方、被控訴人は、本件家屋以外には現在家屋を所有せず、亡伊左衛門の生存中から永年居住していた本件家屋を控訴人に明渡すとすれば、忽ち住む家はなく被控訴人が本件家屋を明渡すために被控訴人の他の所有地上に新しく家を建てるとすれば経済的に相当大きな犠牲を被控訴人に強いることになるのみならず、亡伊左衛門の死後、同人の事実上の跡継ぎとして本件家屋で形成してきた被控訴人の生活関係にも重大な変化を来たすことになること、本件控訴人の明渡請求に対し被控訴人が本件物件を自己の所有なる旨誤つた主張をしたことも、さきに認定した被控訴人と先代との間の事情、控訴人の被控訴人に対する恩恵的な態度等に照らすときは右被控訴人の主張も強ちとがめ難いこと

以上の如き事実が認められ、右認定に反する〈証拠〉はたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上のように控訴人は未だ現在においてはさし迫つて本件家屋使用の必要がないのにかかわらず、被控訴人は本件家屋の明渡によつて多大の苦痛を蒙るものであること、その他双方の身分関係、本件家屋の使用の経緯等上来認定の諸事情を綜合して考えると、将来控訴人の帰住等その必要性の如何によつては被控訴人において明渡すべき義務を生ずることは格別現在においては控訴人の本件使用貸借契約の解除は、権利の濫用であつて許されないものというべきであるから、右解除の効力は発生しなかつたものというべきである。

してみると、本件家屋に対する使用貸借の終了を原因として本件家屋の明渡等を求める控訴人の本訴請求は失当である。《以下省略》

(合田得太郎 谷本益繁 後藤勇)

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