大判例

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高松高等裁判所 昭和46年(ネ)131号 判決

控訴人

太田俊三(仮名)

被控訴人

田中とみ子(仮名)

代理人

西山隆盛

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、当審において請求を減縮し、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金五〇万円及びこれに対する昭和四五年一一月二〇日以降右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決並びに、担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上法律上の主張、提出、援用した証拠、認否《省略》

理由

一控訴人と被控訴人が昭和四一年一〇月二五日頃婚約をしたこと及び被控訴人が控訴人に対し、その後昭和四二年三月頃、右婚約解消の申入れをしたこと、以上の事実については、当事者間に争いがない。

被控訴人は、右被控訴人の婚約解消の申入れに対し、被控訴人は承諾の意思表示をしたとして合意による婚約の解消を主張しているが、右被控訴人の主張事実に副う〈証拠〉はたやすく信用できず、他に右被控訴人の主張事実を認め得る証拠はない。

しかしながら、婚約は、特別の理由がない場合であつても、当事者の一方の解消の意思表示によつて解消するから、控訴人が被控訴人の右婚約解消の申入れに対し承諾をしなかつたとしても、右婚約は、被控訴人の前記解消の申入れにより、解消されたものといわなければらならない。

二そこで次に、被控訴人が右婚約を解消するにつき正当事由があつたか否かについて判断する。

〈証拠〉を綜合すると、次の如き事実を認めることができる。すなわち、

(1)  控訴人は、昭和四一年九月当時満三七才であつて農業を営んでおり、又被控訴人はその頃満三八才であつて中学校の教師をしていたところ、右控訴人及び被控訴人とも、通常の男性及び女性に比して婚期を逸し、それまでに結婚をしたことがなく、いずれも独身生活をしていたこと、

(2)  ところが、控訴人と被控訴人とは、昭和四一年九月頃、訴外宇都宮シズ子等の紹介で見合をした上、同年一〇月二五日頃正式に婚約をしたこと、

(3)  右婚約後、控訴人は、屡々被控訴人の居住していたアパートを訪れるなどして被控訴人と婚約中の交際をしていたところ、昭和四二年二月二三日頃、被控訴人のアパートで被控訴人に対し、肉体関係を求め、被控訴人の承諾を得て被控訴人と性交をしようとしたが、控訴人の性器が勃起しなかつたため、性交することができなかつたこと、又控訴人はその後も同年三月までの間に数回被控訴人に肉体関係を求めて性交しようとしたが、前同様いずれも完全にその性器が勃起をせず、正常に性交をすることができなかつたこと、

(4)  一方、被控訴人は、それまでに男性と性交渉をもつたことがなかつたので、最初は控訴人が右の如き状態で性交できなかつたことに気付かなかつたが、その後控訴人が数回被控訴人と性交をしようとしてできなかつたことや、その間に控訴人から被控訴人に対し、過去にも他の女性と性交しようとしてできなかつたことがあり、その点の身体的欠陥があることに気付いたこと、そこで、被控訴人は、同年三月頃前記宇都宮シズ子にその間の事情をくわしく話して相談したところ、同人からも控訴人の身体が性的に正常でないといわれ、その結果控訴人との婚約を解消する決意をし、同月下旬頃右宇都宮シズ子を介して控訴人に前記婚約の解消を正式に申入れたこと、

(5)  なお、控訴人は、その後同年五月に東京都内の日本大学病院院において、自己が性的不能者であるか否かの診断を受けたが、その際医師に対し、過去に女性と肉体関係を持とうとしたが、性器が勃起せず、性交ができなかつたとの趣旨の説明をしていること、

以上の如き事実が認められ、〈証拠判断省略〉

してみると、控訴人は、その身体に女性と正常な性交をすることができない肉体的欠陥があつたものというべきであるから、被控訴人主張のその余の点につき判断するまでもなく、被控訴人が本件婚約を解消するにつき正当な事由があつたものというべく、被控訴人には右婚約解消による損害賠償義務はないといわなければならない。

三よつて、控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であり、右控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用につき民訴法第九五条第八九条を適用して主文の通り判決する。

(合田得太郎 谷本益繁 後藤勇)

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