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高知地方裁判所 昭和41年(わ)387号 判決

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は、

被告人は、全港湾建設労働組合高知港支部長であるが、「運輸省庁舎の管理に関する規則」に基づく許可を受けることなく、昭和四一年八月一九日午後五時三〇分ごろ、高知市桟橋通り六丁目所在運輸省第三港湾建設局高知港工事事務所函塊製造場詰所内において、同労働組合高知港支部員十数名と共に集会を開いていたところ、同事務所の管理者たる同事務所所長田村邦夫から、その職務の執行として「庁舎内での無届集会は禁止されているので解散されたい」旨要請されたことに憤慨し、同人に対し、その左腕を両手で引張り、転倒させる暴行を加え、もつて同人の職務執行を妨害したものであるというのである。

そこで以下に順次当裁判所の判断を示すことにする。

第一、一、〈証拠略〉を綜合すれば以下の事実を認めることができる。

(一)  高知市桟橋通り六丁目所在の運輸省第三港湾建設局高知港工事事務所(以下単に高知港事務所と略称する。)には所長田村邦夫(以下単に所長と略称する。)のもとに四名の管理職があり、他方同職員約一〇五名(職員全員は約一二〇名、うち所長以下五名の管理職及び事務系係長約一〇名計約一五名の非組合員を除いた全員)をもつて全港建三建地方本部高知港支部と略称する労働組合(以下単に高知港支部と略称する。)が組織せられ、被告人はその支部長の地位にあつた(なお武島英枝が書記長であつた)。

(二)  右高知港事務所の当局側と高知港支部との間には毎年度の事業計画実施について事前協議をする慣行があつたところ、同事務所の昭和四〇年度の事業実施計画のうち「直営のコンクリートプラントの廃止」、「請負による生コンクリート導入」という一連の合理化計画につき当局側は組合との事前協議を十分に行わないまま実施に踏み切ろうとしたことから紛争を生じ、遂に同事務所としては類を見ない大争議に発したがその間当局側は組合役員に対して違法な職場集会を理由として懲戒処分をもつて臨み、組合側は団交中の組合員の受傷を理由に所長を告訴、告発するなどの応酬があり、また当局側は組合側のサボタージュを理由にカメラ、テープレコーダーを駆使して労務管理を行い、かくて労使間の対立は感情問題をもまじえて激化の一途をたどつた。

(三)  昭和四一年八月一九日全港建中央執行委員栂野博志が近く新潟県において開催予定の全国大会の方針説明のため高知港支部を訪ねたことから、同支部においては組合員を事務系組合員、内港現場組合員、海上組合員に三分し、先ず同日昼の休憩時間を利用して事務系組合員のための集会を持つこととしたが、高知港支部においては従来より高知港事務所の事務所内を利用して行う事務系組合員の集会については、原則として運輸省庁舎の管理に関する規則(昭和四〇年一〇月八日制定、同月一五日実施、以下単に庁舎管理規則と略称する。)第七条に定める使用許可申請書を予かじめ提出、許可を受けて後使用する方針であつたから、武島書記長(以下単に武島と略称する。)は同日午前一〇時半頃同事務所第三分室(会議室)の使用許可申請書を提出、許可を得た後昼休に組合員約一〇名の集会を持ち休憩時間内に集会を終えた。

ついで勤務時間終了後(午後五時より同事務所内函塊製造場詰所(以下単に内港詰所と略称する。)において内港現場組合員のための集会を予定したが、高知港支部は今回は前記庁舎管理規則は憲法二八条に違反する違憲無効のものとして同規則七条による許可申請書を提出しない方針(即ち無許可のまま自由に内港詰所を組合集会に使用する方針)を決めてそのまま放置していたところ、これを察知した当局側は諸隈真一経理係長(非組合員)を通じ前記武島に対し申請書用紙を手交し、許可申請書を提出するよう口頭で要請したうえ、さらに再三に亘り電話をもつて組合側に要求したが要領を得ないので、所長の指図により同日午後五時五分頃前記諸隈及び村上守(建設専門官、非組合員)は既に集会のはじまつた内港詰所に赴き、これに隣接する工班長室において武島とその提出方を交渉したが、押問答に終始し何の成果もなく引き返すに至つた。

かくて所長は右のような組合の無許可集会は前記規則七条に違反し、違法な集会であるから同規則一三条一号により組合員に退去を命じ、集会を解散させようと決意し、且つこのような挙に出でることによつて万一組合側との間に紛争が発生した場合にはその証拠を保全するため三宅弘(庶務課長、非組合員)及び前記諸隈にそれぞれカメラを用意させ、且つ前記村上及び池田稔良(工事専門官、非組合員)を同行の上同日午後五時三〇分頃前記詰所に赴いたが、その南側及び東側の出入口は内側より施錠されていたので合鍵を取りに走らせる一方、南出入口ドアを強くゆすつたところ、内部より鍵を開いたため所長は前記諸隈を除く三名の管理職と共に同所に入室した。

同所長は入室するや否や、南入口から西へ向つて二、三米のところで手を振りながら数回に亘り大声で、参集した組合員等に対し「許可を受けていない集会は解散せよ」と叫んだところ、被告人は「集会の妨害だ」と抗議し且つ室外において同所長と話し合うことを考え「出ろ」と言いながらその左側から左肘附近を左手で掴み、南出入口に向つて同人を後向きに引つ張り二、三歩後退させた、すると同所長は前記三宅及び村上に対し「写真」と叫び、武島は被告人に対し「さわるな」と警告しつつ、さらに二、三歩前進した所長に対面し両手を後方で組んで腹押しのような態勢をとりつつ前進し「出ろ」と言いつつこれに詰め寄り、同所長が右武島の剣幕に押され南出入口方向に二、三歩後退したので被告人は後退する同人を誘導するような格好でその左腕を両手でもつて引つ張り、かくて西に向いた同所長を東に向いた武島及び被告人が真正面と側方から挾むような姿勢で連れ出し、同所長を同出入口の段になつている三和土のところで後向きにつまずかさせて尻もちをつかせるに至つた。

以上の各事実を認めることができる。

二、ところで検察官は〈証拠・略〉を綜合すれば、被告人は所長を南出入口コンクリート三和土に尻もちをつかせた後、起き上ろうとする同人を、さらに下におさえつけるように引つ張り再度尻もちをつかせたことを優に認定し得る。被告人が集会を妨害した同所長に対し憤激の情を抱き、かくて全体として可成り強度の有形力を行使したことが明らかであると主張する。しかしながら既に説示した通り所長の「写真」の声に応じ三宅が八ミリカメラを、村上がカメラを構えるのを認めた武島が被告人に対し「さわるな」と警告を発しつつ、自ら両手を後方で組み腹押しの姿勢で同所長を後退させ退室さそうとしていたのであるから、その勢いに押されて後退している同所長に対し、これと室外において話し合うことを意図していた被告人においてさらに強力な力を用いて引つ張り、またはつまずいて尻もちをついた同所長をなおも下に向け引つ張り再度尻もちをつかせるが如き「全体として可成り強力な有形力」を行使したものとは俄かに断じ難いので前記各証人の証言中検察官の右主張にそう部分は措信し難い。

むしろ被告人は、「解散」を怒号する同所長と同詰所外で話し合うため、武島の前記行動により後退する同所長を同室南出入口に誘導する格好で、且つそのために必要な程度の力で引つ張つたのが事柄の真相に合致するのではないかとの心証を当裁判所は禁じ得ない。

そうだとすると同所長を退室さすため被告人が行使した有形力は「全体として可成り強力なもの」ではなく、それはたかだか上記の程度のものであつて「有形力の行使」といつても極めて軽微なものでなかつたかとの疑念を払拭しがたい(なお前記認定の通り同所長が後退中三和土に尻もちをついたことは証拠上これを認めることができ、これと被告人の前叙の「有形力の行使」―それが極めて軽微なものでなかつたかとの疑念を払拭し難いことについては前述した―との間に一応因果関係が成立することは否定し得ないところであるけれども、右結果に対し主として責めを負うべきは前記武島の行為であり、さらに言えば段をなしていた三和土の構造によつて助長されたものである。さらに附言すれば所長をして尻もちをつかせるため被告人または武島が右三和土の構造を利用したことを認めるに足る証拠はない)。

次に被告人は所長の解散命令を遮りこれを室外に連れ出そうとしたのであるから、被告人には同所長の職務執行妨害の故意があつたのではないかと見えなくもないけれども、その目的は前記の如く話し合いにあつて、その支部長たる地位からすれば話し合いの結果如何によつては被告人において参集組合員を解散させ得るのであるから、被告人の前記行為を目して直ちに職務執行妨害の故意ありとするには多大の疑問の残るところである。

さらに検察官の全立証をもつてしてもその主張を支持するに足る適確な証拠はない。

果して以上の通りであるとすると本件公訴事実はその証明が十分でない場合に帰する(仮りに被告人の前記行為が形式的に有形力の行使であつて違法性を帯びるとしてもその程度からみて可罰的違法性を欠き結局公務執行妨害罪の構成要件該当性を欠くといわざるを得ないことについてはさらに後述する)。

第二、仮りに百歩を譲り、被告人の前記行為が検察官主張の通りの「全体として可成り強力な有形力の行使」であることがその全立証によつて認定されたとしても、被告人の行為に対応する所長田村邦夫の前記解散命令の適法性(公務執行妨害罪にいう公務として保護に値いするものかどうか)が次に吟味せられるべきである。蓋し同所長の解散命令が違法であればこれに対応する被告人の有形力の行使は正当性を帯び、刑法上の公務執行妨害罪または暴行罪としての評価を受けることがないからである。

以下この点についての当裁判所の判断を示すことにする。

一、(一)庁舎管理規則は運輸大臣が公物管理権に基づき、その管理する庁舎等の行政財産の存立を維持し、これを公の目的に使用し、できるだけ完全にその行政財産の本来の目的を達成するために、その行政財産の管理の細則を定めた行政規則である。同規則七条一項は、庁舎等の行政財産につき、行政財産管理者(同規則三条に定めている)は、原則として庁舎等をその目的外に使用させてはならず、ただ日常の業務の遂行を妨げず、かつ、庁舎等における秩序の維持及び災害の防止に支障がないと認めた場合は目的外使用を許可できるとし、この場合はあらかじめ関係者に一定の様式を備えた使用許可申請書を提出させなければならないとし、同条二項において、右使用許可は一定の様式を備えた使用許可申請書を申請者に交付するものと規定するが、これは行政目的を有する行政財産の管理を適正ならしめるための内部規則に関するものであるから、これ自体が直ちに憲法に違反するものであるとは言えない。しかし右規定の運用に当つてはいろいろ問題がある。即ち、庁舎等の秩序の維持、災害の防止といつてもこれをひどく厳格に解釈すると、ほとんどすべての目的外使用は不許可となるか、またはその解釈如何によつて恣意的にまで乱用される危険が存する。しかしながら右のような解釈、運用は許されず、その制限の必要性の強弱によつておのずから制約があり、特に勤労者の労働基本権との関係においてはより慎重に考慮されるべきものである。けだし、憲法二八条は勤労者の労働基本権を保障し、公務員も商法の「勤労者」としてこの権利を保障され、さらに歴史的に企業別組合として発展してきた我国の労働組合の特殊性よりすれば、公務員労働組合といえどもある限度内の庁舎等の利用は右保障の範囲内であると認むべきものであり、右労働基本権は勤労者の生存権に直結し、それを保障するための手段であることを考慮すれば、右の制限は合理的な必要最少限度のものにとどめるべきである。

このようにみてくると、特に労働基本権との関係においては管理者としてある場合には庁舎等の使用を許可する義務を負う場合もあり、労働組合としては単に届出のみでこれを使用できる場合のあることを認めざるを得ない。即ち同規則七条にいう許可の実質は結局管理者の行使する公物管理権と、勤労者の労働基本権との比較考量によつて客観的に定まつてくると考えられる。

(二) 前掲証拠ならびに運輸省庁舎の管理に関る規則の運用方針についてと題する書面によれば、運輸省は庁舎管理規則を制定実施するに当つて、同時に同規則の運用方針についてという通達(以下単に運用方針と称する)を下達したが、これは同規則が目的とする庁舎の適正管理のための全国的統一的運用指針であつて、同規則と一体的に評価できるのであるが、まずその頭書において、規則制定の目的を強調し、次いで従来各庁舎ごとの規則または慣行により行われて来た庁舎の管理について規程化し、統一的な運用を図るものであるから、(管理者は)この訓令の趣旨を職員に周知徹底させ、その運用に当つては運用方針に従い遺憾のないよう行われたいとし、なおこの訓令は職員組合が国家公務員法に定められている適法な組合活動を行うことを特に規制しようとする趣旨のものではないので運用について十分留意されたいとして、新たに制定した同規則の運用による混乱の発生を予防する一方、同規則七条の運用方針についても、後述するように公物管理権と労働基本権との調和を図つており、右(一)で述べた理のうえに立つていると考えられる。

従つて管理者の判断が客観的に定まる基準ないし運用方針に著しく違反して公物管理権を運用するならば違憲という事態も十分予想されるのである。

二、(一) 同規則七条に定める「許可」について、客観的制約があるとして、同条は同時に管理者が庁舎の目的外使用を許可する場合はあらかじめ関係者に一定様式の使用許可申請書を提出さすべきとする。そこでこのような形式的手続はどのように合目的に解すべきであろうか。原則的には、庁舎管理者としては先ずそれがいかなる者によつて、いかなる状況で使用されようとし、あるいは使用されているかを知ることは、庁舎の適正管理を行うために最低限度必要であり、またそれを書面で提出させるについては、使用責任者や使用態様を明確にし、管理に万全を期する必要性が認められ、一方労働組合であると否とを問わず、庁舎を目的外に使用しようとする者にとつて、右程度の要請は原則として受忍すべきものと言わざるを得ないので、結局この限度において形式的手続は合理性を有していると認められる。しかし以上はあくまでも原則であつて、例外的には書面による申請書の提出という形式それ自体さえも必要としない場合も十分考えうるのである。この場合には特に庁舎の従来の使用慣行が重要な要素となるであろう。

(二) この点に関して、同規則七条の運用方針は、勤務時間外に事務室内で課単位以内で行う目的外の催しであつても本条に該当するが、その程度は庁舎管理上規制する必要がないと考えられるので、夜間に及ばない限り許可に依らしめる必要はないとし、さらに、従来より黙示の承認を与え、且つ使用させて差し支えないと認めて使用させているものについては申請をまたず、許可書を与えて差し支えないとし、申請手続さえも要しない場合を指示しているが、これは同規則が制定されるに至つた経緯と、それまでの庁舎等の利用に関る慣行を考慮した妥当なものであるが、同時にこれは形式的手続それ自体の尊重される限度を示していると考えられる。即ち、書面による申請手続が要請され、尊重されるのは右(一)で述べた理由によるのであるから、それを離れて独立の存在価値を有するものでなく、庁舎管理から全然不必要と認められるような場合には形式的手続は不用と考えられるからである。

三、手続が要請される場合に、それが履行されない時はどのように考えるべきであろうか。同規則一三条は、管理者は庁舎管理のため必要あるときはこの訓令の規定に違反する行為をしている者に対し、その行為を禁止し、または庁舎等から退去することを命ずることができるとあるが、これについてもいかなる些細な違反でも一律に退去命令までなしうる規定と解すべきでなく、当然合理的制約があるというべきである。この点に関し、同条の運用方針においては、庁舎等の管理の必要がある場合に限つて認められるとし、濫用を戒しめると同時にさらにこれを具体化して、庁舎等の本来の行政目的の実現が妨げられ、またはそのおそれが明白な場合には庁舎管理権に基づき庁舎等からの退去を命ずることができるとしているが、申請手続に限つて言えば、庁舎等の目的外使用の実質―特に職員組合との関係においては、公物管理権と労働基本権との調和―から判断して運用すべきとしていると解され手続の欠陥という形式不備それ自体から退去命令が導びかれるものではないという意味においても、極めて至当なものと認められる。

手続不履行のまま使用を為す場合のその効果としてはおおよそ要請、警告、抗議、退去命令、実力による解散あるいは行政処分、民事及び刑事責任の追及などの有無が考えられるが、そのいずれが相当かは結局庁舎管理権と、目的外使用(特に組合活動としての)の利益という二つの利益のからみ合いにおいて、前者が後者をうわまわる度合によつて客観的に決せられるというべきである。

もし管理者が右の客観的制限に著しく反した行為をすれば、場合によつて運用上違憲ということも十分予想されよう。

四、以上の観点から本件の場合を考察するが、以下の事実の認定に関する部分は別に証拠を掲げる場合を除いては前掲証拠によるものとする。

(一)(1)  本件の内港詰所における集会の目的は前記認定の通りであつて、勤労者の連帯を基本とする団結権に直結した不可欠の集会であつた。

(2)  内港詰所は現場詰所として独立した建物であつて、高知港事務所の現場職員が日常そこで更衣し、食事をし、休息をし、あるいは娯楽に使用し、さらに二階に組合書記局が存在する関係から、所長田村を始め管理職員は殆んど立ち入らず、組合員が鍵を保管するなどして事実上管理している場所であつた。

(3)  集会の時間、勤務の終了した午後五時からであつて、しかも一、二時間の短時間のものであることは昼間の事務系組合員の集会から推認されるところであつた。

(4)  集会の参加人員はわずか十数名であつた。

(5)  同詰所は、庁舎管理規則が制定実施される以前は組合あるいは職員が自由に集会などに利用し、当局としてもこれを黙認していた歴史が存在する。

(6)  事件当時当局としては内港詰所を使用する必要はなかつたし、集会の程度、時間からして同詰所の本来の効用を損う集会でなかつた。

以上よりすれば、右集会は充分に尊重されなければならないものである。

(二)  次に同組合の申請手続の欠缺について考察すれば、本件集会は運用方針にいう「勤務時間外に事務室内で課単位内で行い、しかも夜間に及ばない目的外使用」と認められるのは勿論(ここにいう課とは、証人樋口緑の第一七回公判調書の供述部分によれば、本省の課を意味し、その数も二、三〇人と認められるのであるが、合理的に考えても十数名というのは明らかに課単位以内というべきである。)同詰所の従来からの使用状況からみれば申請をまたず許可書を与えられても決しておかしくない場所であつた。

以上により管理者としてはなにがなんでも申請書を提出せよと命令するのはいささか妥当を欠く態度というべきである。

(三)  そこで次に所長のなした解散命令について考察する。

(1) 同所長は同詰所が実質的に正当な組合集会場所として使用されていることを知つていたが、只書面による申請手続を組合がしないということで本件解散の挙に出たのである。

(2) 検察官は所長の解散命令は解散の要請であると主張するのであるが、同人の目的は集会を解散さすためであり、その客観的な行為はヘルメットを着用し、カメラを携帯した四名の者が内港詰所に乗り込み、所長は何回も大声で解散を命令しているのであるから、これは明らかに「要請」の範疇を越えており、むしろ解散のための実力行使の範疇に属するというべきである。

(3) さらに検察官は高知港工事事務所における庁舎管理規則の従来の運用状況をみるに管理者は組合側から使用許可申請があれば全て使用許可を与えていたものであつて、本件の場合にも右申請書が提出されれば従来通り使用を許可する方針であつた上、再度にわたり組合役員たる被告人や前記武島に提出方を要請し、その申請用紙を渡したことはもとより取りに来いと言われて、これに従い取りに行つたのに尚提出せず、集会を実力で排除してみよと暴言し、管理者の庁舎管理権を否認する態度に出たのでやむを得ず所長は同規則一三条一号に基づき解散を命じたのであるから違法はおろか妥当性を失するものではないと主張る。

なるほど庁舎管理規則が実施されて以来その許可状況は検察官が主張する通りであるとしても、それを内港詰所に適用(約一〇件足らずの申請があつたことが認められる)すること自体が運用方針から言つて妥当でないことは既に判示の通りである。検察官は組合が庁舎管理権を否認したというのであるが、組合からみれば規則制定以前は極めて自由に集会などに利用できていたものが、規則が制定されるや、その周知徹底方の方策において充分の配慮がなされず、しかも申請書の提出を必要とする目的外使用は宴会や娯楽の為のいわゆる厚生的使用を除き専ら組合集会につき求められたと認められるのであつて、このような運用について組合側が労働基本権を侵害するものとして反撥することはある程度当然というべきであろう。

要するに申請さへあれば必ず許可していた集会を、書面という形式欠缺のみで何故解散させる必要があつたか多大の疑問が存する。

(4) 以上の点に前掲(一)(二)の点を加味して考えると、所長の解散命令はその管理の必要からでなく、許可申請書不提出という形式手続違反を大きな理由とするのであるが、このことは田村所長の前掲庁舎管理規則の解釈、その運用を誤まつたものであつて、引いては不当労働行為として憲法上も疑義の存する措置といわなければならない。

第三、以上の通りとすると、被告人の行為は暴行罪はもちろん、公務執行妨害罪を認める余地はなく、さらにそうでないとしても右状況からみれば被告人の行為はいわゆる可罰的違法性を欠くものと考えられるのである。結局いずれにしても本件は罪とならないので刑事訴訟法三三六条に則り被告人に無罪を言渡すべきである。

最後に当裁判所は叙上説示の理由から本件が起訴に価するものであるか否かについて大きな疑問を持たざるをえないことを敢えて表明する。

よつて主文の通り判決する。

(白石晴祺 鍵山鉄樹 溝渕勝)

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