大判例

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高知地方裁判所 昭和46年(ワ)70号 判決

原告

下村卓

被告

中央運送株式会社

主文

被告は、原告下村卓に対し金一、六七〇、〇〇〇円およびうち金一、五七〇、〇〇〇円に対する昭和四五年五月三一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告下村国子に対し金一、四七〇、〇〇〇円およびうち金一、三七〇、〇〇〇円に対する昭和四五年五月三一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

この判決は原告ら各勝訴の部分に限りかりに執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

原告ら訴訟代理人は、「被告は、原告下村卓に対し、金四、二八八、一五九円およびうち金三、八七八、一五九円に対する昭和四五年五月三一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告下村国子に対し金三、九一七、七二九円およびうち金三、五二七、七二九円に対する昭和四五年五月三一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、

被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

(一)  訴外亡下村賢司(以下賢司という)は、昭和四五年五月三〇日午後三時四四分頃、高知市北越前町九〇番地先路上において、訴外杉本武要の運転する大型貨物自動車(高一あ二八六八号、以下乙車という)に接触され、頭蓋骨開放性骨折によりその場で死亡した。

(二)  被告は、乙車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条により、原告らの次の損害を賠償する義務がある。

(三)  右損害は次のとおりである。

(1) 賢司の逸失利益とその相続

賢司は昭和三八年九月二九日生れ(死亡当時満六才八月)の健康な男子であつたから若し本件事故に遭遇しなければ、同年令者の平均余命年数である六三・六三年の余命があり(厚生省第一二回生命表)少なくとも事故後一二年を経過した昭和五七年三月末には高等学校を卒業し、満一八才六月に達した同年四月には一定の職場に就職し、その後満六〇才に達するまで四二年六か月間稼働し収入をあげ得たものである。ところで右期間中の賢司の収入額を予測するに、収入については年令勤続年数による賃銀の変動を考慮し、一方生活費もこれに従つて変動させる方法をとることが最も合理的であると云うべきである。そこで労働大臣官房統計調査部作成の「昭和四四年度賃金構造基本統計調査報告」なる統計表によれば「第一巻第一表年令階級別きまつて支給する現金給与額所定内給与額および年間賞与その他特別給与額」の統計表があり、控え目にみても将来賢司が少なくとも右統計表の「企業規模三〇―九九」程度の大きさの企業に就職し、高等学校卒業の男子として右統計表の右に見合う賃金をその勤続年数に応じて得るであろうことは極めて確実と云わなければならない。従つて、賢司は前記統計表の平均月間きまつて支給される現金給与額(A)と、平均年間特別に支払われる現金給与額(B)(別表(A)(B)欄記載のとおり)と同額の収入を得その年間収入は右(A)(B)の合計額(C)(別表(C)欄記載のとおり)となるであろうことは明らかである。ところで、右収入から控除すべき生活費の点では「第二〇回日本統計年鑑」によれば、昭和四三年度の全国一世帯当りの人数は四・〇七であり、昭和四四年度においてもさしたる変化はないものと認められるので、賢司の将来の家族構成を妻と子供二人合計四人と見るのが相当である。そして「扶養家族の消費単位指数」を基礎として賢司の生活費指数を満二四才までは独身生活者として〇・八、満二五才から二九才までに結婚しその間は〇・五二、満三〇才から満三四才までに二児をもうけその間は〇・四〇、満三五才から満三九才までは〇・三七、満四〇才から満四九才までは〇・三五、満五〇才以上満六〇才までは妻のみを扶養するものとして〇・五二とみるのが相当であるからこれ等の賢司の生活費指数を一より除いた残りの生活費指数を前記別表(C)の各金額に乗じた金額が各年間の逸失利益額となる(別表D欄記載のとおり)。よつて右各年間の逸失利益額を昭和四五年五月三〇日現在の価額に計算するため、中間利息を民事法定利率である年五分の割合によりホフマン式計算法年毎式に従つて控除し、同日の賢司の得べかりし利益の喪失額を計算すると、金七、〇五五、四五九円となる(その方法は別表(D)の金額に年別単位年金現価総額(E)を乗ずることによつて得られた額(F)の合計額である)。

原告両名は、賢司の父母として前記賢司の損害額をその法定相続分(各二分の一)に従い各金三、五二七、七二九円の限度で相続により承継した。

(2) 下村卓の積極的損害

賢司の葬儀費用の一部として左記の如き費用(合計金三五〇、四三〇円)を要し、これを原告下村卓が支払つた。

(イ) 死体処置料 金一六、〇三〇円

(ロ) 火葬料 金一、〇〇〇円

(ハ) 葬儀料(棺代、祭壇費用、供物等) 金一二三、二〇〇円

(ニ) 僧侶謝金 金一〇、〇〇〇円

(ホ) 参列者への礼状費用 金二、八〇〇円

(ヘ) 新聞公告費 金三三、〇〇〇円

(ト) 香典返し費用 金二七、〇〇〇円

(チ) 石代 金一〇〇、〇〇〇円

(リ) 諸雑費(墓地、火葬場往復自動車借上料等その他) 金三七、四〇〇円

しかしながら、被告から、葬儀費用として金一〇〇、〇〇〇円の支払いを得ているので、原告下村卓が被告に請求すべき額は、前記費用合計額から右の金一〇〇、〇〇〇円を控除した残金二五〇、四三〇円となる。

(3) 慰藉料

イ 下村賢司の慰藉料

賢司は本件事故により一瞬にしてその尊い生命を奪われ夢多き一生を喪つたものであり、同人がその死の直前に何等損害賠償の意思表示をしていないとしても、社会観念上客観的にその肉体的精神的苦痛を味わつたとして、同人に対し慰藉料請求権を認めるべきことは当然であり、諸般の事情を総合すると、右苦痛は、金三、〇〇〇、〇〇〇円で慰藉されるのを相当とする。従つて原告等は前示のとおり賢司の相続人として右請求権む各二分の一宛相続したことになる。

ロ 原告両名の慰藉料

本件事故により原告両名は、最愛の一子を僅か六才にして失なつたが、愛児の成長とその将来に一家の希望を託し、日夜その成長を楽しみにしていた原告等にとつて最愛の息子を失なつた苦しみは誠に想像に余りあるものがあるところ、被告が示談の交渉に当つても誠意ある態度を示さなかつた等の諸事情を考慮すると原告両名の精神的苦痛は、各金一、〇〇〇、〇〇〇円で慰藉されるのが相当である(かりに賢司の慰藉料請求権が認められないとしても、両親の慰藉料額の算定に際しては十分考慮されるべきである)。

ハ 以上により、原告両名は、合計各金二、五〇〇、〇〇〇円を請求し得ることとなるが、原告両名は、自賠法による保険金として合計五、〇〇〇、〇〇〇円、従つて原告各自その二分の一に当る二、五〇〇、〇〇〇円を受領した。

(4) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟を高知弁護士会所属弁護士戸梶大造に委任し、手数料として各金一〇〇、〇〇〇円を支払い、かつ、成功報酬として、原告下村卓につき金三一〇、〇〇〇円、原告下村国子につき金二九〇、〇〇〇円の支払いを約したが、右は本件事故と相当因果関係に立つ損害である。

(四)  よつて被告に対し、原告下村卓は金四、二八八、一五九円およびうち金三、八七八、一五九円に対する本件事故の日の翌日である昭和四五年五月三一日から、また原告下村国子は金三、九一七、七二九円およびうち金三、五二七、七二九円に対する右同日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する答弁および主張

(一)  請求原因(一)、(二)の事実は認める。

(二)  同(三)、(1)の事実は、賢司の死亡当時の年令、その平均余命が六三・六三であること、その高校卒業の時期、満六〇才まで稼働可能とみられる点は認め、その余は争う。なお、幼児の逸失利益の算定にあたつては、養育費を控除すべきである。同(三)、(2)の事実は争うが、被告が葬儀費用として金一〇〇、〇〇〇円を支払つた事実は認める。同(三)、(3)、イ、ロの額は争う。なお、死者の慰藉料請求権の相続性は否定されるべきものである。同(三)、(4)の事実は知らない。

(三)  被告は、原告らに対し、合計金八、〇〇〇、〇〇〇円(既払い金、および自賠保険金を含む)の賠償額を呈示し、誠意をもつて示談交渉を続けたが、原告らにおいて慰藉料額を総額五、〇〇〇、〇〇〇円とする考えを固執し、数額を明示しないばかりか、被告らの申出に対し何の応答もせず、突如本訴を提起するに至つたものであり、従つて、被告が、原告らの訴えを余儀なくさせ、不当に応訴したものとなしえないから、弁護士費用については本件事故と相当因果関係ある損害とすることはできない。

三  被告の主張に対する認否

被告の答弁および主張(三)の事実は争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  本件事故の発生、被告の責任

請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。よつて、被告は、自動車損害賠償保障法第三条に従い、本件事故による次の損害を賠償する義務がある。

二  原告らの損害

(一)  賢司の逸失利益とその相続

賢司が昭和三八年九月二九日生れ(死亡当時満六才八月)であり、同年令者の平均余命が六三・六三であること、同人は、昭和五七年三月末には高校を卒業し、満六〇才まで稼働可能とみるべきものであることについては、当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、賢司は、当時健康で、小学校での成績も上位の方を占めていたこと、原告らはいずれも、旧制中学ないし高校を卒業し、原告下村卓は国家公務員として法務局に勤務していることが認められ(これを動かすに足る証拠はない)、右事実によれば、賢司は、事故後一三年経過後から四一年間稼働可能であつたものと認めるのが相当であるところで、原告は、児童の逸失利益の算定に関し、収入・生活費をともに変動させる方法をもつて合理的であると主張するけれども、かかる場合、児童の生命喪失という損害算定の方法として、ある程度の蓋然性を有する推計方法で満足すべきであり、その一方法として収入・生活費を稼働可能期間中固定させる方法を採用することも訴訟技術的に是認されて然るべきであると考える(なお、この点に関する最判昭和三九年六月二四日、集一八巻五号八七四頁も、かかる算定方法を全部的に排除するものでないと解する)。よつて、以上の前提に従い、賢司の逸失利益について検討するに、前示賢司の健康・家庭情況、ならびに、甲第一九号証(賃金センサス第一巻第一表、年令階級別きまつて支給する現金給与額)の示すところを勘案すると、賢司は、右稼働期間中平均一か月金三二、〇〇〇円の収入を挙げ得るものと認められるところ、その生活費は、右収入に対し約四〇パーセントが相当であるとみられるから、この比率に従い前記金三二、〇〇〇円から約金一二、〇〇〇円を控除した金二〇、〇〇〇円が純収益月額となり、従つて、年間金二四〇、〇〇〇円を基礎として、前示稼働可能期間の逸失利益につき、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して事故当時の一時払い額を算出すると、右は金三、八四〇、〇〇〇円(ただし金一〇、〇〇〇円未満切上げ)となる。なお、被告は、養育費を控除すべきであると主張するけれども、採用できない。そして、原告らが、賢司の父母であることは、〔証拠略〕によつて明らかであるから、原告らは、賢司の右損害賠償請求権を、その相続分(各二分の一)に従い、各金一、九二〇、〇〇〇円相続により承継したこととなる。

ところで、原告らは、賢司の慰藉料請求権を原告らにおいて相続した旨主張するけれども、前示のとおり賢司は即死したものであつて、その相続性を否定するのが相当であると解されるから、これを原告らの慰藉額の算定にあたり考慮することとする。

(二)  原告下村卓の積極的損害

〔証拠略〕によれば、原告下村卓は、賢司の死亡によりその葬儀等関係費として金三五〇、〇〇〇円程度の支出をしたことが認められるけれども、右のうち金二〇〇、〇〇〇円を社会的相当額とし、この限度で事故との相当因果関係を肯定する。

(三)  原告らの慰藉料

〔証拠略〕によつて認められる本件事故の態様(訴外杉本武要の前方等不注視の過失により、横断歩道を自転車を押して歩行中の賢司を礫死させるに至つたこと)、その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、原告らの右賢司死亡による精神的苦痛は、各二、〇〇〇、〇〇〇円で慰藉されるのが相当であると認める(もつとも、賢司の慰藉料として請求する金額の二分の一を、自己の慰藉料額に加算した額を、それぞれ請求しているものと解する)。

(四)  損害の填補

原告らが、事故後自賠保険により金五、〇〇〇、〇〇〇円、被告からの弁済として金一〇〇、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがないから、以上合計金五、一〇〇、〇〇〇円の二分の一を、原告らの右(一)ないし(三)の各損害額の合計から各控除することとする。

(五)  弁護士費用

〔証拠略〕によれば、被告は結局本件事故による損害額を任意に弁済しなかつたため、高知弁護士会所属弁護士戸梶大造に委任し、その主張のような着手金を各支払い、かつ成功報酬の支払いを約した事実が認められ、これに、本件訴訟の難易等の諸事情を勘案すると、右のうち各金一〇〇、〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められ、被告の不当抗争性がないと弁疎するところは採用の限りではない。

三  結論

してみると、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告下村卓において金一、六七〇、〇〇〇円およびうち金一、五七〇、〇〇〇円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和四五年五月三一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、同下村国子において金一、四七〇、〇〇〇円およびうち金一、三七〇、〇〇〇円に対する右同日から完済に至るまで右同様の割合による遅延損害金の各支払いを求める限度で理田があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 稲垣喬)

別表

〈省略〉

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