大判例

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鳥取地方裁判所 昭和36年(わ)9号 判決

被告人 中村茂樹 外三名

主文

被告人中村茂樹を懲役六月に、被告人宇田洋及び被告人中島栄をいずれも懲役四月に、被告人原田実治を懲役三月に各処する。ただし、被告人中村茂樹に対し、この裁判確定の日から五年間、被告人宇田洋及び被告人中島栄に対し、同じくそれぞれ四年間、被告人原田実治に対し、同じく三年間、右各刑の執行を猶予する。

押収に係る、証第一乃至第四号の一、〇〇〇円紙幣合計四枚は、これを没収する。

被告人原田実治から、金四、五〇〇円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人中村茂樹は、昭和三五年一一月二〇日施行された衆議院議員総選挙の際、鳥取県より立候補した赤沢正道より、かねてから、自動車運送事業の路線の拡張に関する認可を受けるについての斡旋等、自己の経営する各種事業のため、格別の援助を受けていたところより、右総選挙に当り、赤沢候補の東部後援会長として、同候補のための選挙運動を推進したものであり、又、当時、鳥取総合職業訓練所の所長であつた被告人宇田洋、同所訓練課長であつた被告人中島栄の両名は、嘗つて、赤沢候補が労働政務次官であつた頃、右職業訓練所の設置に関し、極力、尽力したのみならず、両名の右就職についても、格別の援助を惜しまなかつたところより、深く、これを恩義として感じ、これ亦、右総選挙に当り、同候補のための選挙運動に従事したものであるが、右総選挙の公示直後たる同年一一月上旬頃、被告人中村が被告人宇田に対し、「気高地区には、足がかりがなくて困つている」とて、気高郡気高町方面における選挙運動につき、相談を持ちかけるや、被告人宇田は、「訓練所の職員や、生徒の父兄には、気高地区の者もおり、又中島課長の実家が宝木に在るから、自分に任せて貰い度い」とて、これが打開を引受け、次で、同被告人の指示に基き、被告人中島が、その出身地たる同町宝木部落に赴き、格好な協力者を選定することにつき、実兄松本政一と相談し、彼此、物色した結果、同被告人と幼少の頃から昵懇の間柄であつた被告人原田実治において、同町々議会議員たる河内一郎なる者と共に中心となつて、赤沢候補のための選挙運動を展開することを引受けるに至つたものであるところ、

第一、(略)

第二、被告人宇田洋は、

(一)  前記第一の(一)冒頭記載の如く、前後二回に亘り、赤沢候補に当選を得しめる目的を以て、気高町方面における投票取纒等運動資金を相被告人原田等に提供することにつき、相被告人中村と協議を遂げた上、同人から現金合計二万円を受取つたが、その都度、右同様、相被告人中島と協議を遂げた上、同人に右現金を托し、よつて、順次なされた右共謀に基き、相被告人中島において、

1、先ず、前記第一の(一)の1記載の日時、場所において、同記載の如く、相被告人原田、前記河内の両名に対し、前同趣旨の下に、現金一万円を供与し、

2、次で、前記第一の(一)の2記載の日時、場所において、同記載の如く、相被告人原田に対し、前同趣旨の下に、現金五、〇〇〇円を供与するに至り、

(二)  その外、前記第一の(二)の4記載の日時、場所において、同記載の如く、相被告人中村から、前同趣旨の下に、提供されるものであることを知りながら、現金七、〇〇〇円の供与を受け、

第三、被告人中島栄は、前記第一の(一)冒頭記載の如き、前後二回に亘り、相被告人中村と同宇田間、同人と被告人間に順次なされた共謀に基き、

(一)  前記第一の(一)の1記載の日時場所において、同記載の如く、相被告人原田、前記河内の両名に対し、前同趣旨の下に、現金一万円を供与し、

(二)  前記第一の(一)の2記載の日時、場所において、同記載の如く、相被告人原田に対し、前同趣旨の下に、現金五、〇〇〇円を供与し、

第四、(略)

たものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

被告人中村茂樹の判示第一の各所為中、(一)の1及び2の点は、いずれも公職選挙法第二二一条第一項第一号、刑法第六〇条に、(二)の1乃至6の点は、いずれも公職選挙法第二二一条第一項第一号に、被告人宇田洋の判示第二の各所為中、(一)の1及び2の点は、いずれも公職選挙法第二二一条第一項第一号、刑法第六〇条に、(二)の点は、公職選挙法第二二一条第一項第四号に、被告人中島栄の判示第三の(一)及び(二)の各所為は、公職選挙法第二二一条第一項第一号、刑法第六〇条に、被告人原田実治の判示第四の各所為中、(一)の1の点は、公職選挙法第二二一条第一項第四号、刑法第六〇条に、同2の点は、公職選挙法第二二一条第一項第四号に、(二)の1乃至5の点は、いずれも公職選挙法第二二一条第一項第一号、刑法第六〇条に該当するところ、いずれも所定刑中懲役を選択すべく、以上は、それぞれ刑法第四五条前段併合罪の関係に在るから、同法第四七条、第一〇条に則り、犯情が最も重いと認めるべき被告人中村の判示第一の(一)の1、被告人宇田の判示第二の(一)の1、被告人中島の判示第三の(一)、被告人原田の判示第四の(一)の1の各罪の刑にそれぞれ法定の加重をなした刑期範囲内において、被告人中村を懲役六月に、被告人宇田及び同中島をいずれも懲役四月に、被告人原田を懲役三月に各処する。ただし、情状により、同法第二五条第一項によつて、被告人中村に対し、この裁判確定の日から五年間、被告人宇田及び同中島に対し、同じくそれぞれ四年間、被告人原田に対し、同じく三年間、右各刑の執行を猶予することとし、次に、押収に係る証第一乃至第四号の一、〇〇〇円紙幣合計四枚は、本件において、被告人原田の収受せる利益の一部分であるから、公職選挙法第二二四条前段によつて、これを没収すべく、なお、同被告人が収受した利益のうち、没収することができない部分に相当する金四、五〇〇円は、同法条後段を適用して、同被告人から、これが追徴をなすべきものとする。

(被告人宇田洋及び同中島栄に対する公訴事実中、国家公務員法違反の点に対する判断)

本件公訴事実によれば、「被告人宇田洋は、判示第二の(一)の1及び2、又、被告人中島栄は、判示第三の(一)及び(二)の各犯行に出でると共に、その都度、国家公務員法第一〇二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反したものである」というに在るところ、本件犯行当時、被告人宇田が鳥取総合職業訓練所の所長、被告人中島が同所の訓練課長として、いずれも労働福祉事業団法(以下、単に、事業団法と称する)による労働福祉事業団(以下、単に、事業団と称する)の職員であつたことは、諸般の資料によつて、明らかである。而して、事業団が国の行政機関ではなく、労働大臣の監督下に在るいわゆる公法人であることは、言を俟たないが、事業団法第一八条には、「役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」と規定してあるので、事業団の職員であつた右被告人両名につき、国家公務員法中職員の服務に関する規定の適用があつたか否を判断せんがためには、先ず、右事業団法第一八条の趣旨を明らかにしなければならない。ところで、右規定が、事業団の業務の公共的性格に鑑み、役員或いは職員の行う職務の威信、公正及び信用を保護し、以て、職務の執行の適正を保障すると共に、職務の執行に対する妨害の排除をも保障せんとするものであることは、極めて明らかであつて、事業団の役員或いは職員が、刑法第七条にいわゆる公務員に該当することにつき、毫も疑をさしはさむ余地がない。併しながら、事業団の役員或いは職員の任免、給与、監督等は、すべて事業団法、その委任による命令、或いは、事業団の定める規程によつて行われ、これにつき、国家公務員法が適用される余地は、全くないのであるから、事業団法第一八条を根拠として、事業団の役員或いは職員が、国家公務員たる身分を取得するものと解するのは、誤りであるというべく、他のこれに類似する事例も尠くない。(例えば、日本銀行法第一九条、中小企業金融公庫法第一七条、国民金融公庫法第一七条、日本国有鉄道法第三四条、港湾法第二六条、住宅金融公庫法第一六条、日本住宅公団法第一九条、第三〇条)従つて、仮に、公法人たる事業団の役員或いは職員に対し、政治的中立性が要求されなければならない必要があるとしても、本件において、右被告人両名につき、公訴事実にいうが如き、国家公務員法第一〇二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反したという犯罪が成立する余地は、全くないものと断ぜざるを得ない。併しながら、公訴事実中右該当部分は、右被告人両名の前記判示各犯行と一箇の行為にして数箇の罪名に触れる関係に在る場合に該当するから、特に、この点につき、無罪の言渡をなさない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 組原政男)

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